りょーち的おすすめ度:

服部真澄さんの作品は問題定義となるテーマが明確でわかりやすい。「龍の契り」においては、香港返還。「鷲の驕り」に関しては特許ビジネスと上手く括れる(気がする)。
本書、GMOではアグリビジネスについての警鐘を唱えている。GMOとは「Genetically Modified Organism」の略で日本語では「遺伝子組み換え作物」と訳される。本書はある企業が寡占で遺伝子組み換え作物を人類に提供するとどうなるかという点について様々な考えを巡らせている。
環境問題は一般社会において重要なメッセージとなり得る。それは他人事ではないという点に集約されるからだと思う。
主人公の蓮尾一生は、昔活躍したライターだったが、現在は専門書を中心とする翻訳業に従事している。翻訳業というのは非常に高尚な業務のひとつだと思うが、今まで自分で取材し、世間に問題定義をしていた蓮尾には自分をごまかして仕事をしている感もあった。
そんな中、蓮尾の身辺である事件が起こった。隣人に住んでいた友人のアダムという義手の少年が火事によって焼死した。今まで以上に落ち込んだ蓮尾は友人の死にあるとき疑問を覚え探偵のアール・カッツに調査を依頼する。
一方何時までも落ち込んでいるわけにも行かず、一念発起し翻訳活動に身を入れはじめる。世界的ワインジャーナリストのシリル・ドランの作品に取り掛かる蓮尾は更に世界的に名声を上げている科学ジャーナリストのレックス・ウォルシュの新作の翻訳権を得るためにレックスに交渉を開始する。レックスの書籍の翻訳権はどの出版社も喉から手が出るほどに欲しい権利だが、意外なことにレックスは蓮尾に翻訳権を委譲することと決めた。
その際レックスから「契約書なしで話しを進める」ということと「前金でレックスに150万ドル支払う」という条件で話しが進んだ。訝しく思いながらも蓮尾は150万ドルを支払ったが当のレックスが数ページの前書きを蓮尾に郵送後契約を解除したいと一方的に提案し、更に行方不明になる。
レックスに渡された原稿を頼りに蓮尾はレックスを探しにボリヴィアに旅立つ。
コカインビジネスにおけるマフィアとの関係。ワインビジネスに問題となる害虫のフィロキセラについて。表題にもなっている遺伝子組み換え技術。魚のカレイは低温でも耐性がある遺伝子を持つためその遺伝子を有するジャガイモを作り寒冷地でも可能な作物を作り出すような動きも見えている。
アグリビジネスの世界トップシェアを誇るジェネアグリの奸計に蓮尾は立ち向かう。
もう、めちゃくちゃ面白いっす。
登場人物もいい。
蓮尾の担当編集者の三角乃梨の投げやりなのか親身になっているのかわからない性格。前述の真面目なのか不真面目なのかわからないが調査は進んでいる探偵のアール・カッツ。神出鬼没な役回りで正体不明の日系二世、ホセ・ルイス・比嘉。
更に、本書で最も重要な役割を持つ、レックス・ウォルシュ。レックスは自他共に認める世界的な若手科学ジャーナリストなのだが、蓮尾は自分をレックスに重ねて翻訳を行っていた。一方、実はレックスも蓮尾に自分に似たものを独自の嗅覚で感じていた。これが物語の結末に大きく関係してくる。
そして主人公の蓮尾。はじめのうちは、典型的なダメ人間かと思いきや、アダムの死から立ち直ってからの彼の行動力、分析力には目を見張るものがある。こんな人間がいたらちょっと尊敬してしまう。
服部真澄さんはよくここまでこういった壮大なテーマを描けるなーと感心してしまいます。しかも、最後には「あっ」と言わせる(言わざるを得ない)終わり方になっています。ホントに息つく暇もなく一気に読んじゃいました。嘘も大きければ真実になるのかもしれない。服部真澄さんのあまりにも大きな「嘘(フィクション)」に騙されるのが快感になります。
ただ、本書で紹介されているGM作物、GM昆虫などはフィクションではなく、実際全世界で生物学者達がやっきになって研究していることに非常に恐ろしさを感じました。
読後に以前読んだ「龍の契り」「鷲の驕り」も再読したくなりました。
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