2007年10月23日

山本弘:「神は沈黙せず」 このエントリーをはてなブックマークに追加

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神は沈黙せず〈下〉 (角川文庫)
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りょーち的おすすめ度:お薦め度お薦め度(今のところ今年一番)

こんにちは、又吉イエスです(嘘です)。

本書を手にするまで、山本弘という人物を全くしらなかった。

山本弘さんは、その筋ではかなり有名な人らしい。その筋ってのは と学会公式HP をご覧いただければお分かりになるかと思う。ちなみに、と学会とは「トンデモ本」を研究するグループのよーである。トンデモ本とは - はてなダイアリーを見ると、こんな感じに紹介されている。
藤倉氏の定義によれば「著者が意図したものとは異なる視点から読んで楽しめるもの」である。要するに、著者の大ボケや、無知、カン違い、妄想などにより、常識とはかけ離れたおかしな内容になってしまった本のことなのだ。したがって、最初から読者を笑わせることを意図して書かれた本は、どんなに内容がトンデモなくても「トンデモ本」とは呼ばれない。

さて、そういう意味では本書「神は沈黙せず」は「トンデモ本」とは呼べないだろう。
なぜなら、作者の山本弘は非常に緻密な計算により本書を書き上げ、山本弘の意思通りに見事な小説として上梓されているからである。

本書のテーマは幾つかあるが、最も大きなテーマは「神の存在証明」である。
神は本当に存在するのか? 存在するならどういうモノなのか?
これらの命題に関して山本弘は現代社会で起こっている様々な事象と自分の仮説を上手く融合し、ひとつのアイデアを紡ぎだしている。
そう、証明ではなく、あくまでも「アイデア」である。本書で書かれている不可思議な現象は全て山本弘本人が体験したものでなく、他人からの伝聞や参考資料を寄せ集めて生み出された壮大な「仮説」なのだ。それは現在の科学ではきっと証明することができないと思われるが、それでいいのではないか? なぜならこの小説はSFだからいいのである。 で、面白いからいいのである。
本書はホントに様々なところでいろいろ物議を醸し出しているよーである。ネットの中での肯定的意見や否定的意見が入り乱れ、否定的な意見の方を見てみると、作者の人格そのものを否定するよーな書き込みも散見される。まあ、それほど話題性のある一冊なのだなと正直に思った。

幼い頃に両親を台風災害で亡くした和久優歌は神の存在を否定していた。優歌の兄である和久良輔もまたそう思っていた。別々の親戚に引き取られた二人は離れて生活し、優歌は大学を中退してフリーライターに。兄の良輔は人工知能分野の研究者となり、現在はゲーム会社で人工知能を取り入れた。
優歌は雑誌のインタビュー記事で天才肌の若い作家、加古沢黎と会う。加古沢黎の小説は歴史ものが多いが、歴史に関する膨大な知識を持ち、歴史的事実を自分の中で再構築し、常に話題となる作品を世の中に送り出している、今最も注目すべき作家である。加古沢のインタビューで兄の作ったゲームをいたく気に入っていたことにより、兄と優歌と加古沢黎、そして優歌の中学時代からの親友の柳葉月と4人で会うことになった。そしてそのときの兄、良輔と加古沢黎の会話により、その後の世界は大きく変わることになる・・・

そのころ良輔はある悩みを抱えていた。良輔はUFOを撮影したという。その現象を解明するため、超能力現象や怪奇現象の研究家の大和田という男に相談することになる。
大和田は世界で報道された不可思議な現象を事実かどうかを客観的に判断する材料の程度によりランク付けをしている。ここで大和田が披露する現在の超常現象の話しはかなり膨大な資料に裏づけされたものであると思われる。
大和田のスタンスは客観的事実のみを淡々と列挙するのみで、それが正しいかどうかを評価はしていない。ましてや名声などを求めてもいない。
大和田と優歌、良輔が出会ったことで良輔は自分の理論を再度客観的に確認することができる。このあたりの良輔の心情も上手く表現されているよーに思える。
大和田家を出た後に優歌と良輔が遭遇する子供が空から降ってくるファフロツキーズ現象で奇跡的に助かった子供を柳葉月と良輔が育てることになる。
しかし、程なくして良輔は「サールの悪魔」という謎の言葉残して葉月たちの前から姿を消す。良輔は何を発見してしまったのか?

本書では世界中の様々な超常現象やUFO、心霊現象などの存在理由を「神から人間へ向けられたメッセージ」として展開している。
良輔はコンピュータによるシミュレーションを元に、神が存在することを証明した。そして、この世界の「意味」というか「意図」を見抜き絶望し、その後行方を晦ますのだ。
一方加古沢は良輔との議論を元に「仮想天球」を発表する。歴史分野の小説に傾向していた加古沢には珍しい小説だった。「仮想天球」ではこの世は神によって創造された仮想空間であると謳っている。そして発表とほぼ同時期に神がついにその姿を人類に知らしめるかのように現れたのだ。

果たして神は実在した。
神の目的は何なのか?

いやー、凄く面白い。この本は。
エンターテイメント小説としてもSF小説としても非常に面白い。
悪役ともいえる加古沢黎のその見事なまでの邪悪さ。柳葉月はその邪悪さをいち早く見破った一人であるが、世の中の誰もが加古沢黎の邪悪さに気づかなかった。全ての日本人にネットワークの世界で崇められるまでの聡明さは今の世の中で比較できる人物はそういないと思われる。りょーちの印象は id:dankogai さんを1000倍邪悪にしたイメージ(って、小飼弾さんは全く邪悪ではありませんので1000倍しても0かもしれんが・・・)。
加古沢黎の野望は良輔と出会った時期を皮切りに具体的なグランドデザインが描かれはじめている。加古沢黎のその理論を語る場面では「おー、こいつこんなこと考えていたのかー」と唸ってしまったっす。いや、まじ邪悪。
この邪悪さに真に打ち勝つ術はもはやないと思われた。
あそこで、あーなるとは・・・(山本弘、おそるべし)。

小説としての完成度の高さは、山本弘が小説にリアリティを出すために用意した超常現象に関する様々な薀蓄も手伝っている。その内容が間違っているとか合っているということはここではあまり問題ではなく、この「神は沈黙せず」という小説内での世界の地盤固めとして非常に有効に利用されている。

創造主の神が作り上げたこの世界は神のコンピュータの中の仮想空間であるという題材は、どこかで聞いたことのあるような話しである。鈴木光司の「リング」シリーズなども同様だろう。しかし、人類が前世紀に発明したコンピュータを見て神は「自分の存在を受け入れるだけの土壌ができた」と認識し、様々なメッセージを人類に向けて送る。
地球で起きている様々な不可思議な現象。UFOや心霊現象、超能力。
それは人類が考える物理的法則から大きく逸脱している。
これらは神からのメッセージである。
だから、神が存在する。

この思考プロセスが見事。

そして、神が存在する事実を突きつけられた人類に更に希望を残す形でこの小説を終わらせることができるってのは素晴らしいエンディングだな。
数年前に出版されたようであるが、今まで知らなくてすまんかった。

山本弘、あんたすごいっす。
posted by りょーち | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想文
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