有栖川 有栖
幻冬舎
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りょーち的おすすめ度:
有栖川有栖さんにしては珍しい、幻冬舎から出版されているこの「作家小説」。8つの短編小説が掲載されている。
1. 書く機械(ライティング・マシン)
2. 殺しにくるもの
3. 締切二日前
4. 奇骨先生
5. サイン会の憂鬱
6. 作家漫才
7. 書かないでくれます?
8. 夢物語
ちなみに上記の表紙イメージと私が持っている本の表紙は何故か違います。私の持っているのは雲上に羽ペンのようなものが浮かんでいる写真です。(このバージョンはもう売っていないのだろうか?)
本書は「作家」という職業にスポットを当てた小説です。有栖川有栖さんの普段の推理小説かと思いきやテイストが全く異なります。8つの切り口で作家の日常や作家の周辺事項について書かれた短編ですね。
1. 書く機械(ライティング・マシン)
作家の仕事は「小説を書くこと」にあります。作品に一定の水準を保つ必要がある職業作家の方々は自分の選んだ道とはいえ、おそらく死に物狂いで執筆活動に勤しんでいると思われます。ここに登場する作家は新人賞受賞後、いまひとつパッとしない作家、益子紳二が主人公です。出版社の担当から「キミはもっと才能がある」と煽てられた益子は出版社の秘密の部屋に連れて行かれる。そこには「ライティング・マシン」と呼ばれる異様な機械があった。「ライティング・マシン」は小説を書くためだけに作られた機械で、椅子の座り心地、気温、その他の環境がすべて小説執筆に丁度よく設定されている。しかし、ワープロに小説を入力しないと椅子がどんどん後方に移動し、奈落の底に落ちてしまうというとても恐ろしいマシンである。しかし、この「ライティング・マシン」をかつて利用した作家は全てベストセラー作家になっている。益子は「ライティング・マシン」に座り、大作を書き上げた。作品も好調に売れ名実共に一流作家となった。
その後、益子は自宅にもその「ライティングマシン」を導入したのだが出版社にあるものとはただ1点異なるところがあった・・・
この物語は余韻を楽しむことにあるのかなと思った。その後の益子がどうなったのか考えるとちょいと恐ろしい。
2. 殺しにくるもの
りょーちは小説はかなり読みますが、小説家の方にファンレターを書いたことは一度もありません。ただ、多くの作家は読者からの手紙を出版社経由で受け取り感想などを聴くことができるようになっている。今でこそ読者の感想はこのBlogのように読者個人が発信したり作家のホームページに掲載されている掲示板などに書かれたりすることができるようになっているが、未だファンレターというものは根強く残っていると思われる。作家の方はこういったBlogとか見ているのかどーかわからないのですが、自分の生み出した小説についての感想はやはり気になるところであろう。
(有栖川有栖さん、まさかこのページご覧になってないですよね・・・)この小説の登場人物の上杉皇一の元にもいろいろなファンレターが来る。ファンレターって好印象の文章もあれば批判的な文章もありえるのですね。
上杉皇一のファンである富沢愛もファンレターを送っていた。富沢愛は高校の文芸部に所属している読書好きな女の子。高校生には難しいテーマを扱っている上杉皇一の本に傾倒している。少し背伸びして高校生にしては難しい本を読んでいるため、話題を共有する相手が周囲に今まではいなかったのだが、辻原省平という同級生が上杉皇一を読んでいることを知り、いろいろ意見交換ができるようになる。
時を同じくして巷では謎の連続殺人事件が起こっており被害者の共通点は特に見出せていないようだ。
上杉皇一の作品に関する辻原昇平の感想はあまり芳しいものではなかった。その辻原昇平も謎の死を遂げる。
早い段階で殺人事件の犯人がわかるのだが、根底にあるものはフーダニットではない。
犯人が表に現れないことにより、より一層恐怖感が高まる作品だった。
3. 締切二日前
どの仕事にも締切ってのがある。締め切り前は誰でも焦燥感が募り、平静ではいられないものだろう。ましてや作家の締め切りは普通の人の仕事と違って、誰かが変わりにやってくれたり協力してくれたりするものではなく、全て自分の責任で創作する必要があるため、そのプレッシャーとしては尋常ではないと推測される。
川村耕太郎も締め切りに追われる作家であった。そーいえば藤子不二夫の漫画にも締め切りに追われる漫画家が登場する作品があった。藤子不二夫の漫画では、過去からもう一人の自分がやってきて二人で漫画を書くストーリーだった。(あとからもう一人きて三人で書いていたっけ?)
川村耕太郎の場合、そんな協力者もいるはずもなく、一人で悶々と悩むのであった。アイデアを捻出するために過去に自分の書いたメモやカードを見ては「これは何だっけ?」などと思いながら時は流れている。
この作品のオチはりょーちは意外と好きなオチだった。(「そうきたか?」って感じだったよ)
4. 奇骨先生
畠山高校の図書部の島貫くんと吉沢さんが機関紙作成のため、気難しい奇骨先生の下をたずねてインタビューする話し。島貫くんの父は出版社勤務であり、作家志望である。
奇骨先生は名前の通り少し風変わりな気難しそうな先生のようである。いい感じでインタビューが行われていたのだが、島貫くんが作家志望であることを告げると「そんなに簡単に作家になれるものじゃない」と態度が一変する。うーむ、確かにそんなに簡単に作家になれるわけはないんだけど・・・
出版というのは斜陽産業で云々という奇骨先生の自虐的に繰り出される論理にも負けじと島貫君は自論を繰り延べる。いやな感じで終わるのかと思いきや、最後は微笑ましい終わり方でなかなかよかったんではないかな?
5. サイン会の憂鬱
これは可哀想な話しだけど、実際ありえそうで面白い。凱旋帰国ならぬ凱旋帰省で地元の本屋が出版記念としてサイン会を開催してくれるというので気乗りしないまま勅使河原秀樹は帰省する。サイン会が開催されると、自分の本のミスを論(あげつら)う読者や、別の作家の先生にファンレターを渡してくれだの、喀血して救急車で運ばれるおじいさんとか奇妙な客が山ほど登場する(こんなサイン会、確かにいやだね・・・)。
ラストはちょいとホラー入ってましたね。でも、この話しに関して言えば、はじめのノリと同じような終わり方でもよかったんじゃないかなーとも思いました。
6. 作家漫才
わけわかんなかったけど、面白い。会話だけの小説ってあまり読んだことがないのですが、これはホントに会話だけ。しかもその会話が漫談・・・。
芥川正助と直木正太のコンビはそれぞれ作家なのである。そのコンビが織り成す漫談がこの作品の全てだったりする。
自虐的なギャグが随所に見受けられ、ホントにこの漫談を聴いたら笑っていいのかどーなのか判断が難しい。彼らのネタで「歌手は同じ歌を何度も歌ってもいいのに作家は同じ作品を何度も出版できないのでいかん」という件(くだり)があったが、確かにそう思う。でも、こないだ紹介した
中町信さんの「模倣の殺意」のようにアレンジをちょいと変えたりして出版するようなことも出版社はやってますよね。でも今のお笑いブームって「何でもあり」っぽいので近いうちにホントに出てくるかも(ってでてこない?)
7. 書かないでくれます?
ホラーだ。こりゃ。都市伝説でもしかしたらこういうのあるのかな?とおもうくらいすんなり入り込めた。タクシーの中って閉鎖的な空間で一度乗ってしまえばもう運転手の方に身を委ねるしかないのです。私はよくタクシーの運転手の方に話しかけられることが(何故か)多いのですが、この話しを読んだ後はちょいとタクシーの運転手の方とのお付き合いの方法を再度考えたくなるような話しでした。
あと、この本の中で、日本の昔話の雪女の話しが挿話として登場する。作中の人物のコメントに思わず頷いてしまいます。雪女はある雪の夜、遭難しかけたよひょうを助けてあげるが「このことは他言してはいけません」といいその場を去っていくが、その後よひょうの元にひょっこり現れて監視し続けていく。気を許したよひょうが雪女との遭遇の話しをすると「言ってしまいましたね」といいよひょうを殺しちゃう。
ってちょっと酷いよねぇ。
昔話には何らかの教訓があったりするのですが、この雪女の話からは何を教訓として学べばよいのかよくわからなかったりしたばい。
8. 夢物語
雰囲気としてはミヒャエル・エンデのネバーエンディングストーリーっぽい感じ。これだけ、ちょっとファンタジー入ってました。
主人公は物語を創作することができない世界へ誘われます。
そこで主人公は自分の世界の聴いたことのある物語を次々と話してあげます。彼の話す物語は自分の作った物語ではなくこちらの世界(私たちの住む世界)の著名な物語を語るのです。例えばシェークスピアとかそういった有名な奴ですね。別の世界の住人は彼を神格化し、奉り上げるのです。別の世界の中で主人公は一人の女性に恋をします。女性の方は彼の素晴らしい能力にベタぼれなんですが、彼は自分は他の世界からやってきて自分にはなんのとりえもないということを切に語ります。
なかなかよいお話しでした。
総じて、この作家物語で書かれている作家は創作活動上の幾多の悩みを抱えています。これを読むと世の中に作家になりたい人々が増えるのか減るのかはわかりませんが、創作活動をしている方々は一度読んで見てもいいかもしれません。
推理小説ではないのですが、非常に楽しく読めました。