伊坂 幸太郎
新潮社
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オーデュボンの祈り・・・勇午の祈り

一気に読んでしまいました

人間の持つ善意、優しさ、夢を描いたモザイク画

シュールなままで

不思議ミステリー
りょーち的おすすめ度:

伊坂幸太郎さんの小説をはじめて読んだ。
読み終えた後で見つけたのだが伊坂幸太郎さんはこの『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞(平成12年)を受賞されている。
昭和46年5月25日生まれってことはまだ、33歳。若い(のかな?)
コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか? (文庫裏表紙より)
■本土の住人
伊藤(主人公):仙台でコンビニを襲い逃走中に気を失い、気がついたら全く知らない島にいた。
城山:伊藤を追う警察官。恐ろしく凶暴な男。実は伊藤とは中学時代の同級生で頭は非常によいが、極悪人そのものである。
静香:伊藤の元恋人。仕事人間。
曽根川:伊藤より一足早く荻島へ到着。
■荻島の住人
轟:荻島と外界を唯一行き来できる熊男。伊藤を荻島へつれてきた人。
日比野:荻島に来てからの伊藤と行動をともにする。島の人間から変わり者扱いされている。
優午:荻島の喋るカカシ。喋れる(!)。未来のことが予測できる。
園山:変人画家。妻が死んでから「嘘しか言わない」ようになった。
三毛猫:木に登り天気を当てる。
桜:島内で唯一殺人を犯してもよいと法律で定められた人間。美しい男性。詩が好き。彼独自のポリシーで人を次々と殺す。
ウサギ:300kgはあるという女性。動けない。ウサギの夫は家から妻の様子を定期的に見に来る。
田中:足が不自由。鳥が好き。優午と友達。
草薙:郵便配達員。
百合:草薙の妻。「人の手を握ること」が仕事。
小山田:島の警察官。捜査能力は特になく、事件の際にはカカシの優午に犯人を聞き捕まえる。
佳代子・希代子:美しい双子の姉妹。
若葉:島に住む小さな少女。地面に耳をあて、心臓の音を聞いている。
読後の感想は。物語としてよくできていると感じた。この「よくできている」の感覚は外国の有名な画家の絵をみて「いいねえ」と思う感覚より、ルービックキューブが6面揃ったときの「お、できた」という感覚の中間っぽい感じ。
荻島に到着してからは、荻島の人々がばらばらに行動しているのだが、物語の終わりごろにその行動がピタリ、ピタリとはまっていく。
この感覚は推理小説を読む醍醐味のひとつでもあると思う。
荻島という島は仙台からかなり離れた場所にあり、実は100年以上も前から外界と交流がまったくない。荻島には「島の外から荻島に足りない大切な何かを持ってくる人がいる」と言う言い伝えがある。島内の人間は伊藤が外から来た人間と知り、それを期待される。
伊藤はこの島では殺人事件の探偵の役割を演じている。伊藤の考え方は実は作者の考え方でもあるのだが、作者は名探偵について以下のように感じている。
推理小説内の探偵は殺人事件があらかた終わったところで探偵が犯人がやっを見つける。名探偵がいることで殺人事件が起こるのでは?
これは興味深い考察である。
作者はこの小説で外界より隔離された荻島を一種の密室として機能させている。犯人はこの島の中に限られるのだ。このあたりの設定が非常にうまい。読者は荻島内の不思議なルールを伊藤と同様に自然に受け入れる。うまくこの世界に入り込むような工夫は例えば、常蔵常長という昔の人間の登場などにより随所にちりばめられている。
精巧に築かれた舞台と特徴的な役者が演じる「オーデュボンの祈り」という演劇に魅せられた。ミステリー嫌いの読者の方にも受け入れられる可能性もある。
最後に表題のオーデュボンとは野生動物の版画で知られる動物学者で
リョコウバトなどの絵を数多く残している。
リョコウバトは残念ながら絶滅してしまった。昔大量にいたリョコウバトを打ち落とし絶滅追い込んだのは我々人間である。悲しむべきことだ・・・