りょーち的おすすめ度:
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こんにちは。リーガル天才・秀才です(嘘です)
以前から感じていたが村上龍という作家については、分類するのが難しい。小説のジャンルも様々だし、エッセイなども書いている。作家を分類することに意味はないのだがりょーちとしては面白い本が読めればそれでよい。
若かりし頃はじめて読んだ村上龍の小説は「コインロッカー・ベイビーズ」で、次が「愛と幻想のファシズム」。暫くして「限りなく透明に近いブルー」「69 Sixty nine 」と続く。
最初の2作品が如何にも破壊的な作品だったのでかなりインパクトがあった。世界観としては「五分後の世界」「ヒュウガ・ウイルス」に近い印象を受ける。
「半島を出よ」というタイトルだがこの「半島」というのは朝鮮半島のことである。本書は2011年という時代背景となり近未来小説というカテゴリーになるのだが、特にSF的な趣向はなく、ホントに現在の延長線上にある物語となっている。ジャパンマネーは世界に通用しなくなり、日本は世界に何の影響力も持たなくなっているような設定(よくわからないけどありえそうな気もする)。変にSF的要素を取り入れないおかげでより作品のリアリティが増している。
登場人物のカテゴリーとして大きく3つに分かれる。一つは北朝鮮から福岡にやってきた高麗遠征軍、もうひとつは政府関連のメンバー、最後に福岡でイシハラと行動を共にする通称イシハラグループ。
非常に簡単にストーリーを紹介すると、高麗遠征軍という北朝鮮の反乱軍が開幕戦が行われている福岡ドームを占拠する。日本政府はドーム内の数万人を人質に捕られ対応は後手後手となる。ドーム選挙後更に北朝鮮の特殊部隊が飛行機で追加でやってきて高麗遠征軍は更に武力的にも脅威となる。実は反乱軍と称されていた高麗遠征軍は北朝鮮政府内で容認されたもので、この武力制圧は完全な国としての作戦であったのだ。
報道各社は勿論一斉にこの事件をメディアを利用し報道し始める。
本来は福岡ドームを占拠した段階で福岡ドーム毎攻撃をする。3万人の犠牲者は出てしまうが国家保安とはそういうものらしい。しかし、勿論そのような選択はなく、指をくわえてみているだけであった。
政府の対応は官房副長官の山際清孝を罷免しただけで何も打開策はない。
政府は更に自分達が攻撃できない理由を「反撃すると、高麗遠征軍は液化天然ガス基地がテロ攻撃を受け、更なる犠牲者が増える」としていたが、言って見れば状況を打破できない人間の言い訳に過ぎなかったりする。
日本政府が下した決断は、九州を福岡から切り離し、独立させるという苦渋の決断だった。
そうなると、福岡に残された人々はどうなるのか?
福岡市内で共同生活を送っていたイシハラグループのメンバーもこの報道を目にする。彼らは世間から見放された若者達であり、何処にも居場所がなく自然にイシハラ(自称詩人)という人物の元で暮らすようになった。
・ブーメラン使いのタテノ。
・手先が器用なヒノ。
・爆弾に異常に詳しいタケグチとフクダ。
・テロに憧れを持つカネシロ。
・昆虫や爬虫類、毒を持つ生き物を多数自分で飼育しているシノハラ。
・十二歳のときに祖父の日本刀で新幹線をハイジャックして車掌を切り殺したトヨハラ。
・元銀行員でイスラム武装ゲリラグループに参加し武装組織から大量の兵器を購入し隠し持っているタケイ。
・互いに弱い存在だったが、施設で知り合い、ミッキーとミニーの刺青を入れ、刺青の力で大量殺人鬼になろうとしたヤマダとモリ。
・悪魔と出会い悪魔教と呼ばれる秘密教団に入信させられたという事件で話題になった、悪魔教のメンバー(実際は親から酷い虐待を受けていた少年達)である、オリハラ、コンドウ、サトウ、ミヤザキ、シバタ。
イシハラは「高麗遠征軍は悪い奴だから敵と見做し駆逐しちゃうもんね」的な非常に軽いノリで敵と見做す。
物語の後半部分では「イシハラグループvs高麗遠征軍」という戦いとなる。イシハラグループの個々人の得意分野を駆使した高麗遠征軍との戦いはスピード感、焦燥感などが上手く表現されており、読み応えがある。
その戦う相手でもある高麗遠征軍については実はりょーちはあまり思い入れはない。読んでいても名前が頭の中になんだか入ってこなかった。
パク・ミョン/キム・ハッス/リ・ヒチョル/チェ・ヒョイル/チョ・スリョン/ハン・スンジン/キム・ヒャンモク/リ・キヒ・・・ キミ達誰が誰なんだっけ?と何度も冒頭の登場人物説明まで戻って読み返していたが次第にどうでもよくなってきた。
地理的な事柄については、 備忘録:「半島を出よ」の地図 さんのページを見たらイメージが沸くかも。(読む前にこのページを知っておきたかった・・・orz)
ちなみに、キム・ヒャンモク/リ・キヒは女性戦闘員である。この本だけ読むと北朝鮮の人は男性も女性も恐ろしい人々って感じに書かれているけれど実際はどーなんだろうと思った。
こないだ、世界水泳のシンクロナイズドスイミングの北朝鮮の選手の演技を見た。北朝鮮の選手がインタビューに答えているシーンが流れていたがなんだか普通の女性であった(まあ、そりゃそーだわな)。ただインタビューの中で「食事は口に合いますか?」との記者の質問に「全く合いません。北朝鮮のモノが一番です。早く帰ってキムチを食べたい。」などと異口同音に語っていたのを見て「ホントにそうなの?」と思ったりした。
と、別々に三者(「高麗遠征軍」「政府関連」「イシハラグループ」)についての思いを書いてみたが、小説を読んでいて思ったのはどうもこの三者が上手く絡み合えていないのかなーとも思った。
読後感は「おー、大作を読んじゃった。すごい面白かった。やるなー村上龍」と確かに思ったのだが、なんだか勢いで読まされた感覚がある。しかし、勢いでもこれだけの分量を読ませる村上龍は確かに只者ではないのであろう。ひとつのシーンを描くのにどれだけの資料が必要か考えて見ると、状況の特異性や登場人物の持つ特殊性を表現するためにかなりの資料が必要だと思われる。イシハラグループのシノハラが飼っている毒虫などに関する件(くだり)も専門的な資料が必要になるし、銃器に関しての資料、北朝鮮に関しての資料など数え上げると枚挙に暇がない。
ディテールはしっかり書かれているのだが些か冗長だった気もしないでもない。でも、読んでいるときにはランナーズ・ハイではないが、村上龍が紡ぎだす世界観にどっぷりと浸れた。
まあ、それだけでも読む価値があったのかなーと感じた。
「半島を出よ」を読んだあと、口直しというには忍びないが、村上龍の「コインロッカー・ベイビーズ」「愛と幻想のファシズム」などを再読したくなりました。
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