2004年10月05日

柳原慧:「パーフェクト・プラン」 このエントリーをはてなブックマークに追加

パーフェクト・プラン (宝島社文庫)
柳原 慧
宝島社
売り上げランキング: 403025


りょーち的おすすめ度:

帯より
代理母で生計を立てている小田桐良江は、かつて出産した子供、三輪俊成が母親・咲子に虐待されていることを知り、発作的に俊成を三輪家から連れ出してしまう。そのことを知ったかつての愛人・田代幸司と兄貴分でアングラ・カジノの店長・赤星サトルは張龍生に事態の収拾を委ねる。龍生は、悪夢のような仕手戦に破れた株屋。そんな龍生がとてつもない誘拐計画を思いつく。龍生の父のボケ老人・泰生も加わり、風変わりだが結束の固いチームが前代未聞の計画をスタートさせる。ネット・トレーディング、ハッカー、代理母、胎児細胞、瞬間像記憶…今日的アイテムをふんだんに盛り込んだノンストップ誘拐ミステリー。第2回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。


本書は第2回「このミステリーがすごい」大賞を受賞した作品で、応募時は『夜の河にすべてを流せ』という題名だった。
受賞時のものを何度も手直しして「パーフェクト・プラン」として世の中に出てきた作品である。

物語の「起承転結」としては面白かった(のだろう)。

かつては銀座で華やかな人気ホステスだったが、今や年には逆らえず、代理母として生計を立てている小田桐良江。彼女が代理母として産み落とした三輪俊英と三輪咲子の子供の俊成を誘拐しちゃう(おいおい・・・)。
俊成は三輪咲子に虐待されていたのである。言葉の発達も遅い俊成を咲子は気に入らず、なおかつ、独立して投資アドバイザーとして「インフィニティ」を設立した俊英も仕事が遅く咲子にかまっていられない。夫婦間の軋轢により三輪はぎくしゃくしていた。そんな中の誘拐騒動である。俊英は友人の山中と作成した市場分析プログラム「MODE-I」を駆使して投資を行っていた。設立当初はかなり儲かっていたが、このところ「MODE-I」のプログラムに微妙にズレが生じ、それが原因となり会社の存続が危ぶまれている。まさに頑張りどころって感じである。そんなところに俊成の誘拐である。

一方なんの計画もなく発作的に俊成を誘拐してしまった小田桐良江は昔の恋人の田代幸司に連絡をする。田代は思案して田代の兄貴分でもある、カジノ店長の赤星サトルに相談を持ちかける。そこで二人して裏社会で幅を効かせている張龍生にさらに相談する。
張龍生は元々株の世界で生きてきたトレーダーだった。投資アドバイザーの三輪俊英の子供と聞き素晴らしい計画を思いつく。

本来は張龍生と三輪俊英の対決だった筈だがここに新たに謎のハッカーが登場する。(さあ、こっからわけわかんなくなってきた・・・)
誘拐の捜査に加わった女刑事の鈴村馨はなんと趣味で覚えたハッキングの技を駆使して(おいおい、警察官でしょ。あんた・・・)誘拐事件とハッカーの二人を追いかける。

どうも、嘘っぽい話である。
この本はいちいち考えて読んで粗を探して読む本ではない。林真理子がこの本を読んだらそりゃーもう大変なことになるよ。
嘘・ホントはおいておいて、活字を読むのが楽しくなる本ではある。

話題のトピックとして、ハッカー、ES細胞、瞬間映像記憶、イデオ・サヴァン、引きこもり、何でもござれである。ただ、これらは本書を読む上で「絶対的に」必要なことではない。これらの小枝が大きすぎても小さすぎてもだめだろう。
不思議なバランスで書かれた小説である。

読後の爽快感は得られると思う。
何も考えずに読める小説で、りょーち的にはGood。

ストーリーよりも登場人物が良い。
もう、破天荒(って言葉使わない?)な登場人物が登場しまくりである。刑事の鈴村馨もそうとうアナザーディメンジョンに「逝って」ますし、三輪咲子に至ってはホラーっすね。
りょーちの選ぶNo.1キャラは「張龍生の父」っすか? この親父、実はストーリー上で重要な人物である。それなのに、なんか場が和む・・・

いろいろなサイトを見ると「パーフェクト・プラン」には賛否両論あるようだが、りょーちはこの「張龍生の父」があったので、及第点かなと思う。人間を書くのは上手だと思うので(って偉そうにすみません・・・・)今後に期待っす。

柳原慧さん、頑張ってください。(って見てないか・・・)


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2004年09月30日

コナン・ドイル:「失われた世界」 このエントリーをはてなブックマークに追加

失われた世界 痛快世界の冒険文学 (13)
森 詠 影山 徹
講談社
売り上げランキング: 281803


りょーち的おすすめ度:
「失われた世界」。英語で「lost world」じゃの。
コナン・ドイルって言えばあんた、シャーロックホームズの生みの親ですよ。
りょーち、コナン・ドイルがこの「失われた世界」のような本を書いていることを今まで知りませんでした・・・(浅はか?) 
「失われた世界」は南アマゾン(舞台のモデルはギニア高地らしい)に絶滅したはずの恐竜たちが生存していると学会発表したチャレンジャー教授が学会から相手にされなかったため(って当たり前だが)「じゃあ、一緒に嘘かホントか見にいっちゃいましょう」ってことで新聞記者や他の研究者とともにアマゾン奥地へ行ってやいのやいの、どうだどうだと探検する冒険譚である。
いや、これがマジで面白い。幼少の頃にこの本を読んでいたらりょーちは「将来探検家になる!」と宣言しておったであろう。
りょーちてきにはなんとなく小栗虫太郎の「人外魔境」のイメージが強かった。(ってドイルより「人外魔境」を後に読んだ人は同じような感想を持つのかな?)
「失われた世界」は調べてみると1912年に書かれた本らしい。当時はまだ第2次世界大戦すら始まっていない時代。当時はこの舞台のギニア高地はまだ開拓されてなく文字通り未踏の地だった。そこにドイルが想像力を働かせ、このような素晴らしい作品を書いた。現代では到底生まれることのない作品だと思う。
探検隊には恋人に振られてやけっぱちになった新聞記者のマローン、学会で敵対するサマリー教授、世界に名を轟かせる冒険家のジョン・ロクストンである。
彼らとそのガイドの行く手には様々な艱難辛苦が待ち受けていた。
インディオや原住民との息詰まる戦いはワクワクするほど面白く書かれている。映像が目に浮かぶようだ。このあたり森 詠文さんの文章は上手い。
果たして恐竜は存在するのか?チャレンジャー教授の妄想なのか・・・

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貫井徳郎:「神のふたつの貌」 このエントリーをはてなブックマークに追加

神のふたつの貌 (文春文庫)
貫井 徳郎
文藝春秋
売り上げランキング: 115170


りょーち的おすすめ度:

うーむ。何故あまり心に響かなかったのか・・・
貫井徳郎さんの小説はかなり気に入っているのだが、今回りょーちが今ひとつ入り込めなかったのは主人公にあると思う。片田舎にある教会の牧師の息子、早乙女輝の成長とともに物語りは推移していく。少年期、青年期、壮年期ってとこなのか?

本書の中心にはキリスト教が座している。キリスト教はりょーち、あまり詳しくないし(無神論者ってわけでもないのだが・・・)宗教はよくわからん。キリスト教には「汝の敵を愛せよ」とか「右の頬を打たれたら左の頬をだしてくんなまし」とかよくわからないことが多い。輝は牧師の家に生まれたため好む好まざるにかかわらず生活の中に宗教が同居している。こういった世界観にどっぷり浸れる人はよいのかも知れないが、ちょっと引いてしまった。
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2004年09月29日

梁石日:「睡魔」 このエントリーをはてなブックマークに追加

睡魔 (幻冬舎文庫)
睡魔 (幻冬舎文庫)
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梁 石日
幻冬舎
売り上げランキング: 349174


りょーち的おすすめ度:
面白い。非常にGoodである。

著者の梁石日(ヤン・ソギル)自身も在日朝鮮人なのだがこの本の登場人物の趙奉三も在日朝鮮人である。また、梁石日は作家になる前にはタクシーの運転手をしており、この主人公もタクシーの運転手である。事前にこの知識があるかないかでこの本への感情移入度合いが異なる。
りょーちの場合はこの情報を事前にGetしていたので、かなり本人と主人公がオーバーラップして面白く読めた。またこの本の骨子となるエピソードの「マルチ商法」も作者の梁石日が実体験した経験を元に書かれており仔細な記述が見受けられる。
本書を読んで世界観は新堂冬樹:「カリスマ」に似ているなと思った。
何が似ているかといえば、あるカリスマ性を持つ人間の下で人が堕ちていく美学がどちらにも書かれている。出てくる人間が全てダメ人間というのも新堂冬樹のカリスマと似ている。世の中の人々は「なんでネズミ講なんかにかかる人がいるんだろう・・・」と疑問を持つかもしれないが、この本を読んだ後、正直「オレ、ちょっとやばいかも・・・」と思わずにいられなかった。それほど人が堕ちていくプロセスや心の動きが上手く書かれている。
更に追い詰められた人は家族や友人にまでの魔の手を伸ばす。世の中楽して儲かることはないと思う。だが一旦負のスパイラルに取り込まれてしまうとこの本の主人公のようになる可能性は誰にでもある。作者の実体験から来る話なので読んでいてフィクションなのかノンフィクションなのかわからなくなることもしばしばだった。
楽して儲けたお金は身につかない。ことわざにも「悪銭身につかず」とある。お金は潤沢にあっても無一文でも人の心を狂わせる。



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2004年09月27日

アレクサンドル・デュマ:「モンテクリスト伯」 このエントリーをはてなブックマークに追加

モンテ・クリスト伯 痛快世界の冒険文学 (15)
村松 友[] 黒鉄 ヒロシ
講談社
売り上げランキング: 719784


りょーち的おすすめ度:

ってことでモンテクリスト伯なのだ。どーよ、大きく出たよ、りょーちってば・・・
岩波書店から全7冊で出版されているようであるが、そんなお堅いものは読まない。
りょーちが読んだのはなんと、子供向けにやさしく書かれたりょーちの読んだ「モンテ・クリスト伯」は少年少女用に編纂されていたので、岩波書店の高尚なバージョンは読んでいないのである。著者のアレクサンドル・デュマはあの「三銃士」を書いた作家さんである(あ、知ってるか?)。
この本には、解説として「物語の関係地図」や「ナポレオンとはどんな人?」(こっちのナポレオンぢゃないよ)など当時の説明などが詳細に掲載されている。また物語中のことばの解説なども挿絵付で紹介され、イラストはあの「黒鉄ヒロシ」さん、文章は村松友視さん、解説も「ミステリ・ベスト201」を手がけている池上冬樹さんっていう、もう大スター目白押しなのである。

これ、結構いいね。推理小説だね、これ。やるな、デュマ。
ストーリー的には東海テレビのお昼の13:30からのシリーズになっても遜色ない内容だわ、こりゃ。

無実の罪を着せられたエドモン・ダンテスは14年間獄中生活を送る。牢獄内で知り合ったファリア司祭からヒミツの宝のありかを教えられたダンテスは牢獄から脱走し、復讐に燃えるのだ。彼を陥れたのは、投獄前に婚約したメルセデスを妻とするフェルナンとマルセイユの検事補のヴィルフォール、ファラオン号の会計係で後に銀行家となるダングラール。
ダンテスが脱走した頃と時を同じくし、パリに謎の男モンテ・クリスト伯爵が現れる。潤沢な財力と見事な射撃の腕前、優れた知識を有するモンテ・クリスト伯爵は一躍パリでは知らぬものがいないほどの人物となった。
モンテクリスト伯爵が見せる様々な智謀・策略は実に見事なものである。おそらく岩波書店のバージョンを購入したら、これほど心躍ることはなかったように思う。

有名小説なんだけどちょっと手を出しにくいなと思う人にはこのような本も用意されている。
是非ご一読を。


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2004年09月26日

花村萬月:「紫苑」 このエントリーをはてなブックマークに追加

紫苑 (徳間文庫)
紫苑 (徳間文庫)
posted with amazlet at 12.09.01
花村 萬月
徳間書店
売り上げランキング: 188792


りょーち的おすすめ度:

文庫本帯より
天涯孤独の美少女、紫苑は修道院で育てられた。彼女が神の名のもとに修得したものは殺人の技術だった。神父の命に従い政府要人を密殺する紫苑。しかし彼女は常に狙われていた。心を許していたマンションの管理人も実は彼女を狙う暗殺者だった。不安と絶望の中、カメラマンの伊東と出逢い、惹かれていく。伊東と結ばれたことで、組織と自分への疑念はさらに膨らむが…狂気に満ちた愛を描く長篇ブルース。

小説としては悪い話ではないが、気分的に鬱になる内容だった。やりきれない感じ。
山崎紫苑(しおん)は21歳の女性。紫苑の育った修道院の裏の顔は暗殺組織だった。暗殺者としての生き方のみを神父より教えられ、与えられた任務を果たすことで自分の存在を確かなものにしていた。
一人暮らしをはじめた紫苑には自ら考えることを覚え、日に日に修道院や神父のあり方に疑問を持つようになった。
はじめての外の世界でいろいろな人に会う。
マンションの管理人、ナンパ好きの青年、フリーカメラマンの伊東。
それぞれの出会いにはそれぞれの別れがある。紫苑は自分を表現する方法を殺人でしか表現できなかったが、伊東との出会いで愛することを覚える。
花村萬月さんの書く本にはやはり「暴力」と「愛」というのは外せないテーマなのかもしれない。また本書では修道院が舞台となっており、花村萬月さんの宗教観も垣間見ることができると思う。「宗教とヤクザは同じようなもの」という感覚はなんとなくわかる気がする。また花村萬月さんの作品の目線はなんとなく地面すれすれくらいの低いところから世の中を見ているような気がする。だからこそ、その小説にリアルさが生まれるのかもしれない。本書の物語の設定は宗教団体を隠れ蓑にした暗殺集団の物語になるのだが、読んでいくうちに違和感が不思議となくなっていく。
本書は花村萬月さんの初期の作品だったがこの作品では「暴力」の部分よりも「愛」の部分を強く表現したかったのに違いない。「愛」の存在に気づき、「愛する」ことを覚えた紫苑にとってのラストはなんとも言えない寂しさが漂って余韻に浸れますが同時に暗鬱とした気持ちにもなる終わり方。うーむ。でもこれでよいのだろう。(きっと・・・)

また、花村萬月作品を買うばい。
読むたびに好きになっていく作家さんである。

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2004年09月24日

横溝正史:「悪魔の手毬唄」 このエントリーをはてなブックマークに追加

悪魔の手毬唄 (角川文庫)
横溝 正史
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 107035


りょーち的おすすめ度:

文庫本帯より
岡山と兵庫の県境、四方を山に囲まれた鬼首村。この地に昔から伝わる手毬唄が、次々と奇怪な事件を引き起こす。数え唄の歌詞通りに人が死ぬのだ!
現場に残される不思議な暗号は何を意味するのか? 事件の真相を探るうちに、20年前に迷宮入りになった殺人事件が浮かび上がってくる・・・。好評「八つ墓村」に続く戦慄の推理長編!


悪魔の手毬唄を熱病に罹ったかの如く読んでみた。
やっぱり横溝正史はイイ! 間違いないっす。

表題に「悪魔の」とついているので「悪魔が来りて笛を吹く」と比較されやすいかもしれないが、りょーちは「手毬唄」の方が好き。
事件は岡山県の片田舎で起きる。昭和初期の村社会のため、外界と一見隔絶されたような印象を受けるが、解決の糸口は神戸で見つかる。この本、登場人物が異常に多くて読んでいるとどいつもこいつも犯人に見えてくる(爆)。
赤痣の少女や正体不明のお婆さんなど、横溝正史ワールド満載である。
金田一耕助のキャラクターといえばりょーちの中では古谷一行なのだがみなさんはどうであろうか? (渥美清はちょっと・・・)。金田一耕助って事件は一応解決させるんだけど、解決したときって殆ど人が殺された後ってイメージありません?
で、犯人も最後には死んじゃうみたいな・・・
本書では鬼首村(おにこべむら)に伝わる手毬唄がポイントとなっている。昔の民謡や数え歌などはよく歌詞の意味を聞くと非常に怖いものが多々ある。井上夢人のダレカガナカニイル・・・でも「かごめかごめ」が題材に使われている。本書の手毬唄は勿論本当に存在するものではないが、非常に効果的にこの手毬唄が出てきます。内容が怖いのは方言のためもある。唄に出てくる文句で「返された」という語句がでてきますが、これは岡山県の方言で「殺された」という意味です。そう考えるとこの手毬唄を小さな子供が遊びで歌っている姿ってホラーじゃないですか?
この作品は映像にすると非常に恐ろしい描写が多々あります。殺され方も酷い・・・
ただ、惜しむらくはこの凄惨な殺され方と犯人の動機が今ひとつりょーちの中でリンクしなかったことが残念だったかも。
久々に読んだが、エンターテイメントとしては一級品の作品です。横溝正史をこれから読む人には、本陣殺人事件八つ墓村などを読むよりも前にこの本を読んでみてもよいかもしれない。

勢いで、下記の本も予約したばい。


到着が楽しみばい(^^;

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2004年09月19日

二階堂黎人:「地獄の奇術師」 このエントリーをはてなブックマークに追加

地獄の奇術師 (講談社文庫)
二階堂 黎人
講談社
売り上げランキング: 579397


りょーち的おすすめ度:
単行本の紹介文引用:
十字架屋敷と呼ばれる実業家の邸宅に。ミイラのような男が出没した。顔中に包帯を巻いた、異様な格好である。自らを「地獄の奇術師」と名乗り、復讐のためにこの実業家一族を皆殺しにすると予告をしたのだ。「地獄の奇術師」の目的は何なのか? 女子高生で名探偵、二階堂蘭子の推理が冴え渡る、本格探偵小説!


二階堂黎人さんの本をはじめて読んだ。本格派である。本書<地獄の奇術師にも二階堂黎人という人物が登場する。実際のホームズ役は妹の二階堂蘭子の役である。二階堂黎人さんのシリーズものの第1作である本書は、ミステリー好きにはたまらない仕掛けや薀蓄(うんちく)が随所にちりばめられている。これからミステリーを読もうとする若い読者の方にも比較的受け入れられやすい内容となっている。
事件は昭和42年の12月に起こる。昭和42年には携帯電話もない時代だ。時代は古いがトリックや犯人探しの手順などは古さをあまり感じさせない。
まだ高校生の蘭子の明晰な頭脳に周囲も目を見張る。蘭子は本書で一度挫折を経験する。高校生という年代であれば誰でも少なからず挫折を経験していると思うが蘭子の挫折は人の生死がかかったものであり、その意味も非常に深い。蘭子は犯人をいい間違えたのである。
この後の二階堂蘭子シリーズではこの犯人いい間違えの教訓を元に、逆に自分の中で完璧にストーリーが出来上がってこない限り蘭子は事件の話を回りに吹聴しなくなったようである。
本書の題名でもある、「地獄の奇術師」という恐ろしい化け物が様々な殺人事件を繰り返す。本書は「地獄の奇術師は誰なのか」という一貫した謎が存在し、事件が進んでいく。事件が進む中で蘭子が時折見せる自分の今まで読んだ小説の中の引用文やトリックを見るだけでも十分面白い。
なお、この事件の真犯人にりょーちは全く同情の余地はなかった。もう最悪の人間であった。
またこの犯人の顔中に包帯を巻いた「地獄の奇術師」の描写は犬神家の一族の犬神佐清を彷彿とさせる。(フジテレビ:犬神家の一族も参照)

二階堂蘭子シリーズは他にもガンガン出ているようなので、次回また読んでみよう。登場人物が結構多く、はじめのうち(感情が入ってこないうち)は結構戸惑ったが問題ないであろう。本格派入門小説としてもおすすめばい。現代の時代より数十年前の話はちょっと苦手な人にもそれなりに小説の構成はしっかりしているので読めるとは思います。


二階堂黎人のプロフィール:http://homepage1.nifty.com/NIKAIDOU/


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2004年09月18日

花村萬月:「ブルース」 このエントリーをはてなブックマークに追加

ブルース (角川文庫)
ブルース (角川文庫)
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花村 萬月
角川書店
売り上げランキング: 258058


りょーち的おすすめ度:


単行本の紹介文引用:
南シナ海の烈風。眼窩で砕ける三角波。激しい時化に呻く25万トンの巨大タンカーの中で、村上の友人、崔は死んだ。仕事中の事故とはいえ、崔を死に至らしめた原因は、日本刀を片手に彼らを監督する徳山の執拗ないたぶりにあった。徳山は同性愛者であった。そして村上を愛していた。村上と親しかった崔の死こそ徳山の嫉妬であり、彼独自の愛の形であった。
横浜・寿町を舞台に、錆び付いたギタリスト村上とエキセントリックな歌姫(ヴォーカル)綾、そしてホモのヤクザ徳山が奏でる哀しい旋律。芥川賞作家が描く、濃密で過剰な物語


いろいろ考えさせられたよ。この本。花村萬月という作者はすごい。
ブルースではこうやってのほほんとWebでBlogを見ていそうな人間は出てこない。
この本の中心人物は「綾」という横浜のライブハウスで歌うハーフの美少女と、人生に挫折した元一流ギタリストの「村上」、ヤクザだがホモである非常に暴力的な「徳山」。
徳山は村上を愛し、綾は村上を必要としている。村上は終始頑なな態度を崩さない。

登場人物すべてに悲哀・やるせなさを感じる。しかしすべてが絶望的ではない。少なくともこの中の2名は次への第一歩を踏み出したのであろう。
花村萬月描く「暴力」には「愛のある暴力」が多い。ただ、作中の登場人物は(特に徳山は)暴力を振るうことが目的ではなく代償行為なのだ。何の代償行為かと言えばそれは「愛」に他ならない。人は誰かを愛したいし愛されたい。
愛するには誰か「相手」が必要だ。「相手」が自分と同じだけの大きさで「愛」を与えてくれ、自分の「愛」を受け入れてくれれば世の中は上手くいくのだろうが、現実としてそんな平等な愛は存在しない。
人は自分と他人の間に何らかの関係を築き、そのバランスを維持するために会話したり、ふざけ合ったり、時には憎みあったりして、バランスを保持している。
そのバランスが崩壊した際に悲劇は起きる。自分だけの問題でそれが生じることもあれば、自分ではどうすることもできない外的要因によりバランスが崩されることもある。
そこでどう、このバランスを維持するかは個々のポテンシャルによって異なり、維持する方法(手段)も異なる。
綾の場合それが音楽(ブルース)であり、徳山にとってはそれは暴力だった。
村上はその手法さえも見失った状態であった。綾も徳山もそれぞれの方法で愛する村上にそれを気づかせようとする。
三人のステージは花村萬月という最高の指揮者を得て、哀しい音色を奏でる・・・

花村萬月を読んでいない方には是非すすめたい。

ちなみに、二進法の犬も超おすすめ。こんどレビューしちゃうばい。

■他の方の感想:
花村萬月「ブルース」本の虫/ウェブリブログ


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2004年09月12日

新堂冬樹:「カリスマ」 このエントリーをはてなブックマークに追加

カリスマ (上)
カリスマ (上)
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新堂 冬樹
徳間書店 (2001/03)
売り上げランキング: 85,446
カリスマ (下)
カリスマ (下)
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新堂 冬樹
徳間書店 (2001/03)
売り上げランキング: 91,590


りょーち的おすすめ度:

怖かったし、気持ち悪かった。

この本でいう「カリスマ」とは「教祖」のこと。果てしなく暴力的で、果てしなく汚く、情けない。人間のこういった弱い部分は普段自分自身でも気にせず生きている。新興宗教に引っかかる人というのはいろいろなタイプがあるようだが、宗教自体を否定しているのではない。ただ、宗教にのめりこんでしまう人はある程度分類できる。
本来宗教は目的ではなく手段であるはずである。宗教活動を行うことが目的じゃなく、どっかのなんとかって神様を崇めることでよりよい自分に近づくってことじゃないかと感じる。
ただ、この「よりよい自分」ってのが人によって全く異なり数学の公式に当てはめて答えがでるようなものでもない。要は宗教活動の結果は非常に見えにくいのである。これは新興宗教に限らず殆どすべての宗教活動において言えるのではないか?
信者は救われたいのだ。特に宗教活動にのめりこむ人々は周囲が見えなくなっている。「もう宗教しか道はない」と思っちゃう。ここが恐ろしい。
一般の人々は何故こういった壊れちゃう人が頻出して社会問題になっているかってのはよくわからないと思う。当事者意識がないからってのもあるんだけど、この本を読むと「人が堕ちていくプロセス」が非常にリアルに書かれている。そこが気持ち悪い。
何故、新堂 冬樹という作家はここまで人の心をわかっているのか? その洞察力と圧倒的なリアリティはどうやって手に入れたのか?
本書に登場する新興宗教「神の郷」を主催する神郷宝仙は幼少の頃、父と母を失う。このシーンが冒頭に書かれているが、「いやー、もう気色悪いっす。恐ろしいっす。えげつないっす」。「黒板を爪でキーッ。ギギギーッ」って感じ。ここの文章だけでも読んでおく価値があると思う。新堂 冬樹の筆力は確かなものだと感じる。この本を読むにはおそらくそれなりのパワーが必要。得体の知れない何かが本の中にいて、読者のパワーを吸い取ろうと狙っているのではないかとも思う。恐ろしい・・・
さて、本書のタイトルでもあるこの「カリスマ」という言葉とは裏腹に、新興宗教団体の主催者、神郷宝仙にカリスマ性は全く見出せない。でもこの本のタイトルはりょーちも「カリスマ」でいいと思う。

オドロオドロシイ新堂 冬樹ワールドを堪能するのに持って来いの一冊。作者の書籍をまだ一度も読んだことのない人はこの本からはじめてください。

ありです。
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