2005年12月12日

貴志祐介:「クリムゾンの迷宮」 このエントリーをはてなブックマークに追加

クリムゾンの迷宮
クリムゾンの迷宮
posted with amazlet on 05.12.12
貴志 祐介
角川書店 (1999/04)
売り上げランキング: 1,129
おすすめ度の平均: 4.45
5 おもしろい!
5 ハラハラッドキドキッ!最高に面白かった!
5 早読みもよし、深読みもよし。


こんにちは、踊る指揮者、スマイリー小原です(嘘です)
なんとなく再読したクリムゾンの迷宮。
彼の行動と名前が藤木というのに引っ張られてりょーちの中では東野圭吾の「ゲームの名は誘拐」の佐久間俊介とオーバーラップした。(オレだけ?)

しかし、貴志祐介は気持ち悪い文章が得意だな。「ISOLA」、「天使の囀り」、「黒い家」とかどれも不気味すぎる・・・ 角川ホラー文庫の似合う作家と言っても良い。

証券会社をリストラされたサラリーマンの藤木芳彦は、気が付くと見たこともない場所に連れ去られていた。会社をクビになった藤木は都内でホームレス同然の生活をしていた筈だがここはどう見ても東京ではない。また日本でもありえない。フシギな風景を見つめ暫し呆然とした藤木のそばには「POCKET GAME KIDS」という端末が置かれていた。不審に思いつつも端末を起動し画面を見ると、
火星の迷宮へようこそ

という文字。「ここは火星? そんなわけはない」。

自分の置かれた場所もわからないまま強制的にゲームに参加させられた藤木。
ゲーム機には、第一CP(チェックポイント)に行くための方角と距離が表示されている(GPS付きか?)。CP到着前に大友藍という女性と遭遇した。彼女もこのゲームに参加させられた人物のようである。第一CPに到着すると藤木と大友を含め全部で9人いるようだ。そして誰も自分が何故こんなところにいるのかを理解しているものはいない。
第一CPに到着したメンバーは各自のPOCKET GAME KIDSに情報が表示されていた。どのメンバーにも異なるメッセージが表示されていたのだが、藍だけはPOCKET GAME KIDSを途中で壊してしまったため表示されなかった。
その中に、
サバイバルのためのアイテムを求める者は東へ、護身用のアイテムを求める者は西へ、食料を求める者は南へ、情報を求める者は北へ進め

というメッセージがあった。9人のメンバーは4つのグループに別れ行動することになった。サバイバルアイテムのある東へは加藤、野呂田が。護身用アイテムのある西は妹尾、船岡が。食料を求める南へは楢本、阿部、鶴見の3人が。北の情報を求める者は藤木、大友が行くことになった。
情報という不確かなものを目指して藤木と大友が目指した場所には情報が確かにあった。しかしそこで得た情報は彼らを震え上がらせるものだった・・・

この本は、昔流行したゲームブックのように物語が進んでいく。プレーヤー達が与えられたアイテムを元に生き残りをかけて各チェックポイントを通過しゴールを目指す。
ゲームブックの場合はストーリーの中で主人公が死んでもまた前のページに戻って別の選択肢を辿り直すことができる。しかし、藤木たちは選択を間違ったが最後、自分達の命に関わってくるのだ(と、言ってもこれも小説の中の話なのだが・・・)

彼らはおそらく こういうところ にいたのではないかと思われる。

本書、ラスト手前までは、かなりよかった。しかし、どうもラストが「やっぱりそーゆーことなのかぁ」と感じたのは事実である。と、同時に「これ、設定が無理矢理だよなぁ」とも感じた。
でも、ハラハラドキドキ感はかなり味わえるのでよろしいのでは。

読み終わって貴志祐介の気持ち悪さと新堂冬樹の気持ち悪さは同じような匂いがすると感じた。人間の内臓を掴むようなおぞましい感触がする。(しかし、黒い家よりは気色悪くなかったばい)
別の機会に貴志祐介の別の本を再読してみることにしよう。

関連URL(?):映画「CUBE ZERO」(キューブ・ゼロ)公式サイト (シチュエーションが似てる?)
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2005年12月08日

梅原克文:「ソリトンの悪魔」 このエントリーをはてなブックマークに追加

ソリトンの悪魔〈上〉
梅原 克文
朝日ソノラマ (1998/12)

ソリトンの悪魔〈下〉
梅原 克文
朝日ソノラマ (1995/08)



こんにちは。バブルガム・ブラザースのTOMこと、小柳トムです。警官の制服はもうヤフーオークションで売っちゃいました(嘘です)。

どうでもよいが、書評を書きたい本が山積みになっている。しかし書く時間がない・・・あと、20冊くらい溜まっているのだが・・・orz

そんな中、梅原克文の「ソリトンの悪魔」。本書を読むのももう4回目くらいなのだが、古き良き昔のSFという印象を受ける。これは出版年度が少し前だからという話しではなく、梅原克文がある程度意図的に演出しているのだろう。

2016年、倉瀬厚志は海上情報都市「オーシャンテクノポリス」の建設に携わっていた。
オーシャンテクノポリス付近には海底油田採掘基地の「うみがめ200」もあり海上・海中での開発がかなり進められてきて完成間近。

その日は離婚した妻の秋華(チェウホア)との間にできた娘の美玲(メイリン)と再会する予定だったが厚志は仕事が忙しく、美玲はひとり海底遊覧船「りゅうぐう」に乗り込んだ。更に偶然にも元妻の秋華がオーシャンテクノポリスを視察に来ていた。

そのとき、海上都市に激変が生じた。海上都市を支える柱という柱は崩れ去り、国家予算規模に近いオーシャンテクノポリスは見るも無残に瓦解しかけていた。

・然の事故に原子力潜水艦にでも攻撃されたのかと困惑していた倉瀬はソナーを駆使して調査を開始したが原因がつかめない。近くにいる自衛隊の潜水艦「はつしお」と通多を試み、厚志と秋華は「はつしお」に乗り込む。
そこではじめてこの事故を起こした原因がソリトン生命体、通称「蛇(サーペント)」というわけの分からない代物であることを知る。
厚志は娘を助け出すために「蛇」に挑む。

読みどころとしては、海底世界のフシギさやソリトンについての薀蓄やホロフォニクスソナー、次世代コンピュータなどというSF的な要素もあるのだが、極限状態に置かれた人々がどのように艱難辛苦を乗り越え危機を脱するかというところではないかと思う。ジェットコースター的なシナリオライティングは梅原克文の真骨頂であろう。

しかし富岡艦長の異常とも思える潜水艦への愛着はどうなのか?(潜水艦に乗っている方はこういう人ばっかりじゃないですよね?) 潜水艦ではないけど、富岡艦長が福井晴敏の亡国のイージスの宮津艦長だったら話しの展開がかなり変わったかもと思ったりした。
「二重螺旋の悪魔」でも少し感じたが登場人物がやや型に嵌りすぎな気がする。どーしても「二重螺旋の悪魔」の深尾直樹と「ソリトンの悪魔」の倉瀬厚志がオーバーラップする。(深尾直樹の方が軽口ではあるが・・・)

本書は四部構成になっているのだが、四部は殆ど後日談のよーな感じなのでもしかしたらいらなかったのかも知れないなぁと感じたがこれは賛否両論あるだろう。
でもおそらくもう一回くらい読んでもよいかなと思える作品であることは間違いない。で、読み始めたら最後、読み終わるまでノンストップで読み続けてしまうことも間違いない。

りょーちの周囲の人々には梅原克文を知っている人はかなり少なく、知っている人でも「大好き」という人は続無だったりするのだが、サイファイ作家の梅原克文さんの良いところは「真顔で大法螺が吹ける」ってとこかな? こういうジャンルの作家にはとても必要なセンスだな。

ちなみに、驚いたことに、このソリトンの悪魔ってDVDになってたんですね。(こんな感じらしい)しらんかったよ。

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2005年11月21日

椎名誠:「哀愁の町に霧が降るのだ」 このエントリーをはてなブックマークに追加

哀愁の町に霧が降るのだ〈上巻〉
椎名 誠
新潮社 (1991/10)
売り上げランキング: 242,474


りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは。恩田三姉妹の長女、かや乃こと、もたいまさこです(嘘です)。

本書 哀愁の町に霧が降るのだ新橋烏森口青春篇銀座のカラス は、椎名誠の青春三部作と呼ばれている。

その第1弾の「哀愁の町に霧が降るのだ」を久々に読んだ。以前読んだのはおそらく2年くらい前かと思う。2年くらい経つとほどよく内容を忘れており、再読するのに良い間隔であった。

本書は椎名誠の等身大エッセーというようなモノである。執筆当時が正確に何時だかよくわからなかったのだが、第1刷が1981/10/29だったので1980年代初頭に書かれたものだと思われる。そしてこの時代から更に遡って書かれた回顧録のようなものなので時代背景としては1970年代頃の話しである。
椎名誠とその周辺のオモシロ仲間達を通じて昭和という時代検証ができるような作りになっており、まさに半径5mの世界を語っている。
現在、りょーちは何故か、北杜夫の どくとるマンボウ航海記 などを何の脈絡もなく読んでいるのだが、北杜夫の世界と椎名誠の世界とでナニカが繋がっているよーな印象を受ける。

「哀愁の町に霧が降るのだ」を執筆時には既に当時勤めていた ストアーズ社 を退職し、今で言うフリーの物書きになっていたようである。椎名誠はストアーズ社で、 ストアーズレポート という流通関連の業界向け新聞を作っていた。このあたりの話しは三部作の第2弾の 哀愁の町に霧が降るのだ 以降に詳しく書かれている。

本書ではシーナマコトの周辺のオモシロ仲間達の沢野ひとしや木村晋介などと若かりし頃に共同生活を送っていた克美荘での貧乏生活を中心に書かれており、全編通じて「カネがない」「貧乏」「モヤシ炒め大盛り」などがちりばめられている。
すでに40年以上前の話しが中心となっているはずなのだが、今もどこかでこんな生活を送っている人がいるかもしれないと思わせるほど、貧乏生活が詳らかに書かれている。

貧乏生活の拠点となる小岩付近の克美荘ではフシギな食べ物も満載でかあちゃんである木村晋介(現在弁護士で活躍中)やフシギイラストでお馴染みのサーノヒトシのときたま作り出す怪しげな料理がホントにおいしそーに書かれている。読み始めるとこの貧乏の輪の中に入りたくなるからフシギだ。
克美荘で最もシッカリしていたのはやはり給料取りのイサオであろう。(イサオはその後どうなったのかよくわからなかったのだが、mixiで知った情報によるとどうやら大阪に転勤になったようである)。克美荘では「カネのある人間が払う」という非常に実利的でシンプルな行動原理で生活しており、そういった意味でイサオのような定期的に収入を得ている人間がいたことで食いつないでいたようにも見える。
克美荘には誰彼かまわずいろんな住人が住むようになり、椎名誠はこういった昔のことを非常によく覚えていて凄い記憶力の持ち主であると思ったりしたのだが、これにはキチンとネタ元がある。
克美荘の住人で書かれていた「克美荘日記」がそれである。「克美荘日記」の大半は住人の断末魔の叫びにも似たダイイングメッセージのよーなものと推測できるが、こういうものが残っていることが関係ない人間でも嬉しく思えるからフシギだ。昔の日記など読むだけでも恥ずかしいものが多い中、本書で紹介された「克美荘日記」の一部を読むだけでも微笑ましく感じる。
こんなハチャメチャな生活の中、木村晋介は司法試験に合格し、現在はテレビにもでるほどの有名人であり、サーノヒトシは幼少の頃から書き続けていたトテモアヤシゲナ狂ったイラストで今も生計を立てていたりする。
そして我らがシーナマコトの活躍は彼が執筆したいくつもの作品で窺い知ることができる。

本書の冒頭部分でなかなか話しがはじまらないところが奇妙だったりするのだが、読み終わってから、現在と過去と更に過去という時代の使い方が絶妙だったことに気づかされた。普通の小説では何の脈絡もなく話しが飛んだり時代が飛んだりすると「作品のプロットがよろしくないっす」などとよろよろと批判されたりするのかもしれないが、この本は現在、過去が渾然一体となり心地よい空間が作り出されている(スバラシイ)。

なお、この感想文を書いているときに「他の人はどんな印象なんだろう?」と思い ぐぐって みたら、 きままに、あいまに さんの 「哀愁の町に霧が降るのだ」 の感想文の中に、こんなことが書かれている。
私は等身大の文章が好きだ。この「哀愁の町に・・・」は椎名誠が有名になったきっかけの作品ともいえるようだけど、なぜ万人に愛されたのか、それはたぶん「等身大」だったからじゃないかなーと思う。
そして、今流行のブログのハシリともいえるんじゃないかなー?

と書かれている。うーむ、すばらしい観察力である。blogって書き手の周辺に起こったいろんなことがちりばめられた日記のよーな使い方をすることが多いため、「ブログのハシリ」という推察はまさしく慧眼である(と思う)。

作家、椎名誠の原点がここにあるのだなぁとしみじみ感じる一冊である。
2、3年後あたり、また再読するであろう。
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2005年11月18日

梁石日:「夏の炎」 このエントリーをはてなブックマークに追加

夏の炎
夏の炎
posted with amazlet on 05.11.18
梁 石日
幻冬舎 (2003/12)
売り上げランキング: 285,106

りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは。高飛び込みが得意なヤング中田です。(嘘です、ってちょっとネタとして危ないか?)

梁石日といえば、ビートたけし主演の映画「血と骨」が有名かと思う。在日朝鮮人である梁石日が紡ぎだす言葉は北朝鮮関連のニュースなどの報道の数倍も力強く真実味を帯びている気がする。
ニュースやドキュメンタリーなどで報じられる北朝鮮の情報は「日本人による編集」というフィルターが掛かっている。梁石日は在日朝鮮人という日本人でもあり、朝鮮人でもあるという視点で書かれている。この一見不安定に思える立場の人は日本に沢山いる。
現在、アジアにおける日本の立場はお世辞にもよい状態であるとは言えないが、「在日」の方々とさえ仲良くできないようであれば、アジアから日本は追放されてしまうのではないかという懸念も沸いてくる。
こういった情勢下で梁石日という作家が活躍しているのは非常に嬉しく思い諸手を挙げて歓迎したりしてしまう。頑張ってくれ。

で、本題なのだが、本書「夏の炎」は梁石日という作家から見た文世光事件への思いを綴った回想録のようなものだと感じた。日本の近代史などに疎いりょーちは本書の題材が事実を元に作られたことなどまったくわからず読み終わり、 姜尚中 さんの解説を読んで初めてその事件を知った。
文世光事件については下記のサイトに詳しく書かれている。
朝鮮日報:【文世光事件】30年ぶり文書で蘇った「悲劇の銃声」
本書を読む際には、もしかするとこの「文世光事件」についての知識があったほうがより理解度が深まると思う。

「夏の炎」の舞台は1970年代前半。主人公の宋義哲は祖国統一を夢想している在日朝鮮人。大阪千里中央付近で小島義徳と消火器を売りつけて日々暮らしていた。妻の里美は義哲が得たお金を頼りに日々と家計をやりくりする。
ひょんなことからラブホテルの経営者の高達成に韓国大統領、朴正煕暗殺の計画を持ちかけられる。
暗殺のために韓国に潜入するために金淳子という女と新婚旅行にでかけるという設定で偽造パスポートを使いソウルに入国する。
朴正煕大統領暗殺は実行されるのか?

南北共同声明により南北統一の機運が高まった最中、統一のためには朴正煕の暗殺しかないと半ばマインドコントロールされた状態でソウルへと向った宋義哲。彼の信念は恐ろしいまでに最短距離を進むべく一直線である。

「夏の炎」は在日朝鮮人と日本人の関係や、暗殺計画そのものについてクローズアップされることが多いと思う。しかし、多くの人が自分ひとりでは世の中を変えることはできないと思う中、宋義哲は自分の信念を信じて疑わない。その「若さ」とも呼べる熱情を利用した大人たちの奸計に踊らされる宋義哲の哀しい物語と感じた。

梁石日は宋義哲というドンキホーテにも似た登場人物を通じて「自ら考えて行動することの難しさ」をメッセージとして世の中に送ったのかもしれない。(うーむ)

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2005年11月07日

宮本輝:「青が散る」 このエントリーをはてなブックマークに追加

青が散る
青が散る
posted with amazlet on 05.11.07
宮本 輝
文芸春秋 (1985/11)
売り上げランキング: 43,170
おすすめ度の平均: 4.66
5 20年経っても忘れられない本
5 本好きになったトリガー
5 永遠の青春小説



りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは。ボンカレーでおなじみの松山容子です(嘘です)。

何故いまさら「青が散る」なのか。それは読む本がなくなったからである(節約じゃ)。
しかし宮本輝という作家は素晴らしいな。定期的に読むべきだと思ったりするのだが他の作家の方々にも目移りしてしまう。困ったばい。

本書「青が散る」はりょーちの読んだ青春小説の中でナンバーワンではなかろうかと思われる。関西の新設大学に通うこととなった椎名燎平の4年間の青春がこの本に詰め込まれている。青春って書くとちょっと気恥ずかしいものを感じるが本書に関しては「青春」という言葉がぴったりである。

あとがきで宮本輝さんは、こんな風に語っています。
私は昭和四十一年から四十五年まで大学生活をおくりました。勉学とはいっさい無縁の四年間でした。テニス部に入部して朝から晩までラケットを振っていました。

宮本輝さん自身、関西の大学で燎平と同じような学生生活をすごしていたと知り、登場人物各自にとてもリアリティがあることに納得させられます。

学生生活には友人や恋愛がツキモノで、燎平も4年間の中で主にテニスを通じて様々な友人と出会います。大学入学手続きの時に知り合った佐野夏子に一目ぼれした燎平は夏子との恋愛と入学後に知り合った金子と一緒に作ったテニス部という大きな二本の柱が大学生活の全てだった。そういう話しなのだ。

本書のよさは一言では語りつくせない。(いや、ホントに・・・)

金子は大きな心で押しの一手だった。
木田は来年こそ司法試験に合格するべくひたすら勉強する。
端山は事業に失敗したが再起を誓う。
祐子は旦那の浮気にも負けずいい妻になる。
安斎は「こわい」と一言残してこの世を去っていった。
貝谷はゆかりとくっついた。
ガリバーはひたすら歌った。
ポンクは燎平と壮絶な試合を繰り広げ、そして去っていった。

登場人物ひとり一人に夫々の青春とよべるものがあり、そしてみんな大人になっていく。モラトリアム期間とも呼べる大学生活をどのようにおくるのか。自分の大学生活を思い出しながらこの本を読んでみるとかなり面白く、感動させられる。

本書を読むと何時も、燎平と祐子の再会のシーンでの祐子の言葉に涙腺が急激にゆるくなってくる。祐子の言葉の
「燎平からの手紙の最後の部分、私、一字も間違えずに暗唱できる。---金子にはイギリス製の財布を、貝谷にはスウェーデン製の釣り竿とリールを、僕には夏子の写真を、形見分けに残していきました---。私、あんなに哀しい手紙を貰ったの、生まれて初めて」

この一文、ここまで本書を読んだ人にしかわからないとても重い一言なのです。切ないです。ホントに感動っす。
他にも登場人物の数々の素晴らしい会話で埋め尽くされたこの一冊。必読でしょう。

なお、りょーちの中では本書の登場人物は ドラマ「青が散る」 のキャラクターとオーバーラップしているので、燎平は石黒賢であり、夏子は二谷友里恵であり、祐子は川上麻衣子であり、安斉克巳が清水善三(欽ちゃんバンドのメンバーだった)と置き換えて読んでいた。そのほかのキャラクターは実はあまり覚えていなかった(キャプテンの金子が佐藤浩市だったのかー)。
石黒賢の燎平役が非常にインパクトが強くて石黒賢を見ると「椎名燎平と石黒賢のどっちが芸名だっけ?」と迷うことも多かった。
りょーちの中でもう一度見てみたいドラマの1位に君臨している。
主題歌は松田聖子「蒼いフォトグラフ」で何かの曲のB面だったと思う。B面なのに主題歌なんてすごいと思ったりしたものだった。

そしてかなり嬉しいのがいろんなサイトで本書「青が散る」が取り上げられていてみなさんの青春の1ページに刻み込まれているという事実です。何年経ってもよい本はよいのです。きっと、数年後も同じようにりょーちを間違いなく感動させてくれる一冊であろう。(ドラマ再放送しないかなー)

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2005年10月31日

伊坂幸太郎:「魔王」 このエントリーをはてなブックマークに追加

こんばんにゃ、露木茂です(嘘です)。

今日のgoogleはハロウィン仕様。とりっく・おあ・とりーと。


魔王
魔王
posted with amazlet on 05.10.31
伊坂 幸太郎
講談社 (2005/10/20)
おすすめ度の平均: 4.8
5 静かなる伊坂ワールド
4 正直?軟弱?
5 素晴らしかったです



りょーち的おすすめ度:お薦め度
前回の宮部みゆきの 龍は眠る に続き、今回も偶然にも超能力のお話し。
感想を書く前に・・・。この本読まれた方、どうでした?
正直ちょいと拍子抜けという感は否めない。野球選手などは3割り打てば一流といわれるので人気作家の作品すべてがヒットやホームランになるわけではないのは理解しているつもりなのだが、正直この魔王に関しては「送りバント」的な印象を受けた。次の作品への繋ぎなのかな?
全く関係ないが野球の戦術にバントというものがあるがよくバントがバンドかわからなくなってしまう。バントは英語の bunt(頭[つの]で突く(こと)) の意味なのでバントが正しい(どうでもいいが・・・)

本書は「魔王」と「呼吸」という二本の短編からなる小説である。
1作目の「魔王」は兄の安藤が主人公となり、2作目の「呼吸」は弟の潤也が主人公である。時代設定は明示的に記載されていないが、おそらく現代より少し先の近未来の話である。といってもそんなにサイエンスフィクション的な小説ではない。

この兄弟、夫々特殊な能力を突然自分達が持っていることに気づく。そしてその能力を自分で試すプロセス。更に能力を使ってみるというプロセスがいずれにも存在する。

「魔王」ではサラリーマンの安藤が自分の思ったことを他人に語らせるという能力が身についていることに気づく。安藤は学生時代からいろいろなことに「思考を巡らせて」ていた。
日本の政治情勢はアメリカに依存していたが、若手政治家の犬養はアメリカへの政治不信を巧みに語る若者達に分かりやすく政治を語る犬養への感心は高まっていた。自分の思いを人の口に乗せることができる能力を身に着けた安藤は犬養の演説会場に行くが・・・

うーむ、りょーちの読み方がおかしいのか「で、どうした?」という感じで終わってしまった感がある。
何故本書のタイトルが「魔王」なのかってのは、小説内でシューベルトの「魔王」の比喩が取り上げられていたからであろう。犬養が国民を知らず知らずに取り込んでいくその過程をシューベルトの歌曲「魔王」になぞらえて説明している。

www.ongakushitsu.net:魔王より
語り手かぜのよに うまをかり かけりゆくものあり
うでにわらべ おびゆるを しっかとばかりいだけり
ぼうや なぜかおかくすか
おとうさん  そこに みえないの まおうがいる こわいよ
ぼうや それはさぎりじゃ
魔王かわいいぼうや おいでよ おもしろいあそびをしよう
かわぎしに はなさき きれいなおべべがたんとある
おとうさんおとうさん きこえないの まおうがなにかいうよ
なあにあれは かれはのざわめきじゃ
魔王ぼうやいっしょにおいでよ よういはとうにできてる むすめとおどって
おあそびよ うたっておねんねもさしたげる いいところじゃよさあおいで
おとうさんおとうさん それそこにまおうのむすめが
ぼうやぼうや ああそれは かれたやなぎのみきじゃ
魔王かわいや いいこじゃのう ぼうや じたばたしてもさらってくぞ
おとうさんおとうさん まおうがいま ぼうやをつかんでつれてゆく
語り手ちちもこころ おののきつ あえぐそのこを いだきしめ
からくもやどにつきしが こはすでに いきたえぬ


伊坂幸太郎の作品よりもシューベルトの魔王そのものに恐怖を覚えた。

2作目の「呼吸」は「魔王」から5年後の話し。安藤の弟の潤也は信じられないくらい感がよくなっているという能力が身についていることに気づく。ここでも自分の能力に気が付くプロセスが書かれている。潤也は安藤とは異なり「あまり考えない」性格のようである。潤也の職業は環境保全の一貫としてを山や森を見張るという仕事である。安藤はふとしたことから「絶対にじゃんけんに負けない」という能力を得ている自分に気づく。「賭け事全般にこの能力は使えるのか?」競馬場にていろいろためした結果どうやら10以内の数字をひとつ選択することにかけてはほぼ百発百中であるような気がした。
一方5年後の政治情勢はなんと犬養が首相となっていた。犬養は国民投票で憲法を変えようとしていた。
果たしてこの力を潤也はどうつかうのか?
一応「魔王」の続編なのだが「呼吸」を短編小説としても読むことができる。

しかし、「で、どうした?」という感はこちらの「呼吸」でも拭えなかった。うーむ、期待していただけにちょいと拍子抜けした感じなのだが、勝手にこっちで期待しただけなので伊坂幸太郎さんに責任はないのだが、まあこういうこともあるか・・・
りょーちには響かなかったけどgoogleで調べたら他の方々は大絶賛・・・(そうなのかー)

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2005年10月27日

宮部みゆき:「龍は眠る」 このエントリーをはてなブックマークに追加

龍は眠る
龍は眠る
posted with amazlet on 05.10.26
宮部 みゆき
新潮社 (1995/01)
売り上げランキング: 7,965
おすすめ度の平均: 4.5
5 アナタの龍はどこ?
5 サイドストーリーである恋愛ネタが好き
5 苦悩する少年の描写




りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、大宮デンスケです。(嘘です)。

もうね、絶対読んだほうがよいよ。

宮部みゆきのホントに初期の作品である本書「龍は眠る」。思えばこの本を読んで「この人はマジで凄い!」と思ったものである。「時代を代表する推理小説化になるかもねー」と昔バイト先の友人と話しをしていたのが今でも思い出される(りょーちの感もたまにはあたるのだ)。

本書には稲村慎司と織田直也という二人の超能力者が登場する。超能力者が登場する物語と聞いて、超人ロックやエスパー魔美やエスパー伊藤(?)を想像する人が多いと思う。エスパーになるとテレパシーやテレポーテーションやテレキネシスやクレヤボヤンス(遠感知能力)などが使えて「とっても便利」と思ったりするが、本書を読んで超能力はいらないかなーとも思い始めた。

雑誌「アロー」の記者、高坂昭吾は台風の日に雨にぬれた稲村慎司と出会う。慎司は自分は超能力者であると言う。勿論高坂は直ぐには信じられないが、マンホールに子供が落ちる事件の犯人が見えるという。慎司の語る犯人像を元に調査を進めると確かにある二人組みが犯人であると高坂も確信するに至る。

「慎司はどうやって犯人を知ったのか?」この疑問は慎司の従兄という織田直也から説明を受けることになる。直也は慎司のやったことは全部トリックであると理路整然と説明する。直也からの説明を受けても腑に落ちない高坂は超能力について独自に調査をすることとした。

一方高坂には脅迫状や以前の婚約者である小枝子に危害を与える旨の電話が掛かってくる。小枝子は既に別の川崎という男と結婚していた。

直也と慎司を追いかけるうちに、直也の行方が分からなくなる。直也のアパートに向った高坂はそこで三村七恵という女性と会う。七恵は声を出すことができないというハンディを背負っている。七恵と直也は最近知り合ったばかりだったが七恵の前から直也は突然姿を消し七恵も不安だった。高坂と七恵は直也の行方を調べるうちに次第に互いに心を引かれ会うようになる。

そんな中、小枝子が誘拐されるという事件が起こる。犯人は誰なのか。直也はどこへ。七恵と高坂の恋の行方は・・・

いろいろなモノやコトやヒトが最後に集約されるという気持ちよさは宮部みゆきさんならではと唸ること然りである。
本書は超能力を題材に使っているようであるがトリックには勿論超能力は使われていない。そういった意味できちんとしたミステリーとして仕上がっている。
その上で超能力という一見アドバンテージに見える能力を持つ二人の若者の苦悩を描ききっているという素晴らしさ。りょーちは読んでいてこの直也と慎司のキャラはどちらも宮部みゆきさんの好みのタイプの男性なのかなーと感じた。それはどちらのキャラにもとても愛情を持って書かれているように感じだからである。

本書はもう5〜6回くらい読んでいるのだが、何度読んでも感動する名作なのだ。


なお、1994年に金曜エンタテイメントの中で映像化されていたようだ。おそらく見たと思うのだがキャスティングなどはわからなかったのでぐぐってみたら、こんな感じだった。
稲村慎司:岡田秀樹
高坂昭吾:石黒賢
織田直也:東幹久
三村七恵:鶴田真由

うーむ。直也が東幹久なのかー。ちょっと今の印象とはかなり違うなー。高坂役の石黒賢と七恵役の鶴田真由はなかなか良いのでは?

※受賞歴:第45回(1992年) 日本推理作家協会賞 受賞

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2005年10月19日

島村洋子:「美人物語」 このエントリーをはてなブックマークに追加

美人物語
美人物語
posted with amazlet on 05.10.19
島村 洋子
光文社 (2001/10)
売り上げランキング: 365,070


りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは。ホイ三兄弟でおなじみのサミュエル・ホイです(嘘です)。

オチが分かっていても読んでしまう小説が幾つかある。
島村洋子さんの本は実はこの「美人物語」1冊しか読んでないのだが、10年以上前に読んでかなりインパクトがあったので再読してみた(もう5回以上読んでいるかも)。
本書は1993年1月25日に集英社から初版が販売されている。りょーちはその本を持っているのだが、黄色地に赤星たみこさんのイラストが書かれたインパクトある装丁だ(もしかして貴重な一冊?)。

タイトルの通りこの小説には美人が登場する。美香子と理香子という二人の美人。
滝川産業の社長令嬢の美香子は父子家庭であるが、所謂お嬢様というヤツで生まれてこの方、何不自由なく暮らしていた。一方理香子は母子家庭で母一人、子一人という、決して恵まれた環境ではないが明るく楽しく暮らしている。

殆ど接点のないはずのこの二人が熾烈なバトルを繰り広げることになる。

何気なくテレビを見ていた理香子は街頭インタビューされている人物を見てたまげた。
なんと、自分そっくりの人物がめちゃくちゃ横柄な態度でインタビューを受けていた。
ドッペルゲンガーかと思われるほど自分そっくりの人間が存在していることに理香子はおどろいた。

社長令嬢の美香子は父子家庭。理香子は母子家庭。
美香子と理香子は性格こそ違えど、全く同じ顔。
ここまで準備されていると「理香子の父と美香子の母は元夫婦で理香子と美香子は姉妹では?」と思ったりしたあなた。りょーちと同じです。

ただ、本書はミステリー小説ではないので、このあたりはホントの姉妹だったりしたからどうこうという話しではないのである。本書の読みどころは美香子の恐ろしいまでの自信に満ちた態度とそのパワーに尽きる。
そしてその美香子に甲斐甲斐しく尽くすオレことケイタローの不遇さが笑いと涙を誘う。

何しろ美香子はこの世はすべて自分中心に回っているとでも思っているような性格。
美香子語録として
・しかし私は美しい上に、寛大なのです。何しろこの世のものではないのですから。
・なにしろ私は神さまのスタッフ関係ですので許されないとは思いますが
・人は自分より低い位置にいる者には悔しがらないものです。

などという言葉が随所に登場する。この美香子の発言だけ読んでみても相当面白い。

物語は理香子の高校の同級生の薬師寺くんが間違えて美香子へエメラルドの指輪を送ったことで話しがややこしくなる。あれほど横柄な態度を取り誰に迎合することのない美香子はどうやら薬師寺くんに一目ぼれした模様。家来のケイタローに調査を依頼するのだが・・・

どう考えても悪役と思しき美香子が憎めないキャラで書かれており爽快感溢れ、元気の出る一冊である。勧善懲悪モノのように安心して何時でも笑って読める一冊。

いや、ホントに面白いっすよ。この小説。島村洋子さんって天才かもと思わせる一冊であった。
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2005年10月13日

折原一:「倒錯の帰結」 このエントリーをはてなブックマークに追加

倒錯の帰結
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折原 一
講談社 (2003/01)
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りょーち的おすすめ度:お薦め度(無理!)

こんにちは、晴乃チック・タックです。(嘘です)。

おれが悪かったよ・・・
みての通り、評価は0。時間の無駄だった。もう、絶対折原一は買わない。今まで何度か騙されて今度はどうかなと思い購入したが、さようなら・・・

この本はブックオフで購入したのだが、新書で買わなくてホントに良かった。
倒錯の帰結は「首吊り島」「監禁者」という2編の小説になります。
装丁を見ていただくと分かるのですが、トランプのようにどちらから読んでもよいって感じの小説になっています。更に真ん中には袋とじとなって「首吊り島」と「監禁者」を結ぶ驚くべき結末が書かれている。

筈だったのだが、驚くべき結末までに行き着くまでのストーリーに全く引き込まれなかった。何故なのか・・・

登場人物の山本安男や清水真弓がもう少し魅力的なキャラクターだったら受ける印象が違ったのではなかろうか。本書には全く魅力的なキャラが登場しない。
以前も折原一の小説を数点読んだ記憶があるのだが、同じような印象を受けた。
折原一は人間が上手くかけないのではないかと思われる。
なので、珍妙な且つ奇を衒った手法でしか作品を作り出せないのか?
清涼院流水 の方がまだマシである。

折原一ファンや折原一さん本人には申し訳ないが、もう二度と買うことはないと思われます。
合掌。
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2005年10月06日

三崎亜記:「となり町戦争」 このエントリーをはてなブックマークに追加

となり町戦争
となり町戦争
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三崎 亜記
集英社 (2004/12)
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おすすめ度の平均: 3.21
4 問題提起
3 となり町戦争は起こらなかった
3 何とも言えない


りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは。ギャグ・メッセンジャーズのボイラー須間です(嘘です)。

「戦争」とは物騒なタイトルだが、内容は終始淡々とした雰囲気で進んでいく。

僕、こと北原修路は舞坂町に住むごく普通のサラリーマン。
北原修路は舞坂町の広報紙により、となり町との戦争が始まったことを知る。
とは言っても街中で銃撃戦などが行われているわけでもなく、今までとまったく変わらない町の風景であり、修路はいまいち戦争を実感できていない。

そんな修路の元に町役場からこんな通達が届く。


23と戦第75号

総務課となり町戦争係

北原修路 様
舞坂町長

矢可部 岩恒


戦時特別偵察業務従事者の任命について


標記の件について、下記のとおり辞令交付式を行いますので、ご出席いただきますようお願いいたします。



1. 日  時成和23年10月1日午前10時より
2. 場  所舞坂町役場 4階会議室
3. お問い合せ舞坂町総務課となり町戦争係
4. その他当日は印鑑をお持ちください


以上

お問合せ先    

舞坂町総務課となり町戦争係    

TEL 30-1211    



詳しいことはよくわからなかった修路は、漠然ととりあえず行ってみるかという気になっていた。会社にも既に話しが通っており、主任も了承済みのようである。辞令交付式の前日、役場の総務課から辞令に関しての確認の連絡がある。
担当は香西さんという女性で、魅力的な声に修路もちょっと楽しみが増えた感じ。

辞令交付は役所のイメージどおり事務的に簡潔に行われた。はじめて会った香西さんは全ての仕事を事務的に淡々とこなす印象だった。

実際修路が任命された「特別偵察業務」とは通勤途中に「となり町をキョロキョロ見回る」ことだった。偵察報告は役場に定期的に報告する必要があるのだが、何を報告してよいのか分からず、とりあえず修路は目に付いたものを片っ端から書き込んでいく。
暫くして香西さんから連絡があり、記録表の書き方の注意とともに修路の偵察報告により、町の被害損害率が3.6%ほど下降したとの報告を受ける。

#ってどーやって3.6%ってはじき出すの?

その後、修路は業務異動となり「戦時拠点偵察業務従事者に任命換え」され「となり町戦争推進分室勤務」を命じられる。
要するに舞坂町からとなり町へ引っ越して敵地に乗り込むことになるようだ。しかも何故か香西さんと夫婦として一緒の部屋に住むという不思議なことになっているよーだ。

この本の魅力は箇条書きにしてみるとこんな感じになるのかなぁ。

  • 日常生活(非戦争状態)と非日常生活(戦争状態)の境界線の曖昧さ

  • 香西さんという女性の不思議さ



日常生活と非日常生活の境界線はホントに曖昧だ。日本も第二次世界大戦の最中は国民は戦争をいやだと思いながらも、どの状態が普通でどの状態が異常なのかという判断が日本中で麻痺していたのではないか。
本書のタイトルの「となり町」の部分が日常、「戦争」の部分が非日常となっているわけだ。両者が共存している不思議な世界を上手く書いていると思う。
この「となり町戦争」では主立って戦争による被害者そのものは見えないのだが、数字としては報告されている。どこかの誰かが死んでいるという数字だけの報告では実感がわかないが、そのうちの1人でも知り合いが含まれていると数字の意味するところはかなり異なってくると思う。

そしてこの香西さんという女性のキャラクターの不思議さが本書を面白くしている要因のひとつでもある。全てにおいて事務的な香西さんと修路の奇妙な共同生活の中で、夜の生活までもが事務的であると知った修路はショックだったと思う。

「公共事業としての戦争」ってのは今現在でも世界のどこかでリアルに行われているのではなかろうか。そう考えると本書は非常に意味深い問題定義がされた作品なのかなと思う。
この不思議な世界観を味わえてなかなか有意義な一冊であった。

三崎亜記さんの次回作がちょっと楽しみだな。(別のテイストの作品も読んでみたくなった)
文字を一文字づつ読むというより不思議な世界観に体をあずけるよーに読んでみてはいかがでしょう?

ちなみに、本書は 第17回「小説すばる新人賞」受賞作品 だったようですが、上記のサイトを見てみると、作者は男性だったんですね。亜記っていう名前が女性を連想させるよーな名前だったのでてっきり女性だと思っていました。そーいえば 平山瑞穂:「ラス・マンチャス通信」 の時も、平山瑞穂さんは女性だと思っていましたよ・・・orz
posted by りょーち | Comment(4) | TrackBack(4) | 読書感想文