2005年01月21日

貫井徳郎:「天使の屍」 このエントリーをはてなブックマークに追加

天使の屍 (角川文庫)
天使の屍 (角川文庫)
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貫井 徳郎
角川書店
売り上げランキング: 59949


りょーち的おすすめ度:お薦め度

なかなかよかったです。やはり貫井ワールドとでもいいましょうか、一筋縄ではいかないヒネリが加えられています。
若者の自殺のニュースを見ても最近は「あー、またかー」などとちょっと感覚がマヒしていて「いかんよ、キミ」と窘められそうだが、それほど多くの人が世を儚んで自ら命を絶っていく。
いろいろ理由はあるのかもしれないが、本書の登場人物の青木優馬も中学2年という若さで自殺をする。自殺の数時間前に父親の青木と若者が自殺したというニュースを見ていて「自殺する奴はバカだ」と言っていた優馬の自殺に青木は悲しみと同時に困惑していた。何故、優馬は自殺したのか? 息子の死に疑問を抱いた青木は優馬の友人などに話しをいろいろ聞いてみるが優馬の友人も後を追うように自殺していく。
優馬のクラス担任の女性教師の光岡や優馬と親しくしていた同級生の常盤暁子などの情報からも芳しい成果は上げられなかった。
そんなとき、自宅に「郵便受けを見ろ」という不審な電話がかかってきた。郵便受けを青木が確認するとそこには生前の優馬が女性と絡み合っている衝撃的な写真が送られていた。電話の主はその写真の状況を移したビデオを100万円で買えという。強請りの電話だった。
青木は指定の場所に行き電話の主と遭遇するが逃げられてしまう。

りょーちはここまで読んで「優馬の死の原因はこれだったのかー」と思ったが、真実は「○○○」だったことが明かされ「そーなのかー」とちょっぴり感心してしまったのだが、同時に「実際、本当にそーなるのか?」とも思ったりした。
でも、物語の完成度はかなり高いと思うし、小説内での論理の破綻も勿論ない。
リアリティがあるかどうかといわれれば「はい」とも「いいえ」ともいえないが、問題は本書を読んだ大人が若者の自殺や若者だけのコミュニティ若者の考えを汲み取ろうとしたりわからないなりに考えたりすることが重要なんじゃないのかなと思った。
ってことで一時は「そんなことあるか?」と思ったけど本書を読んでいろいろ考えさせられるところがあった。小説とはそういうものではないかなぁ・・・ だからリアリティがあろうがなかろうがこれでイイのである。

貫井徳郎さんは結構時代に沿ったテーマや今思えば時代を先取りしたテーマを取り上げており社会に対して良質なアンテナを持っている。そして良質なアンテナから得た情報に自分なりのエッセンスや解釈を付与し世の中に送り届けている。小説家だったらあたりまえじゃんとも思うが、アンテナの質やそのアウトプットの方法によって作家としての質が決まってくるわけで、貫井徳郎さんがここまで様々な世代の人々に受け入れられている理由として貫井徳郎さんというフィルターを通して見た社会が世の中の本質的な部分をかなり言い当てていることの表れなのかなとも思った。

あと、BlogPeople上にトラックバックピープルとして貫井徳郎さんの話題を立ち上げていますので、http://member.blogpeople.net/TB_People/tbp_1047.htmlも見てくださいねー。
貫井徳郎ピープルのトラックバック先は
http://member.blogpeople.net/tback/01047
です。

今後も期待していいですよね。貫井さん。



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2005年01月19日

仁木健:「Add」 このエントリーをはてなブックマークに追加

Add―機械仕掛けのホムンクルス (角川スニーカー文庫)
仁木 健
角川書店
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

裏表紙より
「内戦中消息を絶った天才科学者兄妹を探せ」日本政府からの指令をうけ、ミナヅキ=コウは東欧の地ラトリアに降りたつ。14才ながらコウは<機械化人>であり<アフェクテッド>、かつて世界を崩壊させた<隕石病(コメット・イル)>の影響で超常の力をもつ<外数員(エージェント)>なのだ。ちぃちゃな戦闘少女アイリーンを相棒として諜報活動を開始した彼は、狂気の陰謀に飛び込んでいく!人と機械の狭間にゆれる<世界の終末の果て>を疾駆するメタルコーティッド・ゴシック!

図書館の新刊コーナーにひょこっと置いてあったのでなんだかわかんないけど借りてみた。装丁からして「うーむ、ちょっとこれはどーなのか?」とも思ったが読み始めた。
うーむ、今の若者にはこういったものが受け入れられているのかなー。
角川スニーカー文庫 も刊行以来、今年で16年目を迎えて市民権を得たようだ。市場として中学生・高校生・大学生くらいが対象なのか? 書籍の販売が落ち込んでいる中、こういった明確なターゲットに対しての出版サービスは今後も増えていくよーな気がする。
コバルト文庫とかも読者層は男女の違いこそあれ似たような層なのかな?(違う?)

それは兎も角、Addの話しに戻ろう。
あらすじは、近未来の話。文明が進化していままでのロボット(アンドロイド)がすごーく進化して人間と殆ど変わらなくなり、人工知能も発達しアンドロイドも市民権を得ている。コウは消息不明の天才科学者兄妹のカレル=ラウディス(男19歳)とカレン=ラウディス(女17歳)を保護するために、相棒のミナと共にラトリアに潜入する。
幼少の頃から戦闘用兵士として英才教育を受けた少女のアイリーンははじめは感情を見せることなくコウと活動を共にするが、コウのキャラクターも手伝って次第に人間らしい心を垣間見せる。
ストーリーはカレルとカレンを無事救出して「あー、よかったね」。で、無機的なアイリーンもなんとなく人間らしい心を取り戻して「あー、よかったね」という話しなのだが、作者が書きたかったのは、アイリーンがコウや他の人々と接していくうちに人間らしい、若しくは少女らしく変貌するプロセスの方を書きたかったのかなーという印象。天才科学者はどっちかってーとおまけの印象。
主人公のコウはいつもはふざけているが、実はそれは暗い過去を背負った悲しみの裏返しだったり、でも「やるときはやる」というキャラクターもちょっと型にハマっている感じ。ある意味こういったストーリーが好きな人には読めるのかもしれない。100%ダメではないのだが少なくともちょっとりょーちが今まで読んでいた系統の本ではなかったなー。ま、こういった世界もあるんだなーとちょっと勉強になったかも。
(あれだ、世間ではこういうのを「萌え」というのだろう。え、違う?)

追記
仁木健さんのホームページを発見!!
http://tniki.fc2web.com/
ファンの方、必見です!!

続編も出ているようですよー。
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2005年01月17日

奥田英朗:「ウランバーナの森」 このエントリーをはてなブックマークに追加

ウランバーナの森 (講談社文庫)
奥田 英朗
講談社
売り上げランキング: 51789


りょーち的おすすめ度:お薦め度

いと、微妙な小説だった。
最悪 や、 イン・ザ・プール でおなじみの奥田英朗氏のデビュー作のようである。
奥田英朗氏といえば、今や書籍を出せば本の帯に「直木賞受賞作家」と掲げられるようになった素晴らしい作家さんである。
最悪 邪魔 に見られる緊迫感や焦燥感といったものは本書では切実には感じられないが、本書の主人公は緊迫感と焦燥感の渦中にいる。
本書の主人公のジョンはある悩みのため焦っている。その悩みとは便秘である。いやマジで。本書のその殆どが便秘の悩みとその解消法の模索のために割り当てられている。このジョンには実在するモデルが存在する。
そう、あのビートルズのメンバーのジョン・レノンである。ビートルズのメンバーのジョンだよってのは特に本文には書かれていないのだが「絶対そうじゃん」というエピソードが満載である。本物のジョン・レノンは日本人のオノ・ヨーコと結婚して、暗殺されちゃうという悲劇のヒーローっぽい印象を持っていたんだけど、ウランバーナの森にでてくるジョンはどうもあまりかっこよくない。ひたすら便秘に悩んだ中年のうだつの上がらないミュージシャン的な描写である。
深読み(浅いか?)すれば、この便秘がミュージシャンとしての創作活動における生みの苦しみとリンクしていて云々などと言えるかもしれないけど、どうも今ひとつ感情移入し辛い印象だった。
軽井沢の別荘に滞在していたジョンに突如襲いかかる「便秘」という大敵に妻のケイコは夏しか行っていない軽井沢の診療所を紹介する。診療所の先生の話しを聞きながら森の中を歩くジョンに過去からの人物の声が聞こえてくる。
それは母親だったり、かつて自分が殺した(かもしれない)人物だったり、少年時代に精神的に酷く傷つけたガールフレンドの母親だったり、生前いじめ続けたマネージャーのブライアンだったり、クスリで急逝したメンバーだったりする。この森で過去の人物に向き合ったジョンは次第に心を開きはじめる。
お盆にはなくなられた人が帰ってくるようですが、それは生きている人のための行事であって既になくなられた方へのイベントではなかったりするのかなーと思いました。お墓参りもそうですかねー。でも、なくなられた方と生きている方とを結ぶ接点として日本のお盆という慣習は案外なしではないのかなーとも思ったりした。

奥田英朗さん作品一覧

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2005年01月13日

雫井脩介:「虚貌」 このエントリーをはてなブックマークに追加

虚貌〈上〉 (幻冬舎文庫)
雫井 脩介
幻冬舎
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虚貌〈下〉 (幻冬舎文庫)
雫井 脩介
幻冬舎
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

人間の顔ってのはいいことに越したことはないけど、自分の顔にはある程度コンプレックスを誰しも持っていると思う。自分の顔を自由に変えることができたりすると面白いかといえば、案外そうでもなさそうな気がする。
顔を変えたい人はいろいろな理由がある。
女性や男性が「カッコよくなりたい」というのがその典型的な理由だと思うが、犯罪などを行った人が逃亡するために整形をしたりすることもあるだろう。犯罪者でなくとも、過去を変えたかったり、ストーカーなどの被害に遭遇し、付きまとわれないように顔を変えるということも考えられる。
でも、普通は自分の顔に満足して(若しくは妥協して)親から貰った自前の顔で一生を過ごすのではないか?
本書はこの「顔」を中心とした物語である。

ミステリー小説でやってはいけないことはいろいろあると思う。ミステリー小説のお作法的な概念が作者と読者の間で「暗黙のルール」があると思う。例外はありますし異論はあると思うが、りょーちの考えるミステリー小説のお作法は、

・死人が犯人として連続殺人を犯す
・今まで登場していなかった人間が犯人
・現代(または設定時代)の科学力や技術力ではなし得ない機械的トリックによる犯罪
・超能力や霊能力やそれに順ずる能力を駆使したトリック
・探偵役が犯人

と、勝手に思ったりしている。勿論上記の要素を孕んでいても立派な(?)ミステリーになるのだが、りょーちとしてはミステリー小説としては納得いかなかった。
うーむ、「火の粉」がかなりよかったのでちょいと期待を裏切られた感じかも。逆に言えば、「火の粉」がそれだけよく出来ていたってことか?

ストーリーとしては、昭和55年に起こった岐阜県の地方都市で起こった殺人事件が発端となる。トラック運転手の荒勝明は自らが起こした事故により勤務先を解雇される。荒は同時期に解雇された時山に唆(そそのか)され、社長宅に押しかけ社長とその妻を殺害し、放火する。後日世間の知るところになり、荒は逮捕され無期懲役に。主犯格の時山は責任を荒に押し付け軽刑で早期に出所。荒は20年後に出所するが、刑務所の中で働いてためたお金、約100万円を出所後直ぐにチーマー風(ってもう言わない?)の若者に取り上げられてしまう。
一文無しとなった荒は、路頭に迷うが、服役中に何かとお世話になっていた、山田という人物に連絡を取り世話になることに。
荒の出所と同時期に、20年前の事件の関係者が次々と殺害されていく。20年前の事件の担当していた滝中守年刑事が今回の連続殺人事件の事件解決に向けて捜査を開始していく。
その滝中の娘、朱音は東京で芸能人とモデルの中間のような仕事についている。朱音は年齢のせいもあるが、事務所の後輩にばかり仕事が回ってくることに苛立ちを感じつつも岐阜には戻りたくないとの思いからなし崩し的に仕事をしている。現在付き合っているカメラマンの湯本弘和とはゆくゆくは結婚したいと考えているが弘和の方は結婚など全く考えていない。偶然にもこの湯本弘和は20年前の事件の容疑者なのであるが朱音はそんなことは全く知らない。

滝中と捜査を共にする同僚の辻は顔に痣を抱えており、メンタルヘルスとして北見という心療医師の元へ時間を見つけて通っている。
滝中と辻は事件解決に向け捜査を行っていくが、残された指紋などから本星とも思える荒が実行犯なのか疑問を抱き始める。更に捜査が進んでいくにつれ20年前に殺害された社長夫婦の息子が捜査線上に浮かび上がる。彼も当時の事故により顔に酷いやけどを負っていたはずであるが、現在その行方を知るものはいない。
滝中は癌に侵された体に鞭打ち、これが最後のヤマとして犯人逮捕への執念を見せていく。

「ふむふむ」と読み進めていき、残りページ数も少なくなり「どうよどうよ?」となりかけた際、りょーちは犯人と思しき人の「オレはやっていない」という独白で「え、そうなの?」と思ってしまいました。「じゃあ誰なの?」と謎は広がり発散していくのであった。
この場面をよんだりょーちの感覚は 本の林に月の船 のみずはらさんが書かれた感想の印象とほぼ同じ。
滝中おじさんは一人で納得していたが、「どーなのよ? このラスト?」とちと思ったばい。

印象としてははじめの方で「これは荒勝明の物語なのかなー」と思って読み進めていくとどーも話が違うなーと思い、誰に焦点を当てて読むべきか悩みつつ読んでいくと、後書きまで辿りついたっていう変な読後感だった。

ただ、福井晴敏の解説は読んでいて「なるほどー」と思った。解説の良さに1票!

「火の粉」と「虚貌」を比べると(って比べても意味ないかもしれんが)どっちかっていうと「火の粉」の方が好きかも。

※雫井脩介、お約束の「ふんんんっ!」も健在でした(^^; (←謎)

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2005年01月05日

宮部みゆき:「R.P.G.」 このエントリーをはてなブックマークに追加

R.P.G.
R.P.G.
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宮部 みゆき
集英社 (2001/08)
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

やはり宮部みゆきは凄いね。最後にキチンと物語をまとめてくる。カチャッと音がしたように美しく物語を終えることができる推理小説作家って結構数が少ないかも。なんとなくあやふやなまま「その後どうなったかは読者に判断を委ねる」的ではなく綺麗にパズルが嵌った感じの小説だった。
R.P.G.と言う言葉はゲームでも有名なので、日本でもかなり市民権を得たと思う。ロールプレイングゲーム(Role Playing Game)つまり、役割を演じるゲームってことだ。宮部みゆきのR.P.G.は本来のこの言葉の持つ意味通りの小説であった。
誰が何の役割を演じているかというと、ネット上で知り合った赤の他人がネット上で擬似家族として父親・母親・兄・妹の役割を演じている。
本書を読んだ方はおわかりかと思うが、この「役割を演じる」という部分が二重の意味で用いられているところが秀逸である(ってあまり書いちゃうとネタバレになるのだが・・・)
所田良介はオリオンフーズの課長であり、妻の春恵と娘の一美の三人家族である。この所田良介が殺されたところから物語は始まり、誰が犯人なのかを捜していく。捜査を進めていくうちに、別の場所で殺害された今井直子というカラオケボックスのアルバイトの女性の事件との関連性が明らかになる。
更に捜査を進めていくうちに、どうやら所田良介はネット上で擬似家族として「お父さん」を演じていたことが判明する。
「お父さん」の自宅のパソコンには、ネット上で知り合った擬似家族とのメールのやり取りが克明に記されており、犯人を追及する手がかりとして利用されている。
アドレスから、「お母さん」役の三田佳恵、「兄」役の北条稔、「妹」役の加原律子が浮かび上がる。三人を取り調べる様を本物の娘の所田一美にマジックミラー越しに見せながら物語は進んでいく。
取調べの中で浮かび上がる新事実に所田一美は嫌悪しながらも、真犯人が誰なのかを見極めようとする。
作者の宮部みゆきも後書きでそれらしきことを言及しているが、ホントに戯曲として舞台化できるような作品だと思う。全編に亙り、その殆どが取調室内での出来事というのも舞台化できる要因のひとつかもしれない。
この小説はNHKでテレビドラマ化されていて(平成15年)モーニング娘。の後藤真希が出演していたようだ。(ドラマよりもやはり舞台だよなーとも思うが・・・)
また、本書は書き下ろしなのだが、捜査に当たる刑事が、模倣犯の武上刑事とクロスファイアの石津刑事が共演(?)しているところもファンにとっては嬉しいサービスかも。

大極宮(大沢在昌さん・京極夏彦さん・宮部みゆきさんの公式サイト)

■他の方々のご意見
ロックルのエンタメ日記: 「R.P.G.」宮部みゆき
ご本といえばblog:宮部みゆき 「R.P.G」 - livedoor Blog(ブログ)
Mistery blog : 宮部みゆき「R.P.G」
テキスケ: 『R.P.G.』(宮部みゆき)
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2004年12月27日

横山秀夫:「クライマーズ・ハイ」 このエントリーをはてなブックマークに追加

クライマーズ・ハイ (文春文庫)
横山 秀夫
文藝春秋
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クライマーズ・ハイ [DVD]
角川書店 (2006-05-12)
売り上げランキング: 24402

りょーち的おすすめ度:お薦め度
泣かせどころを分かっている作家だな。横山秀夫。
クライマーズ・ハイを読んでそう思った。すごいイイ作品なんだけど、りょーちとしては、最後の方で作者に「はい、このページから泣くところですよ」と薦められるような印象を受けた。いや、でもいいんですよ、「クライマーズ・ハイ」。
はじめ、りょーちはこの「クライマーズ・ハイ」という言葉を聞いて「マラソンランナーのあれね」と完璧に「ランナーズ・ハイ」と混同していた。(ダメだった・・・)
本書は山岳小説として読むよりも、どっちかといえば事件ものの小説として書かれている。山岳小説と言えば、りょーちは夢枕獏氏の神々の山嶺(いただき)絶対に薦める。これは間違いなく傑作である。山好きの人は是非読んで欲しい。
で、本書の「クライマーズ・ハイ」なのだが、新聞記者の視点で骨子となる「ある事件」を中心に物語が進む。
ある事件とは「日航機墜落事故」である。若い人々はご存じないかもしれませんが、最悪の航空機事故であった。「片桐機長の逆噴射発言」(←木村さんより、片桐機長ではなく高浜機長ですというご指摘がありましてちょっと修正)「御巣鷹山」「生存者の川上慶子さん」などのキーワードが浮かぶ。
(googleで調べればいいのですが)りょーちの不確かな記憶では、確か事故は月曜日に起こったような気がする。何故月曜日と記憶しているかといえば、当時「中島みゆきのオールナイトニッポン」を聞こうと深夜1時にラジオをつけたら、日航機墜落事故のニュースを延々とやっていたよーな記憶があるからだ。
本書はこの「日航機墜落事故」を物語の中心におき、進められる。
群馬の地方新聞社「北関東新聞」の記者、悠木和雄は会社の飲み会で偶然知り合った同僚で山好きの安西に誘われ山に登るようになった「遅咲きクライマー」である。安西は記者ではなく販売局の社員であり、中途で北関東新聞に入社した。悠木は安西と谷川岳の衝立岩に登る予定だったが、出発日当日、急遽「日航機墜落事故」という凄惨な事件が起こり、安西との待ち合わせ場所に行くことができなかった。
悠木は急遽、日航機の全権デスクに任命され、新聞社を離れることができなかった。一人で衝立に登ったと思っていた安西は、山とは全く関係のない場所で倒れてしまい入院を余儀なくされる。
地方新聞社の社内の軋轢、息子の淳との関係、安西の息子の燐太郎とのやり取りなど、見せ場はいろいろある。
若手の記者達と頭の固い上司との狭間で板ばさみに苦悩する様は、古い頭の経営者が厭らしく書かれており、読んでいて非常に歯痒い思いもした。日航機墜落事故では遺族の方々は非常に辛い思いをしたと思う。事故と全く関係ないりょーちが言及することで事故そのものが薄っぺらくなってしまう可能性を秘めているのかもしれないが、当時の報道資料などを拝見した限りでは今後の航空機事故の抑止に繋がっていると信じたい。
ただ、本書はどうも欲張り過ぎて骨子が見え辛く、本書の落としどころはどこだったのか曖昧な作品になってしまったよーな気がした。ストーリー的にはちょっと感情移入しづらかったのであるが、描かれる人物は非常に魅力的だ。
しかし、それを補うリアリティーが本書にはあったと思う。このあたりが横山秀夫の上手いと思わせるところなのかなー。
気分のよいときにもう一度読んでみたいと思った。

ちなみに、今回からbk1のリンクを前回の記事で書いたamazon2bk1のBookMarkletを利用して書いてみた。(いや、内容は変わらないんですけどね・・・)
意外と便利で、Googleで書籍名を入力して検索すると、殆ど確実にamazonのサイトにナビゲートしてくれる。そこで、amazon2bk1のBookMarkletを利用すると直ぐにリンクが作れて便利。うーむ、いいね。BookMarklet。
posted by りょーち | Comment(13) | TrackBack(18) | 読書感想文

2004年12月20日

雫井脩介:「火の粉」 このエントリーをはてなブックマークに追加

火の粉 (幻冬舎文庫)
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雫井 脩介
幻冬舎
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

推理小説を読んでいると、終盤で、どーしてもページを捲るスピードが速くなってしまう。「どうなるの? どうなるの?」と読書時の体勢も怪しく前傾姿勢になりがちである。本書「火の粉」のクライマックス部分を読んでいたとき、もう、ラージヒルだかノルディック複合だかの競技に参加する荻原兄弟と船木和喜と原田雅彦を合わせたような前傾姿勢になっていた(謎)。
それほど面白く、スピード感のある一冊だった。

武内は輸入雑貨・家具を取り扱う会社の経営者でもあり、ある事件の容疑者となっていた。その事件とは武内の以前住んでいた隣人宅で起こった殺人事件だったりする。現場の状況から限りなくクロに近い印象だったが、証拠不十分で武内は無罪となる。この無罪判決を言い渡した裁判官が本書の主人公、梶間である。
裁判官の梶間は退官後、大学で法律学を教えることとなる。そんな中、武内が数年後、なんと梶間家の隣に引っ越してくる。
(このシチュエーションだけでももうホラーなのだが・・・)
武内が引っ越してきてから後、梶間家では不幸が相次ぐ。
梶間家の嫁で梶間の息子の妻である雪見は武内の(行き過ぎと思える)行動に次第に不信感を募らせるが、逆に梶間家から孤立してしまい、ついには家を出て行かざるを得ない状況に。頼りになるはずの夫の俊郎は弁護士浪人中であり、ダメ人間。
雪見の不安は徐々に確信へと変わりクライマックスへ。

うーむ。素晴らしいっす。
何が素晴らしいってこの作者の雫井脩介。「あー、こんな人がいたんだー」とわが身の読書暦の狭さを披瀝することになるのだが、ホント、素晴らしい作家である。

本書では「冤罪」がひとつのキーワードになっている。
「冤罪」とは、平成国際大学のサイトに記載されているが、
冤罪とは「無実の罪」のことをいい、真犯人でない者が犯罪を犯したのではないか、という疑いをかけられ逮捕・起訴され、審理そして有罪の判決を受けることをいいます。冤罪は、警察の捜査員の見込み捜査に始まり、それが検察や裁判所にチェックされることなく進行することによって作り上げられます。誤判を生み出す主要な原因は、日本の刑事手続の構造そのものにあるといえるでしょう。

ということらしい。
本当に冤罪なのであれば、それは勿論とんでもないことである。冤罪に問われた無実の罪の人間にとってはたまったものではない。
しかし、更に悲劇なのは、冤罪によって刑を免れる真犯人が存在しているということであろう。殺人事件の場合、今までの容疑者が実は無実(冤罪)でした。ということになれば、被害者の家族は「じゃあ、真犯人は誰なのよ」となるわけです。日本の犯罪検挙率は
犯罪数が増加するに当たって低下しているような気がします。その中で、何件かの冤罪も生じているわけです。勿論警察官の方々は日々犯罪撲滅にむけて活動されているわけで、よくテレビに登場する刑事という方々もそうでしょうが、交番の警察官の方々などのパトロールなどにより、未然に事件・事故が防がれているケースも多々あると思います。しかし、犯罪の数は上昇し、そのことにより、裁判も増え、裁判は長引き、真犯人は見つからず、被害者は泣き寝入りって構図がニュースなどの一般メディアで多々報じられている。
冤罪については本来あってはならないことであるが、本来あってはならないことは元々は凶悪な事件の方であり、警察官の方々にその対応が悪いとかなんとかいうのはどうも筋違いのような気がしている。
テレビや小説に出てくる警察官や裁判官などはある程度美化されて書かれているのは承知してはいるが、もうちょっと「報われても」いいような気がしないでもない。

そういえば、本書はこの「報われる」というのもひとつのキーワードになっている。人はいろいろな行動をするわけだが、無償の善意というものは実は非常に少なく「見返り」を無意識にも期待している気がする。犯罪撲滅や平和維持活動などのNPOの団体の方々には非常に頭が下がる思いであるが、この人たちは本当に「見返り」を要求していないかといえば、ちょっと疑問。あ、勘違いしないでいただきたいのですが、だから「活動はダメ」とか言っているのではありません。こういった活動は誰かが問題定義を行い、それに賛同する人々を募り、社会構造や組織改善を促すために有用且つ有益であるとは思います。
殆どの活動の方々が「今の時点よりも何かをよくしよう」と思い、ご活躍されていることとは思いますが、その活動にも「見返り」があると感じています。繰り返しになりますが、だからダメとか言っているのではありません。「見返り」が「現象をよくするため」または「あるべき姿に是正するため」のエンジンであればいいのです。
(ってこんなこと書いちゃうと怒られるのかな・・・)

本書は犯人当ての要素がないわけでもないのだが、勿論読んでいただくとわかるのだがそれはこの本のコアではない。本書の読みどころは「人間の心理」なのかなと思う。当たり前じゃんと思われるかも知れないが、小説には人間の心理状態が書かれている。ただ、推理小説の場合は、如何にも「すごいトリック思いついちゃった。じゃあこのトリックを骨子として一本書いちゃえ」的な小説もなくはない。
「火の粉」という小説は勿論そうではない。題名の「火の粉」はりょーちには、『降りかかる「火の粉」は自ら払わねば』というその「火の粉」のイメージがある。梶間家に降りかかる「火の粉」を誰がどのタイミングでどのように振り払うか。そのプロセスと心理描写は本書の読みどころなのかなと思った。

読書中は貴志祐介の「黒い家」並に「いやーん」な雰囲気に満ちていた。
読後感も「いと微妙」な終わり方に「うーむ」となってしまった。(オレってボキャブラリが貧困・・・)

雫井脩介さんのこの「火の粉」は、りょーちが(勝手に)よくお邪魔するサイトの管理者のpikakoさんからご紹介いただき、読み始めたのであるが、かなりファンになりました。(pikakoさん、ありがとうございます)

文庫本の帯には映画化とテレビドラマ化が決定したとの情報が書いてありましたが、配役が非常に気になります。映画化、ドラマ化を早急に切望しています。



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2004年12月14日

和田はつ子:「魔神」 このエントリーをはてなブックマークに追加

魔神(まがみ) (ハルキ・ホラー文庫)
和田 はつ子
角川春樹事務所
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りょーち的おすすめ度:お薦め度


正直、りょーちにはよくわからなかった。
犯人が何故殺人を犯した理由やその他全て。英陽女子大学で食文化について研究している助教授の日下部遼はアイヌの出身で、恐山のイタコにも似た霊媒的体質の持ち主。実母と同じような悪夢を見る。で、警視庁の水野薫はキャリアでもあるが、協調性がなく、捜査では突っ走ってしまい、同僚からはちょっと浮いた存在。
この二人が事件解明に挑むわけだ。
事件は、ゴミ捨て場に捨てられた死体を日下部が発見するところから始まる。その後、神社に捨てられた嬰児の死体、バラバラ死体など、まあ殺人事件が起こるわけです。そんななか日下部は自身が所属する家政学部ではなく、文学部へ論文を提出するように学長の水沢百合子から打診され、いやだなーと思いながら出かけたパーティーへ参加した際、文学部長の進藤行雄からも念押しされてしまう。
しかしそのパーティーの直後、進藤は何者かに殺されてしまう。
どうも、印象としては場当たり的な感が否めない。ラストも強引にまとめた感じがする。りょーち的に得られたものは、大島のアシタバという植物に関するちょっとした雑学くらいしかなかった。

角川ホラー文庫からも和田はつ子さんの本が出版されているようだが、ちょっとりょーちには合わない感じがした。
購入せずに図書館で借りてきてよかった。

和田さんの本がよいとか悪いとかではないのだが、とりあえずりょーちには合わない見たいなのでもう読まない公算が高い。

と、たまには後ろ向きのコメントをしてみた。(今回ちょっと辛口?)

#「和田はつ子さんの本で面白い本あります?」と言って見るテスト。

和田はつ子さん公式Webサイト


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2004年12月10日

花村萬月:「ゲルマニウムの夜」 このエントリーをはてなブックマークに追加

ゲルマニウムの夜―王国記〈1〉
花村 萬月
文藝春秋
売り上げランキング: 95772


りょーち的おすすめ度:お薦め度お薦め度

いや、まじで、この人、凄い・・・ 花村萬月おそるべし・・・

ゲルマニウムの夜に関しては、本当に様々なサイトで取り上げられています。
主人公の朧(ろう)は人を殺めてしまい、中学生まで育てられた修道院に戻ってきた。修道院の中で繰り広げられる数多の背徳的な行為により、朧は神について、女性について、人間について様々な考えを巡らせる。
本書は「背徳的」という表現が非常にぴったりだと感じる。ゲルマニウムの夜は「王国記I」として出版されており、より大きな物語の序章に過ぎないようである。本書についてはおそらく粗筋を紹介しても仕方がない。もう読んでいただくしかないであろう。
絶対読んで損はしないと断言します。
但し、敬虔なキリスト教信者の方や、性的・暴力的描写がちょっと苦手という方は心してお読み下さい。ただ、ここで表現されている日本語は非常に美しい。花村萬月さんの本は「性的描写」や「暴力的描写」の部分が多々クローズアップされがちですが、非常に緻密・繊細な心理描写がされている。修道院というクローズドな環境下という点も見逃せない。
「ゲルマニウムの夜」「王国の犬」「舞踏会の夜」の3本の短編という形で掲載されているがそれぞれの物語は繋がっている。りょーちはアスピラントとの倒錯的な行為が書かれる「ゲルマニウムの夜」が印象深い。
この本を読んで心が震えない人は皆無だと思うが、独特の世界観を紡ぎだす花村萬月氏の構想力、筆力に賛辞を惜しまない。

「ゲルマニウムの夜」は第119回芥川賞を受賞しているが、芥川賞が何なの? そんな賞よりもこの本は圧倒的な存在感を示している。

「王国記II」も非常に楽しみである。(図書館で借りようかな・・・)

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2004年12月08日

坂東眞砂子:「満月の夜古池で」 このエントリーをはてなブックマークに追加

満月の夜 古池で (角川文庫)
坂東 眞砂子
角川書店
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

坂東眞砂子っていえば「狗神」とか「死国」でおなじみのホラー作家と認識している。
何気なく図書館を徘徊していて児童書のコーナーで見つけた。本書は、偕成社より子供向けに書かれた小説である。「お、坂東眞砂子が児童書を。どんなんだろー」と思って借りてみた。
小学校の学校行事で動物園にでかけた立花透は古池公園のはずれで不思議な声を耳にする。「満月の夜。古池で。おれたちは黒鳥になる」。透はあたりを見回すが誰もいない。そこにやってきたおじいさんが「今聞いたことは忘れろ」と意味深な発言をしてその場を去っていく。しかしその言葉を耳にした日から透は黒鳥親切会という怪しげな団体に付け狙われる透は公園であったおじいさんを探し当て話しを聞いてみたところ、おじいさんは元々カラスだったのだが人間になったと信じられないような発言をする。おじいさん曰く、カラスは満月の夜に古池公園にある特別な池に浸かることによって人間になれるとのこと。その後黒鳥親切会のメンバーは元々カラスだったが、多くのカラスを人間にすることによって人間の世界を支配しようとしているようだ。
その後おじいさんは黒鳥親切会に殺されてしまい、透もカラスの姿にされてしまう。人間に戻るために悩んでいた透はマンホールから地下に潜り古池動物園から脱走したワニやニシキヘビと出会い、彼らと一緒に古池を目指す。

って感じの話しなんだけど、これが結構いけますよ。ホント。ファンタジーでもあり冒険小説でもありミステリーでもあるといういろいろな要素が織り交ぜられている。嬉しいのは子供の視点で書かれているってのが嬉しいですね。児童書って当たり前だけど子供が読むもので、それを大人が書くのは本質的には難しい。いくら「子供の視点」を歌っていてもどうしても上から俯瞰したような視点で語られることが多いと思う。
カラスになった透は子供の視点からカラスの視点でモノを考えざるを得なくなったのだがこれは大人と子供の関係に近いのではなかろうか?
本書を読んで偕成社ワンダーランドの別の本も読んでみたくなった。現在本書は取り扱いされていないようですが、図書館などで別の本も漁って見ようと思うばい。

でも「坂東眞砂子っていえば、やっぱホラー系だよなー」とも思ったりする。

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