2006年06月29日

トマス・グレニーアス:「レイジング・アトランティス」 このエントリーをはてなブックマークに追加

レイジング・アトランティス
トマス グレニーアス Thomas Greanias 嶋田 洋一
早川書房 (2005/11)

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、植村直己です(嘘です)。

欧米の人々、特にキリスト教圏の方々はアトランティス大陸存在説を信じている人がいるのかもしれない。日本でもこのアトランティス大陸の存在はよく知られている。太古に現在の科学技術を凌駕するほどの先進的な技術を有していたと思われるアトランティスの存在は未だに謎に包まれている。
アトランティス大陸は何故なくなってしまったのか?
この謎は今でも未解決である(勿論アトランティス大陸が存在していたと仮定しての話しであるが・・・)
数年前にグラハム・ハンコックの 神々の指紋 で「アトランティス=南極大陸説」が提唱され(以前にもその考えはあったのかもしれないが)世間的にもこの説が結構認知されてきたっぽい。

本書、「レイジング・アトランティス」もこの「アトランティス=南極大陸説」をベースに書かれた小説である。
野心家の考古学者、コンラッド・イェーツは育ての父である、グリフィン・イェーツに呼ばれ、南極大陸にやってくることになった。コンラッドが調査を依頼されたものはこの南極大陸の氷の下にある巨大ピラミッド(P4)である。

長年音信不通だった父からの連絡に戸惑いながらも好奇心の方が勝り調査を開始し始めたコンラッド。グリフィン・イェーツはこの巨大ピラミッド内にあると思われる古文書解読のために、優秀な言語学者でもあるセリーナ・サーゲッティを呼んでいた。セリーナは実はコンラッドの元恋人であった。再会を喜ぶまもなくセリーナを引きつれ遺跡P4の調査へと向う。

「果たしてP4の中には何があるのか?」
「P4の正体は何なのか?」

南極大陸は南極条約により、各国が占有・独占が禁止されており、軍事基地を建設したり軍事演習をすることは禁止されている。その南極大陸のど真ん中でドンパチが始まり「ちょっと、あんたたち大丈夫?」と思ったりしたが、もう彼らには南極条約は二の次っぽい。

アトランティスの謎に迫るコンラッドの冒険はまるでアドベンチャーゲームのようだ。
「南極」「アトランティス大陸」「ピラミッド」「宇宙船」「キリスト教」「古代エジプト」などとストーリーを盛り上げる要素は沢山あったよーな気がするのだが、いまひとつ上手く活かせていなかったよーな気がする。

コンラッドの探究心は自分の本当の両親を探したいという意思が原点になっているよーな書き方になっている。コンラッドの出生の秘密あたりから何故か急速に読む気が失せてきた・・・

本書に好印象を持っている方々は結構多いよーな気がするのだが、りょーち的にはどうも合わなかった(スマン・・・)
なんとなく消化不良っぽい一冊であった。

■他の方々のご意見 (好印象の意見が多いのだが・・・)
「レイジング・アトランティス」トマス・グレニーアス / 南極ピラミッド、極寒のサバイバル!|辻斬り書評 
『レイジング・アトランティス』 寒いです流されます死にます謎がいっぱいです!|手当たり次第の本棚
【徒然なるままに・・・】 : 『レイジング・アトランティス』 トマス・グレニーアス

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2006年06月12日

ジョン・トウェルヴ・ホークス:「トラヴェラー」 このエントリーをはてなブックマークに追加

トラヴェラー
トラヴェラー
posted with amazlet on 06.06.12
ジョン・トウェルヴ ホークス John Twelve Hawks 松本 剛史
ソニーマガジンズ (2006/03)

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、大石吾朗です(嘘です)。

壮大な物語の幕開けともいえる本書。出版前から話題になっていた理由として、あの「ダ・ヴィンチ・コード」の編集者(ジェイソン・カウフマン)が幾多もの作家のオファーを拒み、この無名の作家、ジョン・トウェルヴ ホークスのトラヴェラーを選んだことが挙げられる。

トラヴェラーという題名からもお分かりのように時空を越えることができる人間が登場する。いままでいろんなタイムトラベルの物語が刊行されているが、本書の興味深いところは「パスファインダー(導き手)」という役割を持つ人がトラヴェラーの資質を持つ人を導いてあげる点であろう。

この「トラヴェラー」の世界ではいろんな役割を持つ人が存在する。
現在、この世界を陰で支配している組織は「タビュラ」と呼ばれている。「タビュラ」は全ての人間を支配すべく量子コンピュータを用い、個人の全ての情報を把握している。「タビュラ」の真の目的は、完全なる人間の支配にあり、有史の頃から存在していた。
そして「タビュラ」の存在を脅かすものとして対極に存在するものが「トラヴェラー」である。トラヴェラーはこの世界に肉体を置き、精神だけを別の世界に解き放ち「別の視点」から世界を見ることができるのだ。
このような能力を持つ人間が今まで数多存在していた。そしてそのトラヴェラーを今まで守ってきたのは「ハーレクイン」の一族だった。本書の主役であるマヤという若い女性はこのハーレクインの一族である。マヤは幼少の頃より父からあらゆる殺しのテクニックを教え込まれ、来る日に備え技を磨いている。既に全てのトラヴェラーはタビュラにより抹殺され、この世に存在していないはずであった。しかし、数年間音信不通の父より、トラヴェラーと思われる二人の兄弟が存在することを知らされる。
一方その兄弟、ゲイブリエル・コリガンとマイケル・コリガンの二人は自分がタビュラに狙われていることは知らない。しかし、コリガン兄弟の父は彼らを人目から遠ざけて世を忍ぶ生活を彼らに強いていた。コリガン兄弟の父はこの世界との接点を「グリッド」(格子)と呼び、グリッドと接触することを極端に避けていた。このグリッドこそが「タビュラ」の巨大機械(ヴァストマシン/Vast Machine)と呼ばれる大型量子コンピュータである。
グリッドを避け続けて生活していたコリガン兄弟についにタビュラの追っ手が迫り来る。マヤはハーレクインとしてコリガン兄弟を救出するべくイギリスからアメリカに向う。ゲイブリエルはマヤが救出したが、兄のマイケルはタビュラの手に渡ってしまう。

タビュラの手に渡ったマイケルは不通であれば殺されてしまうはずだったのだが、タビュラの長である、ナッシュ将軍はマイケルを利用し、マイケルを別の世界へと誘うための手助けをはじめる。しかし、それはタビュラたちのある作戦のための序章に過ぎなかった・・・
一方、マヤとゲイブリエルは途中で手助けをしてくれた格闘家のホリスと共に追っ手を逃れた。マヤはゲイブリエルと共にパスファインダーがいるという町へ行く。
マイケルはタビュラに加担し、トラヴェラーになるために、怪しげなクスリを使い「壁」を越えようとする。ゲイブリエルはソフィア・ブリッグズというパスファインダーと共に古典的な方法で「壁」を越えようとする。
トラヴェラーには通常の人間で見ることができない「何か」を見る(感知する)ことができる。果たして、マイケル兄弟は真のトラヴェラーに成り得るのか?
彼らが「光」としてこの世界を越えたとき、そこには何があるのか?

本書は3部作であり、今回の「トラヴェラー」はその第1作目である。そのため、登場人物の背景説明やタビュラ、ハーレクイン、トラヴェラーの組織の関係などについての説明的な文章が多い。
タビュラの管理するヴァストマシンに関しては現実の世界でもかなり近いものが存在するようなリアリティが感じられる書き方がなされている。ヴァストマシンに捕えられれば個人情報保護やプライバシーといったものは皆無に等しく、全ての行動が筒抜けになる。トラヴェラーの世界の住人の多くは自分達がグリッド上に存在しているとは思ってもみないのだ。全ての情報は管理統制制御されインターネット上の情報も誰が何時、何処で、どういった検索キーワードでどの情報にアクセスしたのかなどが全て管理されているトラヴェラーの世界は、実際の世界と然程変わっていないところに恐ろしさを感じてしまう。
あとがきによると、作者のジョン・トウェルヴ・ホークスはなんだか謎の多い人物のようであり、彼自身もグリッドから逃れて生活をしているらしい。Writer's Blog: John Twelve Hawks: Living Off the Grid によると、ニューヨークかロサンゼルスかロンドンかどっかに済んでいて、テレビも持たず、有名な作家がペンネームを使って書いたものでもないらしいことが書かれている。うーむ。

3部作の第2作目がちょいと待ち遠しいが、ハーレクインのマヤとゲイブリエルの恋の行方など、本筋とは異なる部分がちょいと気になってくるっす。

しかし 時をかける少女 もこの夏に角川映画で映画化(アニメーション)されるようだし、今の世の中、トラヴェラーってのはブームなのか?

■他の方々のご意見
その女、腐女子につき・・・:トラヴェラー/ジョン・トウェルヴ ホークス (かなり上手くまとめられている)

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2006年06月08日

田坂広志:「なぜ、時間を生かせないのか」(タイムマネジメント) このエントリーをはてなブックマークに追加

こんにちは、コロ助ナリ(嘘です&謎)。

「タイムマネジメント」という言葉がある。時間をうまく管理しましょうということのようである。世間にはいろいろな時間管理術を紹介した本がいくつもあるのだが、重要なのはそのテクニックではないと田坂広志さんは述べている。

この田坂広志さんの書かれた「なぜ、時間を生かせないのか」というコラムがかなり、素晴らしい。

序話  なぜ、時間を生かせないのか / 心得
第一話 いかにして「時間」を使うか / 密度
第二話 いかにして「集中」をするか / 夢中
第三話 いかにして「智恵」を学ぶか / 感得
第四話 いかにして「経験」から学ぶか / 反省
第五話 いかにして「反省」をするか / 意味
第六話 いかにして「人間」から学ぶか / 師匠
第七話 いかにして「自分」を見つけるか / 個性
第八話 いかにして「関係」を築くか / 自立
第九話 いかにして「成長」をするか / 課題
第十話 いかにして「成功」を得るか / 一瞬
終話 かけがえのない「人生の時間」 / 覚悟

ひととおり全て読んだのであるが、なかなか難しいことが書かれている。
「難しい」というのは難解な語句や専門用語が飛び交っているという難しさではなく、「書いていることを実行するのは相当の覚悟が必要だから今の自分には難しい」ということである。

ビジネスマンの人々は日々時間管理をし、業務をこなしていると思うが、絶対的に時間が足らないと感じている人が多い、巷で紹介されているタイムマネジメント関連の書籍にいろいろと紹介されているが、「根本的な問い」に対してこれほど明確に書かれた文章はそうないと思われる。(そしてしかもタダで読める!)

ビジネスマンの方々は一読いただくとよいかも。

■参考:田坂広志さん書籍一覧
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2006年06月06日

ジョン・ハーモン・フェルドマン:「トゥルー・コーリング」 このエントリーをはてなブックマークに追加

トゥルー・コーリング〈VOL.1〉トゥルー・コーリング〈VOL.2〉トゥルー・コーリング〈VOL.3〉
トゥルー・コーリング〈VOL.4〉トゥルー・コーリング (Vol.5)トゥルー・コーリング〈VOL.6〉


りょーち的おすすめ度:お薦め度お薦め度

こんにちは、のぞみ・かなえ・たまえのたまえでお馴染みの高橋真美です(嘘です)。(「欽ちゃんのどこまでやるの!?」は知っている人は少なくなってきたかも・・・)

ってことで、久々にハマった海外小説モノ!
トゥルー・コーリングはかなりよい!

アメリカでもドラマ化され日本でもテレビ東京などで放映されていて気にはなっていたのだが最近やっとその小説を読むことができた。小説は全6巻でドラマの内容を小説に起こしたものと思われる。

いやー、全6冊、一気読みでした。

ざっくりとストーリーを書くとこんな感じ。
トゥルー・デイビーズは大学卒業後、医学部進学を目指す研修生としてモルグ(死体安置所)で働き始める若い女性。モルグの所長のデイビス(名前が似ているのでややこしいが別人)は死体の扱いにかけてはプロだがそれ以外にはあまり興味を示さない職人のよーな人。
トゥルーがモルグで働き始めた初日に運び込まれたのはレベッカという女性。レベッカの死亡原因などについての推測をデイビスから聞きながら粗方の所見も終わった。
そのとき「それ」は起こった。遺体に近づくトゥルーに死んだはずのレベッカが突然「助けて」と語りかけた。すると、驚いたことに時間が昨日に戻ってしまう。トゥルーは「昨日」聞いたレベッカの死亡原因などの情報を元にレベッカに接触し、「彼女の死」を回避しようと奔走する。果たしてトゥルーはレベッカを助けることができるのか?

ドラマをベースにしているため、1話完結の物語となっており、非常に読みやすい。
そしてだいたいパターンが決まっている。そのパターンはこうである。

・モルグに死体が到着
・デイビスが死体の所見を確認
・死体がトゥルーに助けを求める
・トゥルーの時間が戻り「人助け」をする

このパターンに加えるとすれば
・トゥルーの弟で賭け事好きのダメ人間のハリソン・デイビーズがトゥルーに金を無心する。
というのが加えられる。自分に時間を遡る力があることを知ったトゥルーが一番にその秘密を打ち明けたのは弟のハリソンであったことから「ダメ人間だけど可愛い弟」という位置づけだ。普段からトゥルーに金を無心したりしていたが、トゥルーが過去へと遡る能力があることを知ってから競馬の結果を聞いたりと作戦が変わってきた(^^;
しかし、トゥルーの一番の理解者でもある。

1巻〜6巻まで存在するが、前半部分はオムニバス形式でホントに一話完結のお話しである。後半になり、モルグにジャックが現れてから話が急展開していく。

ジャックはトゥルーとは対極にいる存在といってもよい。トゥルーが時間を遡り死者を生き返らせることが使命であるならば、ジャックは時間を遡り本来死ぬべき人を確実に死に追いやることが使命である。このジャックがもう凄い。ことあるごとにトゥルーの先回りをし、「人助け」をするトゥルーの邪魔をする。時間を遡ったトゥルーは、今日死ぬはずの人に接触するが、当人はまだ生きており、自分が今日死ぬことなど分かるはずもないため、トゥルーは今日の死を知らない彼らに死を回避させるべく行動させるようにあれこれと策を練るのだ。このあたりのプロセスが読んでいて面白いところだろう。

後半部分のジャックとトゥルーの対決により、トゥルーの近しい人が死に、トゥルーはジャックに対して敵愾心を燃やす。しかし「死者を助けることが本当に正しいのか?」と自問自答する場面も多々あり、全編に亙り「生と死」について考察されたミステリー小説である。尊厳死という言葉を再考させるような名作である。(素晴らしいっす)

全米でドラマ化された際はそんなに視聴率はよくなかったようであり トゥルー・コーリング公式サイト@テレビ東京 を見てもアメリカで打ち切りになったため続編はないとのことだったが、根強いファンがかなりいるらしく はてな - トゥルー・コーリングとは によると、トゥルー・コーリング ヴァーチャル・シーズン3として海外で非公式にWeb上で発表されているらしい。(The Relive A Day Foundation: Tru Calling the Virtual Season)更にそれを翻訳している人までいるらしい。(Tru calling トゥルー コーリング 小説
うーむ。これだけ熱狂的なファンがいたのに何故に打ち切り?

全編を読み終えてしまうのが非常に残念であり、続編を激しく希望する海外小説は最近お目にかかれていなかったので作者のジョン・ハーモン フェルドマンさんには是非是非頑張っていただきたいところである。

ちょいとDVDのコレクターズ・ボックスを買おうかどうか真剣に悩み中である(うーむ)
トゥルー・コーリング DVDコレクターズ・ボックス1
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2005/07/29)
売り上げランキング: 5,326


■公式サイト
TRU CALLING@20th CENTURY FOX
トゥルー・コーリング公式サイト@テレビ東京

■他の方々のご意見
Dokusho: トゥルー・コーリング
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2006年05月26日

伊坂幸太郎:「陽気なギャングの日常と襲撃」 このエントリーをはてなブックマークに追加

陽気なギャングの日常と襲撃
伊坂 幸太郎
祥伝社 (2006/05)

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、酒井くにお・とおるのくにおです(嘘です)。ここで笑っとかないとあとは笑うとこないよ(謎)。

ってことで、小説によっては素晴らしい作品だったり、どーしよーもなく辛い作品だったりと浮き沈みの激しい(と勝手にりょーちが思っている)伊坂幸太郎の新作「陽気なギャングの日常と襲撃」が発売されていたので早速読んでみた。待ち望んでいる人もかなり多かったのではないであろうか?
タイトルからもお分かりのように、この作品は「陽気なギャングが地球を回す」の続編である。成瀬、響野、雪子、久遠という愉快な4人のギャング仲間たちがまたもや登場する。

小説NONで連載していた短編4本をベースに書き下ろしの文章を追加し大幅に加筆修正した作品。4章からなる構成で、初めの1章は成瀬、響野、雪子、久遠の夫々が別々に人助けをする。勿論、前作で披露した夫々の特技をフルに活用している。
前作の「陽気なギャングが地球を回す」を読んでいない方に説明しておくと、彼らの夫々の特技はこんな感じである。
成瀬:役所勤め。他人の発言が嘘かどうかを100%見分ける技術を持つ。人間嘘発見器。
響野:喫茶店経営。演説の達人であり、止めろといわれるまでいくらでも(くだらない話しを)話し続けることができる。時たま披露する薀蓄には事実でないことも入っている。成瀬とは高校の同級生の間柄。
雪子:派遣OL。正確無比な体内時計の持ち主。
久遠:スリの名人。全く人に気づかれることなく人のモノを拝借する。
彼ら4人が集まると、無駄話の他に副職の銀行強盗が始まったりする。

■第1章 成瀬編

役所勤めの成瀬は、門馬さんというおじいさんが目撃した不審者の話しを大久保から聞く。大久保は成瀬の部下である。PCの壁紙に彼女の写真を貼り付け仕事をしている。大久保の彼女は全国にチェーン店を持つ社長の娘らしい。
大久保と成瀬は外出先からの帰りに、ビルの屋上で強盗につかまっている門馬さんを見つける。門馬さんはこの逼迫した状況の中、1枚の紙切れを屋上から落とした。その紙切れを拾った成瀬が内容を確認したところ「3-二」という謎の数字が書かれていた。
果たしてその数字の意味は?

■第1章 響野編

響野の店にやって来た藤井は飲んで記憶をなくすことが多い。先日も同僚の桃井と飲んでいたのだがそこからの記憶がない。気がつくと自宅に戻っており、「ノゾミ」という女性からの書置きがあった。勿論ノゾミという女のことも忘れている。更に当日桃井が夜中に事故を起こしたと連絡があったことを思い出す。その話しを聞いた響野は面白くなり、頼まれもしないのに繰言をのべ、あれこれと推論を巡らせる。
果たして「ノゾミ」は実在したのか?

■第1章 雪子編

雪子の派遣されている会社のOL鮎子の元に1枚のチケットが届く。チケットの送り主は不明のようだ。そのチケットは現在売り出し中の奥谷奥也(おくやおくや)という喜劇作家の舞台のようであり貴重なチケットであることが判明した。入手困難なチケットであったとしても誰からの贈り物なのかが分からないので不審に思い、普段から頼りになりそうな雪子に相談が持ちかけられた。雪子は「とりあえず行ってみれば?」と進言し結局鮎子も決心し劇場に行くことにした。「シアターC」というその劇場はいろいろ人騒がせな人物で心臓に病があり、いろいろな場所で救急車を呼んでは騒ぎを起こすような人物であるそうだ。当日イベントの司会を終えた鮎子は雪子に連れられ劇場へと向う。おそらく鮎子の席の左右どちらかの人物がチケットを送った人物と思われるので劇を見ながらも左右に注意していたのだが、結局どちらに座った人も無関係であるようである。
雪子はあることに気がつき、チケットの送り主が楽屋へいるのではと思い鮎子と楽屋へ向う。果たしてチケットの送り主は?

■第1章 久遠編

夜中の公園を歩いていた久遠は傍観に襲われていた男を見かける。久遠が近づいていくと男は逃げていった。襲われていた男、和田倉に話しを聞くと突然知らない男に殴られたらしい。暴漢者の去り際に久遠はいつもの特技を使い暴漢者から財布を盗んでいた。財布の持ち主は熊嶋洋一という男であるようだ。歯医者の診察券が入っていたのでその歯医者で待ち伏せをすることにした。それらしき人物がやってきたのだが和田倉は昨日の犯人かどうか、いまひとつ思い出せない。そして更に和田倉の話しを聞くと和田倉はカジノでかなりの借金を作っているらしかった。久遠は更に調べを進めていると、ふとあることに気づいた。そしてその気づきがこの4つの別々の物語を一つに繋げていくのだった。


というのが第1章の序章部分。おそらくここまでの部分が小説NONで連載した部分であろう。そしてこれらの一見無関係に思われる事柄が伊坂幸太郎の手によってひとつのつながりを持ったストーリーとして浮き上がってくる仕組みになっている。このあたりはネタバレになりそうなので実際に読んでみていただくのがよいかと思う。(ギャングなので銀行強盗はやっちゃいますよ)

更に、当たり前だが前作で登場したその他の(祥子やタダシくん)も随所に登場している。綾瀬に住んでいる怪しげなアイテムを販売する田中も健在で、本作でもこの田中の不思議なアイテムが小説を盛り上げるのに一役買っている。なお、前作の「陽気なギャングが地球を回す」の内容に一部触れている部分があるので「陽気なギャングが地球を回す」を読んでいない人は注意する必要があるっす。
響野のトラブルメーカー振りも相変わらずであるが、読んでいくうちに寧ろ子供をあやす親の気持ちに近いものを感じるから不思議だ・・・

この「陽気なギャングの日常と襲撃」を楽しめる人はおそらくこんな人では?
・内容は兎も角、彼らの会話のテンポや掛け合いを楽しめる人
・パズル好きの人
・荒唐無稽な話しが好きな人

また、5月より上映されている映画版では、
成瀬:大沢たかお
響野:佐藤浩市
雪子:鈴木京香
久遠:松田翔太
祥子:加藤ローサ(響野の妻)
慎一:三浦知紘(雪子の息子)
田中:古田新太(何でも屋。ギャング御用達の怪しいアイテムを取り扱う)
というキャスティングなので、今回この「陽気なギャングの日常と襲撃」を読む際にキャスティングを当てはめながら読み進んでいくのもよいであろう。


前作同様、登場人物の何気ないどーでもいいよーな会話が後々考えると作戦の成否を握る鍵となるような仕掛けが随所に施されているので読者の方は注意して読み進めて行ってほしい。しかし、注意深く読まずにわざと伊坂幸太郎の思惑に嵌ってみるのも良いのではないか?
ジグソーパズルを外枠から徐々に埋めていくような流れを体験できる一冊である。

なお、冒頭に、伊坂幸太郎の作品は当たりハズレが激しい的なことを書いてみたのだが、本作はりょーち的にはアタリに近かったっす。

■参考:りょーちの駄文と書評: 伊坂幸太郎:「陽気なギャングが地球を回す」

他の方々のご意見:
のほ本♪: 陽気なギャングの日常と襲撃(伊坂幸太郎)
胡蝶ノ夢 | 『陽気なギャングの日常と襲撃』伊坂幸太郎
まじょ。のミステリブロ愚: 『陽気なギャングの日常と襲撃』 伊坂幸太郎
虹の彼方に三十路のおやつ | 陽気なギャングの日常と襲撃 : 伊坂 幸太郎
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2006年05月15日

井上夢人:「ダレカガナカニイル」 このエントリーをはてなブックマークに追加

ダレカガナカニイル…
井上 夢人
講談社 (2004/02)
売り上げランキング: 52,518

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、三笑亭夢丸です(嘘です)。

本書「ダレカガナカニイル・・・」は、井上夢人が岡嶋二人解散後に始めてピンで執筆した作品である。最近、某宗教団体の教祖の裁判に関するニュースが取り沙汰されているが、この作品が世の中に出たのが1992/1/20であるので題材としてもタイムリーな作品でもありました。そして このミステリーがすごい! 1993年版 (書評Wiki)にも選ばれた名作です。

関東警備保障に勤務する、西岡悟郎は業務中の盗聴が見つかり、山梨県の山間の小さな村に異動することになった。西岡が新たに担当する警備先は新興宗教団体「解放の家」の修行道場であった。「解放の家」は現在テレビなどでも話題になっている新興宗教団体で、吉野桃紅(葉山美津子)という教祖が主催者となっているのだが近隣住民とのトラブルが絶えず、西岡の所属する会社に警備の依頼がきたのだ。
現地では西岡の他に松崎という気のいい若者と一緒に警備に当たることになる。怪しげな新興宗教の警備ということで閉口気味だったが、松崎が言うには毎夜10時ぴったりに美人のお姉さんが差し入れを運んでくるのが唯一の楽しみらしい。美人の招待は教祖の吉野桃紅の実の娘、葉山晶子だった。

その日も晶子は西岡達に夜食を持ってきた。車の中で夜食を受け取ろうとした西岡は後ろから何か強い衝撃を受けてその場に倒れこんだ。松崎も晶子も何が起こったのか全くわからなかったが、それどころではない事件が起こってしまった。西岡達の警備する道場から火災が発生したのだ。晶子は道場にいる修行者達を避難のため誘導し、西岡達は火災現場へと向うが火の手は一向に静まらない。
やがて鎮火した火災現場からは吉野桃紅の死体が発見される・・・

その日からだった。

火災を起こした責任を取り西岡はついに会社をクビになる。そして東京への帰りの電車ではじめてその「声」を耳にした。
「声」は西岡の頭の中から西岡に呼びかけた。
声の主は自分を「火災により焼死した吉野桃紅である」と主張する。物理法則的にはありえない話しではあるが、兎に角声だけは紛れもなく聞こえてしまう。西岡は解放の家で出会った精神科医の池永に会って話しを聞いてみることにしたのだが、納得できる答えは出てこない。

西岡は「声」を受け入れはじめていた。そして原因究明のために、松崎に会うために山梨を再度訪問する。そこで松崎から事件当時の警備用のVTRを借り受ける。その足で出火のあった道場へ行ってみると、教祖の娘、葉山晶子と再会する。

東京に戻った西岡は東京で大学病院の先生に自分の頭がおかしいのではないかと相談するが、西岡を納得させられるだけの説明は得られなかった。
更に「声」は西岡の味覚や視覚までも体験できるようになっていた。
西岡は半ばあきらめモードで声の主と共存できる方法を模索する。東京に戻り暫くしてまたもや葉山晶子と再会する。晶子は現在信者の家で同居しているという。
晶子は西岡も認めざるを得ない不思議な力を持っていた。西岡と晶子は次第に互いを意識し始める。
そして晶子は西岡の中の「母、吉野桃紅」と話しをしてみると言い始めた。
晶子は「ポワ」と呼ばれる幽体離脱をすることにより、西岡の中に入り西岡の中の「吉野桃紅」と話しをしてみるといい始める。
そして実際に試してみるのだが、非常に強い意志で「母」に跳ね返される。
一方、声の主は自分が何故、誰に殺されたのかを知りたく西岡と共同で犯人探しをはじめる。そしてそこで分かった意外な事実とは・・・


オカルト的な要素が多分に登場するため、ミステリーファンの中では本書は純粋なミステリーではないと指摘する方もいるようであるが、ある制約条件の元に起きた謎を解決するという点では十分にミステリー小説として認めてよいのではないかと思う。
はじめてこの本を読んだとき「えー、そーなのかー」とかなり衝撃を受けたばい。当時新刊で購入した新潮ミステリー倶楽部の本を今でも持っているのだが、もう10回以上読んだばい。1992年1月の発行なので時代背景としては多少古い描写も記載されているが今読んでも十分楽しめる。


■他の方々のご意見:(概ね好印象?)
[苗],ダレカガナカニイル
ミステリ&SF感想vol.80
たこの感想文: (書評)ダレカガナカニイル…
お片づけ箱:[書評]ダレカガナカニイル…-井上 夢人 - livedoor Blog(ブログ)
Grave of memory:井上 夢人の「ダレカガナカニイル…」読了 - livedoor Blog(ブログ)

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2006年05月13日

新堂冬樹:「毒蟲vs.溝鼠」 このエントリーをはてなブックマークに追加

毒蟲vs.溝鼠
毒蟲vs.溝鼠
posted with amazlet on 06.05.13
新堂 冬樹
徳間書店 (2006/04/18)

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは坊屋三郎です(嘘です)。

帰ってきてはいけない奴が帰ってきてしまった・・・
前作「溝鼠」で読者の脳にシンナーを直接撒き散らし溶かす勢いの残忍さを見せたあの溝鼠(ドブネズミ)こと鷹場英一が復活してしまった!
前作「溝鼠」では同性も羨むほどの美貌を持つ実の姉「澪」を愛してしまった英一が澪に利用され宝田組と死闘を繰り広げた。そして人非人である実の父親、源治と愛する姉、澪にも嵌められ絶体絶命の危機に陥った。
最終的にこの闘いで鷹場英一は宝田組のヤクザと父源治を殺害し、業火の中に置かれた澪をも助けず、最終的に一人生き残った。強烈な自己愛のみで生きていた英一、澪、源治の家族でただ一人生き残った英一はその後マニラへと逃げたのだった。

今回の「毒蟲vs溝鼠」はその2年後の物語である。

英一の東京での仕事は「復讐代行業」であった。「幸福企画」という会社を立ち上げ、依頼人からの依頼内容がどんなに理不尽な逆恨みであっても金さえ貰えば、殺人以外のあらゆる手法を駆使し相手が最もダメージを受けるやり方で任務を遂行した。
その手段を問わない残忍な復讐に誰もが震え上がり、日本の裏社会でさえ鷹場と係わり合いになることは避けられていた。どんなに暴力的な力を持つヤクザでさえ、鷹場の通り名である「溝鼠」を口にすることさえ憚られる存在だった。

溝鼠こと鷹場は宝田組との抗争で死んだことになっていたのだ。
マニラへ逃亡して2年後、溝鼠の存在も伝説として噂されるに留まっており、現在幅を利かせているのが「スペシャルサポート」という別れさせ屋であった。
スペシャルサポートを率いるのは通称「毒蟲」と呼ばれている大黒という男だ。毒蟲の呼び名は誰もがその存在を忌み嫌うことから名づけられてもいるのだが、大黒の場合は別れさせるための手段に文字通り「毒蟲」を使うのだ。「毒虫」ではなく「毒蟲」というところにより不気味さを感じさせる。
大黒は「サソリ」「ムカデ」「タランチュラ」をはじめとし、あらゆる毒蟲を自ら飼育し「彼ら」をターゲットに向けて解き放つ。蟲たちの持つ毒性は人を死に至らしめるほどの殺傷能力がある。彼らを操り別れさせ屋の任務を遂行し、のし上がってきた。
大黒が別れさせ屋という奇妙な職をはじめたのにはある忌まわしい事件がきっかけだった。大黒には数年前、志保という恋人がいた。その志保の様子がおかしいことに気づき、隠密裏に興信所に志保の調査を依頼したところ志保は木内という男と交際していたという事実を知る。自分以外の男と交際していた事実を突きつけられ愕然とする大黒。しかも木内という男は志保が5年前に婚約していた松田という男が婚約を解消させられ、志保を大黒に奪われたことへの腹癒せに、木内に金を渡し、大黒と志保の仲を引き裂かせたことを知る。
別れの原因を作った木内と自分を捨てた志保を許せなかった大黒は木内と志保に復讐することを誓い、富田が経営する「スペシャルサポート」に入ったのだ。しかし、復讐の対象となる木内はヤクザとの抗争で既にあっけなく命を落としたことを知る。自分の手で復讐できなかったことを悔やんだが志保と木内へ依頼した松田への復讐は忘れていなかった。志保と松田には覚醒剤中毒者を使い、重傷を負わせることに成功し、とりあえずの復讐を果たし自分の中でひとつの区切りをつけたのだ。そして自分を追い込むように大黒は更に非道な道を走り続け、今ではスペシャルサポートを富山から引継ぎ、「毒蟲」として裏社会からも畏怖されるまでにのし上がってきたのだ。

そんな中、大黒は富山から「木内が実は生きている」事実を聞く。そして木内という名前は偽名で本名は鷹場英一、通称「溝鼠」であることを知った。大黒は改めて木内こと鷹場英一への復讐心を再燃させた・・・
大黒は「別れさせ屋」のビジネスの現在のターゲットである豊島直美と佐伯の仲を引き裂く仕事を遂行しつつも鷹場への怒りで我を忘れそうになる。

一方鷹場は東京へ戻ってきて「幸福企画」の代わりに「青い鳥企画」という新会社を立ち上げ復讐代行業を続けていた。
「青い鳥企画」には国光というサディスト。元外科医の肩書きを持つ教授。兎に角人を殴らないと禁断症状に陥るタイソン。醜女の富子が主なメンバーである。
大黒率いる「スペシャルサポート」のメンバーはデッドボールを人に故意に投げつけることに快感を覚える元高校球児の球児。小卒でコンプレックスの塊で、相手を罵倒することにかけては異常な才能を持つ鉄吉。相手がどんな老婆だろうとレイプできるという大五郎がメンバーであった。
そして、大黒と鷹場が佐伯というどうしようもない男を巡り、相対することになる。それは壮絶な地獄絵図の幕開けでもあった・・・

いやー、恐るべし新堂冬樹。本書のタイトルどおり「毒蟲」こと大黒と「溝鼠」こと鷹場の一騎打ちである。相変わらず読んでいるだけで吐き気を催す描写が満載である。
きっと、この「毒蟲 vs 溝鼠」の任意の1ページを切り取ってGoogle Adsenseを表示させると公共広告しかでてこないに違いない。それほど、不健全な有害図書である。
暴力そのものに似た力を本書には感じる。

読みどころは一度は鷹場に敗れた大黒が鷹場を仕留めるために依頼した協力者の登場だろう。前作の「溝鼠」を読まれた方は意外な人物の再登場に驚くであろう。
そしてスペシャルサポートと青い鳥企画の各メンバー同士の対決も見ものである。鉄吉の罵詈雑言をあなたは受け止めることができるか?

相変わらずの新堂冬樹節を目の当たりにし、次回作が出たら再度買っちゃうなと思った。

■他の方々のご意見:(みなさん、気持ち悪がっている?)
毒蟲vs.溝鼠|本を片手に徒然と
吉本新喜劇Pルーム :エンヤコラ書評 新堂冬樹2連発!「黒い太陽」... (毒蟲vs.溝鼠にも言及されてました)
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2006年04月24日

雫井脩介:「クローズド・ノート」(Closed Note) このエントリーをはてなブックマークに追加

クローズド・ノート
クローズド・ノート
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雫井 脩介
角川書店 (2006/01/31)

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、伊吹吾郎です(嘘です)。

雫井脩介の本を読むのは「犯人に告ぐ」以来である。
今まで雫井脩介さんの本では、「虚貌」「火の粉」「犯人に告ぐ」と横山秀夫っぽい路線のものだけしか読んでいなかったのでちょっと意外であったが、ストーリーとしては微笑ましい小説である。

簡単に紹介すると、某教育大に通う堀井香恵という女の子がちょっとだけ人間として成長する過程が綴られた小説である。雫井脩介さん、こういうのも書かれるんですねー。(そうかー、これって恋愛小説なんだーと最後に分かったよ・・・)

そして、香恵が成長するきっかけとなったのは1冊のノートである。下宿先に以前住んでいた人が書き溜めていたと思われる一冊のノートを偶然部屋でみつけた香恵は「プライバシーの侵害?」とも思いながらもノートを読み始める。
ノートの持ち主は真野伊吹という小学校の先生のものであった。

表紙に「伊吹ノート」と書かれたその日記には、伊吹と四年二組の36名が過ごした日々が綴られていた。
女性らしい視点で書かれたそのノートに香恵は親近感を覚えた。
大学で仲のよい友達である、葉菜ちゃんやマンドリンクラブの仲間たちと日々のんびりと大学生活を送っていた香恵にも、好きだと思える人が現れた。香恵のアルバイト先の文房具店で万年筆を探していたイラストレータの卵、石飛隆作だった。
気になる人ができて一番に相談したい葉菜ちゃんはアメリカに留学しており、更に葉菜ちゃんと遠距離恋愛を続けていたと思われる、葉菜ちゃんの彼氏の鹿島さんから「付き合おう」と告白されてしまう。
石飛さんと鹿島さんとの間で揺れる香恵は「伊吹ノート」に勇気付けられながら、石飛を演奏会に誘う。真野伊吹もノートの中で学生時代に好きだった人と再会し、教師の仕事も恋愛も頑張っているよーだった。

伊吹と香恵の恋愛は成就するのか?
ちなみに、読み進めていると「ひょっとして、これはこういうことなのでは?」という軽い謎のよーなものが沸き起こってくるが、おそらくその謎はあなたが想像したそれが答えだったりします(^^; そーいう意味では安心して読めちゃいます。

ラストに「あー、そういうことだったのかー」という軽い納得感があり、軽めの小説としては良作だったような気がする。いままで雫井脩介といえば新堂冬樹と横山秀夫の中間くらいの位置で「ドロドロ」とした刑事小説を書いている作家という印象だったが、こういうのもありかなーとも思った。

ネタバレになるので詳しくは書かないが、あとがきに雫井脩介さんの実の姉について書かれていた一文を読み「うーむ、そーなのかー」とへんなところで感動してしまった。

春先は環境が変わり、なかなか周囲に溶け込めずぼんやりしてしまう人も多いと思うけど「まあ、なんとかなる」ので頑張っていきましょう。
■他の方々のご意見(ミステリーかと期待した人と違和感なく読めた人と半々?)
☆トウキョウ番長の読書日記☆: 最終回(『クローズド・ノート』 雫井脩介)
So-net blog:極楽夜会:「クローズド・ノート」
椰子の実通信: クローズド・ノート / 雫井脩介著
うだうだぶつぶつ:雫井脩介『クローズド・ノート』のこと
kinosy 本の感想 | 「クローズド・ノート」雫井脩介
でこぽんの読書日記 - クローズド・ノート/雫井脩介
そしてなんと映画化決定?
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2006年04月18日

奥田英朗:「町長選挙」 このエントリーをはてなブックマークに追加

町長選挙
町長選挙
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奥田 英朗
文芸春秋 (2006/04)

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、ミスDJでお馴染みの千倉真理です(嘘です)。

やっと、彼奴(きゃつ)が戻ってきましたよ! 待ち遠しかったなー。
「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」で登場した伊良部一郎が今度は有名人を診察? 名前は勿論ズバリとは書かれていないが、有名人との夢のコラボレーションが実現です。相変わらず、医師と思えぬ発言および傍若無人且つ傲岸不遜な態度のこの伊良部一郎。有名人を目の当たりにしてもマイペース。隠れた名医として ベストドクターズ に掲載されるんじゃなかろーか?

本書は表題の「町長選挙」の他に「オーナー」「アンポンマン」「カリスマ稼業」という4つの作品が収録されている。
最後の町長選挙だけは東京都管轄のとある離島内での選挙の話しだが、それ以外は普通の日本人が読んで、登場人物のモデルとなる人物が直ぐにわかる。一応書いておくと

・「オーナー」:読売新聞グループ本社社長の渡辺恒雄(ナベツネ)
・「アンポンマン」:livedoor前代表取締役社長兼CEOの堀江貴文(ホリエモン)
・「カリスマ稼業」:元宝塚歌劇団女優の黒木瞳

うーむ。この面々と伊良部の一騎打ち。考えるだけでも恐ろしい・・・

以下に4つの作品を触りだけちょいと紹介してみよう。文章中の固有名詞の後の()内はモデルとなったと思われる固有名詞・人物名を記載してみるよ。

オーナー
東京グレートパワーズ(読売ジャイアンツ)のオーナーである、大日本新聞(読売新聞)社長の田辺満雄(渡辺恒雄)は新聞社の社長というだけでなく政財界に幅広く影響力を持つ。自身がマスコミの社長ではあるが、マスコミに諂うことを嫌い、1リーグ制導入を容認する発言で選手会およびファンにも嫌われていた。ナベマンというどっかの料亭のよーな渾名を付けられ連日マスコミの取材攻勢に合っていたが、ある日突如として暗闇が怖くなってしまった。
医者に見てもらうことを決めたナベマンは知り合いの日本医師会の委員長でもある伊良部総合病院の医院長に連絡を取り付けた。てっきり自分のレベルなら自宅まで往診してくれるものと信じて疑わなかったのだが「いやだよーん」と拒否されてしまう。
普通なら通院などありえないのだが、外出先の通り沿いに伊良部総合病院があったため顔を出してみることにしてしまった。
伊良部の元を訪れたナベマンは伊良部が自分に敬意を示さないどころか、命令口調で問診をすることに立腹していた。更に「例の」マユミちゃんの「とりあえず注射」を不覚にも打たれてしまう。
当然のように伊良部に憤りを覚えたナベマンはパニック障害を忘れようと努力するが症状は更に悪化する。
そして、旧知の会社社長の退任パーティに参加した際、会場で伊良部の姿を見かける。伊良部は大勢の前で「パニック障害、なおった?」とわけのわからないことをごちてナベマンをあたふたさせる。が、パーティの帰り取材にあった際、またもやパニック障害に・・・
果たしてナベマンは病気を治せるのか?
エンディング付近はいつの間にか「イイ話し」になっているところが上手いよ。

アンポンマン
ITベンチャー企業ライブファスト(ライブドア)社長の安保貴明(堀江貴文)は今や飛ぶ鳥を落とす勢いでその事業を拡大しており、テレビでその姿を見ない日はない。安保貴明という名前より、世間的にはアンポンマン(ホリエモン)(≠アンパンマン)という呼び名が浸透している。そんな安保は「稼いで悪いか?( 稼ぐが勝ち )」のサイン会でひらがなの「ま」が書けない自分に気づいた。秘書の美由紀(乙部綾子)は字が出てこない安保の様子を以前にも見ており一度治療を受けるように勧めていた。
美由紀の進言もあり、安保は伊良部総合病院に出向いた。キーボードがなければひらがなさえも書けなくなった安保への伊良部の診断は若年性アルツハイマー。IT業界の寵児とも呼ばれるアンポンマンは診断内容を甘受できるわけもない。非生産的な作業は安保は最も不快視するため、ひらがながかけなくても何の問題もないと判断し、業務を続けるが公開討論テレビ番組に参加しても文字が浮かばない安保。状況はますます悪化している。
そして治療のため(?)に伊良部が安保を連れて行ったところは・・・

最後にキチンとアンポンマンが自信を取り戻すのはこのシリーズの定番なのだが、ホリエモンの現況を考慮すると今となっては、ある意味自信を取り戻さない方がよかったのかも・・・

カリスマ稼業
主婦の間でカリスマ的な存在となっている、白木カオル(黒木瞳)はこのところ寝つきが悪く、マネージャーの久美に精神安定剤を貰うように依頼した。久美はバンド仲間で精神科の看護婦を務めている友人がいるので貰ってくることにしたが、その友人こそがなんとマユミちゃんなのだ(あーあ)。久美はクスリを貰ってくるため伊良部総合病院にいったのだが、注射を打たれて帰ってきた。自然体が売りの白木であったが、寝付けないのと同時に最近痩せなくてはいけないという強迫観念に囚われていた。午前中人前で過食気味に食べたお菓子を消化すべくどこか運動できるところを探していた。そしてたどり着いたのが伊良部総合病院だった。
白木は早速エクセサイズマシンを病院内で組み立て運動を開始する。普通なら「何やってるの?」というところであるが、伊良部はこともあろうにそのマシンを白木から取り上げて自分で運動しはじめた。伊良部に暴言を吐いて病院を辞した白木だったが、ふと我に返ると自分でも精神的におかしいなあと思い始めていた。
数日後、白木に熱血大陸( 情熱大陸 )の取材が舞い込んでくる。自然体であることを見せようとした白木だったが、ひょんなことから伊良部総合病院の精神科に通っていることがばれてしまう。白木は次回の役作りのためと取り繕ったが是非とも取材したいとのオファーを断りきることができず、撮影クルーと一緒に伊良部の元を訪れてしまった・・・
このラストもなかなか秀逸である。白木もこれで肩の荷が下りたことであろう。
でも、伊良部の功績というよりもマユミちゃんの活躍じゃないのか?

町長選挙
この町長選挙のみ、有名人っぽい人が登場してこない。

東京から数時間かけて船を乗り継いでやっとたどり着く離島、千寿島。ここでは小倉と八木という農業と土建屋という二者が有力者であり、日々熾烈な戦いが繰り広げられている。その千寿島に東京都の職員として就職した宮崎は離島研修ということで赴任してきた。
千寿島では町長選挙の真っ只中であり、役場でもその話題で持ちきりである。この島では小倉か八木かどちらについているかによってその後の待遇も変わってくる。宮崎もその例に洩れず、両陣営からどちらにつくのかはっきりしろと言われ困惑気味である。
そこに、父の意向(と見栄)により2ヶ月間千寿島に赴任することになった伊良部と日給3万円で離島赴任を受け入れることになった、マユミちゃんがやってくる。小倉、八木両派は伊良部の父が医学会での重鎮であることを知り、実弾(賄賂)攻撃に走る。
宮崎も両陣営から実弾を掴まされ、悩んでいたが、貰えるものは貰っちゃえという伊良部の発言に少なからず心が揺れる。
前回の選挙結果は5票差という僅差だったため、小倉・八木も死に物狂いだった。選挙で重要となる浮動票として両者で読めていないのは島に住む老人達であった。千寿島の老人達はしたたかで「自分達に最終的に利益をもたらす公約を掲げる方に投票する」と最後までどちらに着くか表明していなかった。一方老人の心を最も掴んでいたのは、実は伊良部だった。伊良部は病院で特に治療をするわけでもなく、老人達の話し相手になっていただけであったが、それが老人達には嬉しかったようだ。小倉、八木達は老人達の浮動票を確保すべく、更に伊良部に接触を図る。
ヒートアップした島を伊良部は治療できるのか・・・

総論
伊良部と時の人達の会話も想像していてかなり可笑しかったが、やはり表題の町長選挙のノリが本来の(?)伊良部なのかなーと思う。
5年後に再度「町長選挙」を読んだときには()の中の人が置き換わっているかもしれないっすねー。
しかし、伊良部一郎の産みの親、奥田英朗は凄いっす。このキャラをどう見せるかというところにかなり神経を割いているのではなかろうか?伊良部は既に奥田英朗の机の上から飛び出して一人歩きを始めているように思う。

全編一話完結のお話しなので、今まで「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」を読んでいなかった人でもこの「町長選挙」から読んでみても全く問題ないっす。
兎に角オススメです。

「伊良部先生、お帰りなさい!」という気持ちで一杯っす。


■他の方々のご意見:(みなさん、満足度はかなり高い?)
獅子丸 うにょうにょ読書日記
でこぽんの読書日記 - 町長選挙/奥田英朗
Less is More 待ってました!伊良部先生!
Yahoo!ブログ - 知子の読書日記
町長選挙@○キリカ is simple life○


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2006年03月20日

西田俊也:「少女A」 このエントリーをはてなブックマークに追加

少女A
少女A
posted with amazlet on 06.03.20
西田 俊也
福武書店 (1992/09)
おすすめ度の平均: 4
4 本のタイトルで損してる

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、中森明夫です(嘘です)。

中森明菜のヒット曲「少女A」とは全く関係ないこの本。昔の本なのだが、とてもオモシロイ。
本書の主人公、アイダナオは中学受験に失敗する。しかし、保険で受けた女子高に補欠入学が認められた。しかし、1点問題があった。それはアイダナオは男の子だということ。
この「少女A」ではナオが女子高生として入学し、スズナカやヨシネなどの同級生と繰り広げるオカシナ青春小説なのだ。
女子高に入学したことなど親にも言うことができないナオは高校進学のための予備校に通っていることになっている。高校進学用の予備校にも高校生っぽい制服があるらしいのだ。その日から親の目を盗んで、予備校の制服を着て出かけ、行きがけのトイレで中学の同級生のアオヂが失敬してきたセーラー服に着替えつつ女子高に通うという二重生活が始まる。

昔の小説なので、今読むと時代背景などが多少ずれているよーな気もするのだが、気にせずに読むことができる。健全な男子高校生が抱える思春期の悩みの大半は女の子に対する悩みなのだ。ナオは殆どすべての男子高校生が一度は憧れる(ホントか?)女子高への潜入を敢行し女子高生として偽りの高校生活を送る。りょーちは女子高には勿論通ったことないけど(当たり前か?)ホントにこういった雰囲気なんだろうなと思えるほど仔細に書かれている。
担任の先生やクラスの中で、ナオが男の子であることを知るものはいなかったのだが、ある日同級生のスズナカに見破られる。このスズナカのキャラが強烈である。所謂普通の女子高生とは一線を画したものを持っている。追放されるのを覚悟でスズナカにだけ自分が男性であることをカミングアウトしたナオだったが、スズナカはそれを面白がりナオと結託して先生達を騙す側に回る。
ナオの「女子高ライフ」は前途洋々だったはずだったのだが同じクラスの生真面目な女の子。ヨシネがナオに迫ってくる。ヨシネはナオが男性であることを勿論知らない。
果たしてナオはこの危機をどう乗り越えるのか? ナオの女子高生活の行方は?

いやー、よく考えるよね。こーゆー話し。ともすれば東海テレビお昼のドラマ的な「ドロドロ」の展開もあり得るのだが、全体的にアッケラカンとした緊張感のない展開と姉御肌のスズナカが時折語る人生観がピッタリと嵌る。
本書は1992年に出版された本で今から10年以上前の本なのだ。文庫化されていないのが淋しいが、このはちゃめちゃなストーリーは後世に伝えるべきであろう。今や入手するのがかなり困難だと思うので、是非、文庫化を希望します!

なお、西田俊也さんの作品の love historylove history〈2〉second songs が、韓国のポムフィルムで映画化されるらしい。ポムフィルムといえば、「君は僕の運命」を手がけた映画制作会社。こちらもちょいと注目かも。
love historylove history〈2〉second songs

公式サイト:西田俊也 / ニシダブログ!
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