2004年11月16日

花村萬月:「笑う山崎」 このエントリーをはてなブックマークに追加

笑う山崎 (ノン・ポシェット)
花村 萬月
祥伝社
売り上げランキング: 103696


りょーち的おすすめ度:

「笑う山崎」の中には、下記の8編の短編が掲載されている。
1. 笑う山崎
2. 山崎の憂鬱
3. 山崎の帰郷
4. 炙られる山崎
5. 走る山崎
6. 山崎の情け
7. 山崎の依存
8. 嘯(うそぶ)く山崎

本書は元々「1. 笑う山崎」のみで終わる予定だったのだが、何故かシリーズものになったようである。花村萬月さんも文庫本の後書きの中でそのようなことを述べていた。
タイトルにもあるようにこの小説は山崎というヤクザの物語である。正確には山崎の家族の物語であると言ってもよいと思う。
ヤクザにも勿論家族はいる。ただ、「極道の女」などに代表されるヤクザ映画などで伝えられるヤクザの家族の話しとはちょっと違うかな? りょーちが思うにどこにでもある家族の話しが描かれているのだが、ちょっと違うのは山崎がヤクザだった点といったスタンスのような気がする。
この山崎、京大に入学したほどの頭脳の持ち主で非常に頭が良く論理的である。しかしその行動は非常に暴力的。出会ってすぐのホステスのマリーの鼻を殴りつぶす。山崎は時に非常な行動を繰り返し、関東・関西のヤクザに恐れられる。山崎の行動原理は極めて単純だがそれが何かというのはこの場では言及を避けたい。是非一読いただきたい。
山崎の非情な行動の例では、ヒットマン飛田に対する仕打ちがとりわけきつかった・・・
山崎を狙ったヒットマン飛田は、殺害に失敗した恐怖で薬物中毒となる。その後飛田を捕える。薬物中毒で錯乱状態になり、自殺しようとする飛田に山崎は薬物中毒の治療を手伝う。飛田は山崎の手助けの甲斐あり、薬物依存中毒から脱却し、一緒に住んでいた女の良江と真人間になる決意をする。表向きは飛田と良江の門出の手助けをしているようだが、実際は人間として立ち直り、生きる望みを取り戻した飛田を残虐な手段で殺害してしまう。このプロセスは読んでいてかなりに恐ろしかった。
こうやって書いてみると人非人としか思えないが、実は裏では頑張って「お父さん」しているのだ。鼻をへし折られたマリーとは実は程なく結婚してしまう。マリーの連れ子のパトリシアには頭が上がらず溺愛していると言ってもよい。娘が大きくなるにつれ自然と父から離れて行くが、山崎はそのことがとても悲しく、悩んでいる。「どうやったら娘に気に入られるか?」「どうやったら娘に嫌われないか?」これらの悩みは同じ年頃の娘を持つ父親共通の悩みである。ヤクザものの山崎はなにより家族を大事にする。ここでいう家族とはマリーとパトリシアというリアルな「家族」とヤクザ社会の「組」というファミリーの二つに言える。彼にはどちらも大事なのである。
大事であるがゆえに家族を踏みにじられた場合には非道とも思える仕返しを行う。先の飛田も普通ではこうも山崎は激怒するはずではないが、大事な舎弟であり目をかけていた横田が自分のかわりに殺されてしまったことに端を発す。山崎にしてみれば攻撃的自衛策である。横田は山崎からいろいろなことを吸収しはじめていた。単なる舎弟としてでなく男として、家族としての愛情があった。だからこその報復である。ヤクザの世界では「やられたらやり返せ」という感覚だから当たり前なのでは?と思ってはいけない。
誰よりも愛を欲している山崎だから与えられる愛。誰よりも人を愛したいと山崎は思っている。それはヤクザという仁義の世界を超えた愛なのかなとも思ったりした。
兎に角素晴らしい小説であることは間違いない。
りょーちは花村萬月さんの小説は「読まず嫌い」で今まで殆ど読んでいなかったのだが、かなり注目度が高くなった。彼は一貫して自己の人生観を書いている。小説家なら当たり前と思うかもしれないが言及したいのは「花村萬月氏独特の倫理感の一貫性」である。
どーしても花村萬月氏といえばその暴力性がクローズアップされるのであるが、暴力はあくまでも手段である。何をするための手段かといえば、登場人物の自己表現の方法なのかと思う。本書は妻と娘と組織の組員を愛する山崎の暴力を用いた愛の物語なのだ。暴力的な人間が紡ぎだす愛情に満ちた暴力に浸ってみるのもよいかと思う。

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posted by りょーち | Comment(3) | TrackBack(2) | 読書感想文
この記事へのコメント
花村萬月の「笑う山崎」を読む!
トラックバックさせていただきます。
よろしくお願いします。
Posted by tonton3 at 2006年05月16日 20:08
tonton3こんにちは。りょーち@管理人です。
コメントいただきましてありがとうございます。
tonton3の記事内で指摘されている
「これはまったく逆の話で、花村萬月の自信の裏返しだと僕は思います。」
という部分は「なるほどー、そうかも」と思わず頷いてしまいました。
花村萬月おそるべしです。

ではでは。
Posted by りょーち at 2006年05月16日 20:51
って、私、tonton3さんを呼び捨てですね。
最後に3「さん」があったので私の頭の中で勝手に「tontonさん」にトランスレートされていました。

ごめんなさい。
Posted by りょーち at 2006年05月16日 20:58
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花村萬月
Excerpt: Counter: 0, today: 0, yesterday: 0 花村萬月 † 名前:花村萬月(はなむらまんげつ) 【blogmap】 生年月日:1955年 出身地:東京都 ..
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Tracked: 2005-01-05 11:45

花村萬月の「笑う山崎」を読む!
Excerpt: 花村満月の作品、芥川賞を受賞した短編「ゲルマニウムの夜」を読んだとき、そうとうな衝撃を受けました。その後、長編「イグナシオ 」を読みました。この二つの作品は、同じテーマを扱っていて、関連しています。神..
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Tracked: 2006-05-16 20:05