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りょーち的おすすめ度:


この本を読むのは既に4回目くらいなのだが(って読みすぎ?)名作は何度読んでもいいですな。読むたびに感動を与えてくれます。それだけにいろいろ感想を書きたいのだが、如何せん、壮大過ぎます、この作品。もう書ききれないのですよ。ホント。
作者の福井晴敏さんの作品は「 goo 亡国のイージス 」をはじめ、「 戦国自衛隊1549 」「 ローレライ 」などと映画界でもその名はとどまるところをしらない。今や最も勢いのある作家ではなかろうか? ( 亡国のイージス in 花やしき 闇市 などという謎のイベントや、作品の世界が壊れないか心配でしょうがないネーミングの「 こんなにしゃべってイージスBLOG 」などもあるよーですが・・・)。あと全く関係ないが、戦国自衛隊の原作である半村良さんのペンネームはイーデスハンソンさんからGetしたらしいっす。(「いいです(良)はん(半)そん(村)」←まじかよ・・・)
この「亡国のイージス」ですが、 週刊モーニング でも「亡国のイージス」が連載されているよーである。
と、予備知識はこのくらいにしておいて「亡国のイージス」の感想なのだ。
正直今までblogで読書感想文めいたものをそこはかとなく書きつくっていたけれど「亡国のイージス」の感想はかなり難しい。ストーリーが長いということもあるのだが、一番の原因は中心となる人物が読む度に変わっていくからである。
今回、仙石の目線を中心に読み始めたのだが、途中でヨンファに思い入れが強くなったり、やはり如月行に目線が変わったりとストーリー同様に激しく変化していく。
如月行という青年のキャラクターはどこかで読んだことがあるなあと考えていたら、福井晴敏さんの「 川の深さは 」に登場する保に似ている。そして、仙石は差し詰め桃山という図式になっているような気がする。仙石は桃山ほど自分の内に引きこもってはいないようだが、保と行はかなりオーバーラップしているような印象を受けた。
ストーリーについて簡単に触れると(って簡単には無理か?)日本政府は、北朝鮮の工作員が最悪の生物化学兵器「GUSOH」を手に入れたことから始まる。元々「GUSOH」はアメリカの研究者が偶然開発したもので、本来地球上にあってはいけないものである。その殺傷能力はたった数滴で何万人もの人間を死に至らしめることができる最悪の生物兵器である。その「GUSOH」は沖縄で起こった「辺野古ディストラクション」と呼ばれる原因不明の爆発事故ですべて消失したはずであった。
時を同じくして、海幕人事課長である沢口が電車に飛び込んで自殺した。沢口は誰かに強請られている可能性があり、公安では沢口をマークしていた。それにも関わらず、沢口は自殺してしまった。
北朝鮮の工作員は「GUSOH」を盾に日本政府にビデオでメッセージを送っていた。日本政府では防衛庁情報局の渥美や内閣情報調査室長の瀬戸などが対応しはじめていたが「GUSOH」という兵器を持つ彼らに太刀打ちできる有効な解決策などまるでなかった。
今回の工作では、ホ・ヨンファという北朝鮮の伝説的な工作員がの中心となっている。日本政府はヨンファの顔すら確認できていない。ヨンファたちは海外への逃亡を希望した。何の策も取れないまま、結局日本政府は彼らのパスポートを発行し、海外へ逃がす術を与えることとなってしまう。オーストラリア行きの飛行機に乗る工作員たちを指をくわえて見ることしかできない。更にその飛行機は何故か墜落してしまう。
墜落先付近で演習中の「いそかぜ」は本部からの指令を受け、海上捜索に向う。そこで奇跡的に生存者を発見する。「いそかぜ」乗組員は生存者がいることに驚き、更に救出してみて生存者が女性だったことに驚く。
このあたりから、かなり物語がヒートアップしてくる。
登場する人物は行・仙石・宮津・ヨンファ・宮津の息子など殆どが不器用な生き方しかできない人間ばかりだ。行は自分の親を殺害したという過去を持つ。ダイス(DICE)に入ってからも行は自分を責め続け、他人に心を開くことはない。そんな行が「絵」という媒体により仙石に心を開き始める。行はダイスから送られた諜報部員でその存在を公にすることは出来ず、一人で活動を続けていたが、仙石から疑いの目を向けられてしまう。そのとき、行は「あんただけには信じて欲しかった」というようなことを呟く。一度は失いかけた信頼を行と仙石が取り戻し共通の敵に対して立ち向かうその様は読んでいて非常に心が躍るようであった。その臨場感といい、スピード感といい、これぞ正にエンターテイメントである。この後半の仙石と行のコンビネーションによるヨンファとの戦いの描写は本当に素晴らしい。
また、いそかぜの艦長である宮津の心情も痛いほど分かる気がする。宮津の息子は国家により殺されたのだ。これだけでも造反の理由としては十分であろうと思われるがヨンファにその心の隙を狙われたことにより、今回の事件が不幸にも起こってしまう。
更にそのヨンファでさえも彼の言い分も分からなくもないと思う。ヨンファのいる北朝鮮の置かれている状況や生い立ちなどを聞けばこちらも(あまりよくはないのだが)同情の念を禁じえない。
小説としてかなりのボリュームがあるこの「亡国のイージス」は単なる戦争ものではない。イージス艦や海上自衛隊に関する緻密な描写により強烈なリアリティを紡ぎだすことに成功しているが、外部のリアリティは環境を補完するのではなく、個々の登場人物のリアリティを増幅させ、読者を登場人物に感情移入させやすくしている。
更にストーリーも二転三転どころか何回転んだのか分からないくらいのどんでん返しを披露してみせる。このあたり、ホント「福井晴敏の頭の中はどうなってるの?」と頭の中を見せて欲しいと思われるほどのプロットである。
更にここまでその存在のために国家の存亡を揺るがすことになった「GUSOHの正体」を彼らが知ったとき、その徒労感は想像することができない。ここは本書の読みどころのひとつなのかなとも思った。(いい加減にしろよ、アメリカと突っ込みたくなること間違いないのである)
また、脇役として登場する、田所や菊池。「うらかぜ」の衣笠や阿久津。内閣総理大臣の梶本(総理大臣でも脇役です)。彼らのキャラクターもかなりいけてました。人間を書きすぎじゃないの?とも思いましたが細かい描写により小説としての深さがかなり増したのではないかと思います。自衛隊関連の専門用語もかなり多いのですが、読みきれないほどではなく、返ってイメージを補完するよい材料になったのではないでしょうか?
海上の主役が行と仙石であるならば、陸上の主役は渥美なのではないかと思う。渥美は所謂エリート官僚と呼ばれる部類に属すると思うのだが、この物語は渥美の心情にシンクロした形でストーリーが進んでいくと言っても過言ではない。渥美の心情の移り変わりに焦点を当てて読んでみるのも面白いと思う。物語の終盤に書かれる渥美と宮津の妻との会話は渥美の心情の描写だけにとどまらず、この物語を締めくくる上で欠かせないエピソードになっているのだと感じる。渥美の決意は日本の将来の決意表明に他ならないと感じた。
しかし、登場人物良し、プロット良し、リアリティ良し。これ以外何を望むと言うのだろう。
本書を読み「国と国との戦い」=「個人と個人の戦い」なのかなと感じた。国家による政治とは国民のために何を為すかを多数決で決めるということである。世界に国がひとつしかなければ戦争などは起こらないと思うかもしれないが、実際こんなことを書いている今も世界のどこかの国で戦争や内戦などが繰り広げられている。幸い日本は現在戦争状態ではないのだが、一度そのターゲットとして選ばれてしまったなら政府は、自衛隊はどう動くのか? 「亡国のイージス」を読んでいやでもそのようなことを考えずにはいられなかった。
なお、福井晴敏さんの「 川の深さは 」では行の所属する「ダイス」がどのようにして発足したのかが書かれている。こちらもかなり読み応えがあるので、「亡国のイージス」を読まれて感銘を受けた方は一度手にとってみてもらえると良いかも。