2005年01月24日

沙藤一樹:「プルトニウムと半月」 このエントリーをはてなブックマークに追加

プルトニウムと半月 (角川ホラー文庫)
沙藤 一樹
角川書店
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りょーち的おすすめ度:お薦め度

小説の作法としていろいろな手法が勿論あるのだろう。本書、「プルトニウムと半月」では主人公の和也と双子の姉妹の華織と沙織の関係は果たして序盤では隠しておかなければいけないことだったのか? どーも作者の狙いがいまひとつよくわからなかった。話がかなり前後して、現在の状況、過去の状況が交互に出てきたりするのであるが、正直効果的だったかといわれるとちょっと違うよーな気がする。
内容は、原子力発電所の事故により、発電所周辺が危険区域として外界から隔絶される。海から同心円状に区切られたその形から、いつしか「ハーフムーン」と呼ばれるようになる。華織と沙織の両親はその事故が起きた原子力発電所に勤務していたが、事後処理などで事故後は家に連絡することも出来ず、華織と沙織は隣人より事故があったことを聞く。更に華織と沙織は被爆し喉を痛めてしまう。彼女達の喉には半月型の手術痕が残ってしまった。
事故後ハーフムーンは自殺の名所とされ、従前より住んでいた数名の住民や、外の世界に嫌気がさした人々のみが住むこととなる。ハーフムーンの住人達は小さなコミュニティを形成し、外敵から自分達を守るために武装する。
とりわけ、住人の中の須藤真里は異質である。常にライフルを傍らに携えて行動する。須藤真里は実の弟妹の祐子と成二にはあまりよい感情を持っていない。また祐子と成二も真里への不信感を徐々に募らせていく。危険地帯の中で人間関係も危うい中、仲間のアッキが徒党を組んでハーフムーンを襲うレッドデットというグループに殺害される。
一方、須藤真里らとハーフムーン内で行動を共にすることとなった、和也は以前に人を殺したというトラウマに支配され、レッドデットたちへの報復も今ひとつ気が進まなかった。アッキを殺したレッドデットたちを許すことは出来ないが、殺人もしたくないという思いの狭間で和也は苦悩する。

で、本書の早い段階で説明があるのだけど、この和也が華織なわけだ。華織はハーフムーンの中では男として活動している。それは、前述の殺人が原因のひとつだったりする。
和也は性(女性)を捨て名前(華織)も捨て、ハーフムーンで生きていく。
更に、外の世界から塔志という少年がやってくる。ハーフムーンの中で生きていくだけの生活力もない塔志に、和也は以前の自分をオーバーラップさせながらも生きていくための知恵やルールを教えていく。
また、自殺の名所として知られるハーフムーンに一家心中にやってきた夫婦と赤ん坊をみつけた和也は赤ん坊だけ引き取る。赤ん坊は咲子といい、咲子は和也や真里たちと一緒に暮らし始める。咲子は言うなれば、ハーフムーンの中の倫理に近いものがあったと思う。純粋に育つ咲子は彼ら少年少女の中で育っていくが、その咲子までもレッドデットたちに襲われた際に命を奪われてしまう。咲子の死を見届けていた塔志から一部始終を聞いた和也はハーフムーンを去っていく。

うーむ。世界観には共感できるものがあるのだが、先にも述べた全体の構成はこういった感じでないほうが読みやすいと感じた。勿論意図的に行っているんだろうけど、肝心の世界観に浸る前に躊躇してしまうんだなー。どーも、そこが最後まで気になった。
また、ラストも救いようのない終わり方だけに「何を一番訴えたかったのか」今ひとつ(頭のよくないりょーちには)見えてこなかった。

でも、登場人物のキャラクター設定はなかなかよかった。キャラに強さと個性があるので、この作者の本をまた読んでもいいような気がしてきた。
posted by りょーち | Comment(1) | TrackBack(1) | 読書感想文
この記事へのコメント
その通りじゃ!
Posted by 小説ハカセ at 2011年11月22日 03:39
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沙藤一樹
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