高嶋 哲夫
文藝春秋 (2002/03)
売り上げランキング: 156,658
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りょーち的おすすめ度:

こんにちは、香川染千代・染団子です(嘘です)。
少し昔に出版された本だが「イントゥルーダー」を再読してみた。
世界に名だたるコンピュータメーカー東洋電子工業の副社長の羽嶋浩二の元に一本の電話が掛かってきた。電話の相手はもう25年も前に突然消息を絶った学生時代の恋人、松永奈津子からだった。奈津子の息子、松長慎二が重体であり、しかも慎二の実の父親は羽嶋浩二であるという。奈津子が去った後に別の女性と既に家庭を持っていた自分に息子がいたことなど浩二は全く知らなかった。
浩二の経営する東洋電子工業は現在TE2000という、完成すれば間違いなく世界最高の演算速度を実現させるであろうスーパーコンピュータ開発の真っ只中で、もうすぐ完成し、プレスリリースを迎えるというところまで来ていた。東洋電子工業の最高技術責任者CTO(chief technology officer)である浩二もこの時期は文字通り寝る間もないほど多忙な日々を迎えていた。そんな中での奈津子の電話だったが一度も会ったことがないとは言え自分の息子の慎二が重体であることを聞き、急いで病院に駆けつけた。
その息子の松永慎二はユニックスというソフトウェア開発会社に勤めていた。ユニックスは7年前に設立された会社で顧客管理システム、製造業関連の技術計算などのシステムを幅広く手がけており浩二も注目していた会社である。元々コンピュータ分野の資質があったのか、遺伝によるものなのかは分からないが松永慎二のコンピュータの知識は切れ者のみが集うと評判のユニックスでも一目置かれる存在だった。母子家庭に育った慎二は幼少の頃、自分の実の父が東洋電子工業の羽嶋浩二であることを知り、父を目標に日々努力し続けていたようである。
病院に駆けつけた浩二は、慎二が新宿区歌舞伎町でひき逃げ事件に遭ったことを知る。
スーパーコンピュータTE2000のマスコミ発表を一週間後に控えた今、止む無く仕事に戻ったが翌日も時間を見つけ慎二の入院する病院に顔をだした。そこで待ってのは刑事だった。刑事は息子の慎二についての話しを聞きたがっていた。なんと慎二は覚醒剤使用の容疑が掛かっているようだ。浩二からは有益な情報が聞き出せなかった刑事は病院を後にした。
浩二は慎二とはどういった青年だったのかを知りたくなり、奈津子に鍵を借り慎二のマンションを訪問することにした。
慎二の部屋はシンプルな構成で且つ整理整頓されており慎二の几帳面な正確が伺えた。部屋には浩二の昔書いたコンピュータ向けの本なども並べられおり、あらためて自分の息子なのだという思いがこみ上げていた。部屋の中を見て回っていると外から若い女性が突然入ってきた。女性は宮園理英子と言い、慎二とは慎二から鍵を預かっていた仲だと言う。理英子は慎二が事故に遭ったことを知らず、話しを聞き驚いていた。浩二は理英子に何かあったら連絡するように名刺を渡し、慎二のマンションを後にした。
数日後、刑事より慎二を撥ねた車が千葉の港の海中で発見されたことを聞いた浩二は何かの事件に巻き込まれた可能性を感じ、再び慎二の部屋に足を踏み入れる。そしてそこで慎二が新潟の柏崎に行ったことを突き止めた。
何故、慎二は柏崎へ行ったのか?
慎二は何故死ななければならなかったのか?
TE2000に潜むバグの正体は?
後半、物語は意外な方向に展開し、更に大きな広がりを見せる。
そして終盤、慎二と浩二にしか分からない息子から父へのメッセージを目にしたとき、物語に感動が生まれる・・・
1949年生まれの高嶋哲夫は慶応大学の理学部の修士課程を修了した後、アメリカのカリフォルニア大学に留学している。今でこそ、理系の大学生が修士課程に進むことが珍しくない時代だが、当時はかなり優秀でないと修士課程に進むことができなかったのであろう。
本書に書かれている技術的な内容は今でこそ多少古めかしい印象を受けるが、高嶋哲夫が「イントゥルーダー」を サントリーミステリー大賞 に応募した1999年という時代を考えると科学推理小説としてはかなり時代を先取りしたものだった。そしてこの「イントゥルーダー」はその年の大賞と読者賞をダブル受賞している。1000万円というサントリーミステリー大賞の破格な賞金の他に、イントゥルーダーはドラマ化もされた。主役は確か陣内孝則だったような気がする。Googleで検索したら他にも松下由樹、秋吉久美子、手塚理美などが出演していたようだ。りょーちはそのドラマをリアルタイムで見たことがあるのだが、この小説のボリュームを考えると限られた時間でなかなかよくできたドラマだったように思う。
最近の高嶋哲夫の話題としては M8(エムエイト) の続編とも言える TSUNAMI(津波) が話題である。
本書のタイトルの「イントゥルーダー」(intruder)は日本語では「侵入者」という意味である。通常「イントゥルーダー」は歓迎されないものとして認識されている。羽嶋浩二にとって松永慎二はきっと「イントゥルーダー」だったのだろう。浩二の前に慎二は少なくとも3回ほど、違った形で侵入している。1回は現実世界で自分が実の息子であることで、既に家庭を持っている浩二の生活に侵入している。あとの2回は実際に本書を読んでいただきたい。浩二は侵入者である慎二をどのように受け止めていたのか? 見えない親子愛に心を打たれる必読の一冊である。
参考:ミステリー作家高嶋哲夫のページ
この本は私の五つ星、オススメです。
息子の父親を思う心と、父親の息子に対する愛情に
すごく感動しました(TT)
>息子の父親を思う心と、父親の息子に対する愛情に
>すごく感動しました(TT)
同感です。昔読んだときの感動が今でも伝わってきてなかなかよい作品でしたー。たまに読み返してみるのもよいですよね(^^;
ではでは。
地震の後にこの本を思い出しました。
コメントいただきましてありがとうございます。
>この本で凄いところは新潟中越沖地震の
>柏崎刈羽原発が断層の上にあるという
>ことを既に言っている事!
ホントだ! そーですね。
言われてみて気づきました。
それはかなり凄いことですよねー。
「イントゥルーダー」+「M8」が今回の地震の一件のよーに思えてちょいと恐ろしいですね・・・・
興味深いご指摘ありがとうございました。
ではでは。