高橋 秀実
新潮社 (2005/06/23)
売り上げランキング: 2,546
おすすめ度の平均:
おかしくて先がよめません。
クスクス笑いのツボを強く刺激する本
水泳ってなんでしょうね。
高橋秀実さん作品一覧りょーち的おすすめ度:
こんにちは。ホキ徳田です(嘘です)。
突然ですが、あなたは25m泳げますか?
全く関係ないがりょーちは小学校3年生まで殆ど泳げませんでした。クロールを練習していたのですが、息継ぎとやらがまるで出来ず、どこで息をするのか空気が読めず子供心に「これは一生泳ぐのは無理?」とカナヅチの烙印を押されるのを感受していたのですが、平泳ぎという泳ぎ方を知り、更に知ったその日に50mくらい泳げるようになったので、「もう、クロールはいいっす」と挫折した口です。
平泳ぎなら疲れるまで延々と泳ぐことができるのですが、クロールでは未だに25mは無理っす・・・orz
本書、「はい、泳げません」の作者も今まで泳ぐことが出来ずにこれまでの人生を過ごしてきた。で、「泳げるようになるぞ!」と、何故か一念発起してスイミングスクールに通うことになる。
この作者、40代にもなって何故泳ぎを覚えようとしたのか・・・
そもそも作者は「地震でもないのに、ゆらゆらするのは普通ではない」とたくさんの水があるのを目の前にすると足がすくむ人。
気持ちは分からなくもないが少し大げさだなあと思い読み始めたのだがかなり感情移入できた。本書はタイトル買いだったのだが、かなり面白かった。只者ではないっす、この高橋秀実(たかはしひでみね)という人。
高橋秀実は間違いなく、現在世界で生きている人の中で最も「泳ぎ」について考察しただと思う。
この本は作者が「泳ごうとするまで」から「実際に泳ぐまで」の体験記でもあるが40代の男性が何か新しいことにチャレンジするという奮闘記としても読み取れる。
作者の語りがかなり軽妙で面白いことと、水や泳ぎに対しての様々な比喩(言い訳とも言う)を読むだけでも抱腹絶倒モノだ。りょーちとしてはノンフィクションでは今年1番の収穫だった。そしてこの作者を知ることができて少し得した気がした。(自動販売機で120円入れてコーラを買ったけど実は110円だったので10円おつりが来た気がする程度のお得さ加減かもしれないが・・・)
作者はスイミングスクールに通い、泳ぎを練習する。スイミングスクールにはインストラクターの先生がいて泳ぎを教えてくれる。本書を読んで最も感心したのがインストラクターの女性コーチ高橋桂先生(この人も高橋さん)の行動・言動である。
この桂さん、かなりすごいっす。TBSで昔放映していた「笑ってポン」の桂プロデューサ(謎の番号209)とは天と地との差もあると思われる。(謎)
作者が水が怖いことを桂コーチに告げると、コーチは「胎児の頃、お母さんの羊水の中で。その時のことを瞑想してみて」などと少し哲学的な発言で切り返す。この桂コーチ、泳ぎに対しての教え方・比喩・表現にかなりの語彙を持ち、生徒一人一人に適したアドバイスを投げかけてくれる。
時には押し、時には引くという駆け引きのようなものも随所に読み取ることができる。
桂コーチの哲学的とも言える「泳ぎ」に関する考え方を読むだけでも勉強になる。
本書はこの桂コーチがいなければ成立しないほど重要な鍵を握っており、この桂コーチと作者高橋秀実の小気味よい会話のキャッチボールが本書の読みどころである。
「溺れる人は藁をも掴む」というが、作者も泳ぎに関して様々なアプローチを見せてくれる。時に、「それは少しベクトルが違うのでは・・・」と突っ込みたくなるのだが、そこがまた痛快。
作者の掴もうとする藁は藁の中でも水を十分に吸った沈みかけた藁だったりする。(何故に日本泳法に手を出す・・・)
お読みいただくと分かるのだが読んでいくにつれ作者が泳げるようになるかどうかについてはどうでもよくなり、水泳指導論や泳ぎについての考え方などに興味が沸いてくる。読者を最後まで飽きさせない高橋秀実の筆力にも注目っす。
そして、スポーツインストラクターという方々の仕事は凄いなあと感じる一冊でもありました。インストラクターの方は(おそらく)その殆どの方々がスポーツが得意だったり好きだったりしているのではなかろうか?
そんなスポーツお得意集団の懐に私のよーな運動神経が皆無のシロートが「泳ぎたい」などとノコノコやってくるわけだ。で、インストラクターの人はおそらくいろいろ教えてくれたりすると思うのだが、心の中では「お前は何故、そんな簡単なことさえもできないのだ」的な岸壁を這うフナムシを見るような目を一瞬してしまい、ふと我に返り、「いやいや、彼も人の子。ここはビジネスと割り切って」などと日々葛藤されているのではなかろうか?(全く違うか?)
そんな、りょーちのよーな人々にも優しく手を差し伸べて小学生に九九を教えるが如く文字通り手取り足取り教えてくださる。アガペーがないとできないっすよ、インストラクターのお仕事ってのは(きっと)。
で、できない生徒を持ってストレスが溜まると、スポーツで発散したりするということなどをしているのでしょうか? プログラマーに例えれば「A社のなんとかシステムのプログラミングの納期が近づいてストレスが溜まったので、現実逃避でちょいと趣味のプログラムでも書いてみるか」的なオカルトな行為に近いものがあるのでは?(これも想像)
なお、あとがきに記載してあったのだが作者の通ったスイミングスクールは東京・南青山にある
リビエラスポーツクラブ のスイミングレッスンらしいがWebサイトを見た限りでは、今は桂コーチのお名前はないようである。本書が登場して有名人になっているかもしれないので意図的に名前を出していないだけかもしれないっす。
って、ここまで書いて、ふと「高橋秀実ってどんな顔してるのかな?」と思い、ぐぐってみたところ、
おすもうさん | Web草思 にて写真発見。
インパクトある風貌っす・・・
本書の印象からはかなりダメ人間っぽい面貌を予想していましたが、中学校の音楽室かロシアのブルジョアっぽい邸宅内に飾られていそうなご立派なお顔立ち。(そ、そんな。そーだったんですかー)
本書は「水泳のマニュアル」ではないっす。どちらかと言えば「人生を楽しく謳歌するためのマニュアル」という位置づけだと思う。人間何事もチャレンジが必要だったりする。年を重ねるごとにそのチャレンジ精神は失われがちになる傾向にあるが、そんな人にも是非本書を手に取り、爆笑して何かにチャレンジしてほしいっす。