最悪 (講談社文庫)
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奥田 英朗
講談社
売り上げランキング: 3772
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おすすめ度の平均:
傑作人間ドラマ背筋が寒くなる。
テンポがいい
人それぞれの最悪の定義
坂道を転がり落ちる
りょーち的おすすめ度:
この書評を書く際に先ず事前にGoogleで検索したフレーズは
最悪は最高 奥田英朗という語句である。
検索結果は14件中8件あった。
やっぱりもう使われていたか・・・
なぜなら検索エンジンにヒットしたページの作者が書いているように、やっぱり「『最悪』は『最高』」なのである。いやホント。こないだ行きつけの書店に歩いていったら「空中ブランコ」という小説が平積みにドーンと構えていて、なんかオドロオドロシイ且つ面白そうな雰囲気の本じゃのぅと思い、買おうかなあと思ったのだが、しばしとどまり「なんか今売れている本をそのまま買っちゃうって時代に流されちゃってイヤだねー。ねー」などと思われるのも癪なので(自意識過剰か?)スルリスルリと文庫のコーナーに隠れるように忍び足で移動し(あ、怪しいもんじゃありません。書店のバイトさん)奥田英朗さんの文庫本をいくつか見てみた。で、タイトルが目にとまって買ったのがこの「最悪」なのであった。
本書の主要登場人物は下記の3人
- 川谷信次郎
- 鉄工所社長。社長とは聞こえがいいが実際は小さな鉄工所でバブル不況を受け細々と部品を作る孫受け的な工場の社長である。妻の春江と国立の外語大生の長男と高校生の次女の4人暮らし。目下の悩みは次女を短大に進学させること。そのためにはもっと働き工場を大きくしたいのだが、社員は長男と同じ年の松村とタイ人の青年コビーの二人のみ。新しい機械が入ればその道も開けるが機械導入の2000万円をどこから工面するのか。今日も親会社の無理難題を受けた下受け会社の部品の納期が近づいている。近所で同じく工場を持つ「同志」とも呼べる存在の山口に愚痴をこぼしながらも大黒柱として今日も頑張る。向かいのマンションの太田夫妻からは工場の騒音をなんとかしろと苦情が絶えず、エリートサラリーマンの太田の理詰めの詰問に精神的にまいってしまっている
- 藤崎みどり
- 川崎のかもめ銀行で窓口業務に携わる20代のOL。子供のころからいい子でいて親の進める銀行に就職したが仕事への思い入れは特にない。同僚の裕子とはよい友人関係であり互いに上司の悪口などを言い合っていたが、川崎支店にやってきたエリート行員高梨の存在が少し気になる。そんな中、支店内のゴールデンウィークの恒例行事となっているキャンプファイアーで支店長からセクハラを受け精神的ショックを受け銀行を辞める決意をする。妹のめぐみは高校もろくに行かない所謂、不良娘。父は今の母と再婚しめぐみは今の母の子供だがみどりは前の母の子供であり自由奔放なめぐみは何が不満なのかよく理解できていない。ぐれたいのは私の方と思っている。
- 野村和也
- 就職するでもなく大学にいくでもなく所謂フリーター。何をやっても長続きせず、また何をやってもうまくいかなくて人生なんてどうでもいいと、今日もパチンコ三昧の日々。悪友のタカオと一緒に薬品会社からトルエンを盗んだが、犯行時の姿や車を目撃されていた。犯行時の車はヤクザからタカオが借りたものでその車から足がつき、事務所内が警察の家宅捜索を受け、組員に袋叩きにあう。ヤクザに収める金を工面するためにタカオと事務所荒らしを計画。そんな中、パチンコ屋で知り合った年上ホステスの楓とはひょんなことから男女の関係になった。その後なんと藤崎みどりの妹のめぐみとも関係を持つ。タカオから持ちかけられた事務所荒らしに手を染め、ヤクザ・警察の両者に追われる。
以降本書の詳細な内容に触れますので読みたくない方はそのまま進んでください。読みたい方は白い部分をマウスでドラッグしてください。(ってRSSReader)で見ていると意味ないか?
ヤクザに追われる和也は藤崎みどりの妹のめぐみと銀行強盗を計画。めぐみは「銀行強盗を働くならかもめ銀行にしてくれ」と和也に示唆。めぐみはいい子を演じているみどりをあまり好きではなくみどりを困らせるためにわざわざ緑の働く支店の銀行強盗を提案。一方かもめ銀行から融資される予定だった計画が高梨の画策で反故にされた。融資される見込みとして新規設備を導入しもう引き返せない状態になりかもめ銀行に掛け合いにいく。そこで和也とめぐみの扮する銀行強盗に出くわす。支店長が銀行強盗犯人にお金を渡そうとするその金を横取りしようとする。セクハラ支店長もあまりお咎めなく、支店長からは逆に迷惑がられ、もうすべてどうでもよくなり人質のかわりとして自ら名乗り出る。銀行強盗に成功した和也とめぐみは銀行から逃げ出すがなぜか車には川谷とみどりも乗っていた。御殿場の山小屋でかれらの取る行動は。
そして4人のそれぞれの運命は如何に・・・・
もう最高っす。ここまでリアリティのある文章を書けるこの作者は最高ですね。よくこういった設定思いつくよ。人物描写は非常に仔細に描かれ映像が見えてくるようだ。
サブキャラの設定もホントに実際にこういう人いるよ。って突っ込みたくなるほど細かく書かれている。
この本に登場する人物はそれぞれホントに良いことなんかなにもなさそうな人生を送っている。それははじめはほんの小さな歯車の不良から始まり雪だるましきに不幸になっていく。この工場の部品は人生の歯車に置き換わるメタファーであるのかもしれない。
1年後手元に本書があったらまた読んでみたいと思う。
100%いえることは、まあ買っとけってことだ。
※奥田英朗さん作品一覧