薬丸 岳
講談社 (2005/08)
売り上げランキング: 706
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おすすめ度の平均:
じっくり読ませる佳作!最高峰
審査員が5人とも絶賛
りょーち的おすすめ度:
こんにちは、ファイアー浦辺こと浦辺 粂子です。(嘘です)(ネタ的に危険か?)
第51回江戸川乱歩賞受賞ということなので、ミステリー小説として読み始めたのだが、本書はどちらかといえば社会派小説といった印象を受けた。しかし終盤にキチンとミステリーとなっていることが伺える良質の作品である。
社会派小説のようなミステリーの増加の原因のひとつに現代社会の異常性が挙げられる。要するに現実と虚構が限りなく近づいていてフィクションを超えたノンフィクション(メタフィクションとでも言うのだろうか?)が急増しているのだ。
ミステリー作家としては非常に大変な時代である。いくら不思議で斬新なミステリー小説を書いても、読者は現実の事件や事故の方に畏怖の念を抱き、小説の方は「ああ、あの事件をモデルにした小説ね」とともすれば揶揄されてしまうのだが、本書はそのあたりを登場人物の関係性を以って保管しているよーである。
この小説について言及する際に「少年法」という法律を避けて通ることはできない。「刑法41条によると14歳に満たないものの行為は罰しない」というものらしい。少年少女が狙われる事件が最近多い中、少年少女自身が加害者であるケースもあるのだ。そして一般市民は誰が加害者だったかを窺い知ることはできないような社会の仕組みになっている。遺族にしてみれば加害者の年齢により法の裁きに変化が生じることに納得できないであろう。
桧山貴志は留守中に何者かにより、愛する妻の祥子の命を奪われた。失意の中、祥子の葬儀が行われる。まだ生まれたばかりの愛美が泣きじゃくる中、愛美をあやしてくれた見たこともない若い女性がいた。彼女は早川みゆきという祥子の中学時代からの友人らしかった。
その後、事件を調査していた埼玉県警の三枝より3人の少年を補導したと聞いた。彼らは遊ぶ金欲しさに桧山の留守中に妻の祥子を殺害したという経緯を現実感を伴わず聞いた。
「逮捕ではなく補導です」
一瞬三枝の言葉を理解できなかった桧山はその意味を知り憤りを隠せなかった。彼らは13歳という年齢のため、刑務所にも入らず、捜査本部も解散してしまうとのことである。納得できるわけがない。彼らは少年院で適当に日々を過ごし誰にも知られずに社会に復帰する。そういう社会システムなのだ。
祥子の死から4年の歳月が経過した。娘の愛美も大きくなり、今はみゆきの勤める保育園に通っている。貴志は喫茶店の店長として店を切り盛りしており見かけ上平和な日々が流れているように思えた。そんな中、埼玉県警の三枝が突然店にやってきた。三枝は「沢村和也が殺された」と告げた。沢村和也とは祥子殺害の加害者の少年の中の1名である。三枝は桧山が彼ら3名の実名を知っていることを知っていた。
通常、少年法により加害者の名前を開示することはできないのだが、被害者の遺族にはその情報を一部開示している。事件後に桧山は三人の身元を照会していたのだ。
そして事件当時アリバイのない桧山に嫌疑の目が向けられていた。
桧山は事件の真相を知るために独自調査を開始した。そしてそこで彼の知った真相とは・・・
ホントに「よく出来ている小説」である。途中までミステリーっぽくない調子で進んでいくのだが小説内の小さな挿話の殆どが終盤に差し掛かり一気に繋がっていく。
祥子とみゆきの関係。弁護士の相沢。取材を続ける記者の貫井。何故、祥子は死ななければならなかったのか。これらが本当に生き物のように合わせられ「天使のナイフ」というひとつのタペストリーが紡ぎだされたのである。読んでいて気持ちのよいミステリーである。
冒頭にも記載したが本書の一連の事件は 「少年法により情報が公開されない」 ことにより生じたことのように感じる。少年というのは本来弱いものなので守るべきだという側面も分からないでもないが「被害者の方が弱いじゃん」と思ってしまう。
疑問点を挙げるとすれば「天使のナイフ」というタイトルでよかったのだろうか? ここでいうナイフが作中のあるシーンに登場するあの「ナイフ」だとすればそれを「天使の」と修飾することに違和感を感じてしまうのはりょーちだけ?
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