りょーち的おすすめ度:

新堂冬樹は期待を裏切らない作家だと思う。いや、作品に関してはいい意味でこちらの期待を裏切ってくれて喜ばしい。
本書はとある銀行に白昼どうどうと銀行強盗が立て篭もるという話しである。実時間に換算すれば、1日にも満たない時間の小説かと思う。
ただ、その分、細かい描写に行き届いており、プロットも上手く考察されている。
本書を読んで「ストックホルムシンドローム」という言葉を思い出さずにはいられなかった。人質は犯人に敵対するものだが、長い時間その場にいると一種の連帯感が生まれる。
本書の読みどころは3つあり、ひとつは「犯人の五十嵐は何故銀行篭城を行ったのか」、もうひとつは「銀行内の行員たちの心の動きの変化」、最後に「警察内部の組織間の軋轢」なのかなと思った。
犯人説得にあたる警視庁の鷲尾警視は幾多の難解な事件を解決し、警視にまで上り詰めた。過去にも篭城事件に携わり犯人を射殺したこともある。この鷲尾と五十嵐の駆け引きは読んでいてかなり引き込まれたし、新堂冬樹の小説なのでスピード感もある。
五十嵐のほぼ完璧な計画とともに時間が過ぎ去り、人質は面白いように殺されていく。銀行員の人間関係を逆手に取り、人質のパーソナリティを崩壊させていく。
五十嵐の過去を探る中で出てきた事実とは? 銀行篭城という特殊な環境下で人はどのように壊れていくのか。
人が壊れる過程を書かせたら新堂冬樹の右に出るものはいないかもしれない。
ただ、欲を言えば、りょーちは以前にカリスマを読んでいたので、もうちょっと話しを広げて欲しかったなーと思う。このプロットで新堂冬樹さんに何年後かに再度チャレンジしていただければいいかなー(って無理?)
人の無力さ・汚さを感じさせる小説だな。新堂冬樹をまだ読んだことがない人で気持ち悪いのはちょっと・・・って人はこの本からはじめたらいいかも。
読み終わった際は、えいっと一押し → 人気blogランキング