ハイドゥナン (上) posted with amazlet on 06.01.09 藤崎 慎吾 早川書房 (2005/07/21) 売り上げランキング: 8,955 おすすめ度の平均: ![]() ![]() ![]() ![]() | ハイドゥナン (下) posted with amazlet on 06.01.09 藤崎 慎吾 早川書房 (2005/07/21) 売り上げランキング: 9,328 おすすめ度の平均: ![]() ![]() ![]() ![]() |
りょーち的おすすめ度:

こんにちは、喜納昌吉です。ハイサイおじさん(嘘です)。
沖縄というのは未だに謎が多い。本書は琉球の地、沖縄を中心に世界規模で生じる地殻変動を救うべく活動した人々の壮大な物語である。中心となる3つのグループが夫々の使命を担い、エンディングに彼らの努力が結実する。
植物生態学者の南方洋司が提唱するISEIC理論(圏間基層情報雲理論)によるとエクセプション(例外者)によりISEICを介して地球にアクセスし地殻変動を停止させることが必要らしい。南方と共に活動するHMS(隠れマッドサイエンティスツ)のメンバーには世界ではじめてポータブル型量子コンピュータを開発した理化学研究所脳科学総合研究センターの只見淳、地球科学者の大森拓也など夫々の分野でのエキスパートだが学会からはその奇抜な理論により見向きもされていない学者達である。
マントル内のマントル細菌をISEICを通じて操り、地球と和解すべく地殻変動を沈めるためにはエクセプションの捜索が必要となる。
伊波岳志は共感覚の持ち主である。「共感覚」とはある刺激を受けたとき本来感じるべき感覚に別の種類の感覚が伴って生じる現象であり、程度の差はあるが通常数千人に一人くらいの割合で存在しているらしい。とりわけ岳志の場合その共感覚者の中でも更に特異な症例で五感全てが共感覚に関わっている。昨年よりはじまったその共感覚の症状が最近特に酷くなっている。「お願い・・・」と出し抜けに女性の声が聞こえるようになってきた。
そしてその声の主は沖縄にいた。
後間柚は悪夢に魘されていた。最近見知らぬ青年に助けを求める夢ばかり見てしまう。柚の家は代々ムヌチ(「物知り」)と呼ばれる巫女の家系であった。祖母の兼久康子もかつてはこの地、沖縄でムヌチをやっていた。80歳を過ぎ霊感も弱まっていたが、今でも神様に祈ることだけは続けていた。柚の父栄次が他界したとき、柚の前に初めて神様が降りてきた。神様は柚に康子の後を告ぐことを強要する。ムヌチになるには「カンダーリ(神憑かり)」と呼ばれる一種の精神病的な状態になり、心身ともに苦行を強いられる。神様に「琉球の根を掘り起こせ」「十四番目の御嶽(ウンガン)を探せ」と一方的に告げられカンダーリに苦しめられる。
東京と沖縄で出会うはずのない岳志と柚は互いに惹かれあうように出会った。岳志と柚は琉球の根を掘り起こせるのか?そして沖縄を中心に地球の存続を揺るがす地殻変動を食い止められるのか?
一方、メリーランド大学天文学部のマーク・ホーマーは神になろうとしていた。彼の研究対象は木星の衛星エウロパにある。エウロパにはもうすぐ探査機を送り込み詳細な調査が進められることとなっている。ホーマーもその調査に一役買っている。エウロパには水があり、水があるということはそこには生命が宿っている可能性があるのだ。ホーマーの研究課題は対外的にはエウロパでの生命探査ということにあったが、彼の本当にやりたいことはエウロパで「神」になることであった。
この3つの話しははじめは何もリンクしていなさそうに夫々進んでいくのだが物語り終盤になり夫々が繋がり物語の全容を見せ始める。
本書を読み進めていくと序章に記されている挿話のことを一瞬忘れかけてしまうが読み終えたときに「ふーむ、そう繋がるのか」と唸らされてしまう。
なお、本書のタイトルの「ハイドゥナン」とは「南与那国島」という沖縄で語り継がれる伝説の島のことである。最終的に岳志と柚が「ハイドゥナン」を求めるシーンは少し感動した。
非常にスケールの大きな物語として書かれた本書の作者である藤崎慎吾。りょーちはその作家の存在を本書を手にするまで全く知らなかった。書籍の帯には「クリスタルサイレンス」という小説で1999年のベストSF第一位をGetしているらしい。著者のプロフィールを見ると少し変わった経歴の持ち主であるようだ。藤崎慎吾はアメリカのメリーランド大学海洋・河口部研究科学専攻の修士課程を修了している。本書に登場する地質学や深海についての知識はこれまでのSF小説の作家よりかなり専門的で説得力がある。帯に書かれている小松左京の「日本沈没」を凌ぐ傑作というのも頷ける。
なお、小学館文庫「日本沈没」の解説を書かれている 堀晃 さんの解説が非常に興味深いのでハイドゥナンを詳細に知りたい方はこちらを読んでいただくと更に興味が沸くだろう。
藤崎慎吾『ハイドゥナン』: マッドサイエンティストの手帳
今後の藤崎慎吾の新作を是非読んでみたい。
私はこの作品、昨年読了したベスト 10に入る秀作と感じたんですが、賞レースには全然ひっかかっていませんでしたね。なぜでしょう?
先月ハヤカワ文庫で再販された「クリスタル・サイレンス」は、よりストレートに SFっぽい感じですが、面白いですよ。一読をお勧めします。
コメントいただきましてありがとうございます。
>賞レースには全然ひっかかっていませんでしたね
そーなんですかー。本書は昨年7月には刊行されていたようなのですが、この存在を知ったのはつい最近でしたので実はそのあたりはよくわかっていませんでした。
奥行きのあるいい、科学小説だったと思います。
ではでは。