2006年10月31日

海堂尊:「ナイチンゲールの沈黙」 このエントリーをはてなブックマークに追加


りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、少女隊でお馴染みの引田智子です(嘘です)。

「チームバチスタの栄光」で第4回「このミステリーが好き(通称このミス)で大賞を受賞したことでかなり話題となった海堂尊が早くも続編を書き上げた。(もう出たのかよって速さっす!)

本書「ナイチンゲールの沈黙」では「チームバチスタの栄光」でお馴染みの愚痴外来田口と厚生労働省唯一無二の奇人白鳥圭輔の最強タッグが殺人事件の謎に挑む。
事件の核となる人物は小児科病棟に勤務する看護士の浜田小夜。網膜芽腫(レティノブラストーマ)で手術予定の中学三年生、牧村瑞人。デビュー当時は売れない歌手だったが、最近リメイク盤が大ヒットしている歌手の水落冴子。そしてデビュー当時から冴子のマネージャーを勤めている城崎。彼らが事件にどう関わっていくのか。そして、田口&白鳥はどーやって事件を解決していくのか。

東城大学医学部付属病院の看護士の浜田小夜と如月翔子は忘年会の後、ホスト風の男に声を掛けられる。ホスト風の男に「今を時めく水落冴子のコンサートチケットがあるので聞いていかないか」と声を掛けられる。それが城崎だった。小夜たちは怪しいと思いながらも後をついていく。ホールには確かに水落冴子の姿がある。冴子の歌は予想を遥かに超えて素晴らしいものだった。歌が終わると城崎は小夜に「舞台に上がって歌を歌ってくれないか」とお願いした。そして先ほどまで歌っていた冴子も小夜に歌うように勧めるのであった。しかたなく小夜はステージに立ち歌い始めた。そのときである。冴子が舞台の袖で突然倒れた。小夜たちは救急車を呼び自らの勤める東城大学医学部付属病院へと一緒に向った。
冴子は通称ドア・トゥ・ヘブンと呼ばれるVIPの隠し部屋に緊急入院することになった。救急患者をドア・トゥ・ヘブンにいれる手はずを整えたのはたまたま病院に居合わせた田口であった。田口は不定愁訴の医師である。昼行灯、愚痴外来のグッチーと揶揄され、医学部のヒエラルキーの最底辺に位置する人物である。

水落冴子は極度のアルコール依存症であった。その冴子に田口はスペシャルアンプル(ミニチュアボトルのお酒)を与えたりした。もう滅茶苦茶である。
同じ頃、小児科ではレティノ(網膜芽腫)の牧村瑞人と五歳の佐々木アツシの手術前の対応に悩まされていた。レティノは眼の癌である。瑞人とアツシの手術は眼球摘出を伴う大きな手術だが、二人とも手術を拒否している。特に牧村瑞人に至っては保護者である瑞人の父と連絡さえ取れない始末だ。
主治医の内山聖美は瑞人の父を説得する必要があったのだが聖美はこともあろうに瑞人の父の説得を小夜に押し付けるのであった。そしてこのことが大きな事件に繋がっていく。
アツシと瑞人は手術前の検査のためMRIでの検査を受ける必要があった。大人でも検査には閉口するものだが、子供のアツシはMRIに入るのを極度に怖がった。アツシは小夜に「歌を歌ってほしい」とせがむ。MRIの担当の島津は子供の容態を落ち着けるために歌を歌うことを許可する。そして小夜のアヴェ・マリアの歌声はMRIのモニターに不可思議な輝点(ブリッツ)を光らせた・・・
小夜の歌には何か不思議な力があるようだった。
検査終了後、アツシと瑞人にメンタル面での不安を解消するため、小児科(オレンジ病棟)と病院長の総意によりメンタル面でのケアを田口に依頼することになった。田口としては仕事が増えるばかりであるが、上からの指示のため到底断ることはできず、渋々子供達のために愚痴外来小児科バージョンを開設することになった(トホホ・・・)ただ、アツシと瑞人のみではレティノのためということが丸分かりであるため猫田師長の采配で小学五年生の田中秀正と高校二年生の杉山由紀を加えることになった。

そしてその日、瑞人の父の鉄夫から小夜のケータイにどういった風の吹き回しか手術の承諾書にサインをするから来るようにと連絡があった。サインを貰うために待ち合わせ場所に向った小夜は鉄夫にこともあろうに陵辱されてしまう。息も絶え絶えにその場を逃れた小夜は偶然通りかかった城先の車に乗せてもらい病院へと戻った。

そして、牧村鉄夫がバラバラ死体となって発見されたのはその日だった・・・

この捜査に乗り出したのは警察庁刑事局刑事企画課電子網監視室室長(長いよ・・・)から桜宮署に赴任した加納達也とその部下タマこと玉村だった。加納は「デジタルハウンドドッグ(電子猟犬)」と呼ばれており、コンピュータを導入した新しい捜査「デジタルムービーアナリシス(DMA)」を駆使し解決に乗り出す。
そして時を同じくして、ついにあの男、白鳥圭輔が東城大学医学部付属病院にやってきた! (前回も遅ればせながらの登場だったねぇ)

白鳥は東城大学医学部付属病院の近くにある碧翠(へきすい)院桜宮病院に不穏な動きがあるとのことで隠密裏に(っていっても自分からペラペラとしゃべっているのだが・・・)予備調査のために、ここにやってきたとのこと。
そして何故だかまた、田口と白鳥が知らず知らずのうちにタッグを組み、犯罪捜査に乗り出すのだっ!

更に警察庁の加納と白鳥は大学時代の同級生でもあり、白鳥・田口に加え、加納も交えた綿密なのかアバウトなのか、常人には全くわけのわからない捜査が繰り広げられていく。

果たして犯人は誰なのか?
何故死体はバラバラだったのか?
瑞人とアツシのレティノ手術はどうなるのか?
小夜の歌と冴子の歌の秘密は?

このあたりが愉快な仲間達(本人達は至って真面目)のメタ(メタメタ?)推理によって見事に解き明かされていく過程がなかなか読み応えがある。ロジカルモンスター田口とデジタルハウンドドッグ加納の噛み合っているようで噛み合っていないけど、何だか先に展開が進んでいく「会話で読ませる」物語の運びは前作同様秀逸である。

しかし、加納のデジタルムービーアナリシスの捜査&操作はどー見ても一昔前のマジンガーゼットなどの巨大スーパーロボットを動かしているとしか思えない感じっす・・・orz
そこかしこに、お笑い的要素が散りばめられており、反射神経的なオモシロさは十分に楽しめる。(謎の「ハイパーマン」は「イカレスラー」とかのノリで誰か作って見て欲しいっす)

ただ、事件そのものは解決するのだが、いまひとつ後味の悪い結末だったことは否めない(情状酌量の余地は多分にあるが・・・)。
本来殺されてもしょうがないと思われる人でもホントに殺してしまえば罪として問われてしまう。これはしかたないことであろう。

本書に登場する人物の中で杉山由紀という少女が登場する。牧村鉄夫と杉山由紀の対比により、作者は何かを訴えたかったのではなかろうかと深読み(浅い?)してしまった。終盤に杉山由紀が登場する場面でトーマス・マンの「魔の山」の最後のフレーズを思い出した。

人が生きていくってのは大変なんだねぇ・・・ (しんみり)

それよりも何よりも、本シリーズで一番の謎は姫宮は何者なのかってことではなかろーか(全編このパターンでいくのもアリだよねぇ)。

■他の方々のご意見(やっぱりGood!っぽい)
まったり読書日記
はちみつ書房
HONG−KONG−CAT
絵本と子どもと色々
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2006年10月23日

有川浩:「図書館内乱」 このエントリーをはてなブックマークに追加

図書館内乱
図書館内乱
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有川 浩
メディアワークス

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、一龍斎貞友です(嘘です)。

昭和を代表する芸人のばってん荒川さんが、10月22日、69歳で逝去されました。天国でもおばあちゃん姿でご活躍していらっしゃることと思います。合掌。

と、しんみりとしてしまったが、この「図書館内乱」で明るさを取り戻せること間違いなし。あの、図書隊達がこんなにも早く帰ってきた。

前作「図書館戦争」で強烈に読者のハートをがっちり掴んだ笠原郁たちのその後のストーリー。「図書館内乱」は有川浩の中で「図書隊シリーズ」として今後更に大きく飛躍するであろう笠原郁隊員と、その仲間達の人となりを整理してみるという位置づけではなかろうか?

前作、図書館内乱を読んだ方ならもうお馴染みの面々が今回もまた、大活躍(若しくは大騒動)を起こしていく。

「メディア良化法」と「図書館法」という一見相反する法律が混在する近未来の日本。「メディア良化法」を掲げ、有害図書の駆逐に終始励む「メディア良化委員会」は、行き過ぎとも思われる論理で有害図書を駆逐しはじめていく。
一方、「図書館法」の理念に基づき、全ての図書を世の中に遍く知らしめるために存在する図書館。メディア良化委員会の武装攻撃に対峙するために、図書館側も図書隊という自衛組織が作られた。

笠原郁は高校時代に読みたい本をメディア良化委員会に取り上げられそうになったところをある図書隊に助けられる。そしてその時受けた感動を旨に自ら図書隊を志願し、武装し、市民のために図書を守るという任務に就く。

こう書くと、郁は屈強な男性のよーに思えるが、れっきとした女性。更に言えば「戦争」とか「内乱」とか物騒な言葉が飛び交ってはいるが、おそらくこの本の主軸は「恋愛」。図書館戦争を読んだときの感想 には「近未来恋愛戦争オモシロ小説」と書いてみたが、今回の「図書館内乱」は恋愛の部分にかなりフォーカスが当てられている。

本書は5つの短編小説としても読めるが、時系列としても話しとしても繋がっている。
そのサブタイトルがこんな感じ。
1.両親霍乱作戦
2.恋の障害
3.美女の微笑み
4.兄と弟
5.図書館の明日はどっちだ

って、前作読んでない人には、このサブタイトル見ただけじゃ「一体どーゆー話しよ?」って感じなのだが、「図書館戦争」を読んだ人にとってみれば「ワクワク」してしまうよーなタイトルの羅列である。

1.両親霍乱作戦
茨城に住む郁の両親が上京するという連絡を受け、郁は青ざめる。郁の職種は図書館の中でも戦闘職種に分類されるのだが(ってもうここらあたりの設定からして面白いのだが)両親には実は戦闘職種であることを内緒にしているのだ。頭の固い田舎の両親がこのことを知ったら卒倒どころの話しではない。茨城に連れ戻される可能性さえ秘めている。同僚の柴崎、鬼教官の堂上、小牧などにバレないように根回しをする郁。同期で横柄な態度を取る(が、実際かなり優秀な)同期の手塚にまで今回は頭が上がらない。

2.恋の障害
「恋の障害」のメインキャラは前作では地味なキャラとして描かれていた無骨な男、小牧教官。図書館内で目の前を歩く少女がケータイを落とした。拾ってあげた郁が声を掛けてあげたが反応が全くない。居合わせた小牧の話しによると彼女は耳がよく聞こえないらしかった。彼女は小牧の近所の娘で中澤鞠江という。鞠江と小牧は家族ぐるみの付き合いで小さい頃から鞠江は小牧に憧れていた節があり、子供心に「大きくなったら小牧兄ちゃんのお嫁さんになる」などと公言していた。年の離れた小牧は既に大人の男性でありどうやら彼女もいるようだった。彼女と楽しげに語り合う小牧を遠めに見ながら鞠江は何度目かの失恋をした。しかし、その彼女と小牧は彼女の転勤でその関係も何時しか自然消滅しており、現在に至っては鞠江は小牧のいる武蔵野第一図書館に足繁く通うまでになっていた。
その小牧がある日突然人権侵害の疑いで良化特務機関に連行されてしまった。
事の顛末はこうだ。
図書館で借りた本を鞠江が学校で読んでいると生徒の一人が本の題名を見て訝しがった。鞠江の読んでいた本は「レインツリーの国」という本で恋愛小説であった。それだけならよかったのだがそのヒロインは難聴者であるとの設定だった。
「中澤さん、耳が悪いのに、難聴のヒロインの本をすすめるなんて無神経じゃない?」
生徒の言ったこの何気ない一言が回りまわって父兄や教師の知るところとなり、未成年身障者への人権侵害ということになったらしい(うーむ、そんなあほな・・・)。
連行された小牧について、図書隊内部ではどうあっても小牧を助け出す術を見つけ出したかったのだが、肝心の小牧の隔離されている居場所が分からない。
その、居場所を突き止めたのは郁の同期の手塚であった。手塚は数年間音信不通の兄に連絡し小牧の居場所を聞き出すことに成功した。小牧は「自分が捕まったことは鞠江には知らせるな」と堂上に言い含めてあった。直情型の郁は鞠江に連絡を取り、小牧を助けるべく奔走する。小牧は無事に戻ってくるのか・・・
この設定はなかなかよかったよ。小牧と鞠江は共に初心な分だけ「頑張れよ」と応援する気持ちがいやでも高まってくる。
更に特筆すべきはこの事件の問題となった本、「レインツリーの国」が有川浩の手によって本当に出版されることになったことであろう。

レインツリーの国
レインツリーの国
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有川 浩
新潮社


出版元は新潮社からで、メディアワークスと新潮社のコラボレーション企画ということらしい。出版会ではあまり例を見ないこの企画、なかなか楽しみである。

3.美女の微笑み
本書で美女といえば誰か? ヒロイン(若しくはヒーロー)は笠原郁で間違いないのだが美女となると話は違う(郁、すまん・・・)。
そう。クールビューティ、柴崎しかありえない。柴崎は自他共に認める美貌の持ち主である。そんな柴崎が図書館に来館した若い男性に声を掛けられ一緒に昼食へ出かけていった。同室の郁をはじめ、密かに柴崎を(高嶺の花とは知りつつも・・・)狙っていた男性図書館員たちも驚いていた。柴崎のお相手は朝比奈光流という三文小説に出てくるよーな名前の持ち主である。朝比奈は行政問題の研究をしているとのことで、現在は図書館問題について調査しているようだ。
柴崎は幼い頃から自分が「綺麗な顔」であることを分かっていたので同性からのやっかみも相当な数(その殆どが言われなき迫害)だったが、高校・大学と進学するにつれ、自分の立ち位置を上手く確立する処世術を意識的に身に着けていた。
柴崎が戻ってきてから、郁はあれこれと柴崎に「どうよどうよ?」とたずねてきたが「どうってことない」とにべもない。
時を同じくして「週刊新世相」に昨年逮捕され世間を賑わせた高校生連続通り魔事件の後日譚の報道が掲載される。この「週刊新世相」の取り扱いにおいて、各図書館でちょっとした問題が起こっていた。問題は「週刊新世相」に犯人の少年の供述調書が全文掲載されていることだった。図書館では「恣意を交えない資料収集」をモットーとしている。利用者の「知る権利」と「少年法による未成年保護」の間で閲覧を許可するのかどうかの対応は各図書館に一任されていた。郁の所属する武蔵野第一図書館での対応は閲覧禁止であった。この決定に郁の反応は如何に? そして柴崎と朝比奈の関係はどーなるのか?
この章は次章以降の伏線となる一章とう位置づけだろう。しかし、柴崎の人となりが薄っすらと垣間見える章ともなっている。

4.兄と弟
2章で登場した鞠江から武蔵野第一図書館のホームページに奇妙なページがあることを小牧は知った。そのページには「図書館員の一刀両断レビュー」として書評が掲載されていた。そこには鞠江と小牧には忘れることができないあの「レインツリーの国」に関する書評もあった。この本は小牧が鞠江に薦めた一冊で、2章の部分でも言及したようにこの本を巡り小牧は良化特務機関に連行されてしまった経緯がある。しかし、この本のおかげで鞠江と小牧の距離が随分近づいたのも事実である。そんな二人の大切な一冊がこの「図書館員の一刀両断レビュー」で「買う価値は全くない」とバッサリと斬られていた。
図書館の総意ではなくあくまでも一図書館員の意見として書かれているこのレビューを書いたのは砂川一騎という図書館内でも比較的目立たない人間だった。このことを耳にした堂上は砂川と同室でもある手塚にどういう経緯でこの書評を書き始めたのか探りを入れてもらうことにした。手塚の調べによると砂川は自ら館長に提案し、館長の了解を得ているとのこと。更に話しを聞くと砂川は手塚の兄の慧が主催する「図書館未来企画」という研究会に通い始めたとのことであった。手塚の父は、日本図書館協会の会長であり、日本の図書館の総元締めという立場にあった。その父と慧は図書館の今後の未来について意見が折り合わず、数年前に家を飛び出していたのだ。手塚から見ても兄の慧は非常に優秀で父親からもゆくゆくは自分の後を継いでくれるものだとの確信が少なからずあったのだろう。そんな兄が父と仲違いし、自ら作り上げた「図書館未来企画」という団体は最近かなりの勢力を保有していた。
そしてそのホームページのレビューの存在は案の定出版元の出版社の知るところとなり、図書館側にクレームが付けられた。砂川の背後には手塚慧の姿がちらほら見え隠れする。更に、砂川は査問会で共謀者に郁の名前を出してきた。郁にとって見れば勿論何のいわれもないことであり、全く以って関係なく、濡れ衣ってやつである。
果たして郁はこの危機を乗り越えられるのか・・・
全ては第5章へと・・・

5.図書館の明日はどっちだ
砂川が何故、郁を共犯者だと言ったのか? 図書館側では皆目検討が付かなかったが、郁は査問会へと出席せざるを得ない状況となった。査問会といえば聞こえはよいが、相手は半分拷問紛いに近いことも厭わない組織だ。そのことは以前査問会に出頭した小牧も身にしみて実感している。査問会に出席した郁がキチンと質疑応答ができるように図書館側では郁に対して「想定問答集」による対策を講じた。頭で覚えることが苦手な郁にはかなり堪えたが、ついに出頭日を迎えた。
郁は査問会で自らの潔白を証明することができるのか。そして砂川の処遇は?
この章のラストで郁は以前から探していた王子様をついに特定してしまうのだ(マジですか?)

ここでネタをバラすか?有川浩。こんなことされると、絶対次の一冊も買わなくてはいけないじゃないか・・・
図書隊の話しはめでたくシリーズ化され、本書以降でも郁や堂上、手塚、柴崎に会えるというのはかなり嬉しいっす。徒花スクモさんのイラストもGood!です。

「図書館内乱」はシリーズ化における登場人物紹介的な位置づけのような一冊だが、十二分に楽しめる一冊となっており、かなりオススメである。そして彼らの恋愛話も更に進展することを大いに願うのであった(あ、郁の場合はちょっと引き伸ばして貰った方が面白いかも)。


■他の方々のご意見(全体的に好評である)
まいじゃー推進委員会!
怪鳥の【ちょ〜『鈍速』飛行日誌】
やぎっちょのベストブックde幸せ読書
ひなたでゆるり
life is journey
コンパス・ローズ

その他大勢の方々 がお読みになっています。


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2006年10月17日

宮部みゆき:「誰か」 このエントリーをはてなブックマークに追加

誰か ----Somebody
誰か ----Somebody
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宮部 みゆき
実業之日本社
売り上げランキング: 280,843

りょーち的おすすめ度:お薦め度

ってことで、宮部みゆきである。どーだ、まいったか(謎)。

「誰か」という本書のタイトルを耳にしたとき、ミステリー界の女王、宮部みゆきの作品ということで、「フーダニットものなのであろう。よしよし」と思いながら読んだが、読み終わってみてこの「誰か」というタイトルに妙に頷けるものがあった。
通常ミステリ小説においては「犯人は誰?」ってところに焦点があたるものである。本書でも勿論犯人探しという骨子はあるものの、夫々の登場人物が「誰か」を探している。

杉村三郎は大企業「今多コンツェルン」の広報室で社内報を作っているサラリーマン。妻は今多コンツェルンの会長、今多嘉親の娘の菜穂子である。ただ、菜穂子の母は嘉親の正妻ではなかった。銀座のギャラリーを経営していた菜穂子の母と嘉親がどうやって知り合ったのかは謎であるが、菜穂子と嘉親の関係はいたって良好である。桃子という一人娘にも恵まれ普通のサラリーマン生活を送っていた。

ある日、杉村は今多嘉親より直々にある命を受けた。それは、今多嘉親の運転手の梶田信夫に関することであった。梶田とは少なからず面識があったのだが、その梶田が自転車にひき逃げされて殺され、犯人は未だ捕まっていないという。
その梶田の娘が父の犯人探しの一環として、父に関する本を出版したいという。杉村は以前「あおぞら出版」という出版社につとめていたこともあり、話しを聞いてやって欲しいということであった。

梶田の娘は姉の聡美と妹の梨子の二人姉妹であり、杉村は日を置いて、この姉妹の話しを詳しく聞くことにした。話しを聞いてみると、本を出版したいのは妹の梨子の方でどちらかといえば、姉の聡美の方は犯人は見つけたいようであったが、出版という行為には消極的であった。姉の聡美は結婚を控えており、今回の父の他界により結婚の延期も考えているようである。はじめての姉妹との打合せが終わった後、聡美は妹のいないときに杉村と話しをさせてほしい旨を伝えた。
聡美と杉村とでの二人だけで話しをした際、聡美は自分が幼い頃に父に恨みを持つ女性に誘拐されたことを打ち明ける。誘拐の話しは梨子は知らないようだ。聡美は梨子が父の生い立ちなどを詳しく調査を進めていく過程で「誘拐」の件が知られるのを嫌がっていた。父は今多嘉親の運転手になる前に玩具会社に勤めていたようで、誘拐はその頃に起こったのだ。まだ、梨子が生まれる前の話しである。そして誘拐された犯人に言われた「父のせいだ。父に恨みがあるから、私を殺してやる」という言葉が今でも忘れられないという。梶田は誰かに恨みを買い、その代償として娘である聡美が誘拐されたということのようだ。聡美は今回の事件もその「誘拐事件」が絡んでいるのではないかと思っている。梶田は休みの日にはふらりと車に乗りどこかへ行くことも多いが姉妹の知る限り、事件が起こった石川町付近には何のゆかりもなく、「何故父がそこにいたのか」ということに疑問が残っていたのだ。

杉村は梶田をそんなによく知っていたわけではなかったが、恨みを買うような人物ではなさそうではあった。ともあれ、杉村は姉妹の望みである「父を殺した犯人を捜す」ということに協力をすることにし、事件現場の石川町付近に出かける。事件現場付近のマンション付近には、ひき逃げ事件があった旨と、行方不明の犯人の目撃証言を募るタテカンがあった。マンションの管理人や付近住民、警察の話しを総合すると、どうやら犯人は少年のようであった。
そして、杉村は聡美の「誘拐」に関する話しにどの程度信憑性があるかはわからなかったが、今回の事件は案外聡美の指摘する28年前の誘拐事件についても調べるため、梶田の以前の勤め先のトモノ玩具の経営者のところにも足を運んだ。トモノ玩具の社長は梶田のことをあまりよく覚えていなかったようであるが、経理担当だった社員が当時のことを良く覚えているはずだということで、近いうちに連絡を取って話しを聞いてあげるとの約束をしてくれる。
そうやって、梶田信夫に関する過去をひとつひとつ丁寧に調べていくうちに、梶田家の抱えるある秘密に気づくのだ・・・

本書における杉村三郎の役回りは「探偵」役であると同時にロールプレイングゲームの主人公という印象を受けた。ひとつひとつ謎を解いて次のステージに進んでいく過程が丁寧に書かれている。そして、物語の終盤における「謎解き」に関しては解かなくてもよい謎まで解いてしまうあたりは貫井徳郎の「鬼流殺生祭」の朱芳慶尚(すおうよしなお)にも似ている。

そして、本書で登場する様々な「家族」は夫々の問題を抱えている。そしてそれを解決するためにはやはり家族の協力というか絆ってのが力を発揮するわけである。しかし、家族の中でお互いのベクトルが違う方向を向いているのであれば、その家族は破綻してしまう。その怖さと同時に家族による強い絆についてもメッセージが向けられており、ミステリー小説を読みながらも向田邦子っぽい家族愛的なドラマを見せられたよーななかなかよい作品となっているっす。

#図書館で借りることができたので、ちょっとラッキーだった。

■他の方々のご意見(宮部みゆきさんだから結構みんな読んでますねぇ)
今日のmilky&chelsea
たこの感想文
本を読む女。改訂版 | 「誰か」宮部みゆき
「本のことども」by聖月
玉葱の本棚


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2006年10月03日

新堂冬樹:「鬼子」 このエントリーをはてなブックマークに追加

鬼子〈上〉
鬼子〈上〉
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新堂 冬樹
幻冬舎
売り上げランキング: 36,715
おすすめ度の平均: 3.78
1 やだやだ
4 面白いけど
5 崩壊しかかった家庭内の描写が秀逸

鬼子〈下〉
鬼子〈下〉
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新堂 冬樹
幻冬舎
売り上げランキング: 36,714
おすすめ度の平均: 4.67
5 上巻含めてレビューします
4 意外な職業の人間がキーになる
5 最高傑作!!


鬼子という単語を見て一番初めに思いつくのは鬼子母神だろう。鬼子母神は安産の神様と言われており、祖師谷かどっかに祭られていると記憶している(確か都電で行けるはず)。
本書のタイトル「鬼子」は「きし」とは読まず「おにご」と読むようである。文字通り「鬼のような子供」の話である。

袴田勇二の職業は恋愛小説作家である。その出す本出す本が全く売れない。本人は自分には才能があると勘違いしているので始末が悪い。何故世間は自分の才能を認めないのかと日々悶々として生活している。
妻の君江と息子の浩、娘の詩織の4人家族と同居する勇二の母の民子を養うためには、小説だけでは生活ができないため、昼間は警備会社でアルバイトをする毎日である。

収入なくとも、一家五人で平穏な家庭を築いていたはずだったが、母の民子が病気で身罷ってから、家庭の状況が一変する。
妻の君江は勇二にやけに冷たくなり、息子の浩が別人のように突然荒れはじめる。勇二は心理カウンセラーの志村に相談に行くのだが、志村は抽象的な意見ばかり述べるに留まり一向にカウンセリングは進まない。浩の父への攻撃は更に過激なものになる。
勇二は「何故自分がこんな仕打ちを受けなければならないのか?」「何が原因なのか?」皆目検討が付かない。

そして、浩の魔の手は父だけでなく、妹の詩織にまで及ぶ。不良仲間に詩織をレイプさせるという神をも恐れぬ行動に出る。そして、詩織はそのショックで自殺してしまう。

このあたりの悲惨な展開は新堂冬樹はお手の物なのだが、この「鬼子」では浩が何故ここまで「鬼」となってしまったのかについて、ある程度納得できる形で理由を提示してある。しかし、読者がその事実を知ったとき「鬼となった息子」を赦すことができるかどうかは疑問である。ちなみにりょーちは、この登場人物の誰も赦すことができなかった。

新堂冬樹の怖いところは、登場人物を完膚なきまでに打ちのめす設定、描写にある。
「鬼子」の中でその刃は袴田勇二に向けられていた。勇二に関する描写のひとつひとつに刺があり、救いようがない。
才能のない恋愛小説家、勇二のペンネームは「風間令也」。
勇二の小説が売れないのは、こんな小説を書いているからであろう。
唐突に明人が石畳に膝をつき、彼の漆黒の瞳と同じ黒いカシミヤのロングコートを脱ぎ去り、水溜りの上へと広げた。カフェでくつろぐムッシューとマダムの、トレイ片手に忙しなく動き回るギャルソンの驚いたような視線が、明人と華穂に注がれた。
『このコートは、君だけが立つことのできる僕の舞台だ。さあ、立つんだ。僕だけの舞台に立って、君の笑顔を見せてくれ』
『コートが汚れちゃうわ・・・』
『こんなもの、君の魅力に比べたら、ボロ雑巾と同じさ』
『ばか、ばか、明人のばか・・・』

「ばかはお前だろう」と「鬼子」の読者は思うのだ。そして勇二の行動の至るところで現れる「ちっちゃな自尊心」にも読者は嫌悪するような書き方がなされている。

もう一人恐るべきは、出版社「日の出舎」の芝野。こいつは出てきたときからちょいと危ない雰囲気を醸し出していたが、マジでこんな出版社の社員がいたら恐ろしい。本書は幻冬舎から出版されているのだが、幻冬舎の社員に芝野のモデルになっている担当者がいるのだとしたら、恐ろしい・・・

(つーか、本当の鬼は新堂冬樹だよ・・・)

■他の方々のご意見(やっぱ、袴田勇二はダメ人間?)
新堂冬樹/読書録/新堂冬樹、鬼子(表紙赤だったのはちょいと意外だった)
Very merry bookdays! | 鬼子/新堂冬樹(「爆笑問題のススメ」で紹介されていたらしい)
★月下精彩★esc.:鬼子 / 新堂冬樹 (後味悪しとのこと。そりゃそーだよなぁ・・・)
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2006年09月27日

宮本輝:「避暑地の猫」 このエントリーをはてなブックマークに追加

避暑地の猫
避暑地の猫
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宮本 輝
講談社 (1988/03)
売り上げランキング: 122,991

りょーち的おすすめ度:お薦め度

Google で検索すると「避暑地の猫」のテレビドラマは1988年の9月に放映されたようである。幼少の頃、そのドラマを全話みた記憶がある。その衝撃的な内容がりょーちにちょいとトラウマを残した。それほどインパクトの強い内容であった。
原作が宮本輝であることを知ったのは、かなり後になっての話しである。また、このドラマの主題歌も妖艶な雰囲気を手助けする要因であった。(ぐぐってみると「赤い華」錦城薫らしかった)

この避暑地の猫を最近再読したのであるが、やはり、ドラマ同様に衝撃的な小説であったことを再確認した。
避暑地の猫の冒頭部分は久保修平の独白から始まる。修平が話し始めたのは今から15年前の軽井沢の別荘で起きた忌まわしい事件についてだった。

今から15年前、修平の家族は別荘の管理人として軽井沢に住み込みで暮らしていた。修平の家族は父の卓造、母の加代、姉の美保との4人家族。
別荘の持ち主は東京の布施金次郎であり、毎年夏にはこの軽井沢へ妻の美貴子と娘の恭子と志津で夏を過ごしている。
卓造は足が不自由で通常の仕事に就けなかったところを金次郎に雇って貰ったという恩義があり、甲斐甲斐しく働いている。別荘番という仕事は非常に大変である。庭の手入れや部屋の掃除に始まり、別荘を維持するためのあらゆる仕事が存在する。

美貴子は使用人の布施家にあまりよい印象を抱いていない。特に母の加代には敵愾心を燃やし、ことあるごとに辛くあたっていた。加代美貴子の行為を快く思っていなかった修平はある日加代美貴子を事故に見せかけて殺害してしまう。
当然にして刑事達がやってきて、修平を問いただすのだが、事故ということでその場は何事もなく過ぎていった。
目撃者はいないはずであったのだが、別荘の窓から布施金次郎は修平の行為の一部始終を見ていたのだ。
金次郎といえば妻を失い落胆するもの思いきや、そんな素振りは見せない。そしてこの事件を機に、毎夏、この避暑地の別荘で布施家と久保家の間にある秘密が暴かれていくのだ。軽井沢の霧と姉の美保に心を狂わされる修平と修平を取り巻く布施家、久保家の見せるもう一つの顔が暗鬱な世界を作り出していく・・・

いやぁ、この小説、凄いっすよ。宮本輝の小説で「いい人」が一人も登場しない小説ってこの「避暑地の猫」くらいだな。一欠けらの救いもないほどのとした小説である。「青が散る」とは対極にあるね。

この小説の持つ妖しい空気を作り出しているのが修平の姉の美保である。ドラマで見た際にも、主役であるはずの修平(今は亡き高橋良明)よりも存在感があった。
美保の一挙手一投足に修平は目を奪われる。この年代の少年・少女が持つ負のエネルギーが読者に重くのしかかってくるのだ。そして、ネタバレになるが、この美保と加代が巡らす女同士の戦いは人間の醜さがストレートに伝わってくる。
この本を読むたびに「女性は恐ろしい・・・」と思ってしまう。

この「避暑地の猫」もりょーちの保有している小説の中でも再読率が高い一冊だ。

■他の方々の感想
LOOSE RAP 避暑地の猫 / 宮本輝
----- insomni@ ----- | BO: 『避暑地の猫』(宮本輝) 救いを感じたとのこと。(うーむ)
oceanus: 避暑地の猫
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2006年09月06日

有川浩:「図書館戦争」 このエントリーをはてなブックマークに追加

図書館戦争
図書館戦争
posted with amazlet on 06.09.06
有川 浩
メディアワークス (2006/02)

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こういうデタラメな小説は大歓迎っす。
本書、図書館戦争は「近未来恋愛戦争オモシロ小説」である。
作風がなんだか三崎亜記の「となり町戦争」っぽいが「となり町戦争」を「静」とすれば「図書館戦争」は「動」。その「動」を生み出しているキャラが本書の主人公の笠原郁である。笠原郁なくして図書館戦争はありえないであろう。そしてこの本は全ての本好きの方々に受け入れられるのではなかろーか?

舞台はいまよりちょっと先の話し。「メディア良化法」という怪しげな法律がなし崩し的に閣議決定され、「メディア良化委員会」による度を越えた検閲が蔓延っていた。その検閲たるや戦時中の日本同様の恐ろしさである。出版物を世の中に送り出すためにはメディア量化委員会の検閲がクリアになったものしか出版できない。少しでも犯罪を助長する文章が含まれていたならば世の中にその本は出版されないのである。
この「メディア良化法」のすきまを縫って出来た法律が「図書館の自由法」という法律である。「メディア良化委員会」が武装を強固にしていく中で図書館側も次第に武装度合いを増していく。そして図書警備隊なる自衛組織が生み出されていくのだ。
そして、本書の主役の笠原郁という少女は、この図書警備隊に自ら志願し、配属される運びとなる。
郁は身長170cmと女性にしてはかなり恵まれた(?)体格をしており、そこいらの男連中には体力では簡単には負けない。郁が図書防衛員を志願した理由としては郁が高校生の頃に購入しようとしていた本を良化特務機関に取り上げられそうになった際、一人の図書防衛員に助けられたことが直接のきっかけであった。

苛烈を極める図書警備隊と良化特務機関の戦いの結果は如何に?

って感じで書くと非常にお堅い小説っぽいのであるが、内容は爆笑につぐ爆笑。有川浩、素晴らしいっす。
郁の真っ直ぐな直球ど真ん中ストレート的な男勝りな性格。「脊髄で物を考える」という小説中の比喩が郁の全てを語っているといっても良い。全てにおいて郁と対照的で、何をやっても完璧で、出来損ないに思える郁を嫌悪していた手塚。郁の同期で男性隊員に人気がある柴崎(柴崎の突き放すよーな郁へのアドバイスも必見)。郁の男性版とも言える熱い教官の堂上。彼らの織り成す会話のひとつひとつがいちいち面白い。
特に郁。非常に分かりやすいキャラクターとして書かれており、生まれながらにして正義の味方の才能を持っている。どのエピソードが面白いというよりも彼らの会話、動作の全てが楽しめる。個人的には「熊殺し」のエピソードはかなり爆笑した(是非読んでみてね)。しかし、彼らが身をおく場所は死者も出る可能性のある図書館である(うーむ)。

また、本書では言論の自由についても考えさせられる。最近あまり見かけなくなっていたが地方の駅前には必ずと言っていいほど「有害図書はこちらへ入れてくれ」的なボックスがあり、幼心に「あの箱には何が入っているんだろう」と思い、ちょっと大人になるにつれ、「あの箱にはムフフな本が入っているにちげえねえ」と思って興味本位で覗いてみたりとアホなことをしておったが、人間、ダメといわれるとやりたくなる生き物である。「北風と太陽」の北風のよーなメディア良化委員会のやり口は歓迎されないだろうなあ。

まあ、一粒で何度も美味しい小説である。

この本がもし映像化されるよーなことがあったらと思い、勝手にキャストを考えてみた。
郁 :でかいだけなら山田優とかになるのか?身長を考慮しなければ仲間由紀恵とか無難であろう。
堂上:内藤剛志?
柴崎:柴崎コウ(マジ?)
手塚:松田龍平(ちょいクールな感じで)

うーむ、ダメ?

本書を読むまでこの「有川浩」さんという作家の方を存じ上げなかったのだが、あなた、凄いっすよ。ホント。名前からすると男性の方なのかなと思ったが実はもうすでにお子さんもいらっしゃる主婦の方。Yahoo!ブックス - インタビュー - 有川浩:「図書館戦争」 では作者の有川浩さんの執筆秘話なども掲載されているよーなので是非読んでみるべし。そーいえば、冒頭で引き合いに出した、三崎亜記さんは女性かと思っていたが実は男性だった。「ラス・マンチャス通信」を書かれた平山瑞穂さんも男性だった。うーむ、最近の名前はパッと見では男性か女性かようわからんわい。

続編が出ないかなぁと思っていたら案の定でるらしい。それも今月だって! 「図書館内乱」は2006/9/11に発売されるよーなのだ。続編にもますます期待が高まるっす。実際に図書館勤務されている人の感想などを聞いてみたいのぅ。

■他の方々の感想(やっぱかなり大絶賛!)
Night Fly: 図書館戦争
booklines.net: [有川浩] 図書館戦争
箱庭●弐 感想保管庫 ■図書館戦争(有川浩)
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2006年08月07日

マイクル・クライトン:「プレイ prey 〜獲物」 このエントリーをはてなブックマークに追加

プレイ―獲物〈上〉
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マイクル クライトン Michael Crichton 酒井 昭伸
早川書房 (2006/03)
プレイ―獲物〈下〉
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マイクル クライトン Michael Crichton 酒井 昭伸
早川書房 (2006/03)

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、日色ともゑ,です(嘘です)。(本文と全く関係なしです)。

本書プレイではナノテクノロジーの脅威についてクライトンが警鐘を鳴らすって感じの一作に仕上がっている。
最近でこそナノテクノロジーという言葉を一般的な人々が耳にする機会も多くなってきているが、実際のところナノテクノロジーがどういうものなのか(りょーちを含めて)あまり分かっていないっぽいと思われる。

本書の中では血管を通り抜けることができるほどの微細なナノマシンがついに開発され、実証実験もほぼ終わり、実用化のフェーズにまでたどり着いているよーになってますってとこまで技術が進んでいる。

ザイモス社に勤めるジュリアはザイモス社のナノテクノロジー分野の事業部長。現在、ナノマシンの開発を手がけており得意先への大掛かりなプレゼンテーションが終了したところである。一方ジュリアの夫であるジャックはプログラマーであったが現在失業中の身で、小さな子供3人の面倒を自宅で見ているが職探しの方は相変わらず進んでいない。仕事が忙しいのもわかるが最近のジュリアの様子が何か変である。怒りっぽくなっているし、家族のことは全く無視されているのだ。

プログラマー時代にジャックが開発していたものはエージェントと呼ばれる小さなプログラムが創発的に動き、学習し処理を行うようなものだった。所謂人工知能のちょっと進んだようなプログラムだ。ジャックが手がけたプログラムが既存のエージェントと決定的に異なる部分はプログラムに「捕食者」と「被捕食者」の関係性を持たせることにあった。
ある事件をきっかけに会社をクビになっていたジャックは妻が現在携わっている大型プロジェクトのナノマシンに陽の目を見ることがなかったと思われた自分のエージェントプログラムのアルゴリズムが利用されていることを妻から知る。
妻はプロジェクトが大詰めの段階になり、日々かなり忙しくなり子供やジャックに構うことも殆どなくなり、性格も攻撃的になってきた。

ザイモス社のナノマシンは実は軍事目的として米軍で利用する目論見で作られたもので、周囲を「見る」機能も付加されていた。そんな中、ジャックはザイモス社より突然力を貸して欲しいと申し出を受け、砂漠に存在するザイモス社のプラントまで足を運ぶ。

そしてそこでジャックが見たものは、コントロール不能なナノマシン群であった。ナノマシン群は「スウォーム」と呼ばれていた。スウォームはザイモス社の人間が作り出したものより数段進化している。
しかもスウォームは人間を「被捕食者」と認識し攻撃を企てていたのだ。微小なナノマシンであるため少しの隙間でさえ容易にもぐりこむことができる。ジャックにはナノマシン自体が集合体としての集合意識を持ち始めているようにも思えていた。
次々と犠牲者が出る中、どうにかして、スウォームを駆逐しようと試みるジャックであったがこのプロジェクトを管理するリッキーは頑なに駆除ではなく「生け捕り」にしたがっている。
しかし被害は収まるどころかさらに拡大し続ける。製造プラントのプログラマーで生物学者のメイと共にジャックはスウォーム駆除に乗り出す。そしてついにスウォームの棲みかに潜入を始めるのだが、そこでジャックたちが見たものとは・・・

いやー、恐ろしい小説である。もしこんなことが起こったらもう絶対に人類は終了である。本小説でまともな登場人物はジャックとその子供達、そしてメイだけであろう。他の人々はスウォームに踊らされているっぽい感じ。

「バイオホラー&コンピュータウィルスの脅威&家族愛」ってわけのわからないジャンルだが、近い将来本当に起こりそうなリアリティのある科学小説を久々に読んだ。
本書を読んで、実際に人間vsナノマシンという戦いが起こってしまったら先ず人間には勝ち目はなさそうだなと痛感した。恐ろしい・・・

Foxmovies で映画化も予定されているという情報もあり、今後かなり話題となる小説だろう。

■作者のホームページ
Welcome to MichaelCrichton.com

■他の方々のご意見
下記の3名の方々のレビューは素晴らしいです! りょーちのレビューを見るよりもこちらのお三方のレビューを熟読すべし!
はみだしラボノート: 【小説】プレイ−獲物−/M・クライトン
ミステリの迷宮: テクノロジーは反逆する・・・・・・クライトン「プレイ」
ゆっくりしよかSF&音楽館: マイクル・クライトン「プレイ −獲物−」(上・下)
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2006年07月28日

新堂冬樹:「黒い太陽」 このエントリーをはてなブックマークに追加

黒い太陽
黒い太陽
posted with amazlet on 06.07.28
新堂 冬樹
祥伝社 (2006/03)

りょーち的おすすめ度:お薦め度


こんにちは、ふとがね金太です(嘘です)。

ダークな世界を描くことで有名なあの新堂冬樹が今度は、キャバクラを舞台にした小説を書き上げた。父の借金を返済するために新宿のキャバクラ「ミントキャンディ」でホールボーイとして働く立花。立花は水商売というものを忌み嫌っていたのだが、借金返済のために気が進まない中働き続けていた。
キャバクラにはキャストと呼ばれる所謂キャバクラ嬢の質が店の質を決めるといっても過言ではない。立花が勤めるミントキャンディのナンバーワンは千鶴というキャストだった。立花は千鶴に密かに思いを寄せていた。しかし、キャストとボーイとの恋愛はご法度である。そして自分には高嶺の花だとも感じていた。
ある日ミントキャンディに訪れた中年の男が千鶴に絡みはじめた。頭で考えるよりも早く体が動いてしまい、気が付くと男は血だらけになっていた。客に手を上げるなど接客業では最もやってはいけないことである。
そしてその事件はオーナーの藤堂にまで知れ渡ることとなった。藤堂は風俗界ではその名を知らない人物がいないほどの手腕で、いまや都内に数十件もの店を構える風俗王とも呼ばれる人物である。
立花は辞めさせられる覚悟をしていたのだが、何故か藤堂は立花を辞めさせなかった。そして意外なことに一週間の謹慎を終えるとホール長に昇格だと告げられる。ボーイとホール長とではその差は歴然としている。立花は何故自分がホール長に抜擢されたのか皆目検討が付かなかった。
藤堂との会合の後、立花を待っていたのは千鶴だった。千鶴は立花に迷惑を掛けたことを詫びる。そしてこの件を切っ掛けに千鶴と立花の距離も急速に縮まったように見えた。
更に店での立花の立場も変わった。
藤堂は立花にキャバクラ以外の風俗を体験させた。そして立花は他の風俗とキャバクラの違いを認識しホール長として働き始めたのだ。
果たして立花は生き馬の目を抜くこの世界で生きていくことができるのか?
本書では立花のライバルとして長瀬という藤堂の系列のキャバクラのホール長が登場する。あれほど忌み嫌っていた風俗業界だったがライバルの出現に立花の闘争心にも火がついた。そして最終的に立花は風俗王と呼ばれる藤堂をもライバル視する。
本書後半部分では立花は藤堂の庇護を離れ、独立して店を構えることになる。立花vs藤堂の戦いが本書の見所のひとつだと思われる。

今までの新堂冬樹の作品と比較すると比較的暴力的な描写や性的な描写が少ないので新堂冬樹ファンとしては物足りなさを感じるかもしれない。

しかし、本書が原作となり、奇しくも本日からテレビ朝日でこの黒い太陽がドラマ化されて放映されるらしい(今日の新聞のテレビ欄を読んで始めて知ったよ・・・)



主なキャストは下記の通り。
立花:永井大
千鶴:井上和香
笑子:酒井若菜
奈緒:滝沢沙織
久美子:杏さゆり
長瀬:菅原卓磨
神崎:渡邉邦門
ひなの:大友みなみ
菊田:深水元基
大滝:吹越満
藤堂:伊原剛志

うーむ。永井大ってなんとなく立花役が似合わないよーな気がするのだが・・・
伊原剛志の藤堂は結構ハマリ役かもしれない。
井上和香が千鶴役ってのは・・・(うーむ)

まあ兎に角今日の第一話を見てみるっす。

■他の方のご意見
kinosy 本の感想 | 「黒い太陽」新堂冬樹
ゲームの王道: 「黒い太陽」
本を読んだら・・・by ゆうき | ● 黒い太陽 新堂冬樹 (ドラマ化)

タグ:新堂冬樹
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2006年07月21日

石持浅海:「扉は閉ざされたまま」 このエントリーをはてなブックマークに追加

扉は閉ざされたまま
扉は閉ざされたまま
posted with amazlet on 06.07.21
石持 浅海
祥伝社 (2005/05)
売り上げランキング: 40,189

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、水島裕です(嘘です)。

いろんなところで評判の高い石持浅海(いしもちあさみ)さんの「扉は閉ざされたまま」を読んでみた。
確かに話題になるだけのことはあると唸らされる秀作である。「このミステリがすごい! 2006年版」では2位だけのことはありますね(ちなみに、1位は東野圭吾「容疑者]の献身」)。
小説のジャンルとしては確かにミステリー小説に属するが一般的な(?)ミステリー小説との大きな相違点が2点ある。

■相違点 1 犯人が直ぐに分かる
通常ミステリー小説の場合、何らかの謎(つまりミステリー)が存在し登場人物(と読者)は与えられた状況下で作者の設定した謎を解いていくわけだ。ミステリー小説にはその謎を解くためにたいてい名探偵が登場し、ページを捲るスピードで謎に到達し残りページ5分の1あたりで真相および真犯人に気づき、読者と共に「あー、謎が解決されてよかったね」って感じで幕が降ろされる。
ミステリー小説における謎は大きく二つあり、「Who done it ?(フーダニット)」と呼ばれる犯人当てに主軸をおいたものと、「Why done it ?(ホワイダニット)」と呼ばれる何故その事件は起こったかという動機解明ものとに大別される。まれに、「How done it ?」という「どうやって事件を起こしたのか?」が主軸になる小説もある。
さて、石持浅海の作り出したこのミステリー小説「扉は閉ざされたまま」は開始早々に「Who」「Why」「How」の部分が読者に対して殆ど明らかになっている。
読み始めて、「うーむ、これはどういう展開になっていくのであろう?」と訝しがってしまった。

■相違点 2 探偵役は犯人になってはいけないというミステリーの原則に反する
通常のミステリーでは探偵役が犯人になるということはお作法としてあまりよろしくない。犯人しか知りえない情報を探偵役(=犯人)が知っており、それを元に事件が(犯人が意図したかどうかに拘らず)解決されていくプロセスはフェアではない。しかし「扉は閉ざされたまま」では犯人役が堂々と探偵役もこなしている(どちらかといえばワトソン的な役割ともいえなくもないが)。なお、補足するが、本書では事前に読者に提示されていない犯人しか知り得なかった情報というものを極力押えて書かれている。

これら2点の相違はあるものの、紛れもなく本格ミステリーとして成立している(本書の表紙にも「長編本格推理書き下ろし」って書いてあるし・・・
そう、この小説は「書き下ろし」なのだ。あのシーナマコト(椎名誠)さんをして「書き下ろしはエライのだ」と言わしめるほど書き下ろしとは作家からみれば羨望の眼差しを向けられる代物なのだ(このあたりはシーナマコトの「哀愁の町に霧が降るのだ」をお読みいただきたい(りょーちの感想はこちら)。

舞台は東京の成城。都内でも有数の高級住宅が立ち並ぶ閑静な地域。安藤章吾の兄はこの場所にペンションを開いた。その目論見はあたり高級住宅地に住んでいるような感覚を味わいたいと地方からの客もそれなりに入ってきている。こんな場所だがミステリーの分類ではこの物語は所謂「嵐の山荘モノ」に位置づけられる。このあたりのクローズドミステリーのシチュエーションは上手く作られている。

伏見亮輔が大学時代所属していた、軽音楽部内の有志によるサークル(通称「アル中分科会」)のメンバーは大学卒業後、夫々の道を進んでいた。そして今回同窓会がてらに安藤章吾の兄の経営する成城のペンションに泊まることになった。
集まったのは伏見亮輔と以下の6名。
伏見と同期の安藤章吾、1年先輩の上田五月、1年後輩の新山和宏、1年後輩の大倉礼子(旧姓碓井礼子)、2年後輩の石丸幸平、そして大倉礼子の妹、碓井優佳。優佳以外は既に研究者や主婦など夫々職を持っていた。
この計7名による楽しい同窓会になるはずであった。しかし、この同窓会を利用して恐ろしい殺人計画を企てている人物がいた。それは伏見亮輔である。そして伏見のターゲットは新山和宏。伏見は用意周到に準備しておいた手順に沿って淡々と新山和宏を殺害する。殺害後、自分に嫌疑が掛からぬように完璧に偽装工作をする。あとは何食わぬ顔でみんなの前に顔を出し、発見までの時間を引き延ばすだけのはずであった。
伏見は自分の計画にかなりの自信を持っており、完璧な完全犯罪であると確信していた。しかし、唯一伏見の前に立ちはだかる人間がいた。それが碓井優佳だった。
優佳と伏見との関係は後輩の礼子の妹という関係だけではなかった。優佳と知り合ってから程なくして伏見は優佳に告白されていたのだ。伏見としても優佳を気に入っており、断る理由も全くなかったのだが自己のくだらない虚栄心が邪魔をし二人は恋人の関係にはなることがなかった。当時の優佳は伏見の類まれなる頭脳の明晰さに心を奪われていた。伏見としても優佳の鋭い洞察力に感心の念を抱いていた。そんな似たもの同士の二人は磁石のN極とN極が決してくっ付くことのないように引き合うことはなかった。優佳の告白以降伏見も優佳もお互いに距離をおいていた。
そのことがあり、暫くしての再会に二人は正直戸惑っていた。
そんな中、食事の時間になり、メンバー全員が食堂に集合するはずであったのだが新山和宏だけが食堂に姿を現さない。礼子や五月、安藤たちは新山を呼び部屋まで向うが扉は閉ざされたままであり、呼びかけても返事がない。
そしてここから優佳と伏見の頭脳戦が繰り広げられるのであった。
合鍵はなく、外から侵入しようとすると警備システムが作動する。この別荘は安藤の兄が古い洋館に手を加えたもので、ドア一枚にもかなりの金が掛けられているため、ドアをこじ開けたり、破壊して中に入ることはできない。
更に合鍵は安藤の兄が所有しているのだが現在海外旅行のため不在である。どうやっても中に入ることはできないのだ。そして伏見はこの展開を予測していた。
しかし、その計画に優佳が真っ向から対峙してくる。優佳の鋭い指摘に防戦一方の伏見。果たしてこの結末は?扉は開かれるのか?

本書の読みどころはなんといっても、伏見と優佳の知恵比べにある。
扉一つ隔てたその向こうに死体があるのだが、誰も中に入ることはできず、外からも中の様子を見ることができない。この状況下で如何にして優佳は真相にたどり着くのか。

冒頭にも記載したのだが、読者には別荘での出来事が実況中継されているような臨場感で伏見をはじめ別荘内の全員の動きが余すことなく伝えられている。ミステリー小説で後回しになるべき所謂「解決編」の部分が優佳の明晰な頭脳によりつぶさに証明されていく。なんとも不思議な雰囲気のミステリーだが、反則技のようなものがなく、終始一貫して筋の通ったミステリー小説であった。
しかし、いろんな方々の書評で言及されているが、やはり犯人の動機の部分が弱いかもと思う。(そんなことでやっちゃいますか?)

でも、総合的にはOKっす。
やるなー、石持浅海。新作でたら買っちゃいそうです。

■他の方々のご意見(やっぱり好評?)
猫は勘定にいれません:扉は閉ざされたまま/石持浅海
: 石持浅海 扉は閉ざされたまま 活字中毒者の小冒険2:気まぐれ書評で本の海を漂う
本を読んだら・・・by ゆうき | ● 扉は閉ざされたまま 石持浅海 
KOROPPYの本棚: 『扉は閉ざされたまま』 石持浅海

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2006年07月03日

久坂部羊:「無痛」 このエントリーをはてなブックマークに追加

無痛
無痛
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久坂部 羊
幻冬舎 (2006/04)

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、草笛光子です(嘘です)。

気持ち悪い本を読んでしまった(といってもある特定の病状の方に対しての偏見は含まれていないことをご理解ください)。

最近、医学界の方々が執筆される小説には目を見張るものが多い。古くは北杜夫の「どくとるマンボウシリーズ」に始まるこの「医師→小説家」の流れが止まらない。
ざっと挙げてみても、「帚木蓬生」「米山公啓」「海堂尊」など枚挙に暇がない。あの手塚治虫も医学部出身だったよーな気がする。
医療を目指す人々はやはり柔軟な頭の構造をしているのか執筆された小説も結構素晴らしいものが多い。本書「無痛」の久坂部羊さんもその一人。「医師ならではの医療分野に関する詳細な記述はお手のもの」というように専門用語が頻出するが、読者にそれほどの知識がなくともスイスイ読めてしまう。

本書「無痛」には二人の医師が登場する。一人はあまり設備なども整っていない所謂「町医者」と呼ばれる小さな診療所に勤める為頼と、白神メディカルセンターの院長、白神。二人は全く異なる医療環境下にありながら共通の特技がある。それは「患者を(見た)診ただけで患者のどこが悪いか、そしてその病気は治るのか」ということが分かるのだ。もし、こんな能力のある先生がいればさぞ便利だろうと思ったが、読み進んでいくうちにその考えは一変するであろう。

為頼はタクシーで財布を拾ってくれた高島菜見子と偶然知り合いになる。菜見子にお礼を告げていたそのとき、為頼は不審な人物を目にし、菜見子を安全な場所へと避難させる。直後に通りの状況は一変した。不審な男は通り魔的に周囲の人間に刃物を向けて襲い掛かってきたのである。幸いにして為頼と菜見子は無事であった。菜見子は何故為頼が不審な人物を見分けることができたのか不思議に思っていた。

その後、菜見子が為頼の診療所にお礼のため訪れた際、菜見子は診療所の看護士のカツより奇妙なことを聞く。為頼は見ただけで患者のどこが悪いかが分かるらしい。実際先日の通り魔事件の件もあり、菜見子は為頼にある相談を持ちかけることにした。
ある相談とは、神戸市で起きた一家四人残虐殺害事件である。現場に警察も目を背けたくなるようなこれ以上ありえないほど凄惨な事件現場。人間がこれほどまでに人間を破壊するのであろうかと思えるほどの異常な事件現場だが、未だ犯人の目星はたっていない。
解決の糸口は全く見えていないこの事件に自分が犯人であると名乗る人物がいるという。それは、菜見子が勤める六甲サナトリウムにいる14歳の少女であった。神戸市の事件は自分が犯人であると言っているらしい。
話しを聞いた為頼は数日後、六甲サナトリウムに足を運ぶ。14歳の少女の名前はサトミという。サトミは他の人と会話をすることがなく、唯一、菜見子だけとはメールでコミュニケーションを取れている。菜見子にあてたメールによると、犯人は自分であると言っている。しかし、為頼は菜見子と実際に会い「人を殺める狂気」がサトミにないことに気づく。

一方、白神メディカルセンターの院長、白神は白神メディカルセンターの傘下に入れるべき、地域の診療所をピックアップしていた。彼の自論は病院は通常の保険制度を越えたサービスが必要であるということだった。白神の目に適った病院には為頼の診療所も挙げられていた。白神が為頼の診療所をネットワークに入れようとした理由は為頼が白神メディカルセンターに送りつけた患者のリストだった。為頼が送ってきた患者は期間の差こそあれ、全員が死亡している。つまり、直る見込みのない患者を送ってきているのだ。
為頼は患者が直るかどうかが分かる能力があるのだが、この能力は実は白神にもあった。二人の能力は超能力などではなく、医師としての観察力・洞察力が抜きん出て優れていることにあった。
二人の天才医師は「見ただけで患者のその後の生死が判断できる」という能力を有しているが目指す方向は全く異なる。

本書は神戸市の一家四人残虐殺害事件という題名の楽曲を、サトミ、為頼、菜見子たちが奏者となり動き回っているよーな感じである。そしてこの楽曲の主旋律を奏でるピアニストが白神メディカルセンターに勤めるイバラという若者である。
イバラには先天的な病がある。イバラは軽度の知能障害且つ先天性無痛症である。無痛症とは耳慣れない病気であるが読んで字の如く「痛みを感じないという病気」である。

痛みを感じないと人間はどうなるのか?

とても大変なことになる。

例えば、転んで頭を打ったとする。通常、その痛みを感じ、人間は自分の身に危機が起こっていることを知る。治療を行い、二度と痛みを感じないように学習し、生活をする。しかし、痛みを知ることができなければ自分の身の危機を知ることもできず、放っておけば死んでしまう可能性もある。イバラは自分の身の痛みを知ることができない。痛みとは何か?イバラは知ろうとする・・・

物語が進んでいくにつれ、事件の全貌が浮かび上がり、何故この一家が死ななければならなかったという命題に一応の解釈が披露されている。勿論、これは殺人者の側の論理であり、誰もが納得できるものではない。更に事件の真の指揮者の存在が明らかになったとき、現代医療の恐ろしさを垣間見た気がした。

本書では様々な登場人物が刑法39条を引き合いに出し、その是非を読者に投げかけている。
(心神喪失及び心神耗弱)
第39条 心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。


この論争は今日でも大きな命題となっている。何が正解であるとかはっきりと言うことはできないが、この条文だけでも「39 刑法第三十九条」という映画が一本できるくらいの深い条文である。本書を読んだ人はこの条文についていろいろ思いをめぐらせることになるかと思うが、そういう機会を得ることができたというだけで本書はある種意義深い一冊であろう。

なお、本書の登場人物で最も嫌悪感を抱く人物はなんといっても高島菜見子の元夫の佐田であろう。ホントにダメ人間であり「新堂冬樹の本にでも出ていなさい」というほどの強烈なダメさ加減・・・orz(ちなみに新堂冬樹さんの本がダメといっているのではないですよ)。いやー、こいつはホントに存在価値ゼロです。驚きです。

本書のタイトルは「無痛」というタイトルだが、本書を読み終えて「無痛」というタイトルでなくてもよかったのではないかと感じた。

なお、どうでもよいが、久坂部 羊さんの「羊」という文字は「やまいだれ」の部首を付けると「痒(かゆ)い」という文字になります。本書を読んで背筋が寒くなりどこか「痒い」気分になってしまいました。

■他の方々のご意見
ECCO : 無痛/久坂部 羊
粗製♪濫読 : 『無痛』 メディカル・ノワール
「無痛」久坂部羊 by 楽天広場ブログ(Blog)
ほんだらけ | 『無痛』久坂部羊
さとしのぶろぐ | 無痛(久坂部 羊)を読んで
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