2005年03月01日

新堂冬樹:「無間地獄」 このエントリーをはてなブックマークに追加

無間地獄 上  幻冬舎文庫 し 13-1
新堂 冬樹
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無間地獄 下  幻冬舎文庫 し 13-2
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

人間には人に触れて欲しくない過去が多かれ少なかれ、あるんだと思います。
本書に登場する桐生保もそういった過去を抱えています。彼の過去はちょいと強烈でした。特にネタバレではなさそうなので言及しても構わないのですが、ここではその暗部に触れることは避けておきます。
新堂冬樹という作家は人の暗部や過去の傷を抉り取るように物語を進めます。眼を背けたくなるような、想像するのも忌まわしい言動・行為をこれでもかと読者に投げつけてくるのです。
桐生保は暴力団富樫組の若頭である。彼は闇金からの借金が滞っている顧客から金品を回収することを生業としている。桐生の金に対する執着心は筆舌に尽くしがたい(って小説なので書いちゃってるのですが・・・)ものである。取立ての際に債権者が窓から落ちて死のうがお構いなく室内から金目の物を奪い取り、債権者の葬儀で香典まで平気で奪い取るような人間である。
一方、もう一人の男、玉城慎二はエステティックサロンで働く営業マンである。営業マンと言っても訪問販売のように各家庭を回りあるくのではなく、街頭でのキャッチセールスによる営業活動が主体だ。玉城には生まれ持った美貌があり、自分の武器が何かをよく心得ており、街行く若い女性を甘いマスクと巧みな話術で契約を取り付ける。玉城は以前女性に騙され全財産を失うというトラウマがあり、以後、女性は利用して捨てるものという信条で生きている。
この物語はそんな二人を中心に描かれる。ここまで読めば単なるヤクザ系金融小説かと思われるかもしれない。新堂冬樹の得意とする「人が堕ちていき、崩壊していく様」が「これでもか!」と描かれ目を覆いたくなる。しかし、本書の根底にあるテーマは異なる。新堂冬樹の描くテーマはすばり「愛」なのである。無間地獄で描かれる愛は通常の常識では理解し得ない愛である。
「闇金」と「愛」の二軸で語られる本書を読了後、きっと「借金だけは絶対してはいけない」と思うに違いない。
玉城は本書ではどうしようもない人間の典型として描かれている。女を騙し、金を搾り取り、自己に危険が迫ると以前捨てた女を口先で再度騙しということをひたすら繰り返す。玉城は桐生に嵌められとてつもない借金を背負ってしまうのだが、玉城に関しては愛惜の念は最後まで沸くことがなかった。
桐生はといえば、彼の生い立ちの部分だけでひとつの物語が完成するほどの壮絶な過去を持ち、ヤクザの世界で生きていく桐生に不思議と肩入れしてしまう自分がいることに気づいた。力が全てという桐生の生き方には当然反発するものいる。桐生と常に敵対し富樫組の後釜を狙う鬼塚の奸計が物語りの幅を広げる。誰もが利己主義的な生き方をし、自分の私利私欲の赴くままに走り続けている。そのレースの先頭を切って走る、桐生。
ひたすら強者として自分を鼓舞する桐生が最後に見せる弱さを私は笑うことができない。桐生はそういう生き方しかできない人間だったのだと諦念するのは容易だが、人はどこかで道をひとつ間違っただけで、悲壮な人生になってしまう可能性を秘めている。瞠目に値する本書のラストを読み終え、暫し放心してしまったよ、ホント。

文庫本の解説で茶木則雄氏が言及しているが、無間地獄とは、等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、叫喚地獄、大叫喚地獄、焦熱地獄、大焦熱地獄と続く八大地獄の最下層に位置し、その苦しみは先の七地獄の千倍といわれる最悪の地獄らしい。経典にはこの無間地獄に関しては詳細が一切語られていないが「無間地獄」という名前を聴いただけで吐血して死に至るらしい。本書はそのタイトルに相応しい内容であることは間違いない。私はこの「無間地獄」の中のどの登場人物(たとえそれが街行くサラリーマン的な端役だったとしても)にもなるのは願い下げである。
いやーな気持ちになったり落ち込みたいときは本書を読めばよいだろう。(って、こんな感想を読んだ後にこの本を買う人がいるのだろうか?)
posted by りょーち | Comment(0) | TrackBack(1) | 読書感想文
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読書感想「無間地獄」
Excerpt: 読書感想「無間地獄」 無間地獄 上 幻冬舎文庫 し 13-1 無間地獄 下 幻冬舎文庫 し 13-2 【評価】★★★★
Weblog: 三匹の迷える羊たち
Tracked: 2005-11-13 00:47