2004年11月15日

有栖川有栖:「孤島パズル」 このエントリーをはてなブックマークに追加

孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
有栖川 有栖
東京創元社
売り上げランキング: 9590


りょーち的おすすめ度:

有栖&江神シリーズの第2作目。前作から有栖も2回生に進級した。有栖の通う英都大学の推理小説研究会に入ってきた有馬麻里亜の嘉敷島にある別荘で起こる殺人事件。
前作の「月光ゲーム」に引き続き今回も江神の論理的推理が冴え渡る。具体的なストーリーについては記載を避けます。
本シリーズではこの江神も推理も勿論見所のひとつだが、もうひとつは登場人物の本格推理小説における薀蓄(うんちく)である。彼らは推理小説マニアなのである。彼らのミステリー小説の知識は本物の作者の「有栖川有栖」氏の知識に他ならないが、作者の推理小説における様々な考察は本当に幅広い。やはり職業作家としてはこれくらいの知識は必要なのかもしれないが、広くて深いです。複数の登場人物にクイーンやポーやその他の海外小説の話をさせている。日本の推理小説もたまには出てくるが基本は海外ミステリーが多く、しかも本格と呼ばれるジャンルである。さらに、登場人物個々に作家への思いを持たせることにより、議論の幅がかなり広がっている。
本作でもまた連続殺人事件が起こってしまう。江神や有栖達には警察のような科学的操作能力はないため、「孤島パズル」では検死の際の医学的考察を孤島にやってきた園部医師に委ね、自己の知識、推理力を頼りに事件を解決へと導く。このプロセスは何度読んでも秀逸だ。
シャーロックホームズに置き換えてみると、江神がホームズで、有栖がワトソン役になる。この構図もミステリ好きの読者には非常にわかりやすく馴染み深い。「孤島パズル」で綴られている殺人事件は所謂「孤島モノ」(クローズドサークル)であり最もスリリングなシチュエーションである。閉ざされた島にいる顔を見知ったメンバーの中の「誰か」が犯人であるため必然的に互いの中に「不安」が生まれる。しかも殺人者(犯人)の行動原理が不明なため、どう、自分を防衛してよいかもわからない。何故犯人が連続殺人を行っているのか?目的は何かが推量できないところに恐怖があり、全員が容疑者且つ被害者候補であり得る。前作の月光ゲームも同様のクローズドサークルものだった。有栖川有栖はこの空間的な閉塞感を巧みに操り事件全体を盛り上げていく。
本書ではフーダニット(「Who done it?」=「誰がそれをやったか?」=「犯人当て」)のパズルとは別にもうひとつのパズルが用意されている。それはこの孤島のどこかに隠された有馬鉄之助(麻里亜の祖父)の遺産である。鉄之助は生前、孤島全体をひとつのパズルとして構築し、このパズルを解いた人間に遺産を与えるという遺言を残している。手がかりは島全体に点在するモアイ像(って言ってもイースター島じゃないですよ)。
この二つの謎に江神・有栖・麻里亜が挑むのだ。そして彼らの導く解答には悲しい結末が用意されている。
江神の推理の美しさは「小さな事実をひとつづつ積み重ねていくことで大きな真実を導く」ことにある。そこには論理的な飛躍や江神だけが知り得た(読者に明かされていない情報)もなく、それゆえ「読者への挑戦」も成立する。
江神・有栖コンビの小説に一貫しているのはトリックのためのミステリーではなくストーリーありきのミステリーとして構成されていることにあり、決して一発もの(トリックがわかってしまえばもう読む気が生じないもの)ではない。今まで本書を読まれた方も再読してみては如何かと思う。
読みながら、なんとなく、霧舎巧さんを想像してしまったのは私だけなのでしょうか?(有栖川有栖さんも霧舎巧さんもどちらも大好きですが・・・)

ちなみにりょーちはこれを読んで「学生の頃はよかったなー」と思ったりしました。(青春小説?)
あと、もうひとこと言っていいですか?

江神さん。あなた、かっこよすぎです。


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posted by りょーち | Comment(4) | TrackBack(5) | 読書感想文
この記事へのコメント
りょーちさんこんにちは。
先日、「邪魔」を読みました。上下で大変な長編なのに前作より、吸い込まれるように読みました。
ストーリーが奇想天外で、それぞれが確かに違った時間を進めているのに、ラストではみごとに一緒の時間を共有していて、面白いですね。
ただ、この先この人たちはどうなっていくんだろうって、締め付けられる思いが残りました。

りょーりさんに質問。雫井脩介という方の作品を読まれたことありますか?
今、ミステリー好きの同僚に借りて読んでいます。
「火の粉」という作品です。
同僚曰く、ハンニバルのレクター博士みたいなんだよってことでした。まだ、数ページしか読んでないので、皆目見当がつきませんが、楽しみな始まりです。
Posted by pikako at 2004年11月15日 17:05
pikakoさんこんにちは。りょーちです。
「邪魔」よかったですよねー。
pikakoさんのご指摘の通り、「吸い込まれるように」って感じですよね。別々のストーリーが最後に合わせられるパズルのような作品で、りょーちもとっても好きな作品です。

>雫井脩介という方の作品を読まれたことありますか
ちょっと気になっている方ですね。書店でノベルズの場所に行くと目につきます。

>楽しみな始まりです
そーなんですかー。ちょっと興味わきました。こうやって読書の幅を広げていければいいなーと思っています。
またご紹介いただければ嬉しいです(^^;

ではでは。
Posted by りょーち at 2004年11月15日 19:31
今まだ「火の粉」を読んでいます。通勤時に読むので非常にゆっくりです。でも、通勤時間が足りない〜って思うほど、スリルがあります。
スリルも色々だとは思いますが、私のボキャブラリーでは他に適当な表現がないです。

この方もたくさん作品があるみたいですね。
同僚とかぶらないように、購入する本を選んだりするので、次に同じ作家を読むかわかりませんが、是非他の作品も読みたいと思います。

ではまた!
Posted by pikako at 2004年11月17日 22:30
pikakoさんこんにちは。りょーちです。
>通勤時間が足りない〜って思うほど、スリルがあります。

あ、それ、わかります(^^;
読書に熱中しすぎて何回か駅を乗り過ごした記憶が・・・

>同僚とかぶらないように、購入する本を選んだりするので
これ、大切ですよねー。
りょーちの場合は、「●●さんの新書は同僚の××くんが買うだろうからもうちょっと待とう」とか思うまでに成長(?)いたしました。
リアルとバーチャルを駆使して新規書籍・新規作家さんを開拓していきたいと思っています。

ではでは!
Posted by りょーち at 2004年11月18日 13:30
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