りょーち的おすすめ度:

このところ忙しくてBlogに手が回らなかったなー、と言いながらも、本だけは通勤時間に読むことができる。ってことで貫井徳郎の「転生」について。
転生ってのは生まれ変わるって言うことですよね。生まれ変わりを信じるかどうかは別として、世界中にいろいろな転生の話はある。本書の転生ってのはそういった宗教的な話ではない。どちらかと言えば医学ミステリーの部類に入るのかな?(いや、ラブストーリーかも)臓器移植については技術的な問題と倫理的な問題があると思う。本書の「転生」では、技術的な面を軸に倫理面を問いかける構成になっている。
心臓移植に成功した、主人公の和泉は移植後の経過も良好。身体的には何も問題なく過ごせるようになった。本来移植者にはドナーの情報は知らされないことになっているが、やはり和泉にはドナーの存在が気に掛かる。心臓移植をおこなったということはドナーは既に他界しているためにあうことが出来ないのであるが、どうしても誰なのかを知りたがる。更に術後に恵理子という見知らぬ女性が夢に出てくるようになった。
和泉は何時しか夢に出てくる恵理子に心を引かれる。更に手術前とは全く異なる知識や感性、考え方をするようになった。例えば聞いたこともない曲の作曲家と曲名がわかるようになったり、不思議なほど上手に絵が描けるようになった。
和泉は何時しか自分の心臓の以前の持ち主が絵や音楽に長けていたと考えるようになる。新聞記事などを頼りに、調べた結果、恵理子ではなく、橋本奈央子という女性の存在を知る。しかし、橋本奈央子の遺族に会い、奈央子の写真を見ると夢に登場する人物とは全く違っていた。
腑に落ちない和泉だったが、またもや夢に恵理子が登場した。その夢ではある小さな美術館を訪れていた。その美術館の話しを美大に通う友人の如月に話したところ、どうやら世田谷美術館であろうことが判明する。後日如月と一緒に世田谷美術館に出かけた和泉はその個展の芳名帳に恵理子の名前を見つける。果たして恵理子は生きていた。
ではこの心臓は誰のものなのか? 芳名帳の住所を頼りに恵理子の家をたずねたところ、正に夢に登場する恵理子がそこにいた。ではこの心臓は誰のものなのか?
移植した臓器の記憶を人は受け取るものなのかという謎と、恵理子にあってから更に深まる心臓の持ち主の謎、心臓の持ち主を探すうちに更に生じる新たな謎。これらが非常に上手く絡み合って物語の結末へと結びつく過程は非常に読み応えがある。
フリーライターの紙谷、日本屈指のベストセラー作家の母、どこか憎めない和泉の友人の如月。隣に住む耳の聞こえない小学生だが知能は既に大学生レベルでもある雅明くんなど脇を固める登場人物も非常に魅力的だ。特に如月などは非常に好感を持てる。
本書を読んで実際の臓器移植はどのように行われるのか、非常に興味を持った。
ドナーの選定は血液型以外にHLA抗原などの一致が必要らしいが、実際に手術を行うには莫大なお金が掛かる。現在の臓器移植の問題に触れる定言的な小説だったと思う。
ミステリーを前面に出さずにストーリーで読ませるような小説だけどキチンとミステリーになっている。やっぱり貫井さんはいいっす。
人気blogランキングに参加中です。読み終わった際は、えいっと一押し → 人気blogランキングへ