2006年11月13日

小峰元:「アルキメデスは手を汚さない」 このエントリーをはてなブックマークに追加

アルキメデスは手を汚さない
小峰 元
講談社
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

こんにちは、シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠です(嘘です)。

ミステリー好きを自認するりょーちでも、当たり前だが世の中にある全てのミステリー小説を読んでいるわけではない。おそらく真のミステリー小説好きの人々は江戸川乱歩や横溝正史などを読み漁り、トリック談義に華を咲かせたり「あの小説のアリバイ崩しは云々」とか「あのときの犯人のあの行動は・・・」とかディープな話題で酒を飲めるのかも知れない。
そんな人たちが「本格推理小説」などという推理小説のサブジャンルを定義し「本格でないもの、下がれ下がれ」とか「控えおろう。この本格が目に入らぬか」とか「なんてったって本格だもんネ」とシーナマコト調に話したりしているに違いない。

本書、「アルキメデスは手を汚さない」は第19回江戸川乱歩賞の受賞作らしい。作者の小峰元は1994年に他界されたのだが、江戸川乱歩賞とはいえその小説が今また脚光を浴びている。偶々通りかかった本屋に平積みされていた本書の帯には作者の小峰元よりも大きな文字で「東野圭吾」の名前があり、推薦文を寄せている。中には「東野圭吾の新作では?」と思って本書を購入した人も2人くらいいるかもしれない(いないか?)。しかし、仮に東野圭吾の本と思って買ってしまい、自宅に帰って間違いに気づいた不幸な二人にとっても、きっと本書を間違って購入したことを後悔しないと思う。

後書きを見て知ったのだが、本書は「青春ミステリー」という新しいジャンルを開拓した記念すべき一冊であるらしい。今でこそ「青春ミステリー」という単語を耳にしても違和感はないかと思われるが、当時としては「青春小説」と「ミステリー小説」は相容れないものだったのかもしれない。
本書に登場する人物は大阪の高校生が中心である。そして時代は1970年代前半。学園紛争などが終わりかけてきた頃である。推理小説では誰かが殺され、その犯人は誰なのかという「フーダニット」と、何故殺されなければならなかったかという「ホワイダニット」と、どうやって殺されたのか?という「ハウダニット」の三つの大きな疑問が一般的に提示される。本書では物語の冒頭シーンで既に一人の人物が命を落としているところから始まる。
豊能高校二年の柴本美雪は妊娠中絶手術の途中に死亡した。美雪の死に落胆する父の柴本健次郎は娘の詩の原因となった行為の相手探しにやっきになっていた。健次郎は柴本工務店の社長である。高度成長時代に数多のマンション建築が盛んに行われていた。柴本工務店もその例に洩れず、手広くマンション建築を手がけていた。美雪は死の直前まで妊娠の原因となった相手の名を健次郎に教えることはなかった。美雪は死の間際に「アルキメデス」という謎の言葉を口にしこの世を去っていったのだ。
数ヶ月前、同級生の延命美由紀、前川佳代子、宮崎令子の仲良し四人組で琵琶湖へ二泊三日で旅行したのが最後の思い出となってしまった。
健次郎は同級生の誰かが相手に違いないと確信し、犯人探しを始めるのだ。その調査の手始めに初七日の法要に美雪と仲のよかった同級生数人を自宅に招いて話しを聞いた。その中の内藤規久夫の祖母は健次郎の会社が建てたマンションの騒音を苦に体調を崩し死んでしまったことを知る。
内藤達が柴本美雪の家に呼ばれている間に豊能高校では内藤規久夫の弁当を食べた柳生隆保が腹痛を訴え救急車で運ばれるという事件が起こっていた。警察の調べでは内藤の弁当には砒素が混入していたとのこと。誰かが内藤の弁当に砒素を入れ、内藤の毒殺を試みたのであろうか?
幸い柳生は一命を取りとめ大事には至らなかった。保隆が入院したとの連絡を受け駆けつけた保隆の母の幾代と姉の美沙子も安堵の息をついた。病院には美沙子の彼氏の亀井も来ていた。亀井は美沙子の勤務する会社の上司であり、既に妻子を持っている。なので、美沙子と亀井の関係は俗に言う不倫関係であった。勿論母の幾代はその関係を歓迎するわけもなく何度も別れるように説得を続けてきたのだが改善の余地は今のところ見られていない。
体調も回復してきた保隆は数日後に予定されている修学旅行にも参加できるとのことであった。
修学旅行当日、柳生家では幾代も温泉旅行に行くこととなり、美沙子はその日に家に亀井を迎え入れる計画を立てていた。そして当日、保隆と幾代が出かけていったところに予定通り亀井がやってきた。ところが幾代が突然戻ってきたのだ。亀井は急いで中二階の物置に隠れた。幾代は腹痛で戻ってきたようで、美沙子は亀井が家から逃げる時間を作るために幾代と一緒に病院にいくことにした。美沙子が戻ってくると既に亀井の姿はなかった。亀井は美沙子と幾代がでかけた隙に逃げたのだと思っていた。
ところが翌日以降、亀井が会社に出社することはなかった。どうやら、亀井は行方不明になっているらしく、亀井の妻から捜索願がでており、美沙子にも警察からの取調べがやってきた。
亀井の調査が続く中、幾代が近所のスーパーでセメントを数袋買っていたという目撃証言が上がり、警察は柳生家の家宅捜査に乗り出した。家を調べてみると床下から亀井の死体が発見されたのだ。更に「私が殺しました」と自供したのは母の幾代だった。幾代には動機殺害の動機もあるのだが、果たして犯人は幾代なのか?

本書はこの亀井殺しの真犯人は誰なのかというフーダニットを主軸に語られる。こう書くと「どこが青春ミステリー小説なのか?」と思われるかもしれないが、そのあたりは本書を是非読んで欲しい。この亀井殺しに美雪の妊娠の相手探し、柳生の毒殺未遂事件が複雑に絡んでくるところが本書の読みどころである。
物語の終盤には今までの事件が全て見事に解決されていく。そして解決と同時にひとつの謎も定義される。その謎は小説を読み終わっても読者にも登場人物にも分からないところは、なかなか上手いと感じた。
1970年代と今現在の高校生の考え方を聞いていると時代は違うものの今との共通点もやはり見受けられる。今のような時代だからこそ温故知新的な本書が脚光を浴びたのかも知れない。改めて読んでみてよい一冊である。
そして読み終わるとはじめて「ああ、これは青春ミステリーなんだねぇ」と思う一冊である。
是非、読むべし。
■他の方々のご意見
猫は勘定にいれません
メモ
21st徒然草: 読書記
アマチュアサイエンティスト: 書談

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