

りょーち的おすすめ度:

こんにちは、芹沢鴨です(嘘です)。
(若干ネタバレあり)
貴志祐介の新世界よりを読んだよ。
上下巻共に相当分厚いのでちょいと買うのを躊躇したのだが、えいやっと買ってみた。通勤・通学途中に読むには骨が折れる。この本そのものが凶器っす。
ただ、その分量に見合ったオモシロさは得られたよ。
感想を書きたいのであるが、どーも上手くまとまらない。
あまりに長くて気を失いそうになったが再度少し読み返したりしてみた。
渡辺早季が冒頭で
「十二歳だったあの晩からは、すでに二十三年の月日が流れた」
「多くのものが灰燼(かいじん)に帰した、あの日から、十年の月日が経過した」
と語っている。なので、現在35歳の大人の女性である渡辺早季が、和貴園(今の小学校のよーなもの)に通っていた頃から今までを振り返る回想録として話しが進められる。
今読み返してみて「十二歳だったあの晩からは−−−」「多くのものが灰燼に帰した−−−」のが何を指しているのかがよくわかる。
早季は「千年後の同報にあてた長い手紙」という位置づけでこの手記を書いている。
その早季たちは、いま(西暦2008年)から約千年先の未来の日本にいる。
戦争などにより、人口は急激に減少し現在日本には数えるほどしか町が存在していないが、その頃の人間はなんと、現在超能力と呼ばれるような能力を有している。
この時代は子供の人数も少ないことから、教育にとても力を入れていた。教育というよりも殆ど管理に近いのだが、多くの大人たちが子供を管理する仕事についていた。子供達を間違った方向に進ませないため、大人たちは、悪鬼や業魔という恐ろしい話しを子供達に聞かせたりもした。
和貴園にいるころの早季も普通の女の子同様にそういった話しを怖がっていた。
祝霊を受け、無事全人学級(多分中学校のようなもの?)に進級した早季は真里亜、覚、瞬たちと課外活動で利根川周辺を散策していた。そのとき遭遇したミノシロモドキという生物を捕まえた。しかしその生物は実は過去の時代の人間が残した図書館アーカイブだった。
早季たちはミノシロモドキから過去の話を聞くことができた。ちなみに、この時代の子供達は大人たちの手によって、不要な情報(大人たちが不要と思う情報)にアクセスできないように管理・監視されていた。なので、ミノシロモドキから聞く話しは早季にとっても初めて聞く話しだった。
ミノシロモドキの話しでは
「人々はその昔、呪力を利用することができなかった」
「人々はその昔、殺し合いをしていた」
などと今では、俄かに信じることが難しい話だった。
早季たちが保有する呪力は、人間に向けて発動し、人を殺めることはできない。なぜなら愧死機構により発動した人間は死に至るのである。つまり人殺しをすることなど考えられないという時代なのだ。そういった過去を知ってしまうことが元で早季たちは大人たちから呪力を封印されてしまう・・・
うーむ。ここまで書いてかなりキリがない気がし始めた。
この小説の世界観をブログの記事で表現するのは結構難しいね・・・
固有名詞についてだけでも、非常に強い呪力を持つ鏑木肆星、バケネズミ、風船犬、不浄猫、悪鬼、業魔、八丁標(はっちょうはじめ)、トラバサミ、スクィーラ、コロニーなどと枚挙に暇がない。
物語は後半になり、今まで人間に従順だったバケネズミが謀反を起こし、人間と戦争状態になる。バケネズミたちは人間の言葉を話すが知能は低く、呪力を操ることができないが前時代の武器などを駆使し、人間に対抗していく。そのバケネズミの知恵には舌を巻くばかりだが、バケネズミの正体が明かされたときは突如哲学的な何か深い衝撃を受けたっす。
しかし、業魔になった瞬の記憶が人々から消えていくのはどういう仕組みなんだろう?
千年先の世界とはいえ、あまりにも急激に変わりすぎているよーな気もするっす。ちなみに、今から千年前ってこのは平安時代だと思うのだが、平安時代と現代以上に現代とこの小説で描かれる千年後は乖離しているねぇ(まあ小説なので問題ないのだが)。
大人たちの悪鬼・業魔に対する畏怖は尋常ではない。勿論数百年前におきた事件を再度繰り返さないようにという魂胆はあったのかもしれないが、現代の大人たちが我が子に向ける過保護さ以上のものであることは間違いない。何しろ町ぐるみで子供達に包囲網を敷いているのだから。
貴志祐介の描く千年後の未来の多くは現代に投影できる教訓が多々あるように思う。まあ作者が意図的にそのように書いているのだから当たり前なのだが。
バケネズミと人間との関係、子供達だけのコミュニティの楽しさ(と危うさ)、大人たちの子供への接し方、情報の公開・非公開の考え方、性についてなどなど、未来の話しなのだが非常に現代に近い、しかし、どこか異様な空気を醸し出す怪しげな世界観を上手く紡ぎだしているっす。
それにしても長いよ。しかし、長いが何故かもう一度読みたくなる一作。で、多分二回目に読むほうがこの世界観を分かっているのでより理解が深まり楽しめること請け合いである。
多分今後の貴志祐介を語る上でとても大きな一作となったことは間違いあるまい。
(2009年3月16日追記)
なんと2008年の日本SF大賞に貴志祐介さんの「新世界より」が選ばれたようです。
SFWJ:list
おめでとうございます。
本屋大賞もこの勢いで取っちゃうのかな?
(2012年4月4日追記)
なんとなんと、貴志祐介さんのこの「新世界より」がテレビ朝日でアニメ化されるようです!(これアニメ化OKなのか? あの場面とかあの場面とかw)
放映日などは現時点では未定のようです。公式サイトは以下を参照!
テレビ朝日|新世界より
現時点で分かっていることは以下。
- 監督 - 石浜真史
- シリーズ構成 - 十川誠志
- 制作 - A-1 Pictures