椎名 誠
新潮社 (1991/10)
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りょーち的おすすめ度:
こんにちは。恩田三姉妹の長女、かや乃こと、もたいまさこです(嘘です)。
本書
哀愁の町に霧が降るのだ 、
新橋烏森口青春篇 、
銀座のカラス は、椎名誠の青春三部作と呼ばれている。
その第1弾の「哀愁の町に霧が降るのだ」を久々に読んだ。以前読んだのはおそらく2年くらい前かと思う。2年くらい経つとほどよく内容を忘れており、再読するのに良い間隔であった。
本書は椎名誠の等身大エッセーというようなモノである。執筆当時が正確に何時だかよくわからなかったのだが、第1刷が1981/10/29だったので1980年代初頭に書かれたものだと思われる。そしてこの時代から更に遡って書かれた回顧録のようなものなので時代背景としては1970年代頃の話しである。
椎名誠とその周辺のオモシロ仲間達を通じて昭和という時代検証ができるような作りになっており、まさに半径5mの世界を語っている。
現在、りょーちは何故か、北杜夫の
どくとるマンボウ航海記 などを何の脈絡もなく読んでいるのだが、北杜夫の世界と椎名誠の世界とでナニカが繋がっているよーな印象を受ける。
「哀愁の町に霧が降るのだ」を執筆時には既に当時勤めていた
ストアーズ社 を退職し、今で言うフリーの物書きになっていたようである。椎名誠はストアーズ社で、
ストアーズレポート という流通関連の業界向け新聞を作っていた。このあたりの話しは三部作の第2弾の
哀愁の町に霧が降るのだ 以降に詳しく書かれている。
本書ではシーナマコトの周辺のオモシロ仲間達の沢野ひとしや木村晋介などと若かりし頃に共同生活を送っていた克美荘での貧乏生活を中心に書かれており、全編通じて「カネがない」「貧乏」「モヤシ炒め大盛り」などがちりばめられている。
すでに40年以上前の話しが中心となっているはずなのだが、今もどこかでこんな生活を送っている人がいるかもしれないと思わせるほど、貧乏生活が詳らかに書かれている。
貧乏生活の拠点となる小岩付近の克美荘ではフシギな食べ物も満載でかあちゃんである木村晋介(現在弁護士で活躍中)やフシギイラストでお馴染みのサーノヒトシのときたま作り出す怪しげな料理がホントにおいしそーに書かれている。読み始めるとこの貧乏の輪の中に入りたくなるからフシギだ。
克美荘で最もシッカリしていたのはやはり給料取りのイサオであろう。(イサオはその後どうなったのかよくわからなかったのだが、mixiで知った情報によるとどうやら大阪に転勤になったようである)。克美荘では「カネのある人間が払う」という非常に実利的でシンプルな行動原理で生活しており、そういった意味でイサオのような定期的に収入を得ている人間がいたことで食いつないでいたようにも見える。
克美荘には誰彼かまわずいろんな住人が住むようになり、椎名誠はこういった昔のことを非常によく覚えていて凄い記憶力の持ち主であると思ったりしたのだが、これにはキチンとネタ元がある。
克美荘の住人で書かれていた「克美荘日記」がそれである。「克美荘日記」の大半は住人の断末魔の叫びにも似たダイイングメッセージのよーなものと推測できるが、こういうものが残っていることが関係ない人間でも嬉しく思えるからフシギだ。昔の日記など読むだけでも恥ずかしいものが多い中、本書で紹介された「克美荘日記」の一部を読むだけでも微笑ましく感じる。
こんなハチャメチャな生活の中、木村晋介は司法試験に合格し、現在はテレビにもでるほどの有名人であり、サーノヒトシは幼少の頃から書き続けていたトテモアヤシゲナ狂ったイラストで今も生計を立てていたりする。
そして我らがシーナマコトの活躍は彼が執筆したいくつもの作品で窺い知ることができる。
本書の冒頭部分でなかなか話しがはじまらないところが奇妙だったりするのだが、読み終わってから、現在と過去と更に過去という時代の使い方が絶妙だったことに気づかされた。普通の小説では何の脈絡もなく話しが飛んだり時代が飛んだりすると「作品のプロットがよろしくないっす」などとよろよろと批判されたりするのかもしれないが、この本は現在、過去が渾然一体となり心地よい空間が作り出されている(スバラシイ)。
なお、この感想文を書いているときに「他の人はどんな印象なんだろう?」と思い
ぐぐって みたら、
きままに、あいまに さんの
「哀愁の町に霧が降るのだ」 の感想文の中に、こんなことが書かれている。
私は等身大の文章が好きだ。この「哀愁の町に・・・」は椎名誠が有名になったきっかけの作品ともいえるようだけど、なぜ万人に愛されたのか、それはたぶん「等身大」だったからじゃないかなーと思う。
そして、今流行のブログのハシリともいえるんじゃないかなー?
と書かれている。うーむ、すばらしい観察力である。blogって書き手の周辺に起こったいろんなことがちりばめられた日記のよーな使い方をすることが多いため、「ブログのハシリ」という推察はまさしく慧眼である(と思う)。
作家、椎名誠の原点がここにあるのだなぁとしみじみ感じる一冊である。
2、3年後あたり、また再読するであろう。