りょーち的おすすめ度:
こんにちは、酒井くにお・とおるのくにおです(嘘です)。ここで笑っとかないとあとは笑うとこないよ(謎)。
ってことで、小説によっては素晴らしい作品だったり、どーしよーもなく辛い作品だったりと浮き沈みの激しい(と勝手にりょーちが思っている)伊坂幸太郎の新作「
陽気なギャングの日常と襲撃」が発売されていたので早速読んでみた。待ち望んでいる人もかなり多かったのではないであろうか?
タイトルからもお分かりのように、この作品は「陽気なギャングが地球を回す」の続編である。成瀬、響野、雪子、久遠という愉快な4人のギャング仲間たちがまたもや登場する。
小説NONで連載していた短編4本をベースに書き下ろしの文章を追加し大幅に加筆修正した作品。4章からなる構成で、初めの1章は成瀬、響野、雪子、久遠の夫々が別々に人助けをする。勿論、前作で披露した夫々の特技をフルに活用している。
前作の「陽気なギャングが地球を回す」を読んでいない方に説明しておくと、彼らの夫々の特技はこんな感じである。
成瀬:役所勤め。他人の発言が嘘かどうかを100%見分ける技術を持つ。人間嘘発見器。
響野:喫茶店経営。演説の達人であり、止めろといわれるまでいくらでも(くだらない話しを)話し続けることができる。時たま披露する薀蓄には事実でないことも入っている。成瀬とは高校の同級生の間柄。
雪子:派遣OL。正確無比な体内時計の持ち主。
久遠:スリの名人。全く人に気づかれることなく人のモノを拝借する。
彼ら4人が集まると、無駄話の他に副職の銀行強盗が始まったりする。
■第1章 成瀬編
役所勤めの成瀬は、門馬さんというおじいさんが目撃した不審者の話しを大久保から聞く。大久保は成瀬の部下である。PCの壁紙に彼女の写真を貼り付け仕事をしている。大久保の彼女は全国にチェーン店を持つ社長の娘らしい。
大久保と成瀬は外出先からの帰りに、ビルの屋上で強盗につかまっている門馬さんを見つける。門馬さんはこの逼迫した状況の中、1枚の紙切れを屋上から落とした。その紙切れを拾った成瀬が内容を確認したところ「3-二」という謎の数字が書かれていた。
果たしてその数字の意味は?
■第1章 響野編
響野の店にやって来た藤井は飲んで記憶をなくすことが多い。先日も同僚の桃井と飲んでいたのだがそこからの記憶がない。気がつくと自宅に戻っており、「ノゾミ」という女性からの書置きがあった。勿論ノゾミという女のことも忘れている。更に当日桃井が夜中に事故を起こしたと連絡があったことを思い出す。その話しを聞いた響野は面白くなり、頼まれもしないのに繰言をのべ、あれこれと推論を巡らせる。
果たして「ノゾミ」は実在したのか?
■第1章 雪子編
雪子の派遣されている会社のOL鮎子の元に1枚のチケットが届く。チケットの送り主は不明のようだ。そのチケットは現在売り出し中の奥谷奥也(おくやおくや)という喜劇作家の舞台のようであり貴重なチケットであることが判明した。入手困難なチケットであったとしても誰からの贈り物なのかが分からないので不審に思い、普段から頼りになりそうな雪子に相談が持ちかけられた。雪子は「とりあえず行ってみれば?」と進言し結局鮎子も決心し劇場に行くことにした。「シアターC」というその劇場はいろいろ人騒がせな人物で心臓に病があり、いろいろな場所で救急車を呼んでは騒ぎを起こすような人物であるそうだ。当日イベントの司会を終えた鮎子は雪子に連れられ劇場へと向う。おそらく鮎子の席の左右どちらかの人物がチケットを送った人物と思われるので劇を見ながらも左右に注意していたのだが、結局どちらに座った人も無関係であるようである。
雪子はあることに気がつき、チケットの送り主が楽屋へいるのではと思い鮎子と楽屋へ向う。果たしてチケットの送り主は?
■第1章 久遠編
夜中の公園を歩いていた久遠は傍観に襲われていた男を見かける。久遠が近づいていくと男は逃げていった。襲われていた男、和田倉に話しを聞くと突然知らない男に殴られたらしい。暴漢者の去り際に久遠はいつもの特技を使い暴漢者から財布を盗んでいた。財布の持ち主は熊嶋洋一という男であるようだ。歯医者の診察券が入っていたのでその歯医者で待ち伏せをすることにした。それらしき人物がやってきたのだが和田倉は昨日の犯人かどうか、いまひとつ思い出せない。そして更に和田倉の話しを聞くと和田倉はカジノでかなりの借金を作っているらしかった。久遠は更に調べを進めていると、ふとあることに気づいた。そしてその気づきがこの4つの別々の物語を一つに繋げていくのだった。
というのが第1章の序章部分。おそらくここまでの部分が小説NONで連載した部分であろう。そしてこれらの一見無関係に思われる事柄が伊坂幸太郎の手によってひとつのつながりを持ったストーリーとして浮き上がってくる仕組みになっている。このあたりはネタバレになりそうなので実際に読んでみていただくのがよいかと思う。(ギャングなので銀行強盗はやっちゃいますよ)
更に、当たり前だが前作で登場したその他の(祥子やタダシくん)も随所に登場している。綾瀬に住んでいる怪しげなアイテムを販売する田中も健在で、本作でもこの田中の不思議なアイテムが小説を盛り上げるのに一役買っている。なお、前作の「
陽気なギャングが地球を回す」の内容に一部触れている部分があるので「
陽気なギャングが地球を回す」を読んでいない人は注意する必要があるっす。
響野のトラブルメーカー振りも相変わらずであるが、読んでいくうちに寧ろ子供をあやす親の気持ちに近いものを感じるから不思議だ・・・
この「
陽気なギャングの日常と襲撃」を楽しめる人はおそらくこんな人では?
・内容は兎も角、彼らの会話のテンポや掛け合いを楽しめる人
・パズル好きの人
・荒唐無稽な話しが好きな人
また、5月より上映されている映画版では、
成瀬:大沢たかお
響野:佐藤浩市
雪子:鈴木京香
久遠:松田翔太
祥子:加藤ローサ(響野の妻)
慎一:三浦知紘(雪子の息子)
田中:古田新太(何でも屋。ギャング御用達の怪しいアイテムを取り扱う)
というキャスティングなので、今回この「陽気なギャングの日常と襲撃」を読む際にキャスティングを当てはめながら読み進んでいくのもよいであろう。
前作同様、登場人物の何気ないどーでもいいよーな会話が後々考えると作戦の成否を握る鍵となるような仕掛けが随所に施されているので読者の方は注意して読み進めて行ってほしい。しかし、注意深く読まずにわざと伊坂幸太郎の思惑に嵌ってみるのも良いのではないか?
ジグソーパズルを外枠から徐々に埋めていくような流れを体験できる一冊である。
なお、冒頭に、伊坂幸太郎の作品は当たりハズレが激しい的なことを書いてみたのだが、本作はりょーち的にはアタリに近かったっす。
■参考:
りょーちの駄文と書評: 伊坂幸太郎:「陽気なギャングが地球を回す」
他の方々のご意見:
・
のほ本♪: 陽気なギャングの日常と襲撃(伊坂幸太郎)・
胡蝶ノ夢 | 『陽気なギャングの日常と襲撃』伊坂幸太郎・
まじょ。のミステリブロ愚: 『陽気なギャングの日常と襲撃』 伊坂幸太郎・
虹の彼方に三十路のおやつ | 陽気なギャングの日常と襲撃 : 伊坂 幸太郎