2004年11月02日

服部真澄:「GMO」 このエントリーをはてなブックマークに追加

GMO(上)
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服部 真澄
新潮社
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GMO(下)
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服部 真澄
新潮社
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りょーち的おすすめ度:

服部真澄さんの作品は問題定義となるテーマが明確でわかりやすい。「龍の契り」においては、香港返還。「鷲の驕り」に関しては特許ビジネスと上手く括れる(気がする)。
本書、GMOではアグリビジネスについての警鐘を唱えている。GMOとは「Genetically Modified Organism」の略で日本語では「遺伝子組み換え作物」と訳される。本書はある企業が寡占で遺伝子組み換え作物を人類に提供するとどうなるかという点について様々な考えを巡らせている。
環境問題は一般社会において重要なメッセージとなり得る。それは他人事ではないという点に集約されるからだと思う。
主人公の蓮尾一生は、昔活躍したライターだったが、現在は専門書を中心とする翻訳業に従事している。翻訳業というのは非常に高尚な業務のひとつだと思うが、今まで自分で取材し、世間に問題定義をしていた蓮尾には自分をごまかして仕事をしている感もあった。
そんな中、蓮尾の身辺である事件が起こった。隣人に住んでいた友人のアダムという義手の少年が火事によって焼死した。今まで以上に落ち込んだ蓮尾は友人の死にあるとき疑問を覚え探偵のアール・カッツに調査を依頼する。
一方何時までも落ち込んでいるわけにも行かず、一念発起し翻訳活動に身を入れはじめる。世界的ワインジャーナリストのシリル・ドランの作品に取り掛かる蓮尾は更に世界的に名声を上げている科学ジャーナリストのレックス・ウォルシュの新作の翻訳権を得るためにレックスに交渉を開始する。レックスの書籍の翻訳権はどの出版社も喉から手が出るほどに欲しい権利だが、意外なことにレックスは蓮尾に翻訳権を委譲することと決めた。
その際レックスから「契約書なしで話しを進める」ということと「前金でレックスに150万ドル支払う」という条件で話しが進んだ。訝しく思いながらも蓮尾は150万ドルを支払ったが当のレックスが数ページの前書きを蓮尾に郵送後契約を解除したいと一方的に提案し、更に行方不明になる。
レックスに渡された原稿を頼りに蓮尾はレックスを探しにボリヴィアに旅立つ。

コカインビジネスにおけるマフィアとの関係。ワインビジネスに問題となる害虫のフィロキセラについて。表題にもなっている遺伝子組み換え技術。魚のカレイは低温でも耐性がある遺伝子を持つためその遺伝子を有するジャガイモを作り寒冷地でも可能な作物を作り出すような動きも見えている。
アグリビジネスの世界トップシェアを誇るジェネアグリの奸計に蓮尾は立ち向かう。
もう、めちゃくちゃ面白いっす。

登場人物もいい。
蓮尾の担当編集者の三角乃梨の投げやりなのか親身になっているのかわからない性格。前述の真面目なのか不真面目なのかわからないが調査は進んでいる探偵のアール・カッツ。神出鬼没な役回りで正体不明の日系二世、ホセ・ルイス・比嘉。
更に、本書で最も重要な役割を持つ、レックス・ウォルシュ。レックスは自他共に認める世界的な若手科学ジャーナリストなのだが、蓮尾は自分をレックスに重ねて翻訳を行っていた。一方、実はレックスも蓮尾に自分に似たものを独自の嗅覚で感じていた。これが物語の結末に大きく関係してくる。
そして主人公の蓮尾。はじめのうちは、典型的なダメ人間かと思いきや、アダムの死から立ち直ってからの彼の行動力、分析力には目を見張るものがある。こんな人間がいたらちょっと尊敬してしまう。
服部真澄さんはよくここまでこういった壮大なテーマを描けるなーと感心してしまいます。しかも、最後には「あっ」と言わせる(言わざるを得ない)終わり方になっています。ホントに息つく暇もなく一気に読んじゃいました。嘘も大きければ真実になるのかもしれない。服部真澄さんのあまりにも大きな「嘘(フィクション)」に騙されるのが快感になります。
ただ、本書で紹介されているGM作物、GM昆虫などはフィクションではなく、実際全世界で生物学者達がやっきになって研究していることに非常に恐ろしさを感じました。

読後に以前読んだ「龍の契り」「鷲の驕り」も再読したくなりました。



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2004年11月01日

上田早夕里:「火星ダーク・バラード」 このエントリーをはてなブックマークに追加

火星ダーク・バラード (ハルキ文庫)
上田 早夕里
角川春樹事務所
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りょーち的おすすめ度:

今年は肉眼で火星が見えるほど地球と火星の距離が近づいた年だった。
空を見上げて一際明るい赤く輝く星に昔の人は恐怖や憧れなどを抱いたのだと思う。SFの世界では身近な惑星である火星にはもちろん蛸の姿をした火星人はいない。近未来に人類は火星へとその居住範囲を広げた。火星はテラ・フォーミングという技術により地球人が住める環境へと作り変えられ火星の開発が進められている。
この物語は、人類が火星に進出後かなりの月日が経った時点での物語である。

事件はその火星を舞台にして起こる。PDの水島烈は後先考えずに突っ走って組織に馴染めないタイプ。ある日、女性のみを狙う殺人犯のジョエル・タニをめでたく逮捕したが、あろうことか護送中の電車に絶滅したはずの恐竜が出現する!凶暴な恐竜に水島は立ち向かうが相棒の璃奈を殺され、ジョエルは逃走してしまう。更にジョエル逃亡幇助、璃奈殺害の罪で身柄を拘束されてしまう。真実を暴くため水島は自力で捜査を開始するが調査が進むにつれ、同じ電車に乗っていたアデリーンという美少女に出会う。アデリーンは「超共感性」という特殊な力を持っており、自分は90%以上が人為的に組み替えられた遺伝子から作られた人間であると話す。
アデリーンの話しから類推すると「超共感性」とは他者の力を吸収・増幅し実在化させるような力のようである。
アデリーンのような力を持つ別の人類であるプログレッシブは他にも何名かいるようであるが、アデリーンは特に強い力を秘めている。プログレッシブを作り出す計画は地球政府主導ではなく火星政府の独自の判断によるものであり、更に真の主導者はアデリーンの父、グレアムである。
グレアムが何故プログレッシブの計画を進めたかなど読んでいて、「うーむなるほど」と思う場面もあった。本書は、水島とアデリーンが主人公といえると思うが、りょーちはこのグレアムなるおっさんに結構興味をひかれた。もしグレアムと同じ経験を受けたなら、十分な知識と資金力・技術力・政治力があればグレアムと同じ道を辿ってしまうかもしれない。
また、彼女の「超共感性」を開発するための学校の教官のジャネットの卑屈さや、水島を助けるつもりがあるのかないのかわからないユ・ギヒョンの言動など、魅力あるサブキャラも見逃せない。
また男性が女性を守る時代は終わったなーとも思った。このあたりは作者が女性だからとかそういうことでもない気がするばい。

本書は第四回小松左京賞を受賞している。ラブストーリーっぽいSFって感じである。(でもしっかりSFしてますよ)
2004年11月1日時点で次回作の「ゼウスの檻」の刊行が決定しており、ちょっと買ってみようかなーという気になっている。
今後の活動が楽しみな作家さんである。頑張ってくださーい!

あ、あと一言。ジョエルの名前は本文中では「ジョエル・タニ」と記載されていたが、帯の解説には「ジョエル・タキ」と書かれていた(細かい?)。校正よろしくお願いいたします・・・

上田早夕里オフィシャルページ

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2004年10月29日

有栖川有栖:「月光ゲーム」 このエントリーをはてなブックマークに追加

月光ゲーム―Yの悲劇’88 (創元推理文庫)
有栖川 有栖
東京創元社
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りょーち的おすすめ度:

これはイイですね。主人公=作者の形式は有栖川有栖さんの他に二階堂黎人さんなどのシリーズがありますね。本書も主人公の有栖川有栖が体験した事件を小説として記載している方式である。また、有栖川有栖さんのデビュー作でもある。
京都にある英都大学に入学した有栖川有栖が英都大学推理小説研究会(EMC)に入部した直後に起こる事件である。大学作者の有栖川有栖さんが同志社大学の卒業なので、英都大学=同志社大学とイメージして読み始めました。
夏合宿のために矢吹山にやってきたEMCのメンバー(部長の江神次郎、望月周平、織田光次郎)を連続殺人事件が待ち受けていた。矢吹山には、他の大学(雄林大学、神南学院短期大学)からも偶然参加しており、次々と殺人事件が起こる。矢吹山の突然の火山活動により、下山の退路を立たれたメンバー達は残り少ない食料の不安と連続殺人犯人に怯えながら昼夜を過ごす。
有栖は神南学院短期大学の姫原理代に淡い恋心を抱くが、時が経つにつれ彼女が犯人ではないかと確信し始める。このあたりのロマンスも読みどころですが、やはり圧巻は江神部長の鋭い推理ではないでしょうか? 読んでいてストーリー、推理に破綻が全くないと感じました。本格推理小説よろしく「読者への挑戦」も用意されている。メンバーが推理小説研究会だけにメンバー内でのしりとりや会話の端々にクイーンやポー、アガサ・クリスティなどに関する様々な薀蓄が聞けるのもよい。
こういったところで作者の今までの読書遍歴をうかがい知ることができる。江神部長と有栖がはじめて会う場面では江神部長が中井英夫の「虚無への供物」を読んでいるシーンなどでは、思わず「お、中井英夫だよ」とか思ってしまう。
さてさて、本書は山の中で退路を立たれたメンバーに降りかかる殺人事件なので、誰も外部へ出たり誰も外部から進入しない事件。つまりメンバーの中に犯人がいるのである。別のグループのメンバーの性格もあやふやだったりする中で江神が提示した犯人の指摘は本当に見事である。というかこのストーリーを生み出した有栖川有栖。やりますな。
本書を読んで思ったのは、名探偵をミスリードする役割の重要性である。名探偵が登場するってことは殺人事件が起こってからすぐに「君が犯人だね、それは○○××だから・・・」と説明して終わっちゃうじゃん。これだと推理小説にならない。如何に上手く名探偵がミスリードさせられているかによって推理小説の面白さ(読後の納得感)に繋がる。ミスリードはいくつもあるのだが、本書ではダイイングメッセージもそのひとつに上げられる。
江神が犯人のトリックを看破する場面は爽快だ。こんな部長がいるならりょーちもEMCに入部したいと思うばい。そしてEMCのメンバーの会話を聞いて、大学時代は懐かしかったなーという気分にさせられました(青春小説?)。本書はシリーズになっているので、続きも是非読んでみたいです。
推理小説を今まであまり読んでいない人にもお薦めです。


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2004年10月26日

居作昌果:「8時だョ!全員集合伝説」 このエントリーをはてなブックマークに追加

8時だョ!全員集合伝説 (双葉文庫)
居作 昌果
双葉社
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りょーち的おすすめ度:

ちょっと違う方面のものを読んでみようと思い、近所の本屋に行った際に平積みしてあった本を一冊拝借(あ、買いましたよ)してみたのがこの本である。でも、本書は2001年の発行なんだけど何故に平積みされていたのか?(書店の担当者がドリフ好き?)
興味深く読めた。が、言ってみれば古きよき時代のおじさんの自慢話だった。

ドリフだよ。ザ・ドリフターズである。往年のメンバーについていろいろ書いてあるな。当初は、いかりや長介、仲本工事、高木ブー、加藤茶、荒井注のメンバーだったが、荒井注が脱退後、志村けんが参加した。
今は、いかりや長介さん、荒井注さんが他界され昭和を盛り上げたメンバーは次々といなくなっており寂しい限りである。

8時だョ!全員集合は最高視聴率50%近く取っていた今の時代から考えると信じられない番組だった。(当時もお化け番組といわれていた。)
本書は「8時だョ!全員集合」のプロデューサーの居作(いづくり)さんが書かれた本である。メディア論として読むと「ちょっと違うんじゃないの?」と思うが、昭和テレビ史として読めばそれなりに面白い。

当時のドリフターズはりょーちもよく見ていた。低俗番組などと思ったこともなく、「土曜日の8時はドリフ」と決まっていた。今はそういった番組って気がつくとあまりないような気がする。これは現在は価値観が多様化し生活者はテレビ以外の娯楽も数多選び放題という背景がある。ただ、当時はドリフしかなかった。

コント55号に対抗すべくドリフターズを抜擢する話しや無理やり渡辺プロからクレージーキャッツを売り込めとの圧力に屈しなかった(ちょっと屈したが)とかかなり美化して書かれている。思い出はいつも美しい?
この作者、実は競馬のノミ行為で仲本工事、志村けんとともに捕まっている。このあたりも本書では触れているのだが、どうも自己正当化・自己保身が顕著に出ておりあまりいい印象を受けない。

ただ、冒頭に述べたように、昭和テレビ史として読むには多少はよいのかもしれない。キャンディーズ誕生秘話や世界の三船敏郎などの豪華ゲスト出演秘話など「7へぇー」くらいはある。

コントを考えるのも番組制作会社やライターや放送作家が考えるのではなく、純粋なテレビ局のスタッフとドリフターズたちで考えていたらしい。しかも土曜日の放送前の2日間はすべてリハーサルとしてドリフのスケジュールを押えていたようである。ドリフもこの番組に賭けていたようだ。作り手の真摯な態度は垣間見える。さらに生放送ならではの緊張感とハプニングについてはドキュメントとしては興味深い。8時丁度にホールが停電になりそのまま放送しちゃったりとか、火事なりかけ事件とかエピソードはいいんだけどなー。

一番気に入らなかったのは巻末部分で作者は昨今のテレビ番組について述べているが、どうもこれは余計な気がした。これはホントに「蛇足」だなーと思った。
あとがきも「時間ですよ」のプロデューサーの久世光彦といういかにもどうだまいったか的な人に書いてもらっている。


でもドリフターズは永遠です。(全員集合は16年間で放送回数803回、最高視聴率50.5%ってやっぱすごいな)

「お風呂入れよー」「歯、みがけよー」「また来週ー」


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2004年10月25日

福井晴敏:「川の深さは」 このエントリーをはてなブックマークに追加

川の深さは (講談社文庫)
福井 晴敏
講談社
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りょーち的おすすめ度:

福井晴敏さんの本は実は「亡国のイージス」をはじめに読んでおり、これに非常に感銘を受けたので、別の本も読んでみましょうということで、読んだのが本書「川の深さは」なのである。

本書の主人公は警察官を退職し警備会社に勤める桃山が勤めるビルにヤクザから逃亡してきた葵という少女と保という少年が舞い込んできたところから始まる。はじめは桃山に心を閉ざす保は次第に自己の置かれている身の上話を少しづつ切り出していく。保の純粋な心と葵の純粋な愛情に心を打たれますっ。
本書の中で葵が読んでいる雑誌の心理テストがあり、桃山と保に同じ質問を投げかけている。
あなたの目の前に川が流れています。その川の深さはどれくらいあるでしょう?
1.足首まで
2.膝まで
3.腰まで
4.肩まで

私はちなみに2でした・・・。桃山と保は4でした。この心理テストはあなたの情熱度を知るテストのようで「肩まで」と回答した両名は情熱過多であるようだ。どちらも熱い男らしい。ストーリーとタイトルとあまり関係がないように思えるが、読んでいてこのタイトル、いいっすねーと思った。

保が守っているものはストーリー上は葵と葵の父が作ったプログラムの入ったフロッピーなのだが、保が本当に守っていたのは自分のプライドなのかなーとも読めた。人の行動原理としてプライドというのは結構上位に優先するらしい。勿論保はそのようなことを意識して何かを守っているのではないというであろう。問われたら「それが任務だから」とでも答えるような冷めたキャラクターとして書かれている。
保のキャラは「亡国のイージス」の行とかなりカブる気がする。でも、いいのだ。魅力的であれば。
本書の中で、新興宗教団体が起こした爆破テロ事件が起こっており、オウム真理教をイメージさせている。日本でもテロが起きてしまい世界一安全な国という神話が崩壊している。こういったときに頼るのは本来警察か自衛隊なのだと思うのだが、どちらも大きな組織で縦割り社会なのか今ひとつ機動力は怪しいと庶民は感じていると思います。こういった疑問を作者の福井晴敏さんも強く感じているのではなかろうかと思います。(違うか?)また、本書は作者の福井晴敏さんが29歳の時に警備会社に勤務している際に江戸川乱歩賞応募した作品だけあり、桃山が勤める警備会社の状況などは違和感なく読めた。体験に基づく描写は真実味がありますな。
もうひとつの読み方として警備員桃山と機密組織の涼子のラブストーリーという視点があるのかなと思った。この本で一番アンバランスな人物は涼子なのかなと思う。涼子は死んだ恋人(実際は憧れていただけ?)を保に投影していた。後半はいままで組織のことだけを考えて行動していた涼子の思考の変化により本書のストーリーが変遷していくとも言える。涼子の思考は日本社会を投影していたのだとすれば、その思考の変化の原因を作ったのは保であり、桃山だった。当初、涼子は桃山を否定的に見ていたはずである。もっと言えば見下していた節がある。この二人の間の感情の変化だけ捕らえれば本書はラブストーリーと言ってもいいのかなーとも思う。(シチュエーションはヘビーですが・・・)

褒めてばかりではいかんと思い、ちょっと生意気に批判的な意見も・・・
舞台設定が現在より少し前なのでネットワークなどの環境についての記述が少し古いなーとも思った。
また、葵が保と桃山にサンドイッチを作るシーンがあるが、このサンドイッチから桃山が葵の素性を知るってちょっと無理ないっすか?
と、そんな風にもケチをつけてみましたが、それを補って余りあるほどよい作品ですな。

先にも記載したが、りょーちは「亡国のイージス」を読んでこの「川の深さは」を読んでいる。「亡国のイージス」にはダイスという機密部隊が登場するのだが、本書はこのダイスが発足した流れを書いており、興味深かった。
どちらから読んでもよいが、間違いなく読んで損することはないかと思う。

福井晴敏は「川の深さは」「亡国のイージス」の中で、国家に対して答申をしているのではないかと思う。それは単純な国家批判ではない。自身の分析に基づいた国防論とも読める。相変わらず壮大なテーマで読み応えがあります。しかしこれだけの重厚長大な内容にも限らずページ数としてはそう多くない。これも好印象です。それだけプロットが優れているということなのかと思います。

本シリーズの「終戦のローレライ」も絶対読みますよ。(積ん読がなくなったら・・・)

福井晴敏さんオフィシャルサイト




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2004年10月20日

東野圭吾:「ゲームの名は誘拐」 このエントリーをはてなブックマークに追加

ゲームの名は誘拐 (光文社文庫)
東野 圭吾
光文社
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g@me. プレミアム・エディション (初回生産限定版) [DVD]
ポニーキャニオン (2004-05-14)
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りょーち的おすすめ度:

映画化もされたので、読まれている方はかなり多いとみた。りょーちも読んでみたばい。
映画では佐久間俊介役に藤木直人さん、葛城樹理役に仲間由紀恵さんとなかなかよいキャスティングではなかろうかと思った。本を読んでいて、主人公にこの二人を当てはめて読んでみた。

主人公の佐久間俊介は、サイバープランという会社の企画マン。大手クライアントの日星自動車への提案として新車発表を兼ねてモーターショー的なイベントである「オートモービル・パーク」の提案をしており、感触的に受注は決まっていたが、日星自動車の会長の息子で最近副社長に就任した葛城勝俊の提案で中止が決定的になった。
「おいおい、まってくれよ」てな感じで憤りを感じた俊介は直談判すべく、深夜に葛城家に足を運ぶ。家の前で思案していると、屋敷の中から怪しく塀を乗り越えてくる人物に出会う。捕まえてみると年若い女性。話しを聞いてみると、どうやら葛城家の娘の樹理だった。樹理はどうも家出の最中だったようだ。家庭に不満を持つ樹理の話しを聞くうちに俊介は葛城勝俊を唸らせるある計画を思いつく。それが、樹理の誘拐だった。
樹理と利害関係が一致した俊介は、身代金3億円を要求する。
当初この誘拐は純粋なゲームだった。俊介は警察の介入を予測し、様々な策略をめぐらせてこのゲームを有利に進めるはずだった。
身代金受け渡しに、日星自動車のユーザ用Webサイトを利用してカムフラージュした発言により、取引を進めていく。しかし、ゲームが進行し、身代金もGetした後に俊介は意外な事実を知らされる・・・

って話しなんだが、どうよ?


誘拐とは「誘拐する人間」、「誘拐される人間」、「身代金を要求される人間」の三者で成り立つが、本書ではとっても頭が良い人間が「誘拐ゲーム」に参加している。この駆け引きは読んでいてとても引き込まれた。
コアストーリーもその周辺の伏線やアイテムも結構面白い。読後感も「ふむ、なるほどー」という感じだった。映画化もして話題にもなった。ミステリーとしてどうか?
りょーち的には、「うーむ、あともうちょい膨らましてほしかったなー」って感じ。
誘拐成立後の話しはもう少し別の種明かしが考えられるのかなーと思っていたがほぼ、読んでいて予想通りの展開だったので「もうちょいっ!」って感じは正直しちゃいました。
でも、流れるようなスピード感あるストーリーは東野さんの小説って感じでよい点かなとこの本を読んで再認識することができた。(いろいろ文句は言いますが、やっぱ、上手いっす、東野さん)
小説のボリュームとしては短編と長編の間(中編?)くらいだったのですが、その中でそれぞれの人物に共感・感情移入できるだけの描写がされていて、よいかも。

#持ち上げたり、落としたり忙しいですが・・・

この中で、俊介は幼少時代複雑な家庭環境で、自ら「仮面」を被ることを覚えたと書いてある。人は生きていく上でいろんな仮面を持って場面ごとに適切と思う仮面を被るようです。全く関係ないがなんとなくですが、和辻哲郎の「面とペルソナ」を思い出した。能面は表情ないのに喜怒哀楽が表現できてすごいねって感じだったっけ?(←おそらく全然違うと思われ)。国語の教科書に出てきた気がするが、俊介は自らの面を能面のように仕立てて生きてきたのかなと思った。ちょっと寂しい生き方もするな。
ちなみに、和辻哲郎の本はこれ以外全く読んでません。風土論とか聞かれてもわかりませんのであしからず。

でも、総合的にはよかったのではないかなーと思います。

ちなみに、この小説は誘拐犯の視点で書かれているので犯人探しではないのですが何故かフーダニット感覚も楽しめます(丁寧に伏線が張ってあるのでそんなに難しくないのですが)

りょーちとしては、俊介と樹理の関係はストーリーが進行していくにつれて微妙に変化していくなかで、最後にはこの二人はどーなったのか?(その後の人生で接点があったのかなかったのか?)が気になりました。(個人的にはあったら面白いかなーと・・・)

もしかして、読みきれてないのか?>りょーち


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2004年10月17日

森真沙子:「邪視」 このエントリーをはてなブックマークに追加

邪視―東京ゴーストストーリー (学研M文庫)
森 真沙子
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りょーち的おすすめ度:


文庫カバー説明より
廃校となった中学校跡地周辺の高層ビル建築計画。高校生・夏子は、校庭に埋めたペンダントを掘り起こそうとして工事現場で怪死を遂げた友人・一美が残した「夢日記」に疑問を抱く。死の直前、何かに憑かれ夢遊状態だったという一美の症状に、夏子もまた日増しに陥っていく。禍々しく不気味な石像を発掘した作業員の相次ぐ事故死。立ち退きを拒否し続けた老女の突然の焼死。不吉な翳がたれこめるこの土地にまつわる因縁とは?



これも近所の図書館で借りたものである。本書が書かれたのは1994年頃ってことなのでちょうど今から10年ほど前である。ふむ、なんとなくやはり10年前の小説っぽい感じはする。
貴部篤彦は、平田建設の建築部長であり、廃校になった中学の跡地に、高層ビルを建てる計画を立案。その中学の卒業生の鷲尾夏子は中学時代の同級生とタイムカプセルを埋めた。ビルが建つことを知り、そのタイムカプセルを掘り起こそうとする。
工事現場から工事現場から発見された出土品を調査するため、工事の一時中断を求める矢嶋郁子。工事現場付近に住む謎の老婆、石渡十女。夏子の同級生で理論家の田宮敏明。夏子の伯母で霊感の強い、類子。

なにか面白い話になりそうなところで、あっさり終わってしまった感じがあり、ちょっと残念。東京の都市伝説モノですな。事件の鍵が江戸時代にあるという部分とそれが判明するまでのストーリーはあまり納得できなかった。10年前に読んでいたらもうちょっと変わった感想になったかも。
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2004年10月15日

奥田英朗:「邪魔」 このエントリーをはてなブックマークに追加

邪魔(上) (講談社文庫)
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奥田 英朗
講談社
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邪魔(下) (講談社文庫)
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奥田 英朗
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りょーち的おすすめ度:

「最悪」という本で出会った奥田英朗さん。本書の「邪魔」が2冊目です。
近所の図書館でハードカバー版を借りてきて読んだづら。(本は買わずに借りれば置き場所にも困らないしね)

むむむ。なかなかよいですよ。

本書のタイトルの「邪魔」なのですが、何が邪魔なのかなと思いながら読んでみますといろいろ意味深なタイトルに思えてくるっす。
人は生きていく上で他人の力を借りて共存共栄していきます。自分ひとりで生きているといえる人は日本中探してもいないと思います。みんな他人に依存しながら生きているのです。日々の生活にて他人と素晴らしく上手くやっていければいいのだが、利害関係が一致しない場合・敵対する場合は、相手のことを「邪魔」と認識するのでしょう。

本書は、警察官僚の久野薫とパート勤めの主婦の及川恭子の物語である。
人は何かをきっかけに生き方、人生観が変わるものだがその動きは通常の人の場合、時間を掛けて徐々に変わっていく。例外な場合として自己の予想を遥かに越えるような体験をしたとき、瞬間的といっていいほど変化が見られるかと思う。
及川恭子の場合、夫が勤め先の会社に起きた放火事件の容疑者であることを悟ったときなのかと思う。急激な変化は冷静な判断を失う。及川恭子の場合、思考のベクトルは子供と自分を守ることを最優先させた。そのことは通常の場合でも誰もが選択する道だと思う。しかし、優先順位はあっていてもそれを実行するプロセスが間違っていては問題であろう。
折りしもパート先のスーパーでひょんなことから共産党系のメンバーと共に待遇改善運動に参加する。はじめは気が進まなかったが活動を続けていくにつれ、自分は「そこらへんの主婦と違うのだ」という変な妄想に取り付かれてしまう。

一方、久野はといえば、上司から同僚の花村の素行調査を上司から命令される。花村が現在付き合っている女は実は久野が結婚前に付き合っていた元恋人である。(そんなに世の中狭いのか・・・)。妻が他界し、やもめ暮らしの久野の素行も少し変。義理の母が気になり(って変な意味じゃないと思われます)ちょくちょく連絡をしている。
その後、別件で担当した、放火事件を調査していくうちに放火された会社の経理担当の及川(及川恭子の夫)に結びつく。さらにその裏には大倉という暴力団の影が見え隠れし、その大倉と花村がまた何故か繋がっている。

あと、渡辺裕輔っていう高校生も登場するが、この高校生がまた情けない・・・
大学に進学したいのだが、いまひとつまじめになれず、不良仲間と遊びほうけているが、親父狩りをした相手が、よりによって久野だった。久野に完膚なきまでに打ちのめされた裕輔はその後やくざ(=大倉)にいいように使われてしまう。

「世の中こんなに狭いのか?」と思うような小説だ。

物語は及川の夫の会社の放火事件を中心にことが運ぶ。事件事態は複雑ではないのだが、本書ではそれにまつわる人物の生き方が仔細に書かれている。普通に生きていては会うことのなかった3人が出会い繰り広げるドラマといえば、どーしても「最悪」を思い出さずにはいられない。

読み物としては面白い。ただ、ラスト付近の及川恭子の取った行動はりょーちの理解力ではどーしてもわからなかった。(何故そんなことを、あんた・・・)

なんとなーく、最悪を思わせる小説なのだが、どっちが好きかと言われたら、最悪の方を選ぶかなー。まあ、それだけ最悪がよい小説なのかなとも思った。(でも、「邪魔」もいいですよー)

で、冒頭に書いた「何が邪魔なのか」という命題については、りょーちは表面的にはわかった気がする。生きていくと「邪魔」に思えるコトや人がいろいろ出てくる。「邪魔だから死んでくれ」と思っても実際に行動に移すことはないと思うが、人間、どこでその一線を踏み越えるか、踏みとどまることができるか。
この小説の登場人物はどうもあまりにもその一線を踏み越えすぎなメンバーだったのかなー。

奥田英朗さん作品一覧


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2004年10月12日

東野圭吾:「嘘をもうひとつだけ」 このエントリーをはてなブックマークに追加

嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)
東野 圭吾
講談社
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りょーち的おすすめ度:

本書は表題の「嘘をもうひとつだけ」と他4編の短編小説です。
何故本書を購入したかというと、通勤途中に本が切れた(泣)ので駅の本屋でお手軽そうなのをちょっと・・・って感じで購入しちゃいました。(東野圭吾さんごめんなさい)

本書は「嘘をもうひとつだけ」「冷たい灼熱」「第二の希望」「狂った計算」「友の助言」の5本が収録されています。この短編集に登場する「加賀恭一郎」っていう刑事は東野圭吾さんの他の作品でも登場するようです。(この刑事、結構すごいっす・・・)

本書のタイトルにもなっているのですが、この5本には「嘘」がキーワードになってますね。
短編ということで、話しに深みはそんなにないのかなと思いきや、そこは東野ワールド。結構考えられています。頭いいっすね。ホント。
東野圭吾さんって確か理系出身の作家さんだったと思ったのですが(府立大の電気科っぽかった。違う?)理系の方の書く小説も昔よりかなり増えて読者としては小説選択の幅が広がり嬉しい限りです。理系っぽさが出ている小説っていえば、森博嗣さんや瀬名秀明さんなどが思い浮かぶのかな? 東野さんも理系を前面に押し出してはいない(気がする)のですが、小説読んでいて「理系っぽい考え」と思うこともたまにあります。

で、本書ですが、冒頭お話ししたように、この「加賀恭一郎」の綿密な推理に唸ること請け合いっす。ま、嘘はばれるのですが、ばれるプロセスがよく書かれています。
嘘をつくときには加賀さんのいないところで・・・
ちなみに、本書の5つの短編はすべて加賀刑事が登場しますが、それぞれリンクはしてないっす。

さらっと読めてちょっと頭の皺が増えた気になる一冊かな。
また、日常的なシチュエーションでいかにもありそうな感じなのですが、実際は「ありえないっす」って感じの5本ですね。(またそれがいいのですが)

りょーちのおすすめは「狂った計算」かなー。いえ、どれもおすすめですね。
短編ってどれだけ無駄なものを省きプロットのみを活かすかってことなのかと思ってましたけど、きちんとした「小説」として世の中に出るにはそれなりの作者の力は必要ですよね。その力があるので、東野さんはよい作家なのかなーと小学生の感想文っぽいことを思いました。

あと、この小説は「犯人あて」の小説ではないっす。犯人を追い詰めるプロセスのみに着目した小説なのかなーと思います。こういうのもたまにはいいっすね。


東野圭吾さん作品一覧

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2004年10月08日

新堂冬樹:「銀行籠城」 このエントリーをはてなブックマークに追加

銀行籠城 (幻冬舎文庫)
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りょーち的おすすめ度:

新堂冬樹は期待を裏切らない作家だと思う。いや、作品に関してはいい意味でこちらの期待を裏切ってくれて喜ばしい。
本書はとある銀行に白昼どうどうと銀行強盗が立て篭もるという話しである。実時間に換算すれば、1日にも満たない時間の小説かと思う。
ただ、その分、細かい描写に行き届いており、プロットも上手く考察されている。
本書を読んで「ストックホルムシンドローム」という言葉を思い出さずにはいられなかった。人質は犯人に敵対するものだが、長い時間その場にいると一種の連帯感が生まれる。
本書の読みどころは3つあり、ひとつは「犯人の五十嵐は何故銀行篭城を行ったのか」、もうひとつは「銀行内の行員たちの心の動きの変化」、最後に「警察内部の組織間の軋轢」なのかなと思った。

犯人説得にあたる警視庁の鷲尾警視は幾多の難解な事件を解決し、警視にまで上り詰めた。過去にも篭城事件に携わり犯人を射殺したこともある。この鷲尾と五十嵐の駆け引きは読んでいてかなり引き込まれたし、新堂冬樹の小説なのでスピード感もある。

五十嵐のほぼ完璧な計画とともに時間が過ぎ去り、人質は面白いように殺されていく。銀行員の人間関係を逆手に取り、人質のパーソナリティを崩壊させていく。
五十嵐の過去を探る中で出てきた事実とは? 銀行篭城という特殊な環境下で人はどのように壊れていくのか。
人が壊れる過程を書かせたら新堂冬樹の右に出るものはいないかもしれない。

ただ、欲を言えば、りょーちは以前にカリスマを読んでいたので、もうちょっと話しを広げて欲しかったなーと思う。このプロットで新堂冬樹さんに何年後かに再度チャレンジしていただければいいかなー(って無理?)

人の無力さ・汚さを感じさせる小説だな。新堂冬樹をまだ読んだことがない人で気持ち悪いのはちょっと・・・って人はこの本からはじめたらいいかも。


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