2005年02月22日

椎名誠:「さらば国分寺書店のオババ」 このエントリーをはてなブックマークに追加

さらば国分寺書店のオババ (新潮文庫)
椎名 誠
新潮社
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

昔出版した書籍が何年たっても色あせず、今読んでも共感できる本っていうのを名作というのであろう。そういった本は時代背景などに関係なく人々に感動を起こす書籍である場合が多い。でも「今読んでも笑える本」ってのは結構少ないのではないか?
そんな中、10年以上前に出版された本書「さらば国分寺書店のオババ」をダンボールから引っ張り出して再読した。
うーむ。やっぱり未だに笑える。
時代的にはJRがまだ「国鉄」と呼ばれていた時代。この本は作家としてオギャアと生まれてきたばかりのシーナマコトの産声のよーな小説である。生まれたばかりの赤ちゃんは「今、こんなところで泣いてはいけない」などと思わずあたり構わず泣き叫ぶ。椎名誠さんの叫びの原動力は「世間に対しての怒り」だったのではないかと思う。そして彼の言う「世間」とはシーナマコトさんの半径5メートルくらいの範囲だと思う。
なので、一般のジャーナリズムの方々のように「オレのペンで世の中を変えてやろう」などと(思っていたかもしれないけど)いう感じではなく少なくとも自分の周りだけは何とかしてくれという気持ちがうかがえる。
しかしその背伸びをせずに自然体のままで世の中を見た視点は人々に「そーだそーだ」「その通り」「あんたが大将」などと共感を与える。で、彼の作品に共感した人々は彼のことを好きになっていくのである。一度食べたら最後、気づけばシーナマコトの恐ろしくも心地よい世界にどっぷり浸かっていることに気づくだろう。
本書の前半部分、彼はホントにいろいろなものに怒りをぶつけていた。
その目次だけ拾って見ても十分楽しめる。
1. 国鉄はいま わしらの眼をまともに見ることができるか
検察/業務連絡/乗り越し料金/電気ドリル/カラオケ超人願望/最終電車
2. 日本の”本官”たちはいったい何を話しておるのか
交通整理/国分寺駅前派出所/南口ロータリー/国分寺書店/ビールとラーメン/忍者影丸/東京地方検察庁/毒だみが原のアリ地獄/派出所の会話
3. 死ね! そこいら中の制服関係の皆様
深夜の激闘/憤怒の底流/地獄の路線バス/甲子園はクソ劇画である/うるさいのだ/オババの正体
4. うに寿司のジャーナリズム的摂取方法
公務員の算数/制服人間粉砕同盟人民戦線/生牡蠣とロースとビーフの問題/涙の目標管理/産業界タマタマの法則/痴的おかま的マイルドセブン
5. 夕陽にむかい背を丸め痛恨のチーズケーキ九六〇円の春
車掌の本分/国分寺カバ/オババの運命

もう、読む前からワクワクするラインナップじゃないですか?

どれもこれも等身大の椎名誠さんの詰め合わせなのである。これだけの完成度でデビュー作というのだからやはり椎名誠さん、おそるべしなのだ。そして嵐山光三郎さんの後書きも非常によい。何がよいかといえば貶しているのだか褒めているのだかわからないところがよい(いや、やっぱ、絶賛しているんだよなー)。単語だけ取って見たらネガティブな単語がポンポンと飛び出すのだが、やっぱ褒めちぎってます。

りょーちとしては、椎名誠さんの「世の中を見る視点」が非常に好きである。学生時代は「哀愁の町に霧が降るのだ」「新橋烏森口青春篇」「銀座のカラス」の一連の私小説に心を奪われ、克美荘日記に私も一筆書きたかったなーなどと昭和の時代に青春を謳歌する貧乏学生達に共感し、のめないのに「クレバワカル」という居酒屋で一杯やってみたいなーと思ったりした。このあたりの本を読んでいると不思議と椎名誠さんと青春時代を共有したと感じちゃうところがまた凄いのだ。

で、繰り返しになっちゃんだけんども、りょーちの中では本書「さらば国分寺書店のオババ」は「何か小説読みたいなー」でも「手元に新しい小説がない」というときに引っ張り出される小説だったりします。
りょーちのお気に入りのエピソードは「生牡蠣とロースとビーフの問題」である。これはもう廃刊になっちゃったんだけれど「噂の真相」という雑誌が創刊されたときのパーティの話しである。このパーティに呼ばれた人々はマスコミ関係者の人であり、椎名誠さんも呼ばれたのである。それまでビジネス界のパーティには参加したことがあった椎名さんはマスコミ関係者・ジャーナリストの方々横暴且つ横柄なパーティでの礼儀作法(?)に怒りを覚えたというお話し。これってよく読むと「寿司が食えなかったことへの怒り」というだけなのだが、椎名誠にかかれば抱腹絶倒は必至の出来事に仕立てあがるから不思議だ。パーティの中での椎名さんの怒りに打ち震える様子がありありとイメージできるのだ。日常の出来事を面白おかしく小説にするということは言うなれば普通の日常生活でも見方を変えれば「楽しく生活できる」のだということを気づかせてくれる。

で、更に椎名誠さんのすごいところは今まであれほど拳を振るわせるほど怒りに満ち、糾弾していた人々を最後の最後でフォローしている。このフォローも「なんか怒ってばっかりだと各方面、各関係者、新郎新婦代表、ご家族の皆様に反感を買うから謝っちゃえ」というスタンスではなく、自分の怒りを向けていた人々を別の側面から客観的に見て「許して」いるのだった。(ここがすばらしいばいね)

本書のタイトルにもなっている「国分寺書店のオババ」は国分寺駅付近にある古本屋を営むオババであり、椎名さんは古本屋を売る際に勇気を振り絞ってこの国分寺書店に行っていた。あの、椎名さんが畏怖するほどのオババはどれほどの威力を秘めているかは本書をお読みいただきたい(なお、本書に登場する国分寺書店は既になくなっているようである)。で、このオババにも最初は罵詈雑言を並べ立てていたのだが、椎名さんが改心(?)するプロセスはちょいと「ホロリ」と泣けてくる。
「八代亜紀の舟歌が流れる安い居酒屋で小学校の初恋の相手に似た人を見かけたのだがやっぱり人違いだった。あーあのころはよかったね」
などと新橋で一人ごちているサラリーマンのよーな哀愁を感じる。(謎)

ちょっと元気がなくなったらまた再読したい一冊なのだ。いまや全世界を飛び回って未だ青春真っ盛りの椎名誠さんには今後も是非是非頑張っていただきたいのであった。

posted by りょーち | Comment(0) | TrackBack(2) | 読書感想文
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Excerpt: ぼくは高校の頃、椎名誠みたいになりたいなあ と思っていました。 なんか本読んで、旅して、キャンプして、そのことをちょっと書いただけで 儲かるのかなんてね。
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