りょーち的おすすめ度:

推理小説を読んでいると、終盤で、どーしてもページを捲るスピードが速くなってしまう。「どうなるの? どうなるの?」と読書時の体勢も怪しく前傾姿勢になりがちである。本書「火の粉」のクライマックス部分を読んでいたとき、もう、ラージヒルだかノルディック複合だかの競技に参加する荻原兄弟と船木和喜と原田雅彦を合わせたような前傾姿勢になっていた(謎)。
それほど面白く、スピード感のある一冊だった。
武内は輸入雑貨・家具を取り扱う会社の経営者でもあり、ある事件の容疑者となっていた。その事件とは武内の以前住んでいた隣人宅で起こった殺人事件だったりする。現場の状況から限りなくクロに近い印象だったが、証拠不十分で武内は無罪となる。この無罪判決を言い渡した裁判官が本書の主人公、梶間である。
裁判官の梶間は退官後、大学で法律学を教えることとなる。そんな中、武内が数年後、なんと梶間家の隣に引っ越してくる。
(このシチュエーションだけでももうホラーなのだが・・・)
武内が引っ越してきてから後、梶間家では不幸が相次ぐ。
梶間家の嫁で梶間の息子の妻である雪見は武内の(行き過ぎと思える)行動に次第に不信感を募らせるが、逆に梶間家から孤立してしまい、ついには家を出て行かざるを得ない状況に。頼りになるはずの夫の俊郎は弁護士浪人中であり、ダメ人間。
雪見の不安は徐々に確信へと変わりクライマックスへ。
うーむ。素晴らしいっす。
何が素晴らしいってこの作者の雫井脩介。「あー、こんな人がいたんだー」とわが身の読書暦の狭さを披瀝することになるのだが、ホント、素晴らしい作家である。
本書では「冤罪」がひとつのキーワードになっている。
「冤罪」とは、平成国際大学のサイトに記載されているが、
冤罪とは「無実の罪」のことをいい、真犯人でない者が犯罪を犯したのではないか、という疑いをかけられ逮捕・起訴され、審理そして有罪の判決を受けることをいいます。冤罪は、警察の捜査員の見込み捜査に始まり、それが検察や裁判所にチェックされることなく進行することによって作り上げられます。誤判を生み出す主要な原因は、日本の刑事手続の構造そのものにあるといえるでしょう。
ということらしい。
本当に冤罪なのであれば、それは勿論とんでもないことである。冤罪に問われた無実の罪の人間にとってはたまったものではない。
しかし、更に悲劇なのは、冤罪によって刑を免れる真犯人が存在しているということであろう。殺人事件の場合、今までの容疑者が実は無実(冤罪)でした。ということになれば、被害者の家族は「じゃあ、真犯人は誰なのよ」となるわけです。日本の犯罪検挙率は
犯罪数が増加するに当たって低下しているような気がします。その中で、何件かの冤罪も生じているわけです。勿論警察官の方々は日々犯罪撲滅にむけて活動されているわけで、よくテレビに登場する刑事という方々もそうでしょうが、交番の警察官の方々などのパトロールなどにより、未然に事件・事故が防がれているケースも多々あると思います。しかし、犯罪の数は上昇し、そのことにより、裁判も増え、裁判は長引き、真犯人は見つからず、被害者は泣き寝入りって構図がニュースなどの一般メディアで多々報じられている。
冤罪については本来あってはならないことであるが、本来あってはならないことは元々は凶悪な事件の方であり、警察官の方々にその対応が悪いとかなんとかいうのはどうも筋違いのような気がしている。
テレビや小説に出てくる警察官や裁判官などはある程度美化されて書かれているのは承知してはいるが、もうちょっと「報われても」いいような気がしないでもない。
そういえば、本書はこの「報われる」というのもひとつのキーワードになっている。人はいろいろな行動をするわけだが、無償の善意というものは実は非常に少なく「見返り」を無意識にも期待している気がする。犯罪撲滅や平和維持活動などのNPOの団体の方々には非常に頭が下がる思いであるが、この人たちは本当に「見返り」を要求していないかといえば、ちょっと疑問。あ、勘違いしないでいただきたいのですが、だから「活動はダメ」とか言っているのではありません。こういった活動は誰かが問題定義を行い、それに賛同する人々を募り、社会構造や組織改善を促すために有用且つ有益であるとは思います。
殆どの活動の方々が「今の時点よりも何かをよくしよう」と思い、ご活躍されていることとは思いますが、その活動にも「見返り」があると感じています。繰り返しになりますが、だからダメとか言っているのではありません。「見返り」が「現象をよくするため」または「あるべき姿に是正するため」のエンジンであればいいのです。
(ってこんなこと書いちゃうと怒られるのかな・・・)
本書は犯人当ての要素がないわけでもないのだが、勿論読んでいただくとわかるのだがそれはこの本のコアではない。本書の読みどころは「人間の心理」なのかなと思う。当たり前じゃんと思われるかも知れないが、小説には人間の心理状態が書かれている。ただ、推理小説の場合は、如何にも「すごいトリック思いついちゃった。じゃあこのトリックを骨子として一本書いちゃえ」的な小説もなくはない。
「火の粉」という小説は勿論そうではない。題名の「火の粉」はりょーちには、『降りかかる「火の粉」は自ら払わねば』というその「火の粉」のイメージがある。梶間家に降りかかる「火の粉」を誰がどのタイミングでどのように振り払うか。そのプロセスと心理描写は本書の読みどころなのかなと思った。
読書中は貴志祐介の「黒い家」並に「いやーん」な雰囲気に満ちていた。
読後感も「いと微妙」な終わり方に「うーむ」となってしまった。(オレってボキャブラリが貧困・・・)
雫井脩介さんのこの「火の粉」は、りょーちが(勝手に)よくお邪魔するサイトの管理者のpikakoさんからご紹介いただき、読み始めたのであるが、かなりファンになりました。(pikakoさん、ありがとうございます)
文庫本の帯には映画化とテレビドラマ化が決定したとの情報が書いてありましたが、配役が非常に気になります。映画化、ドラマ化を早急に切望しています。
人気blogランキングに参加中です。読み終わった際は、えいっと一押し → 人気blogランキングへ
「火の粉」は怖いですがかなりおもしろいですよねっ。
私も配役気になります。
最近この作者の「虚貌」(上・下)を読みましたがそっちもかなり面白かったですよぉ!
読む本に困ったらぜひ手にとってみてくださいっ。。。
>もう、ラージヒルだかノルディック複合だかの競技に参加する荻原兄弟と船木和喜と原田雅彦を合わせたような前傾姿勢になっていた(謎)。
このコメントに笑わせていただきました。お気持ちはわかります。雫井脩介はこの作品しか読んだ事がないのですが、機会があれば他もチャレンジしてみようかな・・・。
丁寧な書評、とても興味深く読ませていただきました。
「火の粉」はホラー的に怖かったです。通勤の友にした選択は大間違いでした(苦笑)。
世間に無償の善意は少なく何かしら見返りが求められている、というご意見には残念に思いながらも頷いてしまいました。人間の性でしょうか。最初は無償のつもりでもどうしても何か、が欲しくなるものですね。私的には見返りが「ありがとう」っていう言葉ひとつでも嬉しいのですけども、いつかはそれだけじゃおさまらなくなるのかもしれない。
武内はきっと自身が無償の愛情を得られなかったがために有償で愛情を欲しがったのだと読んだ後に思いました。
rareさんのサイトを拝見させていただきまして、読書のカテゴリーがかなりりょーちと似ているなーと思いました。
「虚貌」もお薦めなのですねー。
うーむ、また積読が増えそうな・・・
お正月の課題図書にいたしたいと思います。
また、rareさんのサイトにもお邪魔させていただければと思います。
ではでは。
>このコメントに笑わせていただきました。
はっ!
お恥ずかしや・・・(うーむ、自分で後で読み返してみて、「何でりょーちはこんなこと書いているのかと・・・(反省)」
投稿前に指差し再確認(^^;
私も雫井脩介さんは本書がはじめてなのですが、後頭部をハート型土偶で殴られたくらいのショックでした。それほど、素晴らしい作品でした。
りょーちも、機会を無理矢理作って雫井脩介さんを制覇する勢いで読みたいと思います。
ではでは。
私も通勤の際に読んでおりました。本当にクライマックス付近では、周囲の方が「この人へんなのでは」と思うほど、前傾姿勢で読んでいたと思います(^^;
>武内はきっと自身が無償の愛情を得られなかったがために有償で愛情を欲しがったのだと読んだ後に思いました。
うーむ。これは慧眼かも。
後書きにも書かれていましたが、武内の行為は実は普段の私達の行為と然程差はないのではという部分には納得させられる反面、普通の人とそうでない人の差は、閾値を超えるか超えないかという最後の判断の差だと思います。
数値に置き換えることは勿論不可能ですが、人間はその曖昧模糊とした揺らぎの中で踏みとどまるように生きているのかなあ。
コンピュータのような悉無律とした生き方しかできないような人が起こす事件が現在もいろいろなところで起こっているのは武内のように一線を越してしまったのでしょうね。
と、こうやって書いているりょーちも、何時そのようになるかわかりません。(って、自分では危ない人ではないと思うのですが・・・)
いろいろ考えされられる名作でした。
また、こっそり marine さんのサイトも拝見させていただきまーす。
ではでは。
「火の粉」読まれましたですか。ラストは怒涛の勢いですよね。そして考え込んでしまいますよね。
人は誰も武内のように、誰かに必要とされたいと思っていたり、愛情を自分だけに向けてほしいと思っていると思うんですけど、その要求の度合いはたいていの人がうまくコントロールできているんでしょうか。そんな読後感でした。
先日雫井氏のデビュー作「栄光一途」を読みました。日本の柔道の強化選手をめぐるドーピングの話で、幾分ゆっくりな展開かな〜と思いきや、やはりラストは走ります。
内容はえーと、うまく表現できませんが、う〜〜〜んっ!
え?そう? という感じです。これじゃわからないですよね。
さて私は今、先日りょーちさんが紹介された「転生」をよんでいます。大変おもしろいです!
1行目から止められないですね。電車降りないで乗り越しちゃおうかなって思います。
通勤時間が足りない〜っ なんて初めて感じました。
まだ、半ばですので、これから楽しみです。
これからも、おもしろい本のご紹介楽しみにしています。
ご紹介いただきました「火の粉」ですが、非常に満足度が高く、楽しめました。
武内のような思いは少なからず誰でもあるのかもしれませんね。
>先日雫井氏のデビュー作「栄光一途」を読みました
>内容はえーと、うまく表現できませんが、う〜〜〜んっ!
>え?そう? という感じです。これじゃわからないですよね。
確かにわかりませんねー(^^;
でも、きっと読むと思います。
りょーちは、現在雫井氏の「虚貌」を読んでおります。まだ読み始めたばかりなのですが、なかなかよい滑り出しです。
pikakoさんに雫井氏をご紹介いただけたおかげで「虚貌」と共によい年末が過ごせそうです(^^;
#「栄光一途」も気になりますね。
積読がまた増えそうな予感のりょーちからでした。
ではでは。
こないだ、掲載したばかりのこの雫井氏の記事、googleで「雫井脩介」で検索すると2004年度12月27日現在、13,000 件中トップに表示されてしまいます。
SEO対策とか全くやってないのですが・・・
謎です。
#りょーちのパソコンだけかな?
非常に手応えのあるサスペンスでした。
テレビドラマとしては、冤罪の逆パターンというのはこれまで見た記憶がありません。
かなり考えさせられました。
これから書籍の方で読み直したいと思います。
りょーちも土曜ワイド劇場を見ました。
>冤罪の逆パターンというのはこれまで見た記憶がありません。
そーですねー。あまり見かけないパターンかもしれませんね。
そーいえば、ドラマのラストと小説のラストが微妙に違いましたねー。
ドラマの終わり方も「あり」なのかも知れませんが、小説のラストもなかなか考えさせられるものでした。メディアに寄って最適な終わり方があるのかも・・・(謎)
書籍も勿論期待を裏切りませんのでご安心してお読みください。
ではでは。
火の粉は映画化の確たるソースはございません。
いろんなところで読んだまま信じてました。
・・・というかドラマ化されたこと知りませんでしたっ。。。
くぅー観たかったなぁー。
読書ジャンルが似ている人は最近blogでよく見かけますよね。
いやー、本っていいもんですねー(淀川さん風)
りょーちと申します。
>火の粉は映画化の確たるソースはございません。
そーでしたか。一度テレビで映像化されたものがまた映画化されることもあるかもしれませんが、「火の粉」ももしかしたらそうなのかな?と思ったりして伺って見ました。
個人的には「犯人に告ぐ」の方が映画向きな気がします。
ではでは。
あ、映画化?ドラマ化?ではないのですが、読んでいて池本杏子さんは何故か私の中ではカンペキに「木村多江」さんでした。
コメントいただきましてありがとうございます。
この本の恐怖って心の底からの恐怖って感じですよね。
>今日はずっと「火の粉」を引きずり、家事や仕事をしていました
うーむ。それはそれは・・・ 立ち直ってくださいねー(違うか?)(^^;
雫井脩介さんは今最も旬な作家さんの一人だと思います。
>池本杏子さんは何故か私の中ではカンペキに「木村多江」さんでした。
小説を読んでいると、「あ、こんな感じの人かなー」などと思いながらやはり読みますよねー。
そういった空想の世界のオモシロさも小説自身の内容が深いほど面白いなーと思ったりいたします。
ではでは。
「火の粉」読み終わりました。たしかに読中は「いやーん」な感じで、読後は「うーむ」で終わりました。りょーちさん、うまい!
でも、こんな面白いミステリー、最近出会ってなかった!!
今は、映画化の話が頭にこびりついて離れないです。ちなみに、土曜ワイド劇場時のキャストを見てみたんですが…「うーむ」という感じでした、正直。雪見は、原沙知絵さんも良いとは思いますが、もっと自分から動くような躍動感があり、すこし影もある人がいいかなと思い、僕的には夏川結衣さん以外ありえませんでした、笑。
あと、ricocyuさんの池本杏子=木村多江さんは、僕もずーっとずーっと思ってました、彼女の最初の登場シーンから、笑。それから、俊郎は大森南朗さんでした。あのちゃらんぽらんでいながら偉そうな感じは、彼にやらせたら右に出るものはいないと思います。(何の自信でしょうか)
というわけで、是非是非映画化して欲しいです。
コメントいただきましてありがとうございました。
「火の粉」はblogでお知り合いになりました方から「いいよー」というお墨付きをいただきまして読み始めました。雫井脩介さんの本で一番はじめに読んだのがこの「火の粉」でした。そしてかなり衝撃を受けました。
tateさんの雪見役は夏川結衣さんってのは、「その手があったかー」と思わせる名手ですね。
確かに夏川結衣さんならぴったりですよね。
いい小説にめぐり合ったときには、映画化したときはこの人は誰が演じたら面白いかなーとか思わず考えてしまいます。
ということで小説の内容も含めて更にお得な気がいたしました。
わたしも映画化希望です。
ではでは。
一昨日虚貌を、今日火の粉を読み終えました。
ハッキリ言って私は最低なことをしてしまいまして・・
途中で巻末を除くという・・愚行を。。。
きっとみなさん同様、というか普通に読みつづけていたら
キモ怖くてイライラしていたでしょう。
貴志祐介の黒い家と少しシンクロしました。
が、どちらも違う怖さが・・。
狡いことしたのに言うなって感じですね(笑)
>途中で巻末を除くという・・愚行を。。。
あー、でもわかる気がします。
雫井脩介さんの本ってスピード感があって、なんかページを繰るのが速くなりがちなんですよねー。「次はどーなるの?」「それでそれで雪見は?」「武内、何すんねん!」的な畳み掛けるようなプロットがそうさせるのではないかと思います。
>貴志祐介の黒い家と少しシンクロしました。
そーですよねー。同志がいました(^^;
確かに怖さの質が違うかと思います。
>狡いことしたのに言うなって感じですね(笑)
うーむ。というか、そうさせてしまう小説を書いた雫井脩介さんがすごいのかもしれません。
「犯人に告ぐ」も間違いなく面白いので是非是非読んでみてください。