りょーち的おすすめ度:



こんにちは、杉兵助です(嘘です)(もう忘れてる?)
すっごい、面白い! 何だ?この本?もう、いろんなところで話題になりまくりだと思う、この「チーム・バチスタの栄光」。「第4回『このミステリーがすごい!(通称「このミス」)』大賞」大賞受賞作というのを見て少し懐疑的に本書を手に取った。実はりょーちの「このミス」の印象は新人ミステリー小説発掘という観点からあまり好ましくないなーと思ったりしていた。この blog でも紹介したが
浅倉卓弥:「四日間の奇蹟」 が第1回の「このミス」大賞だったのがその大きな理由である。「四日間の奇蹟」は確かに小説としては素晴らしかったが、ミステリーとしてはどうだろう?と訝しがってしまったのだ。そんな「このミス」の第4回受賞作がこの「チーム・バチスタの栄光」。
「このミス」応募時は「チーム・バチスタの崩壊」というタイトルだったが、本書を読んでみると、この作風だったら「チーム・バチスタの栄光」が合っていると思う。このタイトル変更によって販売部数もかなり伸びたのではなかろうか。宝島社の担当の方、ナイスです。
余談だが、「第4回このミス特別奨励賞」に選ばれたのは「殺人ピエロの孤島同窓会:水田美意子」さん。この人13歳で受賞だって。凄いな。
っと、話しが逸れてしまったが、いやー、やってくれました、海堂尊(かいどうたける)。名前もカッコイイじゃないですか。そんなカッコイイ名前の方が書いたとは思えないほど、飛びぬけてヘンな物語。(ホントに現役の医師なのか?)今年のエンターテイメント小説の大賞が既に決まってしまったよーなものである。文字通り抱腹絶倒の小説。且つミステリー小説としても完成度がかなり高い。「もう絶対読みなさい」といった感じである。ここ数年というタームで考えてもトップレベルの作品だな。よくこういうキャラを思いつくよなー。田口、白鳥、最高っす。
普通医療ミステリーといえば重苦しい雰囲気に満ち溢れ、手に汗握り読み耽るってのが通例だったりする。本書は全く以ってそんなことはない。本書を読んだ多くの皆さんが一番初めに思い描くのは奥田英朗の「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」の伊良部一郎ではなかろうか? 伊良部は決してミステリー小説には登場し得ない人物なのだが「もし伊良部が探偵役をやったとしたらこんな感じになるんじゃないかなーと思ったりさせられる。
本書の主人公は二人存在する。一人は不定愁訴外来の田口公平。もう一人は厚生労働省のとってもオカシナ変人、白鳥圭輔。白鳥が登場するまでの前半部分で既にとんでもないオモシロさなのだが、後半に白鳥が登場して以降、俄然ページを捲る手を止められない。
帯に書かれたストーリーはこんな感じ。
東城大学医学部付属病院は、米国の心臓専門病院から心臓移植の権威、桐生恭一を臓器統御外科助教授として招聘した。彼が構築した外科チームは、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門の、通称”チームバチスタ”として、成功率100%を誇り、その勇名を轟かせている。ところが、3例立て続けに術中死が発生。原因不明の術中死と、メディアの注目を集める手術が重なる事態に危機感を抱いた病院長・高階は、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口公平に内部調査を依頼しようと動いていた。壊滅寸前の大学病院の現状、医療現場の危機的状況、そしてチーム・バチスタ・メンバーの相克と因縁。医療過誤か、殺人か。遺体は何を語るのか・・・。栄光のチーム・バチスタの裏側に隠されたもう一つの顔とは。
この帯にいい意味で騙されました。
ここまで読むと本格医療ミステリーであることに全く疑念を持たずに読んでしまう。
アメリカ帰りのエリート医師、桐生は自らの腕に自信を持ち今まで執刀したその全ての手術を成功させていた。心臓手術にはいろいろな方法があるのだが、桐生の手法は「バチスタ手術」というものである。バチスタ手術とは本書内の解説を流用すると
学術的な正式名称を「左心室縮小形成術」という。一般的には、正式名称より創始者R・バチスタ博士の名を冠した俗称の方が通りがよい。拡張型心筋症に対する手術術式である
要するに、大きくなってしまった心臓を小さく作り直す手術のよーである。この手術、相当なテクニックが必要でそのテクニックは一人の医師のみならず、手術に携わる全てのメンバーの助けが必要とされる。桐生は東城大学医学部付属病院に赴任する際、チームのメンバーを自ら選んだ。そして27例まで、完璧に執刀してみせた。しかし、3例立て続けに患者が死亡するという事故が起こった。数日後にはアフリカのアガピくんが手術を受けることになっている。マスコミの注目がいやでも集まってしまう中での手術となる。桐生本人も調査を必要と考えており、田口は何の因果かこの事故の聞き取り調査を行うことになった。
田口は俗に言う「やる気のない医師」という印象。本人もそれを自覚しており、学生時代からも如何にサボるかと言うことに心血を注いでいた。そんな田口の患者はボケてしまったおばあさんやおじいさんなどが多く、同じ話しを何度も聞いて日々を送っている。そんな中、突然調査を依頼された田口は何故自分がという思いもあったが、引き受けることになる。手始めにエリート医師、桐生と対峙したが、いい加減とも思える田口でさえ、この桐生は凄いと唸らされるほどの素晴らしい人物である。田口は尊敬の念でこの桐生を認めていた。この桐生という男がミスをするはずはないと感じた田口は他のメンバーへの調査を真面目に実行することを心に誓うのであった。
田口の聞き取り調査は最後に必ず名前の由来を聞くことが特徴である。実際には田口の趣味的要素が多分に含まれており問題解決の糸口に繋がっては来ないのだが、質問への答え方、または拒否の仕方などを細かく観察。これがこの後の調査に生きてくる・・・(わけはない・・・orz)。
調査対象となったのはチームバチスタの殆ど全員。調査の中、ケース26から器械出しの看護士が大友に代わったのが原因ではないかとの意見も上がってきた。
田口は桐生の手術を実際に観察するため、次回の手術を見学することになるが、田口の目の前で患者が死亡してしまう。慄然とする手術室内で田口はただ立ち尽くすだけである。無力ささえ感じた田口は自分の観察した限りでは手術に不審な点を見つけることはできなかった。
田口が尋問をする前半部分のみ読んでいると、「田口が探偵役なのかな?」と誰しも思うはず。前半部分は単なる序章でしかなかった。後半に入ると、田口がワトソン役であることを思い知らされる。
では、ホームズは誰か?
凄いのが出てきたよ。厚生労働省大臣官房秘書課付技官(長いよ! by 桜塚やっくん) 白鳥圭輔。「火喰い鳥」と称される彼は省内でも問題児であり、左遷された技官なのだが、それを全く本人が感知していないところが凄い。ロジカル・モンスターの異名どおり、頭はかなり切れる。が、あんた、切れすぎです。誰もついて来れないよ。
白鳥の凄いところは他人にとってどう見られるかを全く感知せず、真実に向って一直線に進むところだろう。後半部分の白鳥が田口に自分の調査手法である「アクティブフェーズ」と「パッシブフェーズ」の極意を伝授する。このあたりがもう絶妙である。置いてけぼりの田口を尻目に白鳥が戦車のように突き進む。娘が飽きて遊ばなくなったたまごっちの世話をしながらも事件が解決に向けて進んでいくから不思議だ。
白鳥は調査のために遠慮という言葉を知らない。調査対象となる医師や看護士たちの気に障るいやな言い方でどんどん質問を投げかける。粗暴なホームズである。こんな探偵いままで見たことない。しかし事件が解決に向って進むから不思議だ。
人の話を全く聞かず、マイペース(だがハイペース)で聞き取りを行う白鳥は事件の核心にかなり迫りつつあったようだ。
本書の最大の見せ場は、白鳥が調査に来てから始めての手術が行われる前日、調査のため国会図書館に向った白鳥と留守番を請け負った田口に患者の容態が急変し、緊急手術を実施することになった件(くだり)であろう。この部分はまさにクライマックス。何とか田口は手術を阻止しようとするが、その甲斐もなく、手術は始まってしまう。白鳥が猛スピードでタクシーに乗り駆けつけたときは時既に遅く、その患者も術中死を迎えてしまう。だがここからが白鳥の凄腕の見せ所だった。肝心の事件の解決も余念がない。このあたりは是非是非本書を読んでほしい。そして、現代医療が抱える問題点をも指摘しており医師の視点から書かれた最上級のエンターテイメント小説であろう。
この白鳥のオモシロさは本書を読まないと絶対わからない。専門用語がかなり飛び交うが、全く気にならない。白鳥と田口の掛け合い漫才のよーなやり取りが軽快なテンポで進み全く以って読み飽きることを許さない圧倒的なスピード感が本書の特徴だ。二人が全く噛み合っていないところが最高!(白鳥は誰とも噛み合っていないが・・・)
白鳥の田口に宛てた手紙も小説的にはかなりありですね。この手紙を読んで、田口も成長したんだなーと自分自身でも感じたに違いない。
なお、どーでもよいがこの本は近所のセブンイレブンで購入した。こういった普通の小説がコンビニで売られているってのが珍しくて勢いで買ってしまったが、ホントによかったよ。ありがとう、セブンイレブン。
作者の海堂尊さんへお伝えしたいこととしては、女性の優秀な部下である(という設定になっている)「氷姫」こと姫宮の登場が殆どなかったのがちょいと残念だったかなーということ。あと、海堂尊さんへのお願いは「白鳥圭輔&氷姫で是非ともシリーズ化してほしい!」と思ったら
にあるインタビュー記事で「続編も構想中」との言葉を見つけかなり嬉しい予感。期待してますっ!?
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