2007年02月05日

三崎亜紀:「失われた町」 このエントリーをはてなブックマークに追加

失われた町
失われた町
posted with amazlet on 07.02.05
三崎 亜記
集英社
売り上げランキング: 21671

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、逆鉾こと、井筒親方です(嘘です)。

三崎亜紀は、不思議な世界を作り出す名人である。

「となり町戦争」では、町同士が静かな戦争を繰り広げる。戦争という非日常とも思える世界を日常レベルにまで限りなく落とし込んだ世界。回覧板や役所などという非常に日常に近い世界。短編小説の「バスジャック」でも日常的にバスジャックが行われる世界や、二階扉という不思議な扉が日常として存在する世界が淡々と書かれている。

三崎亜記の特徴としては「物語の中の時間が非常にゆるやかに流れていること」がある。一見ほのぼのとしたストーリだが、今の世界から見れば結構残酷。しかし、物語の世界の住人はそれを受け入れて生活している。本書でもこの不思議な三崎亜紀ワールドが炸裂した。

本作品「失われた町」では、タイトルどおり町が失われていく世界の物語である。
「消滅」という謎の減少により、町が消えていく。30年前に突如消えた町「倉辻」。「町の消滅」とはどういう状況なのだろう?

本書では町そのものが物理的に消えるだけではなく、その存在した証さえも人の記憶から消滅してしまう。消滅は町に住む住人をも飲み込み消えていく。「消滅」減少について分かっていることは少ない。

・何故「町」という単位で消えていくのか。
・何故人も消えるのか。
・何故消えないものが存在するのか。
・消滅する町はどうやって選ばれるのか。

このあたりは管理局の方でも全くそのプロセスが把握できていない。
そんな中、新たに消滅していく町「月ヶ瀬」。

本書は消えていく町、月ヶ瀬の住民や回収員と呼ばれる消滅処理班の人々から見たストーリーである。本書内では町が何故消えるかというプロセスよりも、消えていくことを受容しながらも、抗い続ける人々の様子が中心に描かれる。

って感じなのだが、正直、読み進めていって話しの前後関係が混乱してよくわからなくなってしまった。雰囲気はなんとなく読み取れるのだが・・・
その原因の一つが本書は事象が生じた時系列的に書かれていないことが原因と思われる。
下記のサイトを見て、「あー、なるほど。そういう関係性だったのか」と今更ながらわかりかけてきた。



消滅対象地域の情報を残らず回収する回収員の茜。
その茜が月ヶ瀬に回収員としてやってきた際に知り合った中西と和宏。
中西は月ヶ瀬の近くで「風待ち亭」というペンションを営む。
和宏はギャラリーに絵を展示する「免失者」(「免失者」とは消滅対象地区の居住者で、消滅時に町の外にいたため、消滅を免れた者)。
管理局に勤める「特別汚染対象者」の桂子。
桂子の前に突如現れる謎の写真家、脇坂。

彼らが「失われた町」に夫々の思いを持って対峙する。うーむ、なかなかにドラマチックっぽいのですが、やっぱ、はじめにも記載したよーに分かりにくいっす。(りょーちの頭が弱いだけかもしれんが・・・)。

なので、冒頭に記載した、「三崎亜紀は、不思議な世界を作り出す名人である」にプラスして、「三崎亜紀はややこしい話を書く人である」を付け加えたいっす。

ちなみに、最後の中西と局長の逸話はいらなかったのではなかろうか・・・

うーむ。
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2007年01月22日

シェイクスピア:「ヴェニスの商人」 このエントリーをはてなブックマークに追加

新訳 ヴェニスの商人
新訳 ヴェニスの商人
posted with amazlet on 07.01.22
シェイクスピア 河合 祥一郎
角川書店
売り上げランキング: 54979

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、河内家ピンポン丸です(嘘です)。

これほど、有名な本なのに、一度も読んだことがなかったので読んでみたっす。
いろいろわかったことがある。
・シェークスピアはイギリスの人(なので原文も多分英語)
・だいたい、1600年くらいの人(日本では江戸時代に入る直前の頃)

なお、登場する金貸しの名前は「シャイロック」というらしく、昔読んだ、深見じゅんの「悪女(わる)」という漫画で社内の人間にお金を貸して利子を取る梨田友子という女性社員を主人公の田中麻理鈴が「シャイロック」と呼んでいたが、これは、ヴェニスの商人の「シャイロック」から取ったものだということらしい。

さて、本題にはいるが、ストーリーはこんな感じ。

バサーニオはベルモントの女相続人ポーシャへプロポーズしようと考えていた。しかし、ポーシャのいるベルモントへ向うためのお金がない。バサーニオは友人のアントーニオに相談した。アントーニオは貿易商を営んでおり、多くの財産を持っていた。しかし、現在その財産の殆どは海上にある船の中であるため、すぐにお金を用立てられない。そこで、アントーニオは船上内の資産を抵当にユダヤ人の金貸しのシャイロックに借金を要求した。シャイロックは3000ダカットを3ヶ月間貸しても良いとした。そして利子についてはもし、期限内に返済できなければ、その代償としてアントーニオの体の肉を1ポンド頂くという変わった契約を持ちかけてきた。
アントーニオはシャイロックの要求を呑み、借金に成功した。
アントーニオからお金を借りたバサーニオはポーシャの元に向かい、求婚し、無事ポーシャと一緒になることができそうだった。
しかし、ことはそう上手く運ばなかった。バサーニオがポーシャと会っている間、アントーニオの船は嵐に見舞われ、アントーニオはその財産の殆ど全てを失ってしまった。このため、アントーニオはシャイロックから借金の返済を早急に求められる。
そして、アントーニオとシャイロックが取り交わした証文を元に裁判が執り行われることになった。果たしてアントーニオは肉を切り取られてしまい死んでしまうのか・・・

ってことで、感想なのだが、これってなんだかシャイロックがかなりかわいそうな結末を迎えるよーな気がするのはりょーちだけなのか?

後書きにも書かれていたのだが、元々シャイロックはアントーニオからユダヤ人として迫害を受けており、アントーニオがお金に困ったということなのでお金を貸したら、お金を返せるあてがなくなったなどと言われ、証文どおりに1ポンドの肉を要求したってことではないの?
更にキリスト教徒が殆どを占めるイギリスの中でユダヤ人のシャイロックは改宗するようにさえ仕向けるよーな一文があるが、そーいうのは大きなお世話ではなかろうか?

で、更に酷いのは、この裁判って無効じゃない?
裁判を取り仕切る裁判官の公爵って、結局偽者ってことでしょ?
うーむ、返す返すもかわいそうなシャイロック・・・

最近映画化された、この「ヴェニスの商人」ではシャイロック役をあの「ゴッドファーザー」でお馴染みのアル・パチーノが演じている。配役から見て、今回の映画ではおそらくシャイロックを中心として映画化されているよーな気がするっす。

なお、「ヴェニスの商人」の原文を是非読みたい方は下記から読めます(英語だけど)。
Bibliomania:The Merchant of Venice
The Merchant of Venice
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2007年01月09日

服部真澄:「龍の契り」 このエントリーをはてなブックマークに追加

龍の契り
龍の契り
posted with amazlet on 06.11.07
服部 真澄
新潮社
売り上げランキング: 122,790
おすすめ度の平均: 3.4
2 そうだね・・・
5 壮大なスケール
5 一気呵成!!に読み通させる、この面白さ!


こんにちは、ノックバット大道です(嘘です。ってちょっと危ないか・・・)

服部真澄といえば、世界を股に掛ける国際企業小説で有名である。本書、「龍の契り」は彼女のデビュー作である。本書の最も大きなテーマは香港返還である。

本書を読んだ後、wikipediaなどで調べて知ったのだが、中国がイギリスに香港を譲渡したのが1842年らしい。1997年7月1日に香港が返還されたのだが、本書のハードカバーの平成7年(1995年)7月が初版となっている。香港返還の2年前に発表されたのだ。

この発表された時期とその内容からして、当時少し話題になったはずである。本書は中国とイギリスが締結した返還の条約の他に更なる密約ともいえる文書が存在し、その文書の内容は、1997年に香港は中国に返還できない可能性を秘めた文書であるらしかった。
この文書を巡り、様々な立場の人間が動き出す。あるものは企業の利権を取得するため、あるものは愛する母国のため、あるものは復讐のため・・・

もう10年以上前の作品だが、今読んでも全く古臭さを感じさせないストーリーである。

香港返還を間近に迎えた1995年、長期に亙ってイギリスに「貸し出され」ていた香港は東洋文化と西洋文化が上手く溶け合い世界的繁栄の絶頂期であった。数年後の1997年7月にはイギリスは香港を中国に「返還」することになったのは周知の事実である。当時のイギリスにしてみれば、中英交渉で「港人治港」(香港は香港人が統治する)という中国のトウショウヘイ(「登+おおざと」小平)からの要求をサッチャー首相が飲み、イギリス側から見れば苦汁の決断とも言える形で香港返還が決まった。このままいけば、1997年にはイギリスは香港を返還しなければならない。しかし、もし、「香港は中国に返還しなくてもよい」という密約が中国とイギリスとの間で締結されていたらどうだろう? イギリス側からすれば、今や世界的巨大市場となった香港はアジアの拠点として外交的にも有効に利用できる。アジア文化と共にアジア企業がヨーロッパを席捲する前に密約を白日の下に晒すことで、諸外国からの非難を浴びることなく、合法的に香港を再び手中に入れることができる。この密約文書を巡り、香港・中国・イギリス・アメリカ・日本の外交官・組織・企業人たちが夫々の思惑を旨に世界を駆け巡る!

うーむ、物語として、とてもよくできている。
なんとなく、Webサイトの諸所の感想を拝見すると、どうも否定的な意見が多いのだが、結構楽しめたっす。否定的な意見が多い理由としては、やはり「こんな、偶然ばかりが重なるものか?」ってのが多勢を占めているのだが、まあ、これくらいの偶然がないとフィクションは面白くないっす。ここは服部真澄が大胆に広げた大風呂敷に包まれてみるのもよかろう。

外務省の沢木喬は、世界経済を支配するゴルトシルト財閥のマネーロンダリングに関する疑惑を追及するために、不正に利用されていると思われる上海香港銀行の調査のため香港へと向う。そこには、香港の天才ハッカーのラオ、日本の家電メーカー「ハイパーソニック」の社長の西条達も集結し、手に汗握る頭脳戦が繰り広げられる。

服部真澄は「西洋対東洋」という分かりやすい図式で、中国を含むアジア社会と日本が手に手を取って協力し、日本人がアジア人として活動することにより、アジアが活性化して繁栄するのではなかろうか?という考えが根底にありそうな気がする。
その中心となる日本企業、アジア諸国の企業間でも連携を強固にし、官民一体となったアジアの繁栄が歌われている。
そして、それは、現在の日本を取り巻く世界観を実に上手く言い表しているのではないかと思う。先見の明があったのかもしれないっす。

更に、ワシントンポストのダナ・サマートンとメイミ・タンとの対決、謎の暗殺者「チャーリー」の存在、沢木の同期で結婚退職した女性外交官の正体など、要所要所で面白い伏線が張られており、今読んでも結構面白いっす。

それにしても、よく、こんなストーリー考えるよなぁ・・・
■他の方々のご意見
ひろの東本西走!?
日だまりで読書

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2006年12月20日

グレッグ・イーガン:「順列都市」 このエントリーをはてなブックマークに追加

順列都市〈上〉
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グレッグ イーガン Greg Egan 山岸 真
早川書房
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順列都市〈下〉
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りょーち的おすすめ度:お薦め度(難しかったので低めに・・・)

こんにちは、太平サブローです(嘘です)。

本書、順列都市(Permutation City)は1995年に出版されたグレッグ・イーガンのSF小説である。なんだか結構難しいことが書いてあったので、りょーちの理解が及ばない部分が多々あった(殆どか?)。

とっても簡単にストーリーを説明すると、2050年頃の地球では、自分の意識をコンピュータにダウンロードし、コンピュータの中でもうひとつの自分を作り出せるような技術が開発されていた。
実世界からみて、そのコンピュータの中のもうひとつの人格は「コピー」と呼ばれた。コピーはコンピュータの中で意思を持って生き続ける。
実世界に住むマリア・デルカは「オートヴァース」といわれるコンピュータの中に存在する仮想宇宙に極微小の生命体を作ることに成功していた。オートヴァースは実世界と異なり非常に単純なモデルからなる物理法則が備わっているが、それでもそこに生命体を作ったことは驚くべきことであった。
そのマリアの元にポール・ダラムという保険会社を経営する老人がやってきて意外な仕事を依頼した。
依頼内容は、オートヴァース内に惑星と惑星に住む生命体を作って欲しいとのことだった。そしてその生命体は自立的に進化するような生命体を希望していた。
そしてマリアが作った世界には生命体が生まれ、進化していった。
マリアが作った世界の中の住人エリュシオン人が今度はエリュシオン人の世界の中でオートヴァースを作成し、その中にも住人が発生した。エリュシオン人のオートヴァース世界の住人はランバート人といわれ、人間とは似ても似つかない格好をしている。
このような入れ子構造となった順列都市では、ある異変が起こりつつあった。それは、順列都市が瓦解する可能性をも秘めていることにマリアたちは気づき始めるのだが・・・

うーむ、りょーちの頭がよくないので、終盤に至るともう話しがかなり混乱気味になってきていた。

りょーちの認識では、

人間>コピー>エリュシオン人>ランバード人


という関係が成立していたと思う。

夫々、下位のレイヤーから上位のレイヤーには通常影響を与えることはできないよーなのだが、ランバード人の行動が上位のレイヤーにも影響を与え始めてきて、さあ大変。
という感じだと思う。(違う?)

順列都市はかなりの方々が読まれているよーなので、詳細を知りたい場合は他のサイトを訪れた方が確実だったりする・・・orz

廃理論とかも実はよくわかんなかったのだが、読み終わって思ったのは、今、りょーちが住んでいるこの世界ももしかしたら下層のレイヤーで上位のレイヤーに誰かがいたりすると気味が悪いねぇ・・・と思ったりした。
そして、通常、下層レイヤーの住人は上位レイヤーの住人に接触することができない。宗教とかってのも、結局上位のレイヤーの存在を仮想的に作り上げて奉るよーなことではないかねぇ・・・

多分頭がイイ人が読んだらかなり面白いんじゃないかと思うっす。
他の人の感想も読んでみたのだが、かなり深いところまで突っ込んだ説明がなされていた。しかし、それを読んでも今ひとつよくわからないりょーちであった・・・(合掌)
誰かとっても簡単に説明してほしいっす。


Greg Egan's Home Page
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2006年12月12日

新堂冬樹:「炎と氷」 このエントリーをはてなブックマークに追加

炎(ひ)と氷
炎(ひ)と氷
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新堂 冬樹
祥伝社
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、桂文福です(嘘です)。

「炎と氷」と書いて「ひとこおり」と読ませる。タイトルの意味するものは炎のように熱く燃え滾(たぎ)っている男と、氷のように冷徹で詰めたい男との対決を意味しているものと思われる。
都内で競馬金融を取り仕切る世羅は店舗を持たず、渋谷の場外馬券売場近く喫茶店で商売をしていた。世羅のターゲットは喫茶店のテレビで競馬を見ている人間である。恐ろしいまでに金に貪欲な世羅は自分の金を一円たりとも使うことを嫌悪していた。そんな世羅が経営する競馬金融は所謂「闇金融」と呼ばれるものである。
闇金融とは簡単に言えば、違法な利子を取る金融業の総称である。当然世羅を訪ねてくるものは通常の銀行などでの融資を拒まれるような人間ばかりがやってくる。何故彼らは銀行から金を借りられないかというと、銀行から返済能力がないと見做され、融資審査を通らないからである。そんな人間達が世羅の元を今日も訪れる。
当然世羅の顧客は銀行から見れば、話しにならないくらいの小額の融資を求めてくる。しかも競馬好きである。競馬は常習性があるため、なかなかやめることができない(らしい)。ニッチ且つロングテールとも言えるこのビジネスを手がける世羅は東京に出てきてからも地元熊本の訛りが抜けない。この独特の話し方とそこにいるだけで人を威圧する巨躯と破壊的凶暴残忍な性格も手伝って、闇金融業界の中でも、今やかなり知られた存在となっている。
そんな世羅の経営する七福ローン(どうでもいいけど、新堂冬樹の金融会社のネーミングはどの作品でも似通っている)には、元キャバクラ嬢で、現在は世羅の女であるまりえと、シンナーで頭がイカれた志村など個性的なメンバーが揃っている。
その七福ローンに大手都市銀行の大帝銀行の融資課長の赤星という男が客として金を借りたいとやってきた。金に全く不自由しなさそうで、闇金融とは無縁とも思えるこの赤星は行内の客の金を使い込み、それを補填するために金を借りたいとのことだった。
熟考した末に金を貸した世羅だったが、赤星の背後には赤星を操る別の闇金融業者、若瀬の存在があった・・・
若瀬は世羅の中学時代の同級生で、非常にクレバーな人間だった。中学時代から暴れまわるしか手段のなかった世羅にとって全てのことを金で解決する若瀬の存在は世羅にとって強烈な印象を残した。そして、「この世は金が全て」であることを教えてくれたのも若瀬だった。
高校卒業後、地元九州の暴力団が経営する闇金融業に揃って身をおくことになった、若瀬と世羅は若瀬が世羅をサポートする形でメキメキと業績を上げていた。しかし、その後、若瀬と袂をわかち、お互い別々の道を歩んできた。そんな世羅と若瀬が再び東京で、今度は敵と見方に別れて対決する。炎のような直進型の世羅が勝つのか、心に氷の刃を抱える若瀬が勝つのか・・・

もう「これぞ、新堂冬樹」という程の結末の後味の悪さ。そして救いようのなさ。まさに新堂冬樹ワールド炸裂である。
いちゃもんをつけるとしたら、物語終盤に突如登場する花島の存在だろうか。物語終盤であの解決方法はちょっとなかったかなぁ・・・

なお、炎と氷 DVD版 では、世羅役を 竹内力、若瀬役を 宇梶剛士 が演じているらしい。

うーむ。どっちもリアルで恐ろしい人々だ・・・
■他の方々のご意見
私の時間
ゆうやけ公園星空のブログ

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2006年12月05日

アダム・ファウアー:「数学的にありえない」 このエントリーをはてなブックマークに追加

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数学的にありえない〈下〉
アダム ファウアー Adam Fawer 矢口 誠
文藝春秋
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、杉村春子です(嘘です)。

この小説はSF小説なので、色んな「ありえない」ことが起こるのだが、確かに「数学的にはありえない」小説になっている。タイトルとしてこのように銘打たれているが、どちらかといえば、「確率論的にありえない」のほうがしっくりくる。
主人公のデイヴィッド・ケインは大学の統計学の講師だった。突如起こった謎の神経症は彼の職を失わせる代わりに新たな才能を与えた。彼の体得した能力とは「自分が成功するまで何度も何度も時間を戻せる(!)」能力である。
もし、こんな能力が自分自身にあれば、凄いと思いませんか?
ポーカーなどの賭け事も勝つまで何度でも繰り返せるし、テストも正解するまで何回でもできる。「確率的に起こり得る事象をそれが起こるまで何度でも時間を巻き戻して試行することができる」って、一体どういう仕組みになっているのか? 本書を読んでも実はよくわからなかった。本書ではこの現象を説明するために、様々な理論が引き合いに出されている。中でも「ラプラスの魔」「シュレディンガーの猫」に代表される不確定性理論の引用が多い。
この能力を手に入れたがために、デイヴィッドは政府機関に狙われる羽目になる。マッドサイエンティストのドヴァスキーをはじめ、CIAの工作員のナヴァ、国家安全保障局のフォーサイス達が揃ってデイヴィッドの能力を欲しがっている。
もし、政府機関にデイヴィッドの能力が備われば軍事面をはじめ、非常に大きなイニシアチブを得ることになるであろう。政策を誤っても何度でもやり直せるし、戦争も然り、不慮の事故で亡くなる人物は激減するであろう。
終始追われる立場のデイヴィッドが如何に彼らの魔の手を掻い潜り抜けるかというストーリーを主軸に展開していく。

デイヴィッドは逃げ切ることができるのか?
新しく手に入れたこの能力は何なのか?

アイデアとしては面白いと思うのだが、正直、今ひとつのめりこめなかった。読んでいるときは流れに乗ってスイスイ読めるんだけどなぁ。
数学と物理に関する薀蓄もひとつひとつ取ってみれば、面白く感じる。
例えば、確率論でよくある問題として、
「58人のクラスに同じ誕生日の人間がいる確率は?」
という問いがある。
この計算は、排他的に考えると、同じ誕生日が一人もいない確率を求めて、それを1から引けばよいのである。

計算したい人は下記リンクでためしてみて。
クラスに同じ誕生日の人がいる確率を調べる
#この計算方法あっているのか自信なし・・・orz


また、不確定性原理に関するものも一通り紹介されている。プロットもなかなかよさそうなんだけど、どうも小説としては何故かいまひとつという感じが払拭できない。
その原因のひとつとして、翻訳者のスキルに起因するのではないかと思ったりする。この小説のプロットからいけば、もっとライトなノリで訳したほうがよかったよーな気がする。原書が説明的な小説になっているのかもしれないので、どうしようもないのかもしれないが、それにしても登場人物の置かれた立場とか周辺の人々との関係が異常に分かりにくい(りょーちの頭が悪いだけかもしれんが・・・)。

ラストも決して納得できるよーなものではなかった。
A tout le monde さんも指摘されているが、上下あわせて4400円ってのはこっちの方が数学的にありえなかった・・・orz

■他の方々のご意見(小説としては低調?)
A tout le monde
はみだしラボノート
なまにえの日々
もと所長秘書はつぶやく
みけねこ日記

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2006年11月30日

横山秀夫:「真相」 このエントリーをはてなブックマークに追加

真相
真相
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横山 秀夫
双葉社
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、芹沢名人です(嘘です)。

横山秀夫の名作短編集「真相」を読んでみた。最近文庫化されたっぽいが、既に保有しているハードカバーのものを再読なのだ。
「真相」では表題作の「真相」の他に4つの作品を収録した5つの短編小説が掲載されている。何れも物語の終盤で予期せぬ「真相」が明らかになる。
こういう短編小説は横山秀夫はかなり上手い。短い中にもキチンと登場人物の人生とその悲哀が語られている。

■真相
小さな町の会計事務所の所長の篠田信男は十年前に息子を殺人事件で亡くしていた。娘の美香は既に嫁いで篠田家を出ていた。息子の信彦を殺害した犯人は十年経っても未だ捕まっていない。半ば諦めかけていたときに犯人逮捕の知らせがついに届いた。犯人の自供では信彦が万引きをしたのを目撃し、強請った際にカッとなって殺害に至ったとのこと。信男から見て信彦は非の打ち所のない子供だっただけに犯人の自供は俄かに信じがたかった。そして程なくメディアにも犯人逮捕の報道と信彦の万引きが報じられた。更に犯人の自供では殺害時に、信彦の他に友達と思しきもう一人の人物がいたという。そして調べていくうちに、そのもう一人の人物は娘の美香の夫の森勇太だというのだ。
十年経って信男が知る真相とは?

■18番ホール
県庁に勤める樫村浩介は浩介の出身の村の村長選挙に出馬することになった。浩介の祖父は今の前の代の村長であり、地盤もある。はじめはその気はなかった浩介は県庁の同じ財務課にやってきた自治省のキャリアの片桐の存在が疎ましく思っており、これを機に県庁を辞めるのも一つの手と思い、祖父の地盤を引き継ぐ形で村長選へと出馬したのだ。
県庁も辞め、後がない状態での選挙は地元で力を持つ津川建設の跡取りの同級生の津川から「絶対に勝てるから」と担ぎ出された形になった。更に、樫村には出馬したもうひとつの理由があった。それは現在計画されている村のパターゴルフ場のことだった。樫村は昔ある女を殺害し、山に埋めたのだ。そしてそこは今ゴルフ場建設が計画されている場所だった。例え掘り起こされても樫村が犯人である翔子は何もない筈であったが、女を埋めた時に池袋で購入したボールペンがなくなっていたことを思い出した。死体と一緒に掘り起こされてしまわないためにも村長になり、計画の図面を変更しなければならない。
果たして選挙には勝つのか?

■不眠
山室隆哉はP自動車を最近リストラされた47歳。ハローワークに足を運ぶ傍ら、大学病院の新薬に関する臨床実験のアルバイトで生活をしている。「睡眠障害に関する病態生理学研究と治療薬の開発」という怪しげな研究のために息子ほどの年齢の大学院生から渡された成分もわからない薬を口にし、不快なノイズを聴かされながら眠るという実験に参加している。病院側からみれば隆哉もモルモットもさして違いはない。その程度の扱いであった。拷問とも思えるノイズを毎回耳にし、最近は殆どまともに眠れていない。
そんな中、山室の住む団地付近で放火による殺人があった。犯人は未だ捕まっておらず、現場付近で警察の聞き込みも行われていた。事件を知り、山室は当日現場付近をライトも付けず猛スピードで走り去る「ワインレッドのビガー」を見ていた。そして、団地でこの車に乗っている人物が小井戸というデパートに勤める人物であったことを知っていた。
警察の聞き込みは山室本人にまで及んだ。山室は勿論犯人ではないが、警察から追及されることは避けたかったのだ。警察にアルバイトのことがばれてしまうと不正受給が露見してしまうと考えたのだ。断腸の思いで、山室は警察に小井戸を売った・・・
そして程なく小井戸は捕まったのだが・・・

■花輪の海
城田輝正の家に、大学時代の友人の石倉から電話が掛かってきた。石倉の要件は大学時代に事故で亡くなったサトルのことだった。なんでもサトルの母が息子の死の状況を詳しく知りたいと言っているらしかった。相馬悟は大学時代、城田と石倉と同じ空手部に所属していた。空手部の合宿の練習は壮絶な練習であった。いや、あれは練習とは名ばかりで実際は先輩からのリンチそのものだった。この合宿が何時まで続くのかと誰もが思っていた矢先、突如合宿は終わった。練習中にサトルが海で溺死したのだ。そのときの城田は友人の死に快哉を挙げんばかりに心の中で喜んだ。これで合宿が終わると・・・
それから十二年の歳月が経った今、誰もが忘れたがっていたこの話しがまた蒸し返されるのだ。今思えば、城田にはサトルは先輩達のイジメに耐えられず自ら氏を選んだとも思えていた。城田と石倉は「あのこと」を思い出すために仲間の5人で集まることにしたのだが・・・
十二年目にして知る「真相」とは?

■他人の家
貝原英治と妻の映子は大家から退去を言い渡された。大家は、インターネットで貝原が元犯罪者であることを知ったという。大家の言うとおり、確かに貝原には前科があった。
貝原は借金を作って失踪した兄に代わってお金を返さなければならなかった。実家も売り払ったが400万円もの借金の返済の目処は全く立っていなかった。そんなときである。小さい頃から知り合いの広神正雄がスーパーに強盗に入るという計画を持ちかけてきた。広神も貝原同様に多額の借金を抱えていた。
押し切られるように犯行に加担したのだが、金庫を運ぶ途中にスーパーのオーナーに見つかり、二人で抱えていた金庫が手を離れ、オーナを直撃した。そして程なく貝原と広神は逮捕される。首謀者の広神は懲役10年、貝原は懲役7年の刑を受ける。何れも強盗致傷罪ではあったが、貝原は模範囚を心がけ5年で仮出所した。
出所後の貝原への世間の風当たりは貝原の予想を遥かに凌駕していた。
出所して、世間から身を隠すように生活してた最中、いつも散歩ですれ違う佐藤老人にインターネットで貝原の犯罪歴が記されているという情報を知る。貝原はこの現実を知り、打ち拉しがれる。貝原英治の名前である限り誰も自分の犯した罪を忘れてはもらえないのだと。5年の服役では自分の罪は消えないのだと。
しかし、暫くして、貝原夫婦は佐藤老人から、自分と養子縁組をして、貝原の姓を捨て佐藤姓を名乗らないかと思いもかけない話を持ちかけられる。住居も佐藤老人の家に同居するとよいらしく、貝原にしてみれば、渡りに船の話しだった。貝原姓を捨てることにより世間は自分を忘れてくれるのだ。
佐藤老人は現在一人身で、妻はパート先の男と駆け落ちをして失踪したらしく、身寄りが全くなかった。貝原夫妻は佐藤老人の申し出を快諾し、佐藤姓を名乗ることとなった。
そして、程なくして佐藤人は病気により他界した。貝原は佐藤の家を手に入れ、貝原姓を捨てることにより就職も無事に見つかり順風満帆かに見えた。そんな矢先に広神がやってきたのである。広神はここぞとばかりに貝原に脅しを掛ける。そんな広神に対して貝原が取った行動とは・・・

●総論
「真相」というタイトルのとおり夫々の短編小説の中で予想もしない「真相」が待ち受けている。ミステリーでは真相を突き止めるのは名探偵だったりするのだが、本書では事件の当事者が真相に辿り着かされるとでも言えばよいのか。そして夫々の真相はどれも後ろ暗いものばかりであり、真相にたどり着いたがためにその後の人生が大きく変わってしまう登場人物もいたであろう。真相にたどり着いた彼らのその後の人生については詳しく書かれておらず、その一切を読者の想像に委ねている。それが、余韻として心の中に残っていく。短い物語も、この余韻の効果が大きいため、ひとつひとつの物語を十分に楽しめるようになっている。通常ミステリー小説では
犯人逮捕 = 事件解決 = 物語終焉
という図式になっている。
勿論本書もその流れは踏襲しているが、彼らの今後の人生について嫌でも思いを馳せてしまうような語りは横山秀夫ならではであろう。短いストーリーの中にも凝縮された「人生」そのものが描かれている良作である。最近文庫化されたようなので是非読んでみるとよいかも。


■他の方々のご意見
無節操読み散らし日記
読書感想文 と ブツブツバナシ
たこの感想文
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三匹の迷える羊たち
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2006年11月27日

中井英夫:「虚無への供物」 このエントリーをはてなブックマークに追加

虚無への供物〈上〉
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虚無への供物〈下〉
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、千葉すずです(嘘です)。

無理。難解。

もう5回以上(10回未満)この「虚無への供物」を読んだけど、感想と呼べるものをりょーちは書ききることができないっす・・・orz

虚無への供物はアンチミステリとしての呼び名が高く、Wikipedia によると、小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」、夢野久作「ドグラ・マグラ」とともに日本探偵小説史上の三大奇書と並び称される。(竹本健二の「匣の中の失楽」と合わせて四大奇書といわれることもある)。

黒死館殺人事件とドグラ・マグラについては、その文章そのものが難解であることも挙げられるが、それに比べると、「虚無への供物」は読みやすいと思われる。
「虚無への供物」が出版されたのが、1964年である。「ドグラ・マグラ」と「黒死館殺人事件」が1935年に刊行されたことを考えると、年代的にはかなり後になる。
しかし、今もこの「虚無への供物」が上記2作品と比類されるのは、何故だろうか?

虚無への供物のストーリーはこうである。
光田亜利夫と奈々村久生は幼馴染である。奈々村久生は奈々緋沙緒という名前で売り出し中の駆け出しのシャンソン歌手。亜利夫はアラビクというゲイバーのアイちゃんが奈々緋沙緒のファンであるという情報を知り、久生を連れ出してアラビクへと出かける。おてんばの久生では自分でも推理小説を書きたいと思うほどのミステリ小説好きである。そんな久生ももうすぐ現在パリに赴任している新聞記者の牟礼田俊夫と結婚予定である。
アイちゃんこと氷沼藍司は氷沼家で起こっている忌まわしい呪いのようなものに頭を悩ましていた。氷沼家では、昭和の初めより、祖父の光太郎をはじめ、長女の朱美が広島で爆死、洞爺丸の事故で長男の紫司郎、三男の菫三郎が水死している。
現在氷沼家には、当主の氷沼蒼司、弟の氷沼紅司、従弟の氷沼藍司、同居人の伯父橙二郎が残るのみである。当主の氷沼蒼司と亜利夫は、学年は異なるが、同じ高校の出身である。
亜利夫は氷沼家に足を運び、氷沼家に纏わる話しを蒼司から聞き、久生にその一部始終を聞かせるが、久生はまだ犯罪の行われていない犯人を探し当てるとなんとも奇妙なことを言う。しかし、久生の予感は当たった。それから程なくして、氷沼紅司が氷沼家の風呂場で死体となって発見される。風呂場は内側から鍵が掛けられており、誰一人入ることのできない密室となっていた。
この事件を巡り、誰が紅司を殺害した犯人なのかという犯人探しが本格的に始まる。名乗り出た自称探偵は、久生と亜利夫、そして当日新潟から上京していた、藤木田老。そしてアラビクで会ったアイちゃんこと氷沼藍司である。
藤木田老は久生よりも更にミステリー好きであり、今まで出版されたミステリー小説に登場するトリックなどは使えない、更に、ヴァン・ダインやノックスなどのミステリー作法に背くものは取り入れられないなどと思考の幅を狭めさせながらも、四人の推理合戦が繰り広げられていく。しかし、彼らの推理が全く見当違いであることを犯人はあざ笑うかのように、第二、第三の殺人事件が繰り広げられる。
二番目の犠牲者である、橙二郎の死因はガスによる中毒死だった。亜利夫たちは橙二郎が犯人であると推理した、藤木田老の提案により、この日は氷沼家で麻雀をしていた。そこでの惨劇であり、しかもガスのメーターコックに触ったのは、この中では亜利夫だけであった。

そして更に第三、第四の殺人が繰り広げられていく・・・

果たして犯人は誰なのか? 犯人の動機は何なのか?

かなり難解である。この紹介文だけでもまだ前半の触り部分にしか言及できていないのだが、何がこの物語を難解にしているのかというと、ひとつは「登場人物の多さ」であり、もうひとつは「本筋の殺人事件の周りに蠢く怪しげで難解な伏線」である。この伏線が事件に直接関係するものかどうか、読んでいる最中は全くといっていいほどわかんなかった。この本を最も楽しめる人は、当時と同じ時代を生きた人たちではないかと思う。更に東京に住んでいる人なら土地勘などが情景に浮かびやすいため、更に楽しめると思う。
ミステリ小説において時代背景は非常に重要である。名作と呼ばれる幾つかの推理小説でも現代のように携帯電話やメールなどが普及している時代では決してなし得なかったトリックが使われたりする。
近年、推理小説はこういった世の中の進歩と共に純粋なミステリーとは乖離し、SF小説や科学小説に近い全く別のジャンルを生み出しているようにも感じる。

なお、この推理小説(アンチミステリーだけど)の犯人探し、動機解明において、合理的に説明するのはりょーちの頭では無理でした・・・orz

本書「虚無への供物」も今世紀では登場し得なかった一作である。そして、この何度読んでも難解で理解が及びづらい小説が何故この現代でも愛読されているのか。それは昭和の古き良き日を懐かしむ懐古主義的な人が多いことがあげられるのではないであろうか。

きっと、今後もこの「虚無への供物」を何度も読むと思うのだが、単にミステリー小説という枠組みではなく、俗人的な昭和初期の独特の世界観を堪能することもできる良作である。
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2006年11月16日

機本伸司:「神様のパズル」 このエントリーをはてなブックマークに追加

神様のパズル
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機本 伸司
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、かたせ梨乃です(嘘です)。

これは凄いわ・・・
何が凄いってテーマが凄い。今まで読んだ小説の中で一番壮大なテーマだよ。きっと。
「神様のパズル」では一人の天才少女と一人の凡人大学生が協力して「宇宙を作る」という小説である。
本書の作者、機本伸司はこの「神様のパズル」で第三回小松左京賞を受賞している。そう、この小説は紛れもなくSF小説である。しかし、同時にこの小説は今より10年後の大学生達の青春小説でもあったりする。作品全体としてはどちらかといえば青春小説の色が強く出ている。
そしてこの小説は、主人公の綿貫基一というさえない学生である。綿貫は関西にあるK大学(おそらく作者の出身大学の甲南大学がモデル?)の物理学科の4年生。りょーちの中では物理学専攻の人々は、みんな頭がいいことになっている(謎)。物理学って数学と殆ど同じなんだよねぇ。物理学科の人々はある部分では数学科の人よりも数学がわかってたりするので、凄いばい。ただ、綿貫に関しては就職を目前に控え、必修の単位を落とし後がないといった謂わばオチこぼれ的大学生。
同じ物理学科の保積蛍という女の子に淡い恋心を抱いている。綿貫は4年次に配属となるゼミの希望も勿論、保積の希望する鳩村ゼミを希望した。無事鳩村ゼミ生として迎えられたゼミ初日、鳩村教授より直々に「このゼミに穂瑞沙羅華を参加させてほしい」との要求を言い渡された。穂瑞沙羅華とはK大というより全国レベルで有名な少女である。幼少の頃から既に天才の片鱗を見せており、16歳にして既に大学生である。その頭脳は主に理論物理学の面で素晴らしい才能を発揮し、沙羅華が9歳のときに発案した「クロストロン方式」という基礎理論を学会に発表し、一躍有名になった。そしてこの理論を元に国家レベルのプロジェクトが動いていた。それが研究施設「むげん」だった。この「むげん」では世界でまだ確認されていない素粒子のひとつである「重ヒッグス粒子」を発見することが最大の目的である。(ヒッグス粒子ってのは聞いたことあるけど「重」ってのもあるのか?)。現在完成目前だが、実際は細かい部分で行き詰っているっぽい。鳩村教授もこのプロジェクトに参加している。
鳩村教授は穂瑞沙羅華に会って様子を知らせてほしいとのことだった。天才少女故に大学で学ぶものもないと感じたのか最近は大学に姿を見せず、このままでは卒業も危うい状況らしい。綿貫は気が進まなかったが単位のためと思い渋々承服した。
早速登校拒否の穂瑞に会うために自宅を訪れる。見た目は普通の女子高校生の穂瑞だが、部屋の中は16歳の女性の部屋とは思えない無機質な感じでコンピュータとモニタに囲まれ、モニタ用スコープを着用しひたすらキーボードに入力する沙羅華の姿は想像を絶した。更に実際話してみてあまりの頭脳の良さに舌を巻いた。綿貫が訪問する前に綿貫のプロフィールをすべてネットワークなどで調べつくしており、「綿さん、レンタルDVDの延滞料金を払った方がよいよ」などと初対面の人間との会話とは思えないことを指摘された。
綿さんは本来の目的である「沙羅華を大学のゼミに参加させる」ために、大学に来てみてはどうかと進言したが、「大学で得られるものはない。自分に分からないことは何一つない」と豪語する穂瑞の言葉もあながち嘘ではないのだろう。穂瑞にはホントに大学を必要としていなかった。
結局何もすることもできず必修の「量子力学」の授業にでた綿さんは聴講生の老人を目にした。この大学では結構有名人で若い頃勉強できなかったことを大学で取り返すために勉強しているらしい。講義に遅刻した綿さんは老人にノートを見せて貰うようにお願いする。橋詰というその老人は綿さんに「宇宙は無からできたというのは本当なのか?」と尋ねてきた。当然にして綿さんには答えられなかったのだが、一計を思いついた。
橋詰老とその足で綿さんは穂瑞の家へと向い、再度沙羅華と対峙した。橋詰老は沙羅華にさきほどの質問を繰り返した。
「宇宙は無から生まれたなら、人間にも作れるのか? 無ならそこら中にある」
と。この質問には穂瑞も回答することができなかった。
綿さんはここぞとばかりに「じゃあ、ゼミでそれを研究してみては?」と進言したが穂瑞にはにべもなく断られた。
穂瑞を大学につれてくる作戦はこうして失敗したかに見えたのだが、驚くことにゼミの初日に穂瑞が大学へ姿を現したのだった。そして「宇宙の作り方を研究する」と宣言した。そうやって、ゼミ全体のテーマは「宇宙を作れるか?」とう命題に「作れる派」と「作れない派」に別れてディベート形式で行うことになった。穂瑞と綿さんは「作れる派」他の4人は「作れない派」に回った。果たして本当に宇宙は作れるのか・・・

物語の殆どが量子力学やその他の応用物理に関する難解な言葉が飛び交いまくるのだが、その全てを読者は当然にして理解できるわけではない。ただ、彼らの議論に耳を傾けているだけで、雰囲気に浸るだけで十分物理学を楽しめる。物理学者をこれから目指す高校生や大学一年生あたりに是非とも読んでいただきたい一冊である。
現在の物理学者の中にはは少年少女時代にクラッシックSFを読み、宇宙の真理や物理学の不思議さを「面白い」と感じ学者への道を決めた人もいるであろう。若き物理学者の背中をそっと押してくれるようなこの小説は、物理学に興味のない人でも青春小説として十分に楽しめる。
作者の機本伸司は前述の甲南大学理学部応用物理学科の出身である。物理学は大学の4年間程度では極めることは当然難しい。物理学出身とはいえ、本書を執筆するにあたり、かなり勉強したのではなかろうか? その勉強の過程は本書の綿さんの成長の過程と概ね一致しているのではないかと思う。綿さんの成長、天才穂瑞の人間的成長こそが、本書の読みどころだと思われる。
なお、この「神様のパズル」は 角川春樹事務所 での映画化も決まっているらしい。映画化になるとおそらく物理学のディベートよりも恋愛&人物中心のストーリーになるのではないかと(勝手に)予想。
ちょっと楽しみが増えたっす。

映画化情報についても書いておくっす。

映画『神様のパズル』公式サイト
2008年6月7日(土)公開
エグゼクティブ・プロデューサー:角川春樹
監督:三池崇史
出演:市原隼人、谷村美月、松本莉氏A田中幸太朗、岩尾望(フットボールアワー)、黄川田将也、石田ゆり子 他
主題歌:「神様のパズル」ASUKA


■他の方々のご意見(結構人気かも)
GNO2日記 GreatNoviceOnimiki!
booklines.net
Sentence11
書評風-読んだら軒並みブックレビュー
猫は勘定にいれません
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2006年11月13日

小峰元:「アルキメデスは手を汚さない」 このエントリーをはてなブックマークに追加

アルキメデスは手を汚さない
小峰 元
講談社
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠です(嘘です)。

ミステリー好きを自認するりょーちでも、当たり前だが世の中にある全てのミステリー小説を読んでいるわけではない。おそらく真のミステリー小説好きの人々は江戸川乱歩や横溝正史などを読み漁り、トリック談義に華を咲かせたり「あの小説のアリバイ崩しは云々」とか「あのときの犯人のあの行動は・・・」とかディープな話題で酒を飲めるのかも知れない。
そんな人たちが「本格推理小説」などという推理小説のサブジャンルを定義し「本格でないもの、下がれ下がれ」とか「控えおろう。この本格が目に入らぬか」とか「なんてったって本格だもんネ」とシーナマコト調に話したりしているに違いない。

本書、「アルキメデスは手を汚さない」は第19回江戸川乱歩賞の受賞作らしい。作者の小峰元は1994年に他界されたのだが、江戸川乱歩賞とはいえその小説が今また脚光を浴びている。偶々通りかかった本屋に平積みされていた本書の帯には作者の小峰元よりも大きな文字で「東野圭吾」の名前があり、推薦文を寄せている。中には「東野圭吾の新作では?」と思って本書を購入した人も2人くらいいるかもしれない(いないか?)。しかし、仮に東野圭吾の本と思って買ってしまい、自宅に帰って間違いに気づいた不幸な二人にとっても、きっと本書を間違って購入したことを後悔しないと思う。

後書きを見て知ったのだが、本書は「青春ミステリー」という新しいジャンルを開拓した記念すべき一冊であるらしい。今でこそ「青春ミステリー」という単語を耳にしても違和感はないかと思われるが、当時としては「青春小説」と「ミステリー小説」は相容れないものだったのかもしれない。
本書に登場する人物は大阪の高校生が中心である。そして時代は1970年代前半。学園紛争などが終わりかけてきた頃である。推理小説では誰かが殺され、その犯人は誰なのかという「フーダニット」と、何故殺されなければならなかったかという「ホワイダニット」と、どうやって殺されたのか?という「ハウダニット」の三つの大きな疑問が一般的に提示される。本書では物語の冒頭シーンで既に一人の人物が命を落としているところから始まる。
豊能高校二年の柴本美雪は妊娠中絶手術の途中に死亡した。美雪の死に落胆する父の柴本健次郎は娘の詩の原因となった行為の相手探しにやっきになっていた。健次郎は柴本工務店の社長である。高度成長時代に数多のマンション建築が盛んに行われていた。柴本工務店もその例に洩れず、手広くマンション建築を手がけていた。美雪は死の直前まで妊娠の原因となった相手の名を健次郎に教えることはなかった。美雪は死の間際に「アルキメデス」という謎の言葉を口にしこの世を去っていったのだ。
数ヶ月前、同級生の延命美由紀、前川佳代子、宮崎令子の仲良し四人組で琵琶湖へ二泊三日で旅行したのが最後の思い出となってしまった。
健次郎は同級生の誰かが相手に違いないと確信し、犯人探しを始めるのだ。その調査の手始めに初七日の法要に美雪と仲のよかった同級生数人を自宅に招いて話しを聞いた。その中の内藤規久夫の祖母は健次郎の会社が建てたマンションの騒音を苦に体調を崩し死んでしまったことを知る。
内藤達が柴本美雪の家に呼ばれている間に豊能高校では内藤規久夫の弁当を食べた柳生隆保が腹痛を訴え救急車で運ばれるという事件が起こっていた。警察の調べでは内藤の弁当には砒素が混入していたとのこと。誰かが内藤の弁当に砒素を入れ、内藤の毒殺を試みたのであろうか?
幸い柳生は一命を取りとめ大事には至らなかった。保隆が入院したとの連絡を受け駆けつけた保隆の母の幾代と姉の美沙子も安堵の息をついた。病院には美沙子の彼氏の亀井も来ていた。亀井は美沙子の勤務する会社の上司であり、既に妻子を持っている。なので、美沙子と亀井の関係は俗に言う不倫関係であった。勿論母の幾代はその関係を歓迎するわけもなく何度も別れるように説得を続けてきたのだが改善の余地は今のところ見られていない。
体調も回復してきた保隆は数日後に予定されている修学旅行にも参加できるとのことであった。
修学旅行当日、柳生家では幾代も温泉旅行に行くこととなり、美沙子はその日に家に亀井を迎え入れる計画を立てていた。そして当日、保隆と幾代が出かけていったところに予定通り亀井がやってきた。ところが幾代が突然戻ってきたのだ。亀井は急いで中二階の物置に隠れた。幾代は腹痛で戻ってきたようで、美沙子は亀井が家から逃げる時間を作るために幾代と一緒に病院にいくことにした。美沙子が戻ってくると既に亀井の姿はなかった。亀井は美沙子と幾代がでかけた隙に逃げたのだと思っていた。
ところが翌日以降、亀井が会社に出社することはなかった。どうやら、亀井は行方不明になっているらしく、亀井の妻から捜索願がでており、美沙子にも警察からの取調べがやってきた。
亀井の調査が続く中、幾代が近所のスーパーでセメントを数袋買っていたという目撃証言が上がり、警察は柳生家の家宅捜査に乗り出した。家を調べてみると床下から亀井の死体が発見されたのだ。更に「私が殺しました」と自供したのは母の幾代だった。幾代には動機殺害の動機もあるのだが、果たして犯人は幾代なのか?

本書はこの亀井殺しの真犯人は誰なのかというフーダニットを主軸に語られる。こう書くと「どこが青春ミステリー小説なのか?」と思われるかもしれないが、そのあたりは本書を是非読んで欲しい。この亀井殺しに美雪の妊娠の相手探し、柳生の毒殺未遂事件が複雑に絡んでくるところが本書の読みどころである。
物語の終盤には今までの事件が全て見事に解決されていく。そして解決と同時にひとつの謎も定義される。その謎は小説を読み終わっても読者にも登場人物にも分からないところは、なかなか上手いと感じた。
1970年代と今現在の高校生の考え方を聞いていると時代は違うものの今との共通点もやはり見受けられる。今のような時代だからこそ温故知新的な本書が脚光を浴びたのかも知れない。改めて読んでみてよい一冊である。
そして読み終わるとはじめて「ああ、これは青春ミステリーなんだねぇ」と思う一冊である。
是非、読むべし。
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メモ
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