2004年09月12日

山口雅也:「生ける屍の死」 このエントリーをはてなブックマークに追加

生ける屍の死 (創元推理文庫)
山口 雅也
東京創元社
売り上げランキング: 56265


りょーち的おすすめ度:


ただ、ひたすら疲れた。りょーちが頭が悪いのがいけないのかもしれないが、今ひとつのめり込めなかった。667ページ、集中力が持たんかった・・・。山口雅也さん、ごめんね。
ただ評価すべき点はある。ミステリー小説には実は様々な制約がある。密室殺人の犯人がテレポーテーションできたりすると「密室殺人」として成り立たない。ただ、小説内の制約というのは小説の中だけで完結できることもある。この「生ける屍の死」の制約(?)条件は「死者が蘇る」ってものである。

「んじゃ、殺人事件ちゃうやん!」
(まぁまぁ・・・ 抑えて・・・)

でも、本格ミステリーと言っても差し支えはないのだろう。読者がその世界を受け入れてしまえば問題はないのである。じゃないとSFだとかファンタジー小説だとかは成り立たないよね?
この小説をややこしくしているのは、誰が生きてて誰が死んでいるのかわからないところにある。それを紐解くべき探偵役のグリン少年も生きてるのか死んでるのかわからん。なんでこんなことになってるかっていうと、さっきも書いたけど、死人が生き返るような超常現象が起こっているためである。

りょーちとしてこの本から得た教訓めいたものはないのであるが「死生観」についてちょっと考えさせられるところがあった。
死んでいるのに動いたり思考できたりするのは生きていることになるのか? うーむ、よくわからん。

この本に興味のある方は、小野 不由美さんの屍鬼〈上〉屍鬼〈下〉も読んだほうがよい。

ちなみにりょーちは、「屍鬼」の方が好きだった。参考までに・・・

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黒武 洋:「そして粛清の扉を」 このエントリーをはてなブックマークに追加

そして粛清の扉を
そして粛清の扉を
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黒武 洋
新潮社
売り上げランキング: 107958


りょーち的おすすめ度:

うーむ。結局なんだったのだろう?文章も読みやすくストーリーもわかりやすい。
そして粛清の扉を」は古本屋で購入したもので、物語は簡単に言えば女教師・亜矢子の復習劇である。本書はおそらく、「バトル・ロワイアル」と比較されやすいと思う。りょーちは正直感情移入できずに最後まで読んでしまった。

自分の娘が暴走族に殺されたことへの復習をするために、亜矢子は教室を占拠した。手には本物の拳銃と自分のクラスの生徒がいかなる犯罪を犯したかが情報としてストックされたパソコン。花壇付近には地雷が埋めてあり、教室にも爆弾が仕掛けてあり警察は手が出せない。
亜矢子はクラスの中で生徒一人一人の罪状を読み上げ殺していく・・・
この小説の中で、亜矢子はスーパーマンに近い存在である。普通の教師が何故拳銃や爆弾などの扱いに詳しいのか? 最後に少し明らかになるのだがとってつけたような感じで納得感はまるでなかった。このあたりももう少し加筆してほしかった
警察との駆け引きもこの話の中の魅力のひとつだと思う。警察内の特殊部隊についてももう少し説明がほしかった。

とはいえ、ホラー・サスペンス大賞 第1回大賞に選ばれている作品なのだ。一見の価値はあるかもしれない。
人それぞれだが、りょーちはあまりこの本はフィットしなかった。(新書で買わなくてよかった・・・)
後ろ向きな書評かのぅ・・・


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アレックス・シアラー:「チョコレート・アンダーグラウンド」 このエントリーをはてなブックマークに追加

チョコレート・アンダーグラウンド
アレックス シアラー
求龍堂
売り上げランキング: 4361

りょーち的おすすめ度:

突然ですが、あなたは選挙に行ったことありますか? りょーちはあります。昔は選挙なんてほとんど興味なかったのですが、最近は行くようにしています。私たちには参政権があるのです。でもそれを行使しない人もたくさんいます。で、自分は選挙にも行かずに政治家の悪口だけ言う。そんなことではよろしくありません。
選挙に投票しなかったために、自分の想像もしていない政策を持つ政党が政権を握りとんでもない政策をとり国会の多数決でいろいろなことが決まる。
ちょっと恐ろしいの・・・

この本もそういう話だね。ある政党がふとしたことから政権を執ります。その政党は健康のために「チョコレート禁止法」なる奇怪な法律を制定し、町中からチョコレートを消し去ります。チョコレートがなくなり一番困るのは子供たちです。恐怖政治である。
ここに出てくる政治家は他にもいろいろなものを禁止します。一般家庭においてもおかしいなと思いつつも禁止されているものに手を出すと処罰されてしまう。

そんな中、勇気ある二人の少年がチョコレートを取り戻すための革命を起こした。

戦時中の日本もきっとこんな感じだったのであろう。みんなが何も言えない状態で何かがおかしいと思うが、おかしいと声高に言うと処罰される。
勇気ある行動は非常に難しい。

ハントリーとスマッジャーの二人の少年がチョコレート革命を成功させるまでには様々な紆余曲折がある。健全健康党の奴らに捕まらないように様々な策を巡らせたり、バビおばさんと密造酒ならぬ「密造チョコ」を作り、地下チョコバーを開いたりと非常に行動的である。革命のための同志を見つけ、最後は革命を成功させてしまう。

ちなみにこの物語に出てくる「チョコレート探知機」は半径数メートル以内にあるチョコレートをたちどころに発見してしまう機械。こんなのがホントにあったら恐ろしい。

この物語、読後感は非常によい。おそらく、中学生・高校生くらいの年齢を対象にしているのだと思うが、是非大人の人も読んだほうがよい。今会社で働く人ももしかしたら社内でこういった憂き目にあっている人もいるかもしれない。でも、勇気を出して行動してみてほしい。

あ、あと選挙には行きましょう。
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2004年09月11日

吉村達也:「姉妹」 このエントリーをはてなブックマークに追加

姉妹―Two Sisters (角川ホラー文庫)
吉村 達也
角川書店
売り上げランキング: 134225


今日近所の本屋で買ってきた。
吉村達也さんの本は角川ホラー文庫のものしか持っていない。
結構おどろおどろしい本が多い。
読み終わったら書評を書いてみるばい。
購入経緯は以前映画を見に行った際に映画館に貼ってあったポスターに目が行ってしまったためである。

読み終わったので感想を追記しちゃう。

吉村達也はホラー作家であると認識している。これはこの「姉妹」を読み終わった後も変わらない。だが、この小説には推理小説のエッセンスも色濃く出ていることに気づく。
推理小説の場合、「犯人は実はこいつだったのかー」「なんとなんと、ここに複線がはってあったのかー」的なパズルを埋め合わせて最後のピースがはまった時に快感を覚える小説なのかなと思う(異論は勿論あると思いますが・・・)。本書「姉妹」に関しては最後のピースがはまった瞬間、戦慄を覚える。「姉妹」に関しては最後のページの最後の一言がりょーちは非常に不気味さを感じ後ろを振り返ってしまいそうな恐怖心を感じた。
なお、この姉妹は2004年の7月に日本では「箪笥」という名前で映画になった。
解説文を読んで初めてしったのだが、映画「箪笥」は日本で公開される前に韓国で先行公開されている。
「箪笥」の舞台が韓国でもあり、勿論俳優から監督まで韓国の方によるものだ。日本人の私にとって韓国は近いようで遠い存在でもあり同じアジアでも中国とは違った不思議さを感じる。この不思議さは過去に日本人が韓国で行った様々な残虐的行為によりある種の畏怖の念を抱いているからかもしれない。
今でこそ日韓ワールドカップとか韓日の親交は進んでいると思われるが重苦しい歴史を背負った両国は真に分かり合えていないのかもしれない。
登場人物はかなり少なく、(小説内のキャラクターファイルより抜粋)

スミ

主人公。妹のスヨンより4歳上の姉。母の死に関する明確な記憶を失う。「新しい母」のウンジュと激しく対立。

スヨン

スミの妹。言葉の発達は遅れているが、感性は鋭敏。愛する母の死に直面し、強烈なショックを受ける。

ウンジュ

姉妹の母を看護していたが、いつのまにか一家に入り込み、現在は事実上の後妻となっている。

ムヒョン

姉妹の父親で薬剤師。家族の心の病を薬だけで治そうとする「薬剤信奉者」。妻の死後、元看護婦のウンジュと同居。


あとはスミの母親とウンジュの弟とその妻くらいである。
年齢がバレてしまうが山口百恵の「赤い」シリーズのような構成である。「赤い」シリーズとことなるのがここに「ホラー」の色が盛り込まれていることであろう。
ホラーの要素としては、「13日の金曜日」などに代表される怖いモノが出てきて「キャーッ」ってのだったり、「リング」のように状況(シチュエーション)の怖さだったりする。関係ないけどゴーストバスターズはホラーじゃないよ。
で、この小説の怖さは前述したが「全てのピースがはまったときに」初めて湧き上がる怖さである。書いている今もちょっと身震い・・・
なお、作者はこの小説を前述の韓国の映画監督とやりとりしながら脚本を小説にした形になる。吉村達也は小説を書き上げた際、自分でも合点がいかない点があり、監督のキム・ジウンに問い合わせたところはじめて衝撃的事実が明らかになったという。
おそらくこの本を読んで最も怖いと思ったのはある意味、作者の吉村達也氏ではなかろうか?
異論はあると思うがりょーちの中でこの小説の中で真の主人公はウンジュではないかと思う。このキャラクターがいなければこの小説は成り立たない。「姉妹」ではウンジュは前半部分は徹底的に悪者に書かれている。りょーちもウンジュを憎んだ。でも他の読者は最後までこのウンジュというキャラクターを憎めるか・・・
一方この物語は家族愛というものにも焦点を絞っている。りょーちの浅い知識によれば韓国は儒教社会であり、現在の日本よりも家族の絆が強い(と思う)。その中でこの映画は韓国の中でも物議を醸し出したのかもしれない。また、物議を醸し出したのは家族愛だけでなく「箪笥」という映画の解釈でも多種多様の意見があり、ツインピークスを思わせるような話題の拡がりを見せている。
吉村達也の小説の中ではかなり「あり」であろう。
また、映画を見た方で結果を知っていると思っている人も「真実の結果」については意外と知られていないと思う。本書は映画を補完するようなマニュアルとして位置づけることも可能だ。そして映画で味わった恐怖とはまた別の恐怖がそこに表れるだろう。
最後に、「あー、こわかった・・・」

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伊坂 幸太郎:「オーデュボンの祈り」 このエントリーをはてなブックマークに追加

オーデュボンの祈り (新潮文庫)
伊坂 幸太郎
新潮社
売り上げランキング: 2641
おすすめ度の平均: 4.0
4 オーデュボンの祈り・・・勇午の祈り
4 一気に読んでしまいました
4 人間の持つ善意、優しさ、夢を描いたモザイク画
4 シュールなままで
5 不思議ミステリー

りょーち的おすすめ度:

伊坂幸太郎さんの小説をはじめて読んだ。
読み終えた後で見つけたのだが伊坂幸太郎さんはこの『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞(平成12年)を受賞されている。

昭和46年5月25日生まれってことはまだ、33歳。若い(のかな?)

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか? (文庫裏表紙より)

■本土の住人
伊藤(主人公):仙台でコンビニを襲い逃走中に気を失い、気がついたら全く知らない島にいた。
城山:伊藤を追う警察官。恐ろしく凶暴な男。実は伊藤とは中学時代の同級生で頭は非常によいが、極悪人そのものである。
静香:伊藤の元恋人。仕事人間。
曽根川:伊藤より一足早く荻島へ到着。
■荻島の住人
轟:荻島と外界を唯一行き来できる熊男。伊藤を荻島へつれてきた人。
日比野:荻島に来てからの伊藤と行動をともにする。島の人間から変わり者扱いされている。
優午:荻島の喋るカカシ。喋れる(!)。未来のことが予測できる。
園山:変人画家。妻が死んでから「嘘しか言わない」ようになった。
三毛猫:木に登り天気を当てる。
桜:島内で唯一殺人を犯してもよいと法律で定められた人間。美しい男性。詩が好き。彼独自のポリシーで人を次々と殺す。
ウサギ:300kgはあるという女性。動けない。ウサギの夫は家から妻の様子を定期的に見に来る。
田中:足が不自由。鳥が好き。優午と友達。
草薙:郵便配達員。
百合:草薙の妻。「人の手を握ること」が仕事。
小山田:島の警察官。捜査能力は特になく、事件の際にはカカシの優午に犯人を聞き捕まえる。
佳代子・希代子:美しい双子の姉妹。
若葉:島に住む小さな少女。地面に耳をあて、心臓の音を聞いている。

読後の感想は。物語としてよくできていると感じた。この「よくできている」の感覚は外国の有名な画家の絵をみて「いいねえ」と思う感覚より、ルービックキューブが6面揃ったときの「お、できた」という感覚の中間っぽい感じ。
荻島に到着してからは、荻島の人々がばらばらに行動しているのだが、物語の終わりごろにその行動がピタリ、ピタリとはまっていく。
この感覚は推理小説を読む醍醐味のひとつでもあると思う。

荻島という島は仙台からかなり離れた場所にあり、実は100年以上も前から外界と交流がまったくない。荻島には「島の外から荻島に足りない大切な何かを持ってくる人がいる」と言う言い伝えがある。島内の人間は伊藤が外から来た人間と知り、それを期待される。
伊藤はこの島では殺人事件の探偵の役割を演じている。伊藤の考え方は実は作者の考え方でもあるのだが、作者は名探偵について以下のように感じている。
推理小説内の探偵は殺人事件があらかた終わったところで探偵が犯人がやっを見つける。名探偵がいることで殺人事件が起こるのでは?
これは興味深い考察である。

作者はこの小説で外界より隔離された荻島を一種の密室として機能させている。犯人はこの島の中に限られるのだ。このあたりの設定が非常にうまい。読者は荻島内の不思議なルールを伊藤と同様に自然に受け入れる。うまくこの世界に入り込むような工夫は例えば、常蔵常長という昔の人間の登場などにより随所にちりばめられている。

精巧に築かれた舞台と特徴的な役者が演じる「オーデュボンの祈り」という演劇に魅せられた。ミステリー嫌いの読者の方にも受け入れられる可能性もある。

最後に表題のオーデュボンとは野生動物の版画で知られる動物学者でリョコウバトなどの絵を数多く残している。
リョコウバトは残念ながら絶滅してしまった。昔大量にいたリョコウバトを打ち落とし絶滅追い込んだのは我々人間である。悲しむべきことだ・・・
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2004年09月04日

奥田 英朗:「最悪」 このエントリーをはてなブックマークに追加

最悪 (講談社文庫)
最悪 (講談社文庫)
posted with amazlet at 08.11.10
奥田 英朗
講談社
売り上げランキング: 3772
おすすめ度の平均: 4.0
5 傑作人間ドラマ
4 背筋が寒くなる。
5 テンポがいい
5 人それぞれの最悪の定義
5 坂道を転がり落ちる


りょーち的おすすめ度:

この書評を書く際に先ず事前にGoogleで検索したフレーズは
最悪は最高 奥田英朗
という語句である。
検索結果は14件中8件あった。

やっぱりもう使われていたか・・・
なぜなら検索エンジンにヒットしたページの作者が書いているように、やっぱり「『最悪』は『最高』」なのである。いやホント。こないだ行きつけの書店に歩いていったら「空中ブランコ」という小説が平積みにドーンと構えていて、なんかオドロオドロシイ且つ面白そうな雰囲気の本じゃのぅと思い、買おうかなあと思ったのだが、しばしとどまり「なんか今売れている本をそのまま買っちゃうって時代に流されちゃってイヤだねー。ねー」などと思われるのも癪なので(自意識過剰か?)スルリスルリと文庫のコーナーに隠れるように忍び足で移動し(あ、怪しいもんじゃありません。書店のバイトさん)奥田英朗さんの文庫本をいくつか見てみた。で、タイトルが目にとまって買ったのがこの「最悪」なのであった。

本書の主要登場人物は下記の3人
川谷信次郎
鉄工所社長。社長とは聞こえがいいが実際は小さな鉄工所でバブル不況を受け細々と部品を作る孫受け的な工場の社長である。妻の春江と国立の外語大生の長男と高校生の次女の4人暮らし。目下の悩みは次女を短大に進学させること。そのためにはもっと働き工場を大きくしたいのだが、社員は長男と同じ年の松村とタイ人の青年コビーの二人のみ。新しい機械が入ればその道も開けるが機械導入の2000万円をどこから工面するのか。今日も親会社の無理難題を受けた下受け会社の部品の納期が近づいている。近所で同じく工場を持つ「同志」とも呼べる存在の山口に愚痴をこぼしながらも大黒柱として今日も頑張る。向かいのマンションの太田夫妻からは工場の騒音をなんとかしろと苦情が絶えず、エリートサラリーマンの太田の理詰めの詰問に精神的にまいってしまっている
藤崎みどり
川崎のかもめ銀行で窓口業務に携わる20代のOL。子供のころからいい子でいて親の進める銀行に就職したが仕事への思い入れは特にない。同僚の裕子とはよい友人関係であり互いに上司の悪口などを言い合っていたが、川崎支店にやってきたエリート行員高梨の存在が少し気になる。そんな中、支店内のゴールデンウィークの恒例行事となっているキャンプファイアーで支店長からセクハラを受け精神的ショックを受け銀行を辞める決意をする。妹のめぐみは高校もろくに行かない所謂、不良娘。父は今の母と再婚しめぐみは今の母の子供だがみどりは前の母の子供であり自由奔放なめぐみは何が不満なのかよく理解できていない。ぐれたいのは私の方と思っている。
野村和也
就職するでもなく大学にいくでもなく所謂フリーター。何をやっても長続きせず、また何をやってもうまくいかなくて人生なんてどうでもいいと、今日もパチンコ三昧の日々。悪友のタカオと一緒に薬品会社からトルエンを盗んだが、犯行時の姿や車を目撃されていた。犯行時の車はヤクザからタカオが借りたものでその車から足がつき、事務所内が警察の家宅捜索を受け、組員に袋叩きにあう。ヤクザに収める金を工面するためにタカオと事務所荒らしを計画。そんな中、パチンコ屋で知り合った年上ホステスの楓とはひょんなことから男女の関係になった。その後なんと藤崎みどりの妹のめぐみとも関係を持つ。タカオから持ちかけられた事務所荒らしに手を染め、ヤクザ・警察の両者に追われる。
本書はこの3人それぞれの視点で物語が進みます。それぞれ別の世界で生活を送りほとんど重なり合うことのない3人が会ってしまったとき、物語はそこから怒涛のクライマックスを迎える。
以降本書の詳細な内容に触れますので読みたくない方はそのまま進んでください。読みたい方は白い部分をマウスでドラッグしてください。(ってRSSReader)で見ていると意味ないか?

ヤクザに追われる和也は藤崎みどりの妹のめぐみと銀行強盗を計画。めぐみは「銀行強盗を働くならかもめ銀行にしてくれ」と和也に示唆。めぐみはいい子を演じているみどりをあまり好きではなくみどりを困らせるためにわざわざ緑の働く支店の銀行強盗を提案。一方かもめ銀行から融資される予定だった計画が高梨の画策で反故にされた。融資される見込みとして新規設備を導入しもう引き返せない状態になりかもめ銀行に掛け合いにいく。そこで和也とめぐみの扮する銀行強盗に出くわす。支店長が銀行強盗犯人にお金を渡そうとするその金を横取りしようとする。セクハラ支店長もあまりお咎めなく、支店長からは逆に迷惑がられ、もうすべてどうでもよくなり人質のかわりとして自ら名乗り出る。銀行強盗に成功した和也とめぐみは銀行から逃げ出すがなぜか車には川谷とみどりも乗っていた。御殿場の山小屋でかれらの取る行動は。
そして4人のそれぞれの運命は如何に・・・・


もう最高っす。ここまでリアリティのある文章を書けるこの作者は最高ですね。よくこういった設定思いつくよ。人物描写は非常に仔細に描かれ映像が見えてくるようだ。
サブキャラの設定もホントに実際にこういう人いるよ。って突っ込みたくなるほど細かく書かれている。

この本に登場する人物はそれぞれホントに良いことなんかなにもなさそうな人生を送っている。それははじめはほんの小さな歯車の不良から始まり雪だるましきに不幸になっていく。この工場の部品は人生の歯車に置き換わるメタファーであるのかもしれない。

1年後手元に本書があったらまた読んでみたいと思う。

100%いえることは、まあ買っとけってことだ。

奥田英朗さん作品一覧
posted by りょーち | Comment(0) | TrackBack(5) | 読書感想文

2004年09月02日

貫井徳郎:「慟哭」 このエントリーをはてなブックマークに追加

慟哭
慟哭
posted with amazlet on 06.05.22
貫井 徳郎
東京創元社 (1999/03)
売り上げランキング: 50,245

りょーち的おすすめ度:

会社で報告書を書く際は「結論から書け」と良く言われる。結論から書こう。買って読んだほうがよい。買わないまでも誰かミステリ好きの友達から借りてでも読みましょう。で、もし友達から借りた場合はその友達に何か奢ってあけてください。

この本を会社の同僚に借りるまで、恥ずかしながら貫井 徳郎さんの書籍を拝読したことがありませんでした。いや、同僚がどーしても読んどけって聞かずに、半ば押し付けるように貸していったので、通勤時間を利用し読み始めたのです。
結果として、同僚に感謝感激雨あられ小惑星季節風三毛猫など手に触るものを何でも投げ返したくなるほど借りてよかった。(ありがとう)。

貫井徳郎にとっては本書はデビュー作となる本作。物語は連続幼女誘拐事件で捜査の指揮を執るキャリア警察官の佐伯の視点とその連続幼女誘拐事件の犯人の松本の視点という二つの視点で描かれている。追いかける警察官とまんまと追ってから逃れ続ける犯人。

ミステリー小説とはwho done it?(犯人は誰?)が全てではない。りょーちはこのあくまでも「ミステリー小説」であるべきで、そこには起承転結は当然ながら、何故そうなるのか、どのようにしてそうなるのか? という要素が必要だ。
この慟哭は「who done it?」のみを目的とするミステリー読者には一見受け入れられにくいかもしれない。
しかし、繰り返しになるが、あくまでも小説なのである。物語(ストーリー)として非常に綿密な「補助線」が引かれている。
今まで貫井徳郎の本を何冊も拝読しているが貫井徳郎はこの「補助線」の引き方が実に絶妙である。数学の図形問題を解くとき一本の補助線が閃くかどうかでその問題の全体像(=答え)が見えてくることがある。この補助線は数学的(幾何学的)センスがなければなかなか見えてこない。なお本物の数学の問題は「シカクいアタマをマルくする」でおなじみの日能研にでも譲っておく(日能研のサイトを見てみたら、個人情報流出に関するお詫びとご説明というニュースリリースが・・・ 大丈夫か?)
話が脱線したが貫井徳郎にはミステリ作家としての補助線の引き方にセンスがある。日常の何気ない場面も貫井徳郎にかかればいとも不思議な世界を垣間見せる。
作者本人の話はまた今度記載させていただくとして慟哭に戻ろう。

犯人の松本は何故、新興宗教・黒魔術の世界へと足を踏み入れるようになってしまったのか? これは彼の生い立ちとも切り離せない。人はさまざまなトラウマを持っており松本の場合は出生に関するトラウマであった。出生に関してのトラウマというのは本人自身では回避できない。この点に犯人である松本に少なからず同情(肩入れ)してしまう。りょーちはこの本ではどちらかと言えば犯人である松本のキャラが好きだ。松本の行為は確かにえげつない。今の日本では間違いなく逮捕されて然るべきである。ただ、松本がそこに行き着くまでのプロセスについては実際の裁判では情状酌量の余地はあるかもしれない(ないか?)

この本はりょーちとしては2回連続して読む本だねと思った。初めて慟哭を手にした人は先ず何の先入観もなく読んでみてください。で、読み終わった後に頭を整理して、もう一度本書を手にとってほしいです。
2回目を読むときにあなたは警察官・佐伯の視点を中心に読み始めるか、犯人・松本の視点を中心に読み始めるか。

P.S.
りょーちの場合も同僚から借りたのですが、そういえば奢ってないな。今度寿司でも奢ってあげよう・・・

貫井徳郎オフィシャルサイト:The Room for Junkies of Mystery And Hissatsu(本人のWebサイト)
posted by りょーち | Comment(12) | TrackBack(9) | 読書感想文