2006年01月06日

三崎亜記:「バスジャック」 このエントリーをはてなブックマークに追加

バスジャック
バスジャック
posted with amazlet on 06.01.06
三崎 亜記
集英社 (2005/11/26)



りょーち的おすすめ度:お薦め度


こんにちは、桜井長一郎です(嘘です)。

2005年、デビュー作の「となり町戦争」で第17回小説すばる新人賞を受賞した鮮烈なデビューも記憶に新しい、三崎亜記がまたやってくれた。今回上梓された「バスジャック」は三崎亜記が「小説すばる」に2005年2月号から9月号までに寄稿した7本の短編小説からなる。三崎亜記の小説を読むのは本書で2冊目ということになるが、彼は「不思議な空間を日常の空間として見せる」ことが非常に上手い。小説(フィクション)の中でも特にSFやファンタジーの世界では作者の作り出した「非日常」なる世界を如何に読者にリアリティを持たせて興味深く読ませるかが鍵となる。
本書で登場する7つのストーリーは現代社会に身をおく人間なら誰しも経験し得なさそうな物語だが、すぐ傍らにありそうなリアリティを以って書かれている。
表題作のバスジャックはその典型ともいえる。ひとつひとつの小説について言及してみる。

■二階扉をつけてください
出産のため実家に帰った妻を待つ僕のところに近所の人と思われる女性から「二階扉をつけてください」とおかしなクレームが舞い込んできた。女性があまりに怒っていたので町内を一周してみると確かにどの家の二階にも扉がついていた。わけのわからないまま帰宅するが、全ての家に扉が付いていたので電話帳を調べて工務店に電話すると「工務店が二階扉なんぞつけられるか!」とこれまた怒られた。おかしいなと思い再度電話帳を見てみると「二階扉製造・取付」という職業欄がキチンとある。訝しがったが、そこには五件の店が紹介されていた。とりあえずそのうちの一軒に電話してみるとほどなく営業担当が説明にやって来た。分けのわからない見積を出され色々説明されたのだが皆目理解できない内容だったがとりあえず二階扉をつけてもらった。そして僕の家の二階扉を最初に利用することになった妻は・・・
前半部分の不可思議な世界にのめりこみながら読んでいったのだが、ラストで一気に現実世界に引き戻されるような感覚を受けた。

■しあわせな光
本書で最も短い短編である。星新一のショートショートのようにキレがある。そして心地よい余韻の残る力作である。

■二人の記憶
僕の記憶と彼女の記憶には何時の頃からか行き違い、思い違いがあるようだ。不思議な恋愛小説である。たとえ恋人や夫婦として同じ時間を過ごしていても一人一人の受ける感情も違い、体験も違ってくる。しかしゴールはひとつ。なかなか奥深い。

■バスジャック
今「バスジャック」がブームである

物語の書き出しからしてこうである。読者は「バスジャックがブームである世界」に突然誘われる。「うーむ、この話しはおかしいなと思う間もなく、
今、バスジャック公式サイトでは「移動距離」「占拠時間」「総報道時間」「オリジナリティ」の四つの観点からランキングを日々更新している

と畳み掛けるように外枠を埋めてくるのだ。更に「バスジャック規正法」「六・十五 血の闘争」「乗客保護義務違反」など聞いたこともない語句が飛び交う。当然、バスジャックされた乗客もこの不思議世界の住人であり、バスジャック犯に怯むことなど全くなく「その方法はなっていない」などと注意、命令する始末。こういったおかしな世界を紹介するだけでなく、キチンとどんでん返し的なオチも用意されている。

■雨降る夜に
登場人物は男と女の二人だけ。一人暮らしの「僕」の部屋を図書館と思い込み本を仮に来る女の話し。この後この二人はどうなるんだろうと二人の今後を見てみたい気にさせる。

■動物園
「動物園」は本書の中でも長編に入る小説。開園30周年を迎えた動物園にハヤカワ・トータルプランニングの日野原は依頼を受けてやってきた。ハヤカワ・トータルプランニングは予算のない動物園が珍しい動物を見せたいと言う要望に応える隙間産業的な会社であり、社員のイメージによりあたかもそこに動物がいるように幻影をみせることを生業としている。しかし、この世界も競争が厳しくライバル会社に受注を取り返されてしまう。失意の中、偵察がてらライバル会社の仕事の様子を見に行った日野原が見たものとは・・・

■送りの夏
本書だけは実は現実世界でも実際に起こりえるのではないだろうか?小学生の麻美は家出した母を追って見知らぬ場所「つつみが浜」へやってきた。駅を降りたときに出会ったお爺さんは車椅子のおばあさんの世話をしていた。しかし不思議なことに車椅子のおばあさんはどう見てもマネキン人形であった。不思議なお爺さんと別れ、母がいるという「若草荘」までなんとか辿りつく。「若草荘」から出てきたのは幸一という二十代の今風の若者だった。そこでは母、幸一の他に数人が集まって共同生活を行っていた。そしてそこには駅であったあの爺さんとマネキンも共同生活者のメンバーとして生活していた。不思議な共同生活のその理由は・・・ 本作は人が悲しみを癒していく過程を中心に書かれているが、同時に麻美という少女が(月並みな言い方だが)大人への階段を登り始める話しでもある。麻美の母の突き放したような態度にも物語を読み終えた後はこういう家族愛もあってよいのかなと思わせる。

●総論
全く以ってスバラシイ。次回作を直ぐにでも読みたくなってくる作家にめぐり合えた気がした。今後の活躍に是非とも期待したい。
■他の方々のご意見:
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posted by りょーち | Comment(2) | TrackBack(11) | 読書感想文
この記事へのコメント
あけましておめでとうございます。
TBありがとうございました。
私も、三崎さんにはやられました・・・
はじめの「二回扉・・」すごかったです。
ラストは本当にぞっとさせられました。
こんな世界を描く作家さんも少ないですよね。

今年もまたよろしくお願いいたします。
Posted by ゆう at 2006年01月07日 09:49
ゆうさん、こんにちは。りょーち@管理人です。
コメントいただきありがとうございます。
私も三崎さんにはホントにやられています。
もう、すごいの一言ですよねー。
これからも独自路線で不思議な世界を生み出してほしいですね。
ではでは。
Posted by りょーち at 2006年01月07日 18:12
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