パラレルワールド・ラブストーリー
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東野 圭吾
講談社 (1998/03)
売り上げランキング: 33,122
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おすすめ度の平均: 




りょーち的おすすめ度:

こんにちは、志生野温夫です(嘘です)。
東野圭吾さんの小説ではタイムパラドックスものが多い。本書もある意味ではそれに分類されるような小説だと思う。パラレルワールドとはSFなどの世界でよく持ち出される概念で、現在自分が生活している世界とは別の世界にもう一人の自分が存在する世界のことである(参考:パラレルワールド - Wikipedia)。村上龍の「 五分後の世界 」や小野不由美の「 月の影 影の海 」に始まる十二国記シリーズなどもパラレルワールドを題材とした小説だ。十二国記や五分後の世界は現在の物理学の世界では説明できないような超常現象的な形でパラレルワールドが形成されているが、ミステリー小説家東野圭吾氏の手による本書はある程度現実に則って物語が綴られる。
本書で最も印象的なシーンを挙げるならば、冒頭のシーンである。崇史が大学院時代、向かいの電車に乗っている乗客に淡い恋心を抱くシーン。東京を走る山手線と京浜東北線は双方の列車が殆ど同じスピードで平行に走る区間があるのだ。崇史は山手線を、名前も知らない彼女は京浜東北線を利用していた。
本書では二つの物語が平行世界(パラレルワールド)のように進んでいく。
大学院を卒業した敦賀崇史はアメリカにあるコンピュータメーカーのバイテック社に研究員として入社する。崇史の中学時代からの友人でもある三輪智彦とは大学時代まで同じ道を進み、大学卒業も崇史と同じバイテック社に勤務することになる。
バイテック社では新入社員の中でも特に優秀な人材をMAC技科専門学校というバイテック社が最先端技術の研究と社員の英才教育を目標として作った研究機関に送り込むことになっている。敦賀崇史と三輪智彦もMACで研究を行っているのだ。智彦は幼少の頃から足に障害を抱えており足を引きずるようにしか歩くことができない。智彦はそれをコンプレックスとして捕えていたが、そんな智彦から「彼女ができたので紹介したい」と告げられる。崇史は自分のことのように喜び、自分も女友達である夏江と一緒に食事会を開くことになった。
そしてその食事会で紹介された智彦の彼女を見て崇史は息が止まるほどの衝撃を受けた。智彦の彼女、津野麻由子は崇史が恋焦がれていた京浜東北線の彼女だったのだ。
麻由子が智彦を選んだことに崇史はショックを受けていた。智彦の足のコンプレックスを表面的には気にしていないつもりだったのだが、自分は智彦よりも上の立場に立ってものを見ていたことに気づかされる。
麻由子と智彦と同じ職場で働くことになった崇史は身を引き裂かれる思いだった。麻由子は智彦のサポート的な役割として同じテーマを担当することになる。智彦の専門は記憶に関する分野だった。
というストーリと
大学院を卒業した敦賀崇史はアメリカにあるコンピュータメーカーのバイテック社に研究員として入社する。崇史は同僚の津野麻由子と同棲生活を送っている。崇史はバイテック社で記憶に関する研究を行っている。中学時代から大学まで同級生だった三輪智彦も同じバイテック社に勤めている。最近どんなことをしているのかは分からなかったのだが、まだ会社にいるんだという印象しか受けなかった。崇史の研究は順調に進んでおり公私共々に順風満帆であった。しかし、何故自分は智彦のことをあまり覚えていないのかという疑念が生じる。そして麻由子は実は智彦の彼女だったとりありえない想像が更に矛盾した記憶がふと湧き上がる。針で刺したほどの小さな疑念が崇史を徐々に襲ってきた。そして堰を切ったように様々な事柄に矛盾が生じてきた。一体自分はどうなってしまったのか?
というふたつの物語なのだ。(ややこしい)
本書はこの矛盾した二つの物語が1章、scene1、2章、scene2といった順番で繰り広げられる。果たしてどちらが真実の物語なのか?
本書に関してはネタバレは厳禁である。物語集版までこの1章とscene1との関係が曖昧になった状態で読み進めていった。りょーちは、終盤になって「あー、そういう関係だったのかー」と気づかされた(ダメ?)。そしてその関係が分かったと同時に本書のラストを読み終え非常に切ない気持ちになった。この物語は記憶に関する難しそうな研究の薀蓄よりも二人の親友(敦賀崇史と三輪智彦)が同じ一人の女性(津野麻由子)を愛してしまったというよくある構図のラブストーリーと言えなくもない。が、物語の運び方が見事である。東野圭吾は推理小説化ではなく恋愛小説化ではなかろうか?と訝しがってしまうほどである。
記憶が混同した崇史の描写を読んでいると、今、自分がこうやってキーボードを打っているのは果たして本当のことなのかどうなのかを証明するのって非常に難しいことに気づいた。りょーちの中で「何が事実なのか?」ということを自分自身で証明することって実はできないのではないかとも思う。映画「マトリックス」などでも同じような疑念を主人公が持ったりしていたかと思う。歴史の教科書に書かれている「安政の大獄」や「大政奉還」や、まあなんでもいいのだが、そういったものは実は本当に起こったことなのかというのは今、生きている人で証明できる人は誰もいないのではないだろうか? そして人はそういった「あやふやな事実」の上で生活しているのだなあと改めて感じた。
幼少時代に「実はこの世界は全て自分の想像したもので、自分が死んでしまうとこの世界はなくなってしまうのでは?」といった疑念を誰しも一度は持ったことがあるのではなかろうか? 西岸良平の漫画にもそういった話しがあった。崇史が自分の記憶が不確かなものかも知れないと感じたときの恐ろしさは相当なものだったに違いない。うーむ、やるな東野圭吾。
TBSでドラマ化された東野圭吾の「白夜行」も推理小説というよりは恋愛小説に近いのだが、白夜行ほど、鬱屈した世界観ではない。しかし悲哀に満ちた終わり方はどの登場人物にとってもハッピーエンドではなかったように思う。ただ、ハッピーエンドではなくてもこの「パラレルワールド・ラブストーリー」はよいのだ。
崇史はこの後、どういう生活・研究を送っているのかが非常に気になるっす。
■東野圭吾作品一覧
■他の方々のご意見:
・「パラレルワールド・ラブストーリー」|月灯りの舞
・So-net blog:ただいま読書中!(仮):パラレルワールド・ラブストーリー・・・東野 圭吾
・KITORA's Blog: 「パラレルワールド・ラブストーリー」読了
・ねむねむ小説:パラレルワールドラブストーリー★★★★☆
・JJWorkshop [BLOG]: パラレルワールド・ラブストーリー
・パラレルワールド・ラブストーリー *東野 圭吾 : ころりんぶろぐ
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