アレックス・シアラー 石田 文子
求竜堂 (2005/01)
売り上げランキング: 44,592
おすすめ度の平均:


現代のホラー風童話

憎らしくて愛おしい人物

んっ??ってカンジでした。
りょーち的おすすめ度:

こんにちは。ミスター梅介です。(嘘です)
「チョコレート・アンダー・グラウンド」を執筆したアレックス・シアラーの新作、「スノードーム」を読んで見た。本書はおそらく「チョコレート・アンダー・グラウンド」よりも少し上の年齢層がターゲットなのではないかと感じる。
冒頭部分を読み始めると「お、これはSFっぽい話しなのか?」と思って読み始めたがSF的要素は殆どない。まああるにはあるのだがそれは本書の中でのエッセンスのひとつに過ぎない。
本書で語られているのは「愛」についてである。まあ、こうやって文章にするのも恥ずかしいのだが、テーマがそうなのだからしょうがない。(どう言う顔して書いているんだ?オレ?)
登場人物はかなり少なく非常に限定された場所での話になる。
主要登場人物は下記の5名。(本の栞に書かれている内容を抜粋)
・クリストファー・マラン:若い物理学者。ある日突然失踪する。
・エルンスト・エックマン:醜い姿の芸術家
・ポッピー:若く美しいダンサー
・ロバート・マラン:クリストファーの父。画家。
・チャーリー:クリストファーの同僚。
科学者(物理学者)のクリストファー・マラン(通称クリス)はある日突然失踪した。クリスの同僚のチャーリーは失踪したクリスの置手紙をオフィスで見つける。そして手紙と共にクリスが書いた原稿を見つける。そしてそこに書かれていた内容は俄かには信じがたい内容であった・・・
本書のコアな部分はこのチャーリーがクリスの原稿から書き起こした劇中劇のような形で紹介される。チャーリーはこの書き起こしたものにタイトルをつけた。「
The Speed of the Dark(闇の速度)」と。
小さな少年、クリスは父と二人暮し。クリスの父、ロバートは売れない画家である。ロバートは芸術家が集まる町の一角で何時も似顔絵などを書いて生計を立てていた。
一方エックマンは自分で小さな美術館を運営している。彼の展示する美術館には世界でただひとつしかないものを展示していたからだ。彼は指先が(おそらく世界の誰よりも)非常に器用で虫眼鏡や顕微鏡などでしか見ることができないくらい小さなものを作ることができた。勿論展示物を見るときにも虫眼鏡や顕微鏡を使う。その所為でエックマンの美術館は小さいが人気があった。
エックマンは商売の分野では成功者だったが、自分の風貌が小さく醜い存在であることにコンプレックスを抱いており、世の中の全てを憎んでいるような暮らしぶりであった。そんなエックマンにも恋焦がれる女性がいた。それがダンサーのポッピーであった。ポッピーは町の片隅で観光客にダンスを見せて生計を立てていた。ポッピーが何時も立っている場所にある小さな箱に観光客が僅かばかりのコインを入れるとポッピーはバレエを踊りだすのだ。コインを入れるまではポッピーはじっとしている。
エックマンはポッピーの踊る姿を遠くから眺めるのが唯一の楽しみだった。
エックマンは気難しい人物として知られていたがクリスとは何故か仲良くしてくれた。クリスはエックマンの主催する美術館を見るのが好きだった。クリスはエックマンを友人として見ていたがそんな中、状況が一変する。
クリスの父、ロバートとポッピーが良い仲になりそうな感じだったのだ。
エックマンは常日頃、自分の作品に足りないものは何か考えていた。肉眼ではおいそれと見えないほどの小さなものを作り、自分の住む町まで作ることができたがその町には誰も生き物が住んでいなかった。
そしてある日エックマンは自分の内に秘めた恐ろしい計画を実行する。
暫くしてロバートはポッピーと突然連絡が取れなくなってしまったことをクリスに告げる。クリスに心当たりがないか聞いて見たのだ。勿論クリスはポッピーがどこにいったかなど知る由もなかった。そして、こともあろうに、更にクリスの父ロバートが行方不明になる。クリスが町中を探し回ったが、父はどこにも見当たらなかった。
クリスはエックマンのところに行き、父がいるかどうかを確認したが部屋の中にはどこにもいる形跡はなかった。部屋にあるのはこの町の非常に精巧にできたミニチュアだけだった・・・
結局ロバートはどうやっても見つからず、一人ぼっちになったかわいそうなクリスを引き取って面倒を見たのがあのエックマンだった。
エックマンは(血こそ繋がってはいないが)クリスという家族を手に入れたのだ。
そして物語がクライマックスに近づき、クリスは全てを知ってしまう。そのとき、クリスはどういう行動を取るのか。エックマンはどうするのか。
ティーンズ向けに書かれた(と思われる)このスノードーム。かなり奥が深いです。
本書ではエックマンが終始「悪人」として記述されている。それもかなり意図的に読者に同情を与えないような書き方がなされている。読み終えたときにはやはり「エックマンはダメ人間だな」と感じたが、人はみな少なからずエックマンのような独占的支配力を手にしたいという願望があるのではないだろうか? 今現在そのような「力」を持っていないため現実的に想像できないだけであって、「何でも自由にできる力」(本書のエックマンの持つ能力とは違いますよ)を与えられたなら「私利私欲のために使っちゃうんじゃないのかな?」と思う。
さて、サブタイトル(おそらく原文はこっちがホントのタイトル)「The Speed of the Dark(闇の速度)」の表す「闇」とは何か? 文中にも「闇」について登場人物が語っているところがあるが、なんとなく人の心に宿る「よろしくない部分」と解釈するのが一般的なのかなとも思う。勿論、そう考えても辻褄が合うのでアリだと思うのだが、そうすると「速度」はなんだろう? クリスは物理学者であり、光の速度について研究していたがそういう物理学的な「速度」ではないような気がする。この答えは実はりょーちとしてはまだよくわからない。この本を読んだ方に「闇」の表すものが何かということについていろいろ聞いて見たいなと思った。
予想以上にちょいと悲しげなお話であった。片思いの若者(若くなくても良いのだが)の方に読んでいただきたい一冊である。
なお、購入して気になったのがこの「スノードーム」の出版社の「
求龍堂」という会社。この会社の販促戦略が実に興味深い。
Webサイトなどで、書籍の紹介 をしたり、
スノードーム -読者の声- などで読者の感想を掲載する方法は結構ありきたりなのだが、書籍を購入すると「読者カード」と呼ばれるハガキが付いてきたり、その出版社の新刊や最近の出版物の紹介用の小さな宣伝がよく挟み込まれている。
求龍堂の宣伝用販促物は読者から寄せられた「読者カード」のコピーをそのまま宣伝用販促物に利用している。なので読者の手書きの文字をそのまま読めるようになっている。
このパターンはあまり見たことなかった。手書きのコピーを見るとなんだか読者と出版社との間の距離が意外と近く感じられた。うーむ、おもしろい試みだな。
千紫万紅:一冊の本の価値 を拝見するとりょーちと同じよーに感じられている方がいらっしゃった。求龍堂、好印象っす。