りょーち的おすすめ度:

福井晴敏さんの本は実は「亡国のイージス」をはじめに読んでおり、これに非常に感銘を受けたので、別の本も読んでみましょうということで、読んだのが本書「川の深さは」なのである。
本書の主人公は警察官を退職し警備会社に勤める桃山が勤めるビルにヤクザから逃亡してきた葵という少女と保という少年が舞い込んできたところから始まる。はじめは桃山に心を閉ざす保は次第に自己の置かれている身の上話を少しづつ切り出していく。保の純粋な心と葵の純粋な愛情に心を打たれますっ。
本書の中で葵が読んでいる雑誌の心理テストがあり、桃山と保に同じ質問を投げかけている。
あなたの目の前に川が流れています。その川の深さはどれくらいあるでしょう?
1.足首まで
2.膝まで
3.腰まで
4.肩まで
私はちなみに2でした・・・。桃山と保は4でした。この心理テストはあなたの情熱度を知るテストのようで「肩まで」と回答した両名は情熱過多であるようだ。どちらも熱い男らしい。ストーリーとタイトルとあまり関係がないように思えるが、読んでいてこのタイトル、いいっすねーと思った。
保が守っているものはストーリー上は葵と葵の父が作ったプログラムの入ったフロッピーなのだが、保が本当に守っていたのは自分のプライドなのかなーとも読めた。人の行動原理としてプライドというのは結構上位に優先するらしい。勿論保はそのようなことを意識して何かを守っているのではないというであろう。問われたら「それが任務だから」とでも答えるような冷めたキャラクターとして書かれている。
保のキャラは「亡国のイージス」の行とかなりカブる気がする。でも、いいのだ。魅力的であれば。
本書の中で、新興宗教団体が起こした爆破テロ事件が起こっており、オウム真理教をイメージさせている。日本でもテロが起きてしまい世界一安全な国という神話が崩壊している。こういったときに頼るのは本来警察か自衛隊なのだと思うのだが、どちらも大きな組織で縦割り社会なのか今ひとつ機動力は怪しいと庶民は感じていると思います。こういった疑問を作者の福井晴敏さんも強く感じているのではなかろうかと思います。(違うか?)また、本書は作者の福井晴敏さんが29歳の時に警備会社に勤務している際に江戸川乱歩賞応募した作品だけあり、桃山が勤める警備会社の状況などは違和感なく読めた。体験に基づく描写は真実味がありますな。
もうひとつの読み方として警備員桃山と機密組織の涼子のラブストーリーという視点があるのかなと思った。この本で一番アンバランスな人物は涼子なのかなと思う。涼子は死んだ恋人(実際は憧れていただけ?)を保に投影していた。後半はいままで組織のことだけを考えて行動していた涼子の思考の変化により本書のストーリーが変遷していくとも言える。涼子の思考は日本社会を投影していたのだとすれば、その思考の変化の原因を作ったのは保であり、桃山だった。当初、涼子は桃山を否定的に見ていたはずである。もっと言えば見下していた節がある。この二人の間の感情の変化だけ捕らえれば本書はラブストーリーと言ってもいいのかなーとも思う。(シチュエーションはヘビーですが・・・)
褒めてばかりではいかんと思い、ちょっと生意気に批判的な意見も・・・
舞台設定が現在より少し前なのでネットワークなどの環境についての記述が少し古いなーとも思った。
また、葵が保と桃山にサンドイッチを作るシーンがあるが、このサンドイッチから桃山が葵の素性を知るってちょっと無理ないっすか?
と、そんな風にもケチをつけてみましたが、それを補って余りあるほどよい作品ですな。
先にも記載したが、りょーちは「亡国のイージス」を読んでこの「川の深さは」を読んでいる。「亡国のイージス」にはダイスという機密部隊が登場するのだが、本書はこのダイスが発足した流れを書いており、興味深かった。
どちらから読んでもよいが、間違いなく読んで損することはないかと思う。
福井晴敏は「川の深さは」「亡国のイージス」の中で、国家に対して答申をしているのではないかと思う。それは単純な国家批判ではない。自身の分析に基づいた国防論とも読める。相変わらず壮大なテーマで読み応えがあります。しかしこれだけの重厚長大な内容にも限らずページ数としてはそう多くない。これも好印象です。それだけプロットが優れているということなのかと思います。
本シリーズの「終戦のローレライ」も絶対読みますよ。(積ん読がなくなったら・・・)
※福井晴敏さんオフィシャルサイト
基本的にTBにはTB、
コメントにはコメントを返しています。
名前カッコイイなんてとんでもないです^^;
私の本棚には積読がたくさんありますので、
読むたびに更新しています。
本のことを書かれているようですので、また訪問させてもらいますm(_ _)m
>私の本棚には積読がたくさんありますので、
>読むたびに更新しています。
恥ずかしながら、私も積読状態です。
本棚もないので、本当に文字通り「積読」です。
また、訪問させていただきまーす。
ではでは。
感想を読ませて頂きました。
>保が本当に守っていたのは自分のプライドなのかなーとも読めた。
この辺りの言及が鋭いですね。
保くんは指示に従うだけの機械的な人生から脱却し、自分の意思で葵ちゃんを守ることを選択した訳で。
この部分に一人の人間としてのプライドが表れているのかもしれませんね。
コメントいただきましてありがとうございます。
>保くんは指示に従うだけの機械的な人生から脱却し
>自分の意思で葵ちゃんを守ることを選択した
そーなんですね。保にしても「亡国のイージス」の行にしても、福井晴敏さんの書く影のある少年の描写はなかなか見事ですよね。
ではでは。
>「Cドライブに挿入したフロッピーの・・・」の記述にはがっかりしました。
まあ、発行日は2000年8月31日という13年も前のお話ですからあれかもしれませんねぇ。
そこは脳内補完いただければ嬉しいですw