りょーち的おすすめ度:

こんにちは。高飛び込みが得意なヤング中田です。(嘘です、ってちょっとネタとして危ないか?)
梁石日といえば、ビートたけし主演の映画「血と骨」が有名かと思う。在日朝鮮人である梁石日が紡ぎだす言葉は北朝鮮関連のニュースなどの報道の数倍も力強く真実味を帯びている気がする。
ニュースやドキュメンタリーなどで報じられる北朝鮮の情報は「日本人による編集」というフィルターが掛かっている。梁石日は在日朝鮮人という日本人でもあり、朝鮮人でもあるという視点で書かれている。この一見不安定に思える立場の人は日本に沢山いる。
現在、アジアにおける日本の立場はお世辞にもよい状態であるとは言えないが、「在日」の方々とさえ仲良くできないようであれば、アジアから日本は追放されてしまうのではないかという懸念も沸いてくる。
こういった情勢下で梁石日という作家が活躍しているのは非常に嬉しく思い諸手を挙げて歓迎したりしてしまう。頑張ってくれ。
で、本題なのだが、本書「夏の炎」は梁石日という作家から見た文世光事件への思いを綴った回想録のようなものだと感じた。日本の近代史などに疎いりょーちは本書の題材が事実を元に作られたことなどまったくわからず読み終わり、 姜尚中 さんの解説を読んで初めてその事件を知った。
文世光事件については下記のサイトに詳しく書かれている。
朝鮮日報:【文世光事件】30年ぶり文書で蘇った「悲劇の銃声」
本書を読む際には、もしかするとこの「文世光事件」についての知識があったほうがより理解度が深まると思う。
「夏の炎」の舞台は1970年代前半。主人公の宋義哲は祖国統一を夢想している在日朝鮮人。大阪千里中央付近で小島義徳と消火器を売りつけて日々暮らしていた。妻の里美は義哲が得たお金を頼りに日々と家計をやりくりする。
ひょんなことからラブホテルの経営者の高達成に韓国大統領、朴正煕暗殺の計画を持ちかけられる。
暗殺のために韓国に潜入するために金淳子という女と新婚旅行にでかけるという設定で偽造パスポートを使いソウルに入国する。
朴正煕大統領暗殺は実行されるのか?
南北共同声明により南北統一の機運が高まった最中、統一のためには朴正煕の暗殺しかないと半ばマインドコントロールされた状態でソウルへと向った宋義哲。彼の信念は恐ろしいまでに最短距離を進むべく一直線である。
「夏の炎」は在日朝鮮人と日本人の関係や、暗殺計画そのものについてクローズアップされることが多いと思う。しかし、多くの人が自分ひとりでは世の中を変えることはできないと思う中、宋義哲は自分の信念を信じて疑わない。その「若さ」とも呼べる熱情を利用した大人たちの奸計に踊らされる宋義哲の哀しい物語と感じた。
梁石日は宋義哲というドンキホーテにも似た登場人物を通じて「自ら考えて行動することの難しさ」をメッセージとして世の中に送ったのかもしれない。(うーむ)