2007年03月12日

桜庭一樹:「赤朽葉家の伝説」 このエントリーをはてなブックマークに追加

赤朽葉家の伝説
赤朽葉家の伝説
posted with amazlet on 07.03.12
桜庭 一樹
東京創元社 (2006/12/28)
売り上げランキング: 1347

りょーち的おすすめ度:お薦め度お薦め度

こんにちは、東京丸・京平です(嘘です)。

この物語のジャンルは何なんだろうとふと考えてみると読み終わった今でもなんだかよくわからない不思議な物語である。
紅緑村の赤朽葉家に嫁いだ万葉(まんよう)の超能力ともいえる不思議な力が物語のコアな部分となってはいるのだが、山陰地方のとある村の昭和期の記録とも読めるし、親子三代にわたっての伝記とも読めるが、終始一貫して不思議ワールドであるのは間違いない。
物語は三部構成となっており、第1部は祖母の赤朽葉万葉、第2部はその娘毛毬(けまり)、第3部は毛毬の娘である瞳子(とうこ)が主人公となり、全ての物語は瞳子の回想録として紡がれている。

昭和初期、鳥取県にある紅緑村に住む捨て子の少女は幼き頃から自分には不思議な能力があることを知った。それは未来を予知できる能力であった。少女は地元紅緑村で製鉄業を営んでいた赤朽葉家の当主の嫁タツに見込まれ、自分の息子と結婚し赤朽葉家に入るように示唆する。少女は未来が見える千里眼の持ち主ではあったが、学はなく、文字すら読むことができなかった。それが元で学校ではいつも一人ぼっちであり、特に黒菱造船の娘、黒菱みどりとにはことあるごとにいじめられていたが、ふとしたことでみどりとはその後数十年もの間、唯一親友と呼べるほどの仲になっていく。
タツの言葉どおり、数年後に赤朽葉家に嫁いできた万葉の心の中にはあるひとつの印象的な予知が頭に残っていた。それは「見知らぬひとつ目の男が空を飛んでいく」未来視であった。未来視で見た男は結婚後すぐに赤朽葉家で会うことができた。男の名前は保積豊寿(ほづみとよひさ)と言い、赤朽葉製鉄の職工であった。男の目はまだ両方あり、万葉は遠い未来、豊寿が隻眼になるであろうことを憂い「目を大事にするように」と進言した。しかし、万葉の助言の甲斐もなく、豊寿はある日隻眼になった。溶鉱炉の事故を止めるために作業をしていた豊寿の目に熱いものが飛び散り、目が溶け落ちた。
この頃から万葉は口伝に千里眼の持ち主であることが周囲で噂になりつつあった。
万葉の能力はその後も消えることなく、万葉の初めての出産の日、産み落としたわが子「泪」の一生を予知してしまった。その未来はあまりにも暗い未来であった。泪は同性愛者であり、ある日山に登りそこで遭難して死んでしまうのだった。万葉はそれ以来もっと沢山の子供を生まなければという使命感に駆られ、娘の毛毬を産んだ。毛毬の出産のときは万葉は娘の未来を見ようとしなかった。
そしてその頃女中の真砂(まさご)が百夜を産んだ。百夜の父は万葉の夫の曜司(ようじ)である。曜司と真砂は密かに通じ合っていたのだ。そしてその子供百夜もその後寝取りの血筋とも呼ばれるまでに万葉の子供、毛毬の男を寝取っていく。

タツの命令で、万葉は妾の子、百夜を育てされられることになってしまった。同じ頃に生まれた娘の毛毬。毛毬が生まれて1年後に生まれた娘の鞄(かばん)など赤朽葉家にも随分人が増えてきた。
娘の毛毬は万葉のような千里眼の持ち主ではなかったのだが、唯一不思議なこととして、真砂の産んだ娘の百夜の姿が見えなかった。文字通り視界からも見えず、その存在さえも認識できないのだ。毛毬が中学に上がる1980年前後は混沌とした時代であった。巷ではレディースと呼ばれる女性暴走族が流行り、毛毬は豊寿の弟の子供(姪)の保積蝶子たちとつるみ、山陰地方を牛耳るまでの勢力になっていった。毛毬も蝶子もルックスがよく周囲からの評判も高かった。特に蝶子に至っては成績もよく、中学を卒業するまでにレディースは卒業すると周囲に明言していた。毛毬たちの噂は県を越え、全国的にもかなり知られるまでになっていった。そんな毛毬にも恋人ができた。野島武は紅緑中学の総番で顔はお世辞にも良いほうではなかったが強い人間に憧れていた毛毬と武は惹かれあって恋人になっていった。毛毬はその後も勢力を拡大し、ついに中国地方を制圧するまでになったが、突然引退することを決めた。
引退後毛毬は何故か漫画家になった。毛毬の書く漫画は中学時代の体験を元にした暴走族をテーマに「あいあん天使(えんじぇる)!」という漫画を書いた。これが見事に世間に受け入れられ見る間に毛毬は有名漫画家の仲間入りを果たす。毛毬はこの頃、タツが決めた男の美夫と結婚した。この頃連載が忙しくなっていた毛毬はタツの連れて来たこの男とすんなり結婚し、まもなくして瞳子を産んだ。毛毬の書いた「あいあん天使(えんじぇる)!」はその後12年もの歳月連載されるというロングセラーとなったのだ。しかし、瞳子が9歳になった頃、その連載の最終回を書き上げると毛毬はあっけなくこの世を去っていった。

そしてこの物語の瞳子の時代である現代。瞳子は祖母の万葉のような超能力もなく、母の毛毬のようなクリエイティブな才能もなかった。瞳子は祖母万葉の死に際に万葉が告げたある言葉が頭を離れなかった。万葉は「人を一人殺した」と瞳子に告げ、この世を去っていった。瞳子は祖母の万葉が誰を殺したのか検討が付かなかったのだが、祖母の話を元に周囲の人間一人一人の死を再度洗出していくことにした。
そして瞳子が最後にたどり着いた結末とは・・・

日本の昭和史を軸に親子三代にわたるこの物語。ミステリー小説ともいえなくはないのだがやはり他のミステリー小説にはない「何か」があるように思う。独特の世界観を構築した、この桜庭一樹の才能には瞠目に値する。この本を手にするまでこの桜庭一樹という作家を知らなかったのだが、どえらい人間であるっす(女性であることもはじめて知った・・・ 桜庭一樹オフィシャルサイト Scheherzade - Home)。戦後の日本史に沿って地方都市にある旧家の復興と没落が淡々と語られているのだが、その題材の選択も秀逸である。桜庭一樹はどちらかといえば今まではライトノベル系のフィールドで活躍していたようであるが、本書はどの世代の人々にもかなり共感して読むことができるのではなかろうか?兎に角、超オススメの一冊である。

■他の方々のご意見(やはり絶賛されているっす!)
posted by りょーち | Comment(0) | TrackBack(1) | 読書感想文
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


第60回日本推理作家協会賞受賞作品
Excerpt: 第60回日本推理作家協会賞は以下の通り決まりました。 <長編および連作短編集部門>  桜庭一樹さんの「赤朽葉家の伝説」   <評論その他の部門>  小鷹信光さんの「私のハードボイルド」と..
Weblog: 及川的大人のブログ
Tracked: 2007-05-16 21:59