2005年06月03日

横山秀夫:「顔 FACE」 このエントリーをはてなブックマークに追加

顔
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横山 秀夫
徳間書店 (2005/04)
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おすすめ度の平均: 3.5
4 安心して読めますね
4 比較は出来ないのだが…
3 肩の力を抜いて・・・


りょーち的おすすめ度:お薦め度

D県警シリーズ。横山秀夫の「陰の季節」で「黒い線」に登場した婦警の平野瑞穂が主人公となる。「黒い線」での事件で心に傷を負った瑞穂が復帰して配属されたのは機動鑑識班ではなく広報室だった。
本書では「黒い線」から更に警察官としても人間としても大きく成長した瑞穂に出会うことができた。
本書は下記の5つの短編小説からなる。
・「魔女狩り」
・「決別の春」
・「疑惑のデッサン」
・「共犯者」
・「心の銃口」

なお、仲間由紀恵さんが主演でドラマ化されていましたね。横山秀夫原作だと知っていれば見ればよかった・・・ ということなので、りょーちの中では平野瑞穂=仲間由紀恵のイメージで読み始めました。

●「魔女狩り」
復帰後配属されたのは、広報室。通常の企業では広報室は花形というイメージがあるが、県警内の広報室はどうも違うようだ。なんとなく警察の発表というものはニュースなどで見る限りいろいろ謝っているシーンばかり思い出される。勿論謝るだけが仕事ではなくその他の広報活動もやっている。元似顔絵警察官の瑞穂は広報室はどうも自分に会っていないような気がしていた。記者と一緒に飲みに行き情報を得たりすることが仕事なのかとやはり心のどこかで思ってしまう。
県内の選挙違反騒動で県警が上を下へと騒いでいる中、瑞穂はJ新聞の浅川久美子を喫茶店に呼ぶ。最近J新聞は県警発表ネタでかなり特ダネをすっぱ抜いている。浅川に聞いたところ特ダネを飛ばし続けているのは風間という記者のようであった。沖縄からD県の支局にきて5年の風間は東京に帰りたがっていた。浅川と話しているときに風間がひょっこりやってきて香水の匂いを残し去っていく。
そして翌日にまたもJ新聞は「市議会議長を逮捕」という特ダネを披露した。瑞穂が広報室を出たところでR新聞の大城冬美という記者と会った。大城も沖縄生まれだった。瑞穂は風間と大城の間に何かがあるのかと探りを入れてみたがそれらしいことは分からずじまいだった。
県警ではJ新聞の風間にネタを流してるのは誰かということが問題になり始めていた。同僚からは冬美も県警の影山からネタを流してもらったことがあるとの情報を得ていた。内部の人間に情報をリークしていることは問題であるため、今後捜査員をカンヅメ状態にして捜査をすることが決まり安堵する中、またしてもJ新聞に特ダネを抜かれた。
流石に他社も黙っていられなくなり県警には抗議の嵐が吹き荒れた。
内部の中で情報を流している犯人を捜す中、瑞穂はあることに思い当たり、情報をリークしている犯人を突き止める。
瑞穂の推理は女性でないと気づかないことではないのだが、やはり女性の視点というのが有利になったことは間違いないと思われる。

●「決別の春」
広報室に配属され短編2話目(?)にして瑞穂に異動の辞令が降りた。一瞬機動鑑識班に戻れるのではと思った瑞穂の期待を裏切り配属されたのは捜査一課犯罪被害者支援対策室(長いよ・・・)。硬い名前だが、要は「電話相談室」である。瑞穂は電話相談員としての業務は広報室よりも犯罪者への距離は近いと思われる。
電話相談室は室長代理の田丸三郎と他2名。一人は瑞穂の同期の香山なつきというメンバーだった。そんな瑞穂に若い女性から「自分は焼き殺される。また家に火をつけられて・・・ どんどん近づいてくる」という意味深な電話が舞い込んできた。瑞穂は現在D県E市で起きている連続放火事件に思い当たる。
「また家に火をつけられ」という言葉に以前にも放火されたことがあるのかと思っていると先日の女性から再度電話が掛かってくる。電話の女性は「しおり」と名乗った。名前を頼りに過去の新聞記事を調べて見ると、14年前の放火事件の被害者であることがわかる。放火犯はしおり叔父の中島健二で、既に逮捕されていたが14年前の事件ともなると仮出獄している可能性も秘めている。
中島健二の現況を調べるうちに瑞穂は14年前の放火事件の真実の姿に気づいてしまう。
うーむ。この推理はかなり鮮やかな気がする。瑞穂は刑事としても一級の推理力と操作能力を持っているんだねー。

●「疑惑のデッサン」
タイトルからして「陰の季節」の「黒い線」の続きなのかと思ったがちょいと違った。が、背景には警察組織内部の閉鎖的社会が透けて見えるような気がした。
電話相談員の仕事も重要だが、やはり瑞穂は自分のやりたいことは似顔絵によって事件を解決することだと気づいた。瑞穂は自費で絵画教室へと通い始めていた。
しかしその絵画教室には似顔絵婦警の後任の三浦真奈美も通っていたことを知った。そして運悪く真奈美と絵画教室で鉢合わせてしまう。真奈美のデッサンのレベルはまだまだであった。
そんな中、N駅付近で喧嘩による殺人事件が発生した。目撃者の証言から似顔絵が作成された。描いたのは勿論瑞穂ではなく真奈美であった。その似顔絵をみた瑞穂はあまりに完成された似顔絵に正直ビックリしていた。瑞穂は自分の時のように似顔絵の改竄を真奈美がやっているのではないかと感じていた。瑞穂は元上司の湯浅に疑問をぶつけて見たが思わしい答えは返ってこない。
そうこうしているうちに瑞穂はテレビで犯人逮捕の知らせを知る。犯人の顔は真奈美の似顔絵とそっくりであった。果たして真奈美はどうやってこの奇跡的な似顔絵を描くことができたのか。
人には持って生まれた才能があり、努力によりそれを幾分か補完できる。日本人はそれを美徳としているが幾ら努力しても自分には届かない限界も大人になると残酷なまでに分かるようになってくる。努力で埋まらない溝の部分をどう解決していくのか。それは自己の人生、生き方そのものなのかも知れないと感じた。

●「共犯者」
かすみ銀行増淵支店で行われた防犯訓練。途中まではホントに防犯訓練だったのだが折りしもその訓練中にかすみ銀行の北川支店で本当の強盗事件が発生した。なんか伊坂幸太郎の「陽気なギャングが地球を回す」とか新堂冬樹の「銀行籠城」っぽくなってきた。
増淵支店に詰めていた警官たちは対応が後手後手になり、結局犯人を取り逃がしてしまう。あまりのタイミングの良さに警察内部では訓練の日時が外部に漏れたのではないかと疑念を抱き始めていた。警察から漏れたのでなければ共犯者は実は以外なところに・・・
銀行内部に犯人がいるのか。実行犯と別に共謀者がいるのか。
情報をリークした人間は意外なところにいた。そして彼(彼女)ならそうしてもよいと思える理由もあった。どうもこの話しは読んでいてあまり心休まる話しではなかった。
瑞穂の推理がここでも冴えていた。

●「心の銃口」
この話しが最もボリュームがあった。で、最も刑事ドラマっぽい物語でもある。言ってみれば「横山秀夫っぽくない」話しなのかな。でも緊迫感に溢れた話しだった。主人公の瑞穂は女性なので全編に亙り女性の視点に近い目線で物語が進む。
この話しに登場する同僚の南田安奈は射撃ではかなりの腕前であり、瑞穂はといえば射撃のスキルは皆無である。安奈にとって瑞穂は警察内で女性の地位を貶める存在でしかなかったはず。これは警察だけではなく一般のサラリーマン社会にも見られる構図だと思う。しかし、安奈の拳銃が奪われるという警察ではあってはならない事件が起こる。
この物語は、女性同士の戦いっぽく書かれているがりょーちとしては、女性同士が互いの存在や考えを理解するプロセスのよーな話しだなと感じた。
犯人追跡時に登場する箕田という男性刑事の行動も刑事における男性と女性との考え方を上手く対比させた行動を取らせていたと思う。
瑞穂を刑事としても人間としても更に成長させた事件となったことだろう。


やはりストーリーテラーとして横山秀夫は一級品ですよ。想像ですが横山秀夫さんの中では物語を考えるときにストーリー(骨子)よりもあるシーンの具体的なイメージが浮かび上がってきて、シーン同士をリンクさせていくような小説の書き方をしているような印象を受ける。もっといえば、小説の中で描きたいことは主人公やその周りの人々が見せるある一瞬の表情や考え方などの印象的なシーンのために言葉が紡がれていくような感じを受ける。
「クライマーズ・ハイ」などは先ず日航機のあの墜落のシーンが中心となりそれを中心に物語が進んでいる。「半落ち」もあの最後のシーンを中心に物語が収束していくような印象だ。
だからなのかもしれないが、横山秀夫の作品は映像化すると非常に引き込まれるのかもしれない。素晴らしいっすよ。
posted by りょーち | Comment(6) | TrackBack(7) | 読書感想文
この記事へのコメント
トラバありがとうございました。非常に細かく考察されていますね。私は、「顔」がD県警シリーズ初読みだったのですが、後追いで本シリーズも読みたいなあ、と思いました。
>印象的なシーンのために言葉が紡がれていくような感じを受ける
に深く共感致しました。
Posted by つな at 2005年06月03日 21:12
つなさんこんにちは。りょーちと申します。
トラックバック(勝手に)送ってしまいました(^^;

>後追いで本シリーズも読みたいなあ
是非是非お読みください。横山秀夫さんの作品はストーリーよりも寧ろそこで動き回るキャラクターで読ませる作風だと感じています。
私が最近面白いなーと思ったのは雫井脩介さんですね。彼の作品も「人」がメインです。未読であればお暇なときに読んで見るといいかもしれません。

あと、つなさんのBlogを拝見していて興味深いと思ったのが、カテゴリーを発行元で分類されているところです。なんだか斬新な気がします。
日ごろ文庫本はよく読むのですがあまり「どの文庫本だっけ?」と気にすることがないもので・・・

また(こっそり)お邪魔いたします。
ではでは。
Posted by りょーち at 2005年06月04日 16:21
こんにちは。
>カテゴライズ
自分の興味のために始めたのですが、テーマの数が増えていくことに頭を痛めています。そして、「その他の出版社」が最も多いこの現実!笑 でもしょうがないので、このままいきます。

>雫井脩介さん
実は最近一冊読んだのですが、自分の中で評価がまだ定まらない感じなのです。りょーちさんのブログを参考に、また借りてきたいと思います。

>こっそり
ええ、またこっそりいらして下さいね。
(どーん!、といらっしゃっても、歓迎ですよ。笑)
私ももう少し、りょーちさんのブログを探検してみたいと思います。トラバ送ることがあったら、またよろしくお願いしますね。
Posted by つな at 2005年06月06日 09:24
つなさんこんにちは。りょーち@管理人です。

Blogのカテゴリーはやはり難しいですよねー。
私もこのサイトを今から0ベースで作成するならカテゴリーはもう少し変えていたかもしれません。(結構適当に作ってしまった・・・)

>トラバ送ることがあったら、
>またよろしくお願いしますね。
「どーん!」と送ってください(^^;

ではでは。
Posted by りょーち at 2005年06月08日 00:49
はじめまして、とんびと申します。
勝手にトラバさせていただきました。それでもっていきなり「横山秀夫はもういい」だからかなり怒ってらっしゃるかなあと今更心配しております。
 いろんな読み方があるのだなあと参考にさせてもらいました。これからも同じ本を読んだときに感想を読ませてもらおうと思っております。
Posted by とんび at 2005年08月01日 00:34
とんびさん、こんにちは。りょーちと申します。

>「横山秀夫はもういい」だから
>かなり怒ってらっしゃるかなあと

んー。そんなことはないですよ(^^;
人それぞれいろんな感想があると思いますしよいのではないでしょうか?(感想なので褒めることだけではないはずですよね)

でも、私は横山秀夫さんの文体が自分の読書の感覚にあっているのでまた買っちゃうと思います。

ではでは。
Posted by りょーち at 2005年08月01日 00:46
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