2007年10月22日

宮部みゆき:「楽園」 このエントリーをはてなブックマークに追加

楽園 上
楽園 上
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宮部 みゆき
文藝春秋 (2007/08)
売り上げランキング: 306

楽園 下
楽園 下
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宮部 みゆき
文藝春秋 (2007/08)
売り上げランキング: 378

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、ヒライケンジです(嘘です)。

宮部みゆきさんの「楽園」はあの「模倣犯」で登場したフリーライター前畑滋子の話し。しかし、模倣犯とは全く関係のない話しである。ただ、模倣犯の話しが幾つか出てくるので、読んでおいたほうがより楽しめると思われる。

で、読みはじめて「これは、『模倣犯』と『龍は眠る』を足したような作品なのかな?」と思った。

本書は「模倣犯」のあの事件で、犯人のピースと戦った後の前畑滋子の後日談というふうに読めなくもない。「模倣犯」の事件で一躍有名人になった滋子だが、滋子はあの事件の後「模倣犯」に関する本などは出版していないらしい。風評被害というわけでもないのかもしれないが、あの事件で燃え尽きたような滋子がそこにいた。現在は知人の出版社で働かせてもらっている滋子を一人の女性が訪ねてきた。その女性、萩谷敏子は死んだ息子の等が残した絵について調べて欲しいとのことだった。
正直、今の滋子にとっては乗り気とはいえない依頼であった。
しかし、等の残した絵の一枚には9年前の山荘でのあの事件関係者と警察しか知りえるはずのないものが書かれていた。等ははたして超能力者なのか?

更に事件を調べていくうちに、等の絵に残された蝙蝠の風見鶏が元になり、土井崎茜の事件に遭遇する。実の娘を殺め、娘の亡骸を自宅の地下に埋め、16年間そこで生活してきた、父、土井崎元と母、土井崎向子はどういう気持ちだったのだろうか。
土井崎茜は手の付けられない不良娘だったことは事実のようである。
しかし、茜の妹の誠子には実の親がどういう思考で姉に手を掛けたのか理解できなかった。

等の絵を中心に、萩谷敏子は息子を、土井崎誠子は姉の死を、前畑滋子はあの山荘の事件を夫々の思いで振り返る。本書は犯人が誰とかそういうストーリーよりも、この三人の女性が過去の事件を自分の中でどうやって受入れ、未来へと進むのかというのがポイントのよーな気がする。

本書ではこの三人の内面、心理描写にかなりのページを割いている。
多分、普通の推理小説であれば、上巻だけで完結するくらいのボリュームだと思う。しかし、読み終えてみると「1冊で終わる話しを2冊に薄めた」という感覚はあまりない。
しかし、長すぎるなあというのが正直なところ。「楽園」は、産経新聞に連載されていた新聞小説らしいが、それにしても些か冗長すぎやしないだろうか?

模倣犯」の登場人物が何人か登場しますが、「模倣犯」を読んでいない人でもこの「楽園」から読み始めることはできるっす。逆に「楽園」から読み始めて滋子の前の事件についていろいろ知りたいようであれば、「模倣犯」を読むってのもありだと思われる。

しかし、最近リアルで物騒な事件が多く「現実が小説を越え始めた」という感じが本当にし始めました。不可解かつ不条理な事件が起こるたびにこういう話題が取り沙汰される。警察における日本の犯罪の検挙率もこのグラフ h19.1-9hanzai.xls を見る限りでは上がっているようには見えない。難しい問題じゃのぅ。

■他の方々のご意見(全体的に好評?)
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2007年10月12日

東野圭吾:「探偵ガリレオ」 このエントリーをはてなブックマークに追加

探偵ガリレオ (文春文庫)
東野 圭吾
文藝春秋 (2002/02)
売り上げランキング: 36

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、あめくみちこです(嘘です)。

東野圭吾の「探偵ガリレオ」がフジテレビ系でドラマ化するとのことなので、読んでみた。
かなり前に出版されている本だが、今この時代にドラマ化されるってのは興味深いねぇ。

本書は、帝都大学理工学部物理学科助教授の湯川学が様々な不思議な事件を科学的裏づけの元推理していくお話し。読んでいて、森博嗣の「犀川創平&西之園萌絵」シリーズの犀川創平とかなりオーバーラップするところがあった。フジテレビのドラマでは湯川学役はなんと福山雅治さんが演じることになっているのであるが、東野圭吾の思う湯川学のイメージは佐野史郎さんのよーである(本書の後書きもその関係で佐野史郎さんが書かれている)
福山雅治さんにはもうしわけないが、佐野史郎さんの方が役柄にあっていると思う。なぜなら、信じられないくらい頭の良い湯川学を信じられないくらいかっこいい福山雅治さんが演じたりすると、世の中の男性諸君はかなり落ち込みが激しいと思うのである(うーむ)。
りょーちとしては、草薙俊平役が北村一輝ってのが結構楽しみだな。

「探偵ガリレオ」は「燃える(もえる)」「転写る(うつる)」「壊死る(くさる)」「爆ぜる(はぜる)」「離脱る(ぬける)」という5つの短編小説である。

何れも通常では考えられない殺害方法や、不可能と思える殺人事件を湯川がその明晰な頭脳を駆使して解決するものである。ドラマ化されてしまうので、ここでその事件ひとつひとつを解説していくとドラマへの興味が薄れてしまうかもしれないので、内容は深くは書かないことにしてみるが、最も興味深かった章は「爆ぜる(はぜる)」かな。

で、読んでいて、本書で探偵役の湯川学は他の推理小説に登場する多くの探偵と幾つか類似点があるような気がしたので勝手にまとめてみる。
  • 刑事の草薙俊平は学生時代湯川と同じ大学でバドミントン部に所属しており、難事件があると、湯川を訪ねてくるのである(このあたりは定番化されているようだ)。まあ構図としては、シャーロックホームズが湯川であるならば、草薙はワトソン役といったところであろう。
  • 湯川の推理の展開は翔んでる警視の岩崎白昼夢のように初めの段階である程度真実に近い仮説を割り出していることであり、その裏づけを草薙俊平(ときには、湯川本人)が足を使い事件を解決していく。
  • 先に述べたが、大学教授という部分では森博嗣の「犀川創平&西之園萌絵」シリーズがそのまま当てはまる。
  • 全体的な雰囲気からすると、貫井徳郎の「被害者は誰?」シリーズに登場する、吉祥院慶彦がぴったりかもしれない(ってまあ「探偵ガリレオ」の方が先に出版されているのだが)。

上記の探偵たちは、何れも理論派(探偵なんだからあたりまえ?)であるが、湯川学というキャラクターはその頭脳の明晰さだけでなく、お茶目な部分もあり、どこかに本当にいそうなリアリティがある。ドラマではこのリアリティの部分がどのくらい表現されるか楽しみっす。
「探偵ガリレオ」はシリーズ化しているっぽいので、折を見て続きを読んでみたいっす。

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2007年09月18日

高嶋哲夫:「ミッドナイトイーグル」 このエントリーをはてなブックマークに追加

ミッドナイトイーグル (文春文庫)
高嶋 哲夫
文藝春秋 (2003/04)
売り上げランキング: 26918


りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、小野みゆきです(嘘です)。

高嶋哲夫といえば、日本を何度も壊しかける(?)壮大なストーリーを紡ぎだす作家として知られている。
高嶋哲夫の作品の印象は、一般人だがある部分においてのスペシャリストが国家の存亡ともいえる難局に立ち向かい、艱難辛苦を乗り越え平和をもたらすよーな胸のすくストーリーが多い。なので、読後感はわりと爽快なものが多い気がする。
本書もその路線を踏襲しており、読者の期待を裏切らない一冊になっている。

本書は戦場カメラマンの西崎勇次のいる北アルプスと、西崎の妻で現在別居中のフリーライターの松永慶子のいる東京との二つの視点で物語が進んでいく。

戦場カメラマンの西崎は北アルプス付近で山中に落ちていく火の玉を目撃する。高校時代の同級生で東日新聞に勤める落合に連絡を取り事実確認をしてみたが、新聞社には自衛隊の航空機がエンジントラブルを起こしたが、無事基地に戻っているとの情報しか入っていないという。事の真相を確かめるため体制を整え、西崎と落合とで墜落地点まで行くことにした。
とはいえ、現地は吹雪で、しかも入山は自衛隊により制限されていた。

松永慶子は別の事件を追っているはずだった。慶子は横田基地に潜入し、銃撃戦の末逃走中の平田トシオの足取りを追っていた。慶子が平田のアパートに潜入したとき、平田の命は銃撃戦で瀕死の重傷を負っていた。

山中の西崎勇二と落合は墜落地点へと向うが、吹雪の中何者かに銃撃される。戦場カメラマンとして幾つもの紛争地を渡り歩いた西崎もまさかこの日本で自分が銃を向けられるとは思っても見なかった。西崎と落合に銃を向けているものは何なのか。
そして、彼らは吹雪の中日本の自衛隊員である伍島という男と出会う。そして西崎は伍島からこの山で何が起こっているのかの真相の一端を耳にする。それは西崎の想像をはるかに超える恐ろしい事実だった。
それは日本にある米軍基地に核弾頭を搭載したステルス型爆撃機が存在し、しかも核を搭載したその飛行機がこの北アルプスに墜落したというのだ。伍島は墜落機を確保することを目的とし、入山したが、武装した北朝鮮のスパイがこの核を狙いこの北アルプスに潜伏しているという。
極寒の北アルプスに残された西崎、落合、伍島たちは核が爆発することを食い止めることができるのか?

雪山と地上との連絡には無線が利用されている(勿論携帯電話などは使えない・・・)。この無線でのやり取りがストーリーに上手く組み込まれており、不安、焦燥感などを上手く表現していると思う。
仕事に感けて家庭を顧みなかった西崎は山の中で慶子と子供のことを思い、下山した暁には一緒に暮らそうと考えはじめる。慶子と西崎は再び家族として生活できるのか?
このあたりの家族愛的な部分も読みどころなのかなと思う。最後はちょいと感動するっす。

なお、本書は映画化されるようである。この映画、多分すごい撮影が大変そうな気がする。俳優の方々もスタッフの方々も忠実にこれを再現するとなると結構命がけになりそーな・・・
映画に関しての情報は下記に公式サイトがあるよーだ。

映画:ミッドナイト イーグル
『ミッドナイト イーグル』オフィシャルブログ

映画 :ミッドナイト イーグル
公開日:2007/11/23(金)〜
主題歌:「はるまついぶき」/Bank Band 作詞・唄:櫻井和寿 作曲:小林武史(ap bank
監督 :成島出(なるしまいずる)

原作と少し名前が異なっている部分もあるが下記のようなキャストのよーである。

西崎優二:大沢たかお
有沢慶子:竹内結子
落合信一郎:玉木宏
佐伯昭彦:吉田栄作
冬木利光:袴田吉彦
斉藤健介:大森南朋
宮田忠夫:石黒賢
渡良瀬隆文:藤竜也

ストイックに生きる西崎役に大沢たかおはピッタリかもしれない。
映画も気になるところである。
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2007年08月31日

松岡圭祐:「千里眼 The Start」 このエントリーをはてなブックマークに追加

千里眼The Start
松岡 圭祐
角川書店


りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、若井はんじ・けんじです(嘘です)。

書店では何度か見かけている松岡圭祐の千里眼。
今まで何故買おうと思わなかったかというのには理由がある。
私は松岡圭祐という作家があまり好きではなかった。
初めて読んだ松岡圭祐の作品が「催眠」だったのだ。本書は映画化もされたようでそれなりのヒットだったのであろうと思われるが、りょーちの中ではあまり心に響かなかった。多分「催眠」が出版されて直ぐに購入したので、かなり昔の話だと思われる。

で、今回書店で何気なく購入した本がこの「千里眼 The Start」だったのだ。購入してから「あっ、松岡圭祐だよ・・・orz」と思ったのだ。しかし買ったからには読まなくてはと思い読み始めたら、これがとんでもなく面白い。つーか、面白すぎる。「なんで早く教えてくれないのか」と誰かに八つ当たりしたくなるっす。

全体のページ数は短くまとめられ、その分かなりスピード感が出ている。
りょーちはあまり知らなかったのだが、本書「千里眼」シリーズはハードカバーでかなりの数が既に出版されており、角川書店からの「千里眼」シリーズは今までの千里眼シリーズを踏襲しつつも、りょーちのよーに今まで読んだことのない人向けにも理解できるようなストーリーとなっている。
本書「千里眼 The Start」は千里眼シリーズの導入編という位置づけで、主人公の岬美由紀についての人となりや臨床心理士になった経緯について触れている。

本書で登場する、この岬美由紀は紛れもなくスーパーウーマンである。
防衛大学を首席で卒業後、航空自衛隊に入隊。更に女性初の戦闘機パイロットとなる。
自衛隊でも幹部候補生として将来を嘱望されていた美由紀は、その頭脳もさることながら身体能力面においても瞠目に値する能力を有している。

そんな美由紀は服務規程を守らなかったため査問に掛けられ、除隊することになる。更に美由紀を庇った板村三佐も除隊となってしまう。美由紀に関してはまだしも、板村は嘱託医として査問会に参加した笹島の精神鑑定としての意見によるところが大きかった。
美由紀の服務規程違反は、離島の被災地に許可なく救援ヘリを飛ばしたことにである。美由紀は命令より人命救助を優先した。岬美由紀の行動原理は何時でも弱者を守ることが優先するのだ。自分だけが処罰を受けるならまだしも板村への処罰は我慢できなかった。
美由紀は精神科医の笹島の意見が誤っていることを証明し、板村を復職させるため、除隊後、臨床心理士の道を歩んだのだ。

戦闘機のパイロットから臨床心理士への転進は大きな方向転換だ。全くの畑違いであると思われるその転職は美由紀にとっても世界にとっても幸運なことであった。
臨床心理士は、患者との対話中に患者の表情を観察し、患者の喜怒哀楽やその他の感情を理解するのである。しかし、対話中に患者の本来の気持ちが理解できるというのは極まれで、実際は被験者との対話の様子をVTRで撮影し、スローモーション技術を駆使し表情を読み取り感情を推測することが常である。
しかし、美由紀は戦闘機パイロットの訓練により、類まれなる動体視力を有しており、一瞬で患者の心理状態や、発言の虚偽を看破する技術を体得したのだ。本シリーズではこの美由紀の能力がフル活動し、世界平和に貢献する(いや、まじで)という壮大なストーリーなのだ。

いや、すごいよ。岬美由紀。

本書「千里眼 The Start」では、舎利弗浩輔(しゃりほつこうすけ)の元で臨床心理士としての知識を学びはじめるところから始まる。
臨床心理士の資格を取得した美由紀は持ち前の動体視力を駆使し、一般の人間では到底判断できない一瞬の表情を掴み取り、相手の心理状態を把握できるようになっていた。そんな美由紀は自分が自衛隊を辞める直接のきっかけとなった笹島と偶然再会する。
美由紀は既に笹島と専門的な議論が交わし得るまでの心理学の知識を有しており板村の鑑定は誤りであったことを認めさせようとしたが、板村の除隊は覆らなかった。
そんな中、好摩牛耳という、フリーライターの掴んだ爆弾テロの情報を知り、テロを阻止するため美由紀が犯人と対峙する。
このあたり、詳しく書くとネタバレになるので多くは語らないが、岬美由紀、凄すぎるっす。りょーちは、ハードカバーバージョンを読んでいないのだが、この本から読んでも十分「千里眼」のオモシロさが伝わってくるっす。
本書購入後、とりあえず現在出ているシリーズを大人買いしてみたっす(^^;
さて、読みまくるぞー。
他の方々のご意見
参考書?
別宝ムック「「航空自衛隊、最前線![戦力・任務・隊員]
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2007年08月24日

森絵都:「DIVE!!」 このエントリーをはてなブックマークに追加

DIVE!!〈上〉 (角川文庫)
森 絵都
角川書店 (2006/06)
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DIVE!!〈下〉 (角川文庫)
森 絵都
角川書店 (2006/06)
売り上げランキング: 971

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、ノーカット星です(嘘です)。

来年は北京オリンピックである。世の中の殆どの人は直接オリンピックとは関係ない人生を過ごしていることであろう。オリンピックの競技は何種類もあり、全てを見ることはできない。盛り上がる競技もあるし、誰が見ているんだろう的な競技もある。
世の中にはいろいろなスポーツに関する小説や漫画などがあるが「高飛び込み」を扱った小説ってあまり読んだことがなかった。
そもそも高飛び込みって一瞬で終わっちゃうので演技中のドラマがないのではと思いきや大違い。本書「DIVE」を読むと、高飛び込みの見方がかなり変わること間違いなしである。
そして、質の高いスポ根小説+恋愛小説という青春エンターテイメント小説でもある。

ミズキダイビングクラブに所属する中学生の知季はダイビング練習に明け暮れる。取り立てて実力があると思えなかった知季はミズキダイビングクラブにやってきた新任コーチの麻木夏陽子(かよこ)にその才能を見出されスポ根の世界へ誘われる。
ミズキダイビングクラブは飛び込みという特殊なスポーツのため、競技人口も少なく、クラブそのものの存続が危ぶまれてきた。クラブ存続のために必要なことは「ミズキダイビングクラブからオリンピック選手を出す」というものであった。

果たして知季はオリンピックまで行くことができるのか?

本書の読みどころはもう多分全部である。
ダイビングの練習や試合の緊張感。一瞬にかける飛び込み競技がここまでリアルに書かれる小説は今後もおそらく出てこないと思われる。
スポ根における重要なファクターとなるライバルの存在も多岐に亙る。

知季と同じミズキダイビングクラブに所属し、父母ともに有名な飛び込み選手で将来有望な高校生の富士谷要一。
伝説のダイバーとして知られる、沖津白波の孫の飛沫。
日本でトップクラスの実力を持つ寺本健一郎。
ピンクの海パンがトレードマークのピンキー山田(ライバルか?)。

本書の中では知季が主人公となっているが、要一、飛沫の章も読み応えがある。

恋愛小説としては、知季の弟の弘也と知季の彼女の未羽との三角関係や、飛沫と飛沫の年上の彼女の恭子との少し大人の恋愛なども見逃せない。
熱心に指導を続ける夏陽子はホントに強い女性であり、よき指導者である。こういうキャラは絶対必要だよね。

こういう青春小説ってストーリーそのもののオモシロさも大事だけどやっぱ、登場人物が幾多の試練を乗り越えて人間的に成長していく過程に読者が共感するところに醍醐味があるんだと思うのである。この観点からしても、本書は100点満点の出来であろう。

りょーちとしては、勿論主人公の知季も好きなのだが、最も感情移入してしまったのは沖津飛沫である。選考会前に飛沫は、腰の持病が悪化してしまう。そんな飛沫が選考会でみせた「あの」演技。
前人未到の知季の4回転半も見てみたいが、どちらかといえば、飛沫のスワンダイブを是非とも見てみたいと思うのはりょーちだけではないであろう。(ピンキー山田と要一の演技も勿論見たいが・・・)

りょーちとしては森絵都さんの作品を読むのはこの「DIVE!!」が初めてであったのであるが、こんなに素晴らしい物語を紡ぎだす森絵都さんってなんて素晴らしい人間なのであろうと拍手を送りたくなってきたっす。

本書は、角川書店のDIVEの下記サイトを見ればかなり理解が増すであろう。

更に驚くことに映画化されるよーである。

実写のよーであるが、飛沫の演技や知季の演技ってどーいう感じで表現されるのかちょいと楽しみでもある。

大人から子供までが十分に満足し、何度も読みたくなる秀作である。

■他の方々のご意見(かなり好印象だな)
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2007年08月06日

貫井徳郎:「失踪症候群」 このエントリーをはてなブックマークに追加

失踪症候群 (双葉文庫)
貫井 徳郎
双葉社 (1998/03)
売り上げランキング: 49093

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、姫宮接子です(嘘です)。

本書を再読してみて、自分の読書の嗜好が微妙に変わり始めていることに気づいた。

はじめて読んだ貫井徳郎の本は「慟哭」であり、その斬新なストーリーにかなり惹かれ、「うーむ、この人はすごいかも」と思い、貫井徳郎のその他の本を読み漁っていた時代があった。多分それが5年くらい前の話のよーな気がする。
その後も結構ハズレる確率が少なく、「よいではないか、貫井徳郎」と思っていたのであるが、久々に「失踪症候群」を読みかえしてみて「むむっ」と思った。

「失踪症候群」は「誘拐症候群」「殺人症候群」とあわせて3部作になっており、その初めの作品となる。環は表向きは警視庁の人事課という警視庁の中では閑職の部類に入るスタッフ部門に配属されていた。しかし、実は環は警視庁内で事件性が薄いよくわからない案件を隠密裏に捜査するエキスパートであったのだ。
こういう「警察内に誰も知られていない裏の顔」っていうのは現実的には難しいと思う。市民から組織の透明性を求められるようになってきた今日、ホントにこういう組織や人が存在するのは難しいであろう(まあ、小説だからいいんだけど)。

環は警視庁のある人物より、若者の原因不明の失踪が増えていることに気づき、その背後にある「何か」を探り出して欲しいと依頼される。

早速環は自分の抱えるスタッフに調査を依頼する。環のスタッフは全て警視庁に所属していないスタッフだ。原田柾一郎、倉持真栄、武藤隆の3人は元警察に所属していたのだが、今は夫々の理由により、警察の職を辞していた。原田は私立探偵、倉持は日雇い労働者、武藤は托鉢僧という現職を持つこの3人は全員環に拾われ現在環からの指示で動く部下のような存在である。ちなみに、本書が出版されたのは1995年。環と原田たちの連絡はポケットベルという御時世である(うーむ)。

環は失踪者リストを彼らに渡し、現在どこに住んでいるかという調査を依頼した。程なく調査結果が戻ってきたのだが、何れも、住居を不自然に何度か転々と変えているようだ。なぜ、失踪者は住居を転々としているのか?
更にその失踪者リストに登場するある人物の交友関係から、意外な事件が浮かび上がってくるのだ。

/* こっからネタバレ */
環たちの追っていた若者は、何らかの要因で今までの人生をリセットしたい人たち。しかし、単純に失踪してしまうと、社会的な保証を受けることはできない。そこで、失踪したい人たちの間で戸籍を交換することを思いついたやつがいた。
更に、失踪者の一人、小沼豊はゼックというバンドで違法ドラッグを売買するための幇助を行っていた。ゼックのメンバーは裏に組織があるように思わせ、実は自分達でドラッグを売買していた。

/* ここまでネタバレ */

うーむ。理屈は分かった。しかし、再読してみて「うーむ、そうなのか」という感心というか「なるほどねー」という印象のみで、「おー、凄いこと考えるねー」的な何かがなかったように思われる。

で、一度そんなふうに思ってしまうと、どーも、次にこの作者の本を購入するのをなんとなく躊躇ってしまったりするのだ。最近も何冊か出版されているようであるが、暫く貫井徳郎とは距離を置いてみたいと思ってしまった一冊となってしまった(残念?)。

他の方々のご意見
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2007年08月02日

五十嵐貴久:「1985年の奇跡」 このエントリーをはてなブックマークに追加

1985年の奇跡 (双葉文庫)
五十嵐 貴久
双葉社 (2006/06)
売り上げランキング: 64598
おすすめ度の平均: 4.0
3 青春ドラマのようだった・・・
4 軽く読める青春物
4 おもしろい!青春野球小説!

りょーち的おすすめ度:お薦め度お薦め度(多分最強)

こんにちは、会員ナンバー18番の永田ルリ子です(嘘です)。

予備知識なく、ふと手にしたこの本。
最強っす。

「パパとムスメの七日間」もドラマ化され、ノリにのっている(と思われる)五十嵐貴久。「リカ」を読んだときは「なんて恐ろしいこと考えるのか、この人は・・・」と身震いした記憶がある。そういう意味でりょーちの中では、どちらかといえば、五十嵐貴久は貴志祐介とか鈴木光司とかっていうおどろおどろしい作家というカテゴリで(勝手に)捕えてしまっていた。

書店にて本書のカバーを見る限りでは、こういうストーリーとは想像していなかったが、いい意味で裏切られた。気持ちの良い裏切られ方である。多分当時高校生だった人はかなり共感できる内容が詰め込まれておりこの本自体が「タイムカプセル」となっているっす。
タイトルにもあるように、本書の時代設定は、1985年。1985年といえばおそらくバブルという言葉もなかった頃。大人も子供もホントにのんきに日々生活していたであろう時代である。
テレビでは「夕ニャン」こと「夕焼けニャンニャン」が放映され、おニャン子クラブ全盛期であり、今のようにネットもなく、情報は全てテレビからであり、テレビから放映される全てのモノ・コトを信じて疑わなかった。
そして、その頃の高校生はなんとなくちゃらんぽらんで、どっかの大学に滑り込めればOK的な退廃的空気が蔓延し、しかし、遊ぶことにかけてはしっかり遊んでいた。
阪神タイガースが久々に優勝などしてしまい、関西地方はおろか、日本中でトラフィーバーだったり。
まあ、そんな時代だったはずである。この1985年は。
で、何時の世も時代の先端を行っているのは高校生だったりする。

本書「1985年の奇跡」には、当時、中学生、高校生、大学生だった人にはかなり懐かしさを覚える一冊であろう。そして、本書内の登場人物の青春模様に「あー、おれもそーだったよ」的な共感を覚えずにはいられないと思われる。
端々に登場する固有名詞がいやでも、当時を思い出させる演出はおそらく意図的なものであろうが、それが嫌味を感じさせない程度に散りばめられており、テンポ良く読むことができちゃうっす。

ストーリーも非常によろしい。岡村浩司ことオカやんは創部以来、一度も勝ったことのない小金井公園高校の野球部のキャプテン。公式戦初勝利を目指し、日々真剣に練習に汗を流していた・・・ なんてことは全くなく、チームのメンバーは「夕ニャン」の方が大事で、練習などは早めに切り上げ、平日5時には必ずテレビの前にいるよーな高校生。

ホントに申し訳ないが、僕たちの優先順位は一に女の子、二に夕ニャン、三、四がなくて五でも六でもなく、七か八くらいに野球がくる。しかも練習となるとさらにその順番は低かった

という件(くだり)が岡やんたちの全てを象徴しているといってもよい。

そこへある日岡やんの中学時代の同級生の転校生の沢渡俊一がやってきてから小金井公園高校野球部の状況は一変する。
沢渡は名門私立海南高校の野球部のエースであり、プロのスカウトからも注目される選手だった。それが、何故かここ、小金井公園高校に転入することになった。
キャプテンとして、中学時代の同級生として、沢渡を野球部に誘うが沢渡は肩を壊してしまい、ボールを投げることができないとのことだった。しかし、マネージャーとしてならということでなし崩し的に野球部に入部することになったのだ。
そんなある日、岡やんと野球部のメンバーと沢渡が通称「ババ店」で食事をしていた最中、女の子が暴漢に襲われていたところに遭遇する。みんな何もできない中、沢渡は「ババ店」に偶然あった野球のボールを暴漢めがけて目にもとまらぬスピードで投げ女子高生を救ったのだ。
岡やんたちは、沢渡が投げることができることを知り、野球部の正式復帰を猛烈に勧め、沢渡も選手として参加することになった。そして、更に更に、その日助けた女の子、金沢真美が野球部のマネージャになってくれるとのこと。金沢真美は西園寺女子学園というこの地区ではかなりのお嬢様高校の1年生。
岡やんをはじめ、野球部のアンドレ、カンサイ、小田三兄弟、イートンたちも嫌でも士気が上がり始める。
実際、沢渡は凄かった。甲子園の予選大会の1回戦ではシード校である籐海学院をなんと2-0で下したのだ。しかも沢渡はパーフェクトゲームをやってのけた。小金井公園高校野球部はこの初勝利を皮切りにどんどん勝ち進んでいった。
そしてなんと、地区予選の決勝まで進んでしまうのだ。相手は優勝候補の一角の墨山高校。その墨山高校にも沢渡は点をやることはなかった。9回まで無失点で来てあと少しで甲子園への出場が決まるところまでなんとやってきてしまう。

しかし、そこで、悲劇は起こった・・・

これ以降を書いてしまうと、この小説の面白みがかなり半減するのであえて伏せておくが、この悲劇以降のストーリーがまた凄い。ともすれば、悲観的になりそーなストーリーをライトに書ききっている。この人やはり只者ではないっす。

ラストの部分は爽快感漂うなかなかGoodな青春小説になっていますな。
これは、来年あたり再読するであろう。

しかし、繰り返しになるがこの五十嵐貴久という作家はかなり「あり」である。ちょいとファンになったっす。
特に本書は気分がブルーの時に再読することにしよう。

■他の方々の意見(やはり好評だな)
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2007年07月09日

高野和明:「幽霊人命救助隊」 このエントリーをはてなブックマークに追加

幽霊人命救助隊
幽霊人命救助隊
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高野 和明
文藝春秋 (2007/04)
売り上げランキング: 151

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、よしかわ進です(嘘です)。

最近(といっても数年前だが)デビュー作と現在の作風がかなり違って面食らった作家が二人いる。
ひとりは、五十嵐貴久。デビュー作の「リカ」は貴志祐介のようなおどろおどろしさを持っており、「うわ、この人エグイなー」と思ったりしたのだが、日曜のドラマにもなっている パパとムスメの7日間 を見る限りでは、「えっ?こんな作風だっけ?」とちょいとビックリしてしまった。

で、もう一人が、高野和明である。「13階段」や「グレイヴディッガー」で割と重めの作風だった(と思われる)作者が書いたこの「幽霊人命救助隊」を読んでちょいと驚いた。
自殺してしまった浪人生の裕一は、死後の世界のような臨死体験をした。そこでは、天国と地獄の協会のような場所で、八木というさえない中年男性、美晴という若い女性、市川という元ヤクザのおじさんが存在していた。
彼らは天国でも地獄でもないこの世界に死んでからずっといるようであった。
裕一と彼らの共通点は何れも自殺で死んだことのようである。そこに、神様が(この神様ホントにお気楽な神様なんだが)降りてきて「現世にいる自殺志願者を100人救助しなさい」と彼らに告げた。

どうやら、100人の自殺志願者を助けると現世に戻れるようである。自殺者救助に要する時間は7週間(49日?)。
そして、彼ら幽霊達の人命救助が唐突にスタートするのだ・・・

うーむ。なかなか面白かった。
自殺志願者を助けるために神様から授かった道具は4人の仲間同士で連絡を取り合うためのトランシーバと救助人数をカウントするカウンター。そして自殺者を呼び止めるための拡声器(メガホン)のみ。

彼らは、実世界のモノに直接触れることができないという制約があり、そこが本書を面白くさせている要因だったりする。幽霊ってわりと人を超越した存在だったりするような気がしたのだが、移動手段は電車だったり、バスだったりと公共交通機関を使い、自殺志願者に向ってメガホンで自殺志願者を説得する。この説得も自殺志願者に、直接的な働きかけは然程できず、せいぜい昔のことを思い出させたりする程度である。

テーマとしては非常に重いテーマだが、かなりライトに書かれており、エンターテイメント小説として不謹慎かもしれないが楽しめる一冊である。
最後の救助者はかなり難易度が高かったが、それを乗り越える彼ら4人も人として(幽霊として)ステップアップしたよーである。
しかし、本書を読み「こんなに自殺志願者がいるのかー」と思ってしまうのは私だけでしょうか?
だが、メーターが黄色や青色の人は結構いるのかもしれないっすね。

最近出版された 6時間後に君は死ぬ はどうなのかな。ちょいと気になるっす。

■他の方々のご意見(結構好評だな)
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2007年05月23日

横山秀夫:「影踏み」 このエントリーをはてなブックマークに追加

影踏み
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横山 秀夫
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、ダンプ松本です(嘘です)。

ってことで、横山秀夫の「影踏み」を読んでみた。

本書では更に今までの横山秀夫の小説にはあまり見受けられない視点で書かれている。彼の書く殆どの主人公は警察内部の人間だった。しかし、本書「影踏み」では「泥棒」という警察組織とは対極的にある人物を主人公に置いている。
この二つの相違点はあるものの、作中に横山秀夫らしい雰囲気は感じ取ることができた。
本書は「消息」「刻印」「抱擁」「業火」「使徒」「遺言」「行方」という七つの短編からなる。この短編に一貫して登場する人物は主人公の真壁修一、修一の中に住む弟の啓二、そして修一の内縁の妻である安西久子である。

各人の設定はこんな感じ。
真壁修一は「ノビ師」だった。「ノビ師」とは居住者が深夜に寝静まった頃、家に忍び込み現金を盗み出す手口の泥棒の俗称である。天窓やドマーニから侵入する「天蓋引き」。宵闇に紛れて空き巣を働く「宵空き」など盗みの手口により夫々隠語があるらしい。修一は「ノビ師」としては世間で知られた存在だった。
修一には啓二という双子の弟がいた。過去形になっているのは今はこの世にいないからである。啓二は実の母親に殺され、母と共にその肉体は焼け死んでいた。しかし、その魂は何故か修一に住み着き、修一の中に啓二がいるという不思議なことになっていた。

このあたりに今まで愚直なまでに警察内部の小説を書いてきた横山秀夫が本書で見せる新しい試みである。

「消息」では窃盗容疑で捕まった修一が二年の刑期を終え出所したところから始まる。先に述べたように修一の中には弟の啓二が存在している。修一の中の啓二は、一度見たものは決して忘れないという瞬間記憶能力を持っていた(って昔木村拓也の出演するドラマでそういうのあったね)。
出所後すぐに手をつけたのは自分が捕まったときに侵入していた家の調査である。修一はその家で感じた違和感の正体が何なのかを調べるため自分の「ノビ師」の能力と啓二の「瞬間記憶能力」の二つの能力を駆使し独自調査をし始めた。
一方、久子は修一が刑期を終えるまでじっと修一を待っていた。
久子は修一と内縁関係にあったが、その昔は久子を巡り修一と啓二で争っていた。双子ゆえに殆ど同じ容貌を持つ修一と啓二。啓二が死んでからも自分の中に啓二を感じ続けている修一は素直に久子と結ばれる気にはなれなかった。自分の心の中の葛藤さえも啓二に筒抜けであるのだ。
修一が感じた違和感の正体は一体なんだったのか?

七つの短編は程よいボリュームで区切られており、読みやすい。
しかし、りょーちとしてはどうも今ひとつ「ミステリー小説」として読むことが困難だった。やはりその原因は修一の中にいる啓二の存在にある。やはり純粋なミステリーって感じではないのでそのあたりちょっと拍子抜けした感がある。
また、法曹界を目指していた修一が啓二の死後、突如「ノビ師」になったその心情もいまひとつ納得できない。双子の繋がりってそんなに深いものなのか?

どうも今ひとつりょーちとして不完全燃焼って感じの一冊であった。

なお、今まで読んだ横山秀夫の感想をざっと見てみるとこんな感じであった。で、本書「影踏み」は3.0。
りょーちの横山秀夫満足率は
( 4.5 + 3.0 + 4.5 + 4.5 + 4.5 + 3.0 ) / 6 = 4.0
って感じか。

うーむ。初期の頃に読んだ「クライマーズ・ハイ」が結構良かったのでそれに引きずられていたのかもしれないということにあらためて気づかされた。
こうやって読書記録を作っておくことによって、自分が好きな作家の傾向が客観的に(いや、評価は主観的なので完全に客観的とはいえないのだが)理解できるよーな気がする。実際、りょーちの中での横山秀夫の作家としての評価は「与えられた題材を無難に形にする作家」という印象でしかない。まあ、これができるってことだけでも結構すごいとは思うのですが、なんとなくもうあまり読まなくてもよい作家に仲間入りしてしまったかも。
横山秀夫が作家としてダメとか言っているのではなく、自分の読みたい本と横山秀夫が作り出す物語とが合わなくなっているということである。まあ、そういうこともあるだろう。それが分かっただけでもまあ、本書を読んでみてよかったっす。

■他の方々のご意見(結構意見が分かれている?)

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2007年05月16日

ミヒャエル・エンデ:「モモ」 このエントリーをはてなブックマークに追加

モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37)
ミヒャエル・エンデ
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おすすめ度の平均: 5.0
5 こうしてレビューを書いている時間は無駄なのでしょうか?
5 ベッポじいさんが良い
5 今の時代にも驚くほど当てはまります
5 プレゼントに。
5 歩みの遅い亀が勝つ。


りょーち的おすすめ度:お薦め度お薦め度

こんにちは、貴家堂子です(嘘です)。

ミヒャエル・エンデの名作童話のモモを久々に読んでみた。ここ何年か読んでいなかったが、久々に読んでやはりその素晴らしさに感動っす。

ある町の円形劇場に突然住み着いていた小さな女の子のモモ。浮浪者のような身なりをしたモモはまだ小学生ほどの年齢でしたが、親も兄弟もなく、一人でこの円形劇場に住んでいました。町の人はすぐにモモと仲良くなりました。
モモには人にはできないあることができたのです。それは「人の話しを聞くこと」でした。町の人は何か悩みがあったりすると次第にモモを尋ねるようになりました。モモには待ちの人々の悩みを解決するよいアイデアを出したりするわけではありません。しかし、不思議とモモと話していると自分の頭の中で埋もれていたアイデアがまとまってきたりするのです。ソクラテスの弁証法に近いのかもしれませんが、熱心に人の話しを聞くことにより相手に何かを気づかせるということがモモにはできました。
そんなモモは町の子供達といろんな遊びを考えて遊ぶようになりました。モモたちの時代には今の時代のようにゲームなどは存在してません。しかし、自分達で面白いアイデアを考えて日々遊ぶことができたので、次第にモモは町の子供達にとってもなくてはならない存在になっていたのです。
そんなモモたちの町にある異変が起ころうとしていました。そしてその異変は誰にも知られることなく静かに、しかし確実に起こり始めていたのです。
モモたちを待ち受けていたのは灰色の男たちです。彼らの目的は人から「時間を奪う」ことにありました。この時間泥棒たちはいつも灰色の葉巻を吸い、生きているのです。
彼らはそこに存在しているのですが、人には意識されないような術をもっていました。音もなく町の人々に忍び寄り、恐ろしい計画を企てるのです。
今までのんびりと生活をしていた町の人々に「君は時間を無駄に使っている」と持ちかけるのです。そして今までにどれだけの時間を無駄にしているかを電卓などを駆使し説明し、効率的に時間を利用し、あまった時間を「時間貯蓄銀行」に貯蓄させるのです。
人々はそうやって灰色の男達に唆され、次第に時間を節約し、無駄なことをしないように過ごすようになっていきました。今までのようにモモのところにやってくる人は誰もいなくなってしまいました。モモは古い友人達を訪ね歩きましたがみんなとても忙しそうです。そうすることにより、次第にモモの友人達はまたモモのところにやってくるようになったのです。
しかし、このことをよく思わない人たちがいました。そうです。灰色の男たちです。モモの行動は結果的に人々の無駄な時間を搾取していた灰色の男たち奸計を阻止することになっていたのです。モモは灰色の男達に恐れられる存在になったのです。そしてモモに刺客が送られることになりました。灰色の男はモモに素敵なお人形(ビビガール)を与えましたがモモは興味を示しません。それどころか、逆にモモの「人の話しを聞く」特技により自分達の悪巧みについて知らず知らずのうちにモモに打ち明けてしまっていたのです。
灰色の男たちの恐ろしい計画を聞いたモモはみんなに知らせるために友人達に灰色の男について打ち明けましたが誰もその話しをまともに聞いてくれません。
灰色の男たちはモモを攫ってしまう計画を立てていたころ、モモの住む円形劇場に一匹のカメがやってきました。カメの背中には「ツイテオイデ!」と光る文字が現れました。
モモは光る文字の通りカメについていきました。一方同じ頃灰色の男達はモモを探し出すために町中に現れました。しかし、モモは灰色の男に捕まることはありませんでした。
「さかさま小路」を抜けるとそこは時間の国でした。時間の国でモモは「マイスター・ホラ」という老人に会いました。マイスター・ホラはモモを時間の国に呼ぶためにカメのカシオペイアを使いに出したことを話しました。モモはそこで時間の源を見ました。このことをみんなに話そうと思い、モモは町へ帰って行きますが、町では大変なことが起こっていたのです・・・
時間の国での一日は現実世界での1年に相当するようで、モモはすっかり浦島太郎のような状態になっていました。モモがいないこちらの世界ではこの1年のうちに、時間泥棒たちの活動により、誰も彼も忙しそうにしていました。そして灰色の男達はモモの友人の観光ガイドのジジことジロラモと道路掃除夫のベッポにも、その魔の手を広げていたのです。
すっかり本当に一人ぼっちになったモモは果たして時間泥棒たちにどーやって立ち向かうのか、友達たちは救われるのか?

モモは童話という手法を取っていますがSFといってもよい内容です。本書では「時間」という概念が非常に重要な意味を持ちます。物理学的な絶対時間ではなく、人間が本来体感する時間は同じ時間でも長く感じたり短く感じたりするものです。
何か自分が好きなことに夢中になっているときの時間はあっというまに過ぎ去っていきますが、難しいことや嫌なことをやっているときの時間はとても長く感じられます。人間にとっての時間は自分の体感している時間がとても重要だと思います。そして全ての時間はどんな人にも平等に割り当てられています。
「時間を有効に活用する」という言葉はともすれば「如何に無駄なことをやらないか」という置き換えられやすいが、人間にとって本当に重要なことは「無駄」の中にあるのではと思う。ただ、その「無駄」はダラダラと過ごすということではない。
また「大人になる」ということは無駄な時間を削減し、仕事をするよーなイメージがあるが、最近になってロハスとかそーいった「ゆっくり生活を楽しむぜ」的な動きが盛んになり、ギスギスした感じがちょいと緩和されているよーな気もする(金持ちの道楽的なものかもしれんが)。
いま、全力で走っている人々は「モモ」を読んで貰うと、過去の自分を振り返る余裕を手に入れることができるかもしれないっす。

ちなみに、りょーちとしては時間の世界に旅したモモが目にした「時間の花」を一度でいいから見てみたいなあと思ったりした。りょーちの保有する小説の中でも再読率のかなり高い一冊なので、また何時の日かきっと読むであろう・・・

■他の方々のご意見(名作だし、かなり好評!)


なお、文庫本が出ているらしい。(購入した時には文庫本なんてなかったよ・・・orz)。
モモ (岩波少年文庫(127))
ミヒャエル・エンデ
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おすすめ度の平均: 5.0
5 現在進行形の物語
5 今まで読んだ本の中で一番面白いです!!
3 絶賛するほどではない
5 大人になると別の形で心にしみるかもね。
4 児童文学ということで…

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