2005年11月21日

椎名誠:「哀愁の町に霧が降るのだ」 このエントリーをはてなブックマークに追加

哀愁の町に霧が降るのだ〈上巻〉
椎名 誠
新潮社 (1991/10)
売り上げランキング: 242,474


りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは。恩田三姉妹の長女、かや乃こと、もたいまさこです(嘘です)。

本書 哀愁の町に霧が降るのだ新橋烏森口青春篇銀座のカラス は、椎名誠の青春三部作と呼ばれている。

その第1弾の「哀愁の町に霧が降るのだ」を久々に読んだ。以前読んだのはおそらく2年くらい前かと思う。2年くらい経つとほどよく内容を忘れており、再読するのに良い間隔であった。

本書は椎名誠の等身大エッセーというようなモノである。執筆当時が正確に何時だかよくわからなかったのだが、第1刷が1981/10/29だったので1980年代初頭に書かれたものだと思われる。そしてこの時代から更に遡って書かれた回顧録のようなものなので時代背景としては1970年代頃の話しである。
椎名誠とその周辺のオモシロ仲間達を通じて昭和という時代検証ができるような作りになっており、まさに半径5mの世界を語っている。
現在、りょーちは何故か、北杜夫の どくとるマンボウ航海記 などを何の脈絡もなく読んでいるのだが、北杜夫の世界と椎名誠の世界とでナニカが繋がっているよーな印象を受ける。

「哀愁の町に霧が降るのだ」を執筆時には既に当時勤めていた ストアーズ社 を退職し、今で言うフリーの物書きになっていたようである。椎名誠はストアーズ社で、 ストアーズレポート という流通関連の業界向け新聞を作っていた。このあたりの話しは三部作の第2弾の 哀愁の町に霧が降るのだ 以降に詳しく書かれている。

本書ではシーナマコトの周辺のオモシロ仲間達の沢野ひとしや木村晋介などと若かりし頃に共同生活を送っていた克美荘での貧乏生活を中心に書かれており、全編通じて「カネがない」「貧乏」「モヤシ炒め大盛り」などがちりばめられている。
すでに40年以上前の話しが中心となっているはずなのだが、今もどこかでこんな生活を送っている人がいるかもしれないと思わせるほど、貧乏生活が詳らかに書かれている。

貧乏生活の拠点となる小岩付近の克美荘ではフシギな食べ物も満載でかあちゃんである木村晋介(現在弁護士で活躍中)やフシギイラストでお馴染みのサーノヒトシのときたま作り出す怪しげな料理がホントにおいしそーに書かれている。読み始めるとこの貧乏の輪の中に入りたくなるからフシギだ。
克美荘で最もシッカリしていたのはやはり給料取りのイサオであろう。(イサオはその後どうなったのかよくわからなかったのだが、mixiで知った情報によるとどうやら大阪に転勤になったようである)。克美荘では「カネのある人間が払う」という非常に実利的でシンプルな行動原理で生活しており、そういった意味でイサオのような定期的に収入を得ている人間がいたことで食いつないでいたようにも見える。
克美荘には誰彼かまわずいろんな住人が住むようになり、椎名誠はこういった昔のことを非常によく覚えていて凄い記憶力の持ち主であると思ったりしたのだが、これにはキチンとネタ元がある。
克美荘の住人で書かれていた「克美荘日記」がそれである。「克美荘日記」の大半は住人の断末魔の叫びにも似たダイイングメッセージのよーなものと推測できるが、こういうものが残っていることが関係ない人間でも嬉しく思えるからフシギだ。昔の日記など読むだけでも恥ずかしいものが多い中、本書で紹介された「克美荘日記」の一部を読むだけでも微笑ましく感じる。
こんなハチャメチャな生活の中、木村晋介は司法試験に合格し、現在はテレビにもでるほどの有名人であり、サーノヒトシは幼少の頃から書き続けていたトテモアヤシゲナ狂ったイラストで今も生計を立てていたりする。
そして我らがシーナマコトの活躍は彼が執筆したいくつもの作品で窺い知ることができる。

本書の冒頭部分でなかなか話しがはじまらないところが奇妙だったりするのだが、読み終わってから、現在と過去と更に過去という時代の使い方が絶妙だったことに気づかされた。普通の小説では何の脈絡もなく話しが飛んだり時代が飛んだりすると「作品のプロットがよろしくないっす」などとよろよろと批判されたりするのかもしれないが、この本は現在、過去が渾然一体となり心地よい空間が作り出されている(スバラシイ)。

なお、この感想文を書いているときに「他の人はどんな印象なんだろう?」と思い ぐぐって みたら、 きままに、あいまに さんの 「哀愁の町に霧が降るのだ」 の感想文の中に、こんなことが書かれている。
私は等身大の文章が好きだ。この「哀愁の町に・・・」は椎名誠が有名になったきっかけの作品ともいえるようだけど、なぜ万人に愛されたのか、それはたぶん「等身大」だったからじゃないかなーと思う。
そして、今流行のブログのハシリともいえるんじゃないかなー?

と書かれている。うーむ、すばらしい観察力である。blogって書き手の周辺に起こったいろんなことがちりばめられた日記のよーな使い方をすることが多いため、「ブログのハシリ」という推察はまさしく慧眼である(と思う)。

作家、椎名誠の原点がここにあるのだなぁとしみじみ感じる一冊である。
2、3年後あたり、また再読するであろう。
posted by りょーち | Comment(6) | TrackBack(1) | 読書感想文
この記事へのコメント
こんにちは。
私は椎名誠にゆかりのある学校に通っていたこともあり、十○年前に読みました。
特に初期の作品である「哀愁の町に霧が降るのだ」は後の作品とは違って、なんか初々しさのようななもの(ちょっと違うけど)を感じて、良かった気がします。
私も再読してみたくなりました。
Posted by yomikaki at 2005年11月22日 12:50
yomikakiさん、こんにちは。りょーち@管理人です。
コメントいただきましてありがとうございます。

#ロッテ優勝おめでとうございます(^^;

>椎名誠にゆかりのある学校
お、池袋付近か写真関連かのどっちかですね(ちがうかも・・・)。

この本ってなんだか定期的に読みたくなるんですよねー。ホントにフシギな力を感じさせる本です。
ではでは。
Posted by りょーち at 2005年11月22日 20:40
りょーちさん、こんにちは!
私もこの本、読んだことあります。
椎名さんの本はたくさん読んでいます。
しかし、私は感想らしき感想をブログで書いたことがないことに改めて気づきました。
椎名さんの本は、少年時代、青年時代、サラリーマン時代、二足のわらじ時代、子育て時代、探検隊時代、作家時代、いろいろな世界・時代があって、日々の生活の切なさ寂しさ、面白さ楽しさが語られていて、いいですよね。

今、本棚を調べてみたら「さらば国分寺書店のオババ」が出てきました。本の形がなつかしいです。私も再読してみたくなりました。
ではまた!
Posted by chiiko at 2005年12月01日 09:46
chiikoさん、こんにちは。りょーちと申します。
コメントいただきましてありがとうございます。

>椎名さんの本は、少年時代、青年時代、
>サラリーマン時代、二足のわらじ時代、
>子育て時代、探検隊時代、作家時代、
>いろいろな世界・時代があって、日々の
>生活の切なさ寂しさ、面白さ楽しさが
>語られていて、いいですよね。

そーなんです。まさにその通りです。
ホントに等身大というか直球勝負というか
スバラシイです。はい。

「さらば国分寺書店のオババ」もホントにずいぶん昔の本になってしまいましたよね。
#JRではなく国鉄とか言ってますし・・・

椎名誠さんの初期の本を読んでいると時代背景なども
リアルに書かれているためちょっとした昭和史のように
なっていることに気づいたりします。
そしてちょっとあったかい気分になったりします。

また何時の日か再読すると思います。
ではでは。
Posted by りょーち at 2005年12月01日 19:12
はじめまして。
椎名誠の青春3部作!
すごく好きです!!
なんか、私は都会は苦手なんですけど、「ああ、都会の貧乏暮らしもいいかもなあ」なんて気持ちになってしまいます(^^)。
TBさせていただきました。
失礼しました。
Posted by 波野井露楠 at 2006年05月05日 10:47
波野井露楠さん、こんにちは。
りょーち@管理人です。
コメントいただきましてありがとうございます。
>ああ、都会の貧乏暮らしもいいかもなあ
そーですねー。昭和の古き良き日が思い出される良作だと思います。

ではでは。
Posted by りょーち at 2006年05月06日 10:01
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「男・椎名、父親・椎名」 椎名誠/続 岳物語
Excerpt:  世の中には、「男だからこそわかる」という文学作品が存在する(と私は思う)。  例えば、東野圭吾の『秘密』がそうだ。主人公の苦悩や嫉妬、悲しみといったものは、きっと女性の読者には完全には理解できない..
Weblog: 波野井露楠の徒然日記 ??ROCK&BOOK??
Tracked: 2006-05-05 10:47