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りょーち的おすすめ度:

こんにちは。柳家金語楼です(嘘です)。
SF小説は通常まだ起こりえない未来のことについて書かれている。既に起こった過去の題材を元にSF小説を書く方法が二つある。
ひとつは実は過去に宇宙からの何某がやってきて古代文明を築き云々とかムー大陸やアトランティス大陸が云々などと過去に現在の人類を超越したモノを登場させる方法。
そしてもうひとつが現在の人間が「過去」へと旅立ち云々という所謂タイムマシンを利用した方法。
本書はタイトルからも分かるとおり、タイムマシンを利用したSF小説である。
スティーブン・フォックスは学業の傍ら世界中の科学プロジェクトに参加することが趣味だった。インターネットで知り合ったエホシュア・メネズよりイスラエルでの発掘作業を紹介して貰い、遺跡発掘作業をしていた。その発掘中、スティーブンはありえないものを発見してしまう。スティーブンが発見したものは、「SONYのビデオカメラの取り扱い説明書」だったのだ。何故、2000年以上前の遺跡現場からこんなものが発見されたのか?
スティーブンの発見を聞きつけた、巨大メディア企業カウンエンタープライズのオーナーであるジョン・カウンは興味を持ち、独自に調査を開始することにした。カウンはドイツのあるSF作家に今回の件を調査させることを思いつく。白羽の矢が立ったのは、ペーター・アイゼンハルトだった。カウンより、「イスラエルに来て欲しい」と突然申し出があり、驚きを隠せないペーターは、1日2000ドルという破格の報酬ということもあり、イスラエルに飛び立った。
イスラエルに到着したペーターは、カウンに会い「君のSFの知識を貸して欲しい」と改めて依頼される。調査の内容は勿論、「今回の発掘で発見されたビデオカメラの取り扱い説明書が何故、紀元後50年の地層から発見されたのか?」という命題だった。
発見されたビデオカメラの説明書は「カムコーダMR-01」という機種でSONY製の製品だった。フォックスは国際電話でSONYにカムコーダMR-01について問い合わせるが、SONYの担当者からの話しでは、カムコーダMR-01は現在開発中で市場に出るのは約3年後との回答だった。これはどういうことなのか?まだ、開発されていない製品が2000年以上前に利用されていた? 更に、スティーブンは、ビデオの撮影者が書いたと思われる「数枚の紙切れ」を発見していたが、無意識にポケットの中に隠してしまっていたことに気が付いた。スティーブンは上昇志向が強く、ハイスクール時代よりソフトウェア開発のビジネスを手がけ、インドの優秀なプログラマーを使い、多大な利益を得ていたが、更に次のステージに進むために日々、金の成る木を探していた。そして、自分の持つこのメモには何が書かれていてそれが自分にどれだけの利益をもたらすのかを思い立ち、調査団にはこのメモの件を説明しないように考えた。メモの存在を知っているのは、ユーディト・メネズとユーディトの妹で今回の調査に携わっているエホシュア・メネズのみだった。
そして、フォックスはある結論に達した。3年後、誰かがタイムマシンを開発し、紀元後50年へタイムスリップした。SONYのビデオカメラを持って。そこにはもしかするとキリストが映っている可能性がある。突拍子もない仮設だが、実はその仮説を思いついたのはフォックスだけではなかった。カウンもその結論に達していた。金の匂いに敏感なカウンがこのビジネスチャンスを放っておくわけがない。
もし、キリストの映像が収録されたビデオテープが発見されたらどうなるのか?キリストの復活を実証するテープ。あるいはこちらの方が可能性が高いと思われるのだがキリストの復活を否定するテープだとしたら・・・
そしてこの事実をもしカトリック教会が知ったらどうするだろう?
カウンは弁護士のエンリコ・パッソにカトリック教会がどの程度の資産価値を保有しているのかを早速調査させた。更に、SONYにカムコーダMR-01という機種について問い合わせを行った。交換台はMR-01のことを聞いてきたのは本日二人目だといった。カウンは第一発見者のフォックスに疑いの目を向けた。なぜなら説明書は発見されたが、肝心のビデオテープと再生用の機械が存在しないからだ。自分ならSONYにMR-01について問い合わせをする(実際に問い合わせたのだが)。そして説明書のみが発見されたのではなく、録画されたテープと再生機をフォックスが持っているのではと感じたのだ。
カウンに呼び出されたフォックスは案の定ビデオに関する質問をされた。SONYに問い合わせた事実をカウンは知っている可能性を考慮し、電話したことを告げた。ビデオテープと再生機は持っていないのは事実だが、あのメモを渡すわけには行かない。なんとかその場を取り繕いカウンに隠れてビデオとテープの調査を開始し始めるのだ・・・
ビデオテープは存在するのか?
存在するならばそこには何が写されているのか?
存在するかどうかも分からないビデオテープを巡り、カウンとフォックスのほかに、バチカンの秘密部隊も加わり物語は意外な展開を見せるが、鍵となるビデオテープの在処を巡る三つ巴の攻防は三者の思惑通りに進まない。そこにイライラしながらもエンディングに知らされる事実ではある種の感動は少なからず味わえる。ただ、本書はイエス・キリストが題材となっているため、キリスト教を身近に感じることができる生活を送っていないと深いところまで感動を味わうことができないように思える。ただ、アイデアとしてはなかなか面白いと思った。(仏陀に変えたとしてもそんなに面白くないかも・・・)
作者のアンドレアス・エシュバッハは本書に登場する、ペーター・アイゼンハルトと同様ドイツ出身の作家である。ドイツの作家のSF小説を読むのははじめてだな。シュトゥットガルト大学航空宇宙工学科卒業であり、1993年から1996年まで、ソフトウェア開発者として働いていたようだ。
本書の「イエスのビデオ」はアメリカではビデオ化されているっぽい。( Amazon.com: NBC News Presents - The Last Days of Jesus: DVD: NBC News Presents )
日本で買えないのか?と思ったら「サイン・オブ・ゴッド」という作品がそれにあたるようである。
アンドレアス・エシュバッハ: Homepage を見つけたのだが当然、ドイツ語なので読めない・・・
ドイツでも注目されているSF小説作家なので、今後いろいろ翻訳された書籍が出るかもしれないね。
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