2005年03月04日

中町信:「模倣の殺意」 このエントリーをはてなブックマークに追加

模倣の殺意 (創元推理文庫)
中町 信
東京創元社
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

推理小説読了後、うまく騙されたときには気分が良い。中町信さんの小説を読むのはこれがはじめてなのであるが、どうやら本書は中町信さんのデビュー作のようである。
本書の解説を読むとどうもこの本はいろいろな紆余曲折を経ているようだ。

1971年「そして死が訪れる」(第17回江戸川乱歩賞候補作)(この年の受賞作はなし)
1972年「模倣の殺意」に改題(雑誌『推理』に連載)
1973年「新人賞殺人事件」(1973年 双葉社)
1987年「新人文学賞殺人事件」(1987年 徳間文庫)
2004年「模倣の殺意」(2004年 創元推理文庫)

この5つ、基本的に全く同じ小説である。これだけ改題されて今なお注目を浴びている小説は珍しいのではないか?小説としての骨子は変わっていないため、時代背景も1970年前半の設定のままで、携帯電話とかも登場しない。尤も、携帯電話などあったらこの小説はある意味成立し得ないのだが。
そういう意味である種古めかしい印象を持つかもしれないが、プロットとしてはなかなかいい感じであった。
本書を読み終えて、私の好きなある推理小説作家の有名な小説を思い出した。ここでその作家の名前を出すと本書をこれから読む方にも対比される推理小説作家(仮にAさんとしておきます)の作品を読む方にも先入観を与えてしまうので言及するのは避けます。私としてはそのAさんの作品を先に読んだので「これは似ているなー」と思ったのですが、発表年は「模倣の殺意」の方が断然早い。
おそらく本書を発表した際はこういったトリックが受け入れられにくい土壌にあったのではないかと感じる。
本格よろしく「読者への挑戦」なども付記された本書、ストーリーとしてはこうだ。
本書には中田秋子と津久見伸助という二人の視点から記されている。
7月7日午後7時、坂井正夫が服毒自殺する。密室ということもあり自殺であろうと判断された。坂井正夫とつきあっていた中田秋子は彼の死に疑問を持ち自ら捜査を開始する。
中田秋子は坂井が世話になっていた高名な作家、瀬川恒太郎の娘である。
一方、作家兼ルポライターの津久見伸助は坂井の死亡に関する話しを記事にすべく、坂井の周辺を調査し始める。
坂井正夫は死ぬ前に親しい人間に自分は素晴らしい小説を書き上げたと吹聴したり、婚約者の秋子には近々まとまったお金が入るのでどこかに旅行に行こうなどと伝えており、自殺する動機は見えてこない。
しかし、その坂井渾身の一作は瀬川恒太郎の盗作ではないかという疑惑が生じていた。
秋子は坂井の死を調査する中、以前、坂井の部屋で会った遠賀野律子という女性が鍵を握っているのではと思い、律子の住む魚津市へと向う。
津久見伸助は取材の途中で、坂井に恨みを持っていたと思われる柳沢邦夫という編集者に目星をつけた。柳沢の妹は坂井とつきあっていたのだが自殺してしまったのだ。
「1部 事件」「2部 追求」「3部 展開」「4部 真相」という4章からなる本書。3章の終わりでは、中田秋子と津久見伸助はそれぞれ真相と思われる結論を出す。
そして、4章へとなだれ込むのだ。で、4部の扉にこのように書かれている。
あなたは、このあと待ち受ける意外な結末の予想がつきますか。
ここで一度、本を閉じて、結末を予想してみてください。

などと挑戦的な文章が書かれている。
りょーちも結末を予想して見たのだが、予想通り(?)見事に外れた。
「真相はそーだったのか。うーむ。」
どうも中町信に上手く騙されたような感じなのだが、悪い気分ではない。真相を踏まえてもう一度読んで見たくなる作品になっている。1971年の江戸川乱歩賞候補作が今も支持されているのは頷けた。
今回「はじめての中町信」だったのですが、感触としては悪くない。もうすぐエープリルフールなのでちょいと騙されたいと思った人にはお薦めの一作である。
posted by りょーち | Comment(6) | TrackBack(3) | 読書感想文
この記事へのコメント
読者への挑戦状!
好きなんですよ、こういう本格。やったるぞーって思っちゃう。
そういえば久しく東京創元社の本を読んでいないことに気付きました。
私にとっても「はじめての中町信」になるわけですが、早々に挑戦してみます。
ご案内ありがとうございました♪
Posted by marine at 2005年03月05日 02:49
こんにちは。りょーち@管理人です。
りょーちの場合、本格至上主義というわけではないのですが、やはり「読者への挑戦状」は心躍りますね。
>そういえば久しく東京創元社の本を読んでいないことに気付きました。
あまり出版元に頓着していないので、どこの本を読んでいるのかあまり気にしたことがありませんでした。でも、どっかで見た装丁だったので、何か東京創元社の書籍を読んだことがあったのかなーと思い家の中の本のスペース(本棚ないので・・・)を引っ掻き回したところ、
貫井徳郎:「慟哭」
山口雅也:「生ける屍の死」
有栖川有栖:「月光ゲーム」
有栖川有栖:「孤島パズル」
と、意外とあることに気づきました。
で、さらにこのラインナップを見て見ると、自分でBlogに感想を書いたものでした。(うーむ)
今度から版元も(少しは)気にしてみます(^^;
ではでは。
Posted by りょーち at 2005年03月07日 10:17
読みました!読了までがあっという間でした。
読者への挑戦については、3章の終わりぐらいでお話の構成はわかったのですけど、でも犯人については確信がもてなくて。
密室のからくりはアタリでしたけども。

それにしても、これって昭和40年代の発表作なんですねえ。
家賃2万円の表記に物価の激変を実感。あと、言葉使いがやっぱり違うなあ、と思いました。「○○ですわ」って最近の女性は使いませんからね。
推理小説として今読んでも遜色ない、というのは賛成ですが、記述されている風景や人々の気質がちょっとレトロな昭和の空気で、いい感じですね。
Posted by marine at 2005年03月30日 02:14
marineさん、こんにちは。りょーち@管理人です。
marineさんもお読みになられましたかー。昭和40年代頃の作品なので、今ではトリックとして成立し得ないようなシチュエーションもありましたねー。全体的に私は見事に騙されましたが(^^;

>「○○ですわ」って最近の女性は使いませんからね。
そーですね。今はデヴィ夫人くらいでしょうかね(^^; おそらく当時もこういった言葉遣いをされる女性の方は少なかったかもしれません。

私も昔の作品で読んでいない本がかなりあるのでそのあたりも時間を見つけて読んでみたいと思います。夢野久作とか久生十蘭とか小栗虫太郎とかの怪しげなゾーンにチャレンジしたいです。
コメントいただきましてありがとうございました。
ではでは。
Posted by りょーち at 2005年03月30日 06:46
初めての中町信はとても楽しめたんですが、「30年前に読みたかったなぁ」って感じです。無理な話ですが・・・。似たような作品を読む前ならもっと素直に驚けただろうになぁ。
Posted by outside_hill at 2005年05月23日 12:19
outside_hill さん、こんにちは。りょーちと申します。
コメントいただきありがとうございます。

>「30年前に読みたかったなぁ」
お気持ち分かります。トリックと密接に関わってくるので詳細は記載いたしませんが、現在ではトリックとして成立できなさそうな内容ですよね。

りょーちの場合はそれは推理小説における「制約」として読むことで(一応)納得できました(^^;

>似たような作品を読む前ならもっと素直に驚けただろうになぁ
題名を明かすとネタバレになるので、記載できませんが、この作品と同一線上にある小説は最近多くみかけるようになりました。でも、数十年前にこの手のプロットを考察できたというのが中町信さんが最近クローズアップされている原因なのかなーとも思います。
ではでは。
Posted by りょーち at 2005年05月23日 12:30
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中町信「模倣の殺意」
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Tracked: 2005-05-23 12:20

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